第12話 シンの生い立ち

 夢を見た。遠い昔の夢だ。まだ子供だったシンが母親や兄弟たちと一緒に遊んでいるところだ。


 シンは7人兄弟の末っ子だった。1番上とは9才も年が離れていた。でも兄弟間は良好で、よく一緒にかくれんぼをして遊んだ。そんな誰もが羨む幸せな光景が広がった。が、次の瞬間場面は暗くなり、シンの目の前には父親が立っていた。口を開いて紡がれる、実の父親からの「おまえは、私の子ではない。2度と顔を見せるな。」という声がシンを夢から覚まさせた。


 「…懐かしい夢を見たなー。」


 シンは覚めきらない頭を無理矢理起こし、しっかりとした足取りで裏の池まで行った。そして、頭から水をかけ始めた。


 「やっぱり、朝シャンは気持ちいいねー!昨日は汚れたまま寝ちゃったからなおさらだよ。」


 頭から爪先までくまなく洗い満足したのか持ってきた布で体と頭を拭いた。シンが髪を拭き終わる頃にはシンの髪は真っ黒から対照的な銀髪へと変わっていた。髪を拭いた布は黒くなっていた。


 「髪、伸びたなー。あと、いちいち染めるのめんどくさいなー。」


 と、愚痴をこぼしてはしきりに前髪を気にしていた。


 「イメチェンするってのもいいよねー?でもなー、後は長い方が楽だしなー。いっか、このまんまで。」


 シンは、ふと水面に写る自分の姿を見て先ほどの夢を思い出した。あの頃は、楽しかったなー。みんな元気かなー?と、想いを馳せる程度には、印象的だっようだ。


 シンには上に兄弟が6人いる。それぞれ、既に成人しているし、なんなら、結構な重役についていたりする。


 「みんなのことを思い出せたのはいいけど、見たくないものまで見てしまったなー。」


 暗い部屋でシンと同じ銀髪に赤い瞳の男が告げる言葉。それはこの国では最優先される言葉でもあり、決して拒否できないものである。


 「聞いているのか?アシーミ·アラゾキア

本日本時刻をもっておまえを追放処分とする。2度と私に顔を見せるな。」


 その部屋には、兄弟達や母達といった多くの人がいたが誰もシンへ助け船を出すことはしなかった。兄弟達も悲しい、悔しい顔をすれども、ただ、黙って見ているだけだった。


 「どうして?父様。ねぇ、待ってよ。どこ行くの?みんな!」


 その場から立ち去る父。それに続けて奥へ消えてく兄弟達。最期まで残っていたのは、シンの実の母親だった。母親も、シンへあわれみの目、悔しいという表情を向けども、後へ振り返り帰っていってしまった。


 「信じてたのに…。もう、いいよ。」


 この日、シンのなかでなにか大切なものが崩れるおとがした。


 「ハッ...クチュン  …ズズズ。さっむ。早く中にもどろー。さて、今日が始まっちゃう。まずは、髪のセットからだねー!」


 シンは拠点へ向かって進みだした。そして呟く。 "会いに行くから、まっててね?" と。

 

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 「さて、暗殺者が言ってたことについて考えるかー。でも、どうして僕がここにいるってわかったんだろう?謎だよねー?どんだけ僕に会いたかったのかなー?照れちゃうよ…。

 会いに行くのは決定事項だから良いとして、どうやって城の中に入るかだよねー?やっぱり、王道の変装かなー?すぐばれそうだけど…。夜に忍び込む?反応が見れなくてつまんなそう、ってことで却下。正門から、本名名乗って、正々堂々とか?

 …。1番まともなのは変装かなー?なら、殺したアイツらのを借りていこう。設定としては、僕にほかのみんな殺されちゃったけど、自分だけ情報を持ち帰るために必死で逃げてきたってかんじかなー?もしくは、定期連絡ってことでもいいよねー?うん、逃げてきた方にしよう!あ、そうそう。名前どうしよう。なんか良いのないかなー?アイツの名前をまんま使えばいっか!死人に口無しって言うし、別に問題ないでしょ。でも、一人じゃ限界があるかー。先に仲間でも探すかな?

 王族に恨みを持ってて、なおかつ腕が立つような人がいいなー。その辺に連続殺人鬼でも転がってないかなー。そういう情報もほしいし、しばらくは忙しくなるぞー!がんばれー、僕!エイエイオー」


 髪を染め着替えたシンは拠点を出て、いかにも治安が悪そうな裏路地があるところへ向かった。道端には、人のような大きさのごみや、ごみのような汚い人がたくさん転がっていた。


 「ほんと、殺人鬼転がってないかなー」


 と、物騒なことを呟きながら歩くシン。その後を迫る影があった。

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