第9話

 「思い出してくれたようで何よりだよ。でもね、おにーさんにひとつ謝らなくちゃ行けないことがあるんだ。残念なことに手足を切り落としちゃったからほとんどの拷問はできないんだー。ごめんね?サムスクリューとか他にも味わってほしいものはあったんだけど、僕としたことがどじなんだからー★あと残ってるのはー、針の椅子でしょ、タングスクリューに、あっ!裏のちょっと行ったとこに池があったでしょ、水攻めってのもいいよねー。でもやっぱり、王道中の王道って感じのアイアンメイデンのほうがいいかなー?」


 今の話を聞き、男は考えた。これから味わう地獄のような時間をどうすれば回避できるかを。どうすればより苦しまずにに殺してもらえるだろうと。先ほどまでの考えはもう既になくなつていた。


 (ここで素直に話せばいくらかは温情で比較的楽な内に殺してくれるかもしれない。)


 故にだした結果は、素直に依頼人を吐くことである。


 「依頼人は、この国の国王、イリニ·アラゾキアだ。」


 「国王?」


 ピタッ。この単語を聞いたとたんシンの動きが止まった。それまで拷問器具を見て頬を染め恍惚の笑みを浮かべ小躍りをしていたとは思えないテンションで、聞き返した。顔はなにか考え事をするようにだが、その目はなんの感情も映さず、あくまでその場を見据えるだけだった。

 そう思ったのも束の間、シンは先ほどの表情、テンションに戻り告げた。


 「もう、おにーさんには聞きたいことはないや!あと聞きたいのは、おにーさんの絶望に染まった悲鳴かな?」


 男の顔から血の気が失せただただ男の歯が擦れ合い打ち鳴らすカタカタという音が室内を響き渡った。


 「記念すべき一発目、まずは針の椅子に座ってこー!イェーイ!ほら、おにーさんもテンション上げてこー。」


 シンは男を抱き抱えて椅子の前まで運んだ。このときも男は皮膚がないため筋肉に直接腕や服が当たる痛みに耐えていた。いや、耐えきれていなかった。シンが足を運ぶのに合わせ揺れ、だんだん重力でさがる男の体をいちいち持ち直すのにも、他の部位より力が入っている指先からの衝撃も男には耐え難かった。故にシンの耳元で悲鳴を上げてしまったのだ。


 シンの持ち方も悪かった。まるで宝物を抱くかのように腕を男の背で交差させ、両手で本来足が這えていたであろうところを支え、抱き合うような形になっていた。


 当然といえば当然である。いくら男の足がないと言ってもシンは15、6の子供である。成人男性、ましては職業柄鍛えて、筋肉もそこそこある相手である。普通に持って持ち上げられるわけがない。


 (しまった!こんな体制で大声を上げたら…)


 気づいたときにはもう遅かった。シンは男を投げるようにして針の椅子の上に乗せた。


 「ギィヤ"ァ"ァァーーーあ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ー、イ"ダイ"、ヤ"メテクレ"ー"」


 「もう、うるさいなー、耳がイカレルかと思ったよ。どんどん罪が増えてきてるよきみ?大丈夫?そんなんでこれから起こることが耐えられるかなー(笑)」


 男にはシンの言ったことなんて、聞こえていなかった。否、聞こえてはいたが、痛みでナニを言ったかが理解ができていなかった。


 「うーん、順番間違えたかなー。やっぱり一番は水攻めだった?でもなー裏まで運ぶのはだるいなー、水攻めはまた今度でいっか!失血死されても困るしねー、拷問はまだまだ始まったばかりだよ、おにーさん!」


 男が痛みに慣れ、落ち着いてきたころ、又は、失血し過ぎて意識がもうろうとしてきた頃シンは男に聞いた。


 「そういえば聞いてなかった!おにーさんのお名前は?」


 1拍あけたのちにこたえた。

 

 「フォース。」


 シンは、この時自分がどんな顔をしているかわからなかった。ただ、羨ましい。そう言った感情がシンのなかで渦巻いていた。


 「光、か…。良い名前だね。つけてくれたのはお母さんかな?感謝しなよ。」


 自分でも無意識に発していたであろう言葉に、シンの横顔。見覚えのあるそれは、数日前も見た顔にそっくりだ。男のなかではある仮説が生まれた。思いきって、それを口にする。


 シンの目は一瞬だが見開かれた。よって、男の仮説はより確信へと変わった。シンは、悟られまいと笑い、男に向かった。


 「次は、タングスクリューだよ!そのおしゃべりな舌を捻り上げようか!」


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