第2話

 いつも、シンが寝たり起きたりしているだけの空間。殺風景だが、なにもないというわけではない。10畳くらいの四角い石造りの部屋には、いつも寝るのに使っているであろう簡素なできの、布でできた寝床、西の壁に小さいが子供ならば通れるような窓が2つ。ただ、他とは異なる雰囲気を醸し出すものがいくつかある。それは、窓とは逆方向の壁にかけられた、刃物たち。それらは、果物を切るようなサイズではなく、どれもおののような大きさである。他に部屋にあるのは、無数の、死体と生きてはいるが、動くことができないように拘束された二人の少女だけだった。

 

 「よし!うまく撒けた!捕まりでもしたら面倒だしね。関わった人間すべて殺さないといけなくなるから…。さっ、終わったことはいいとして、時間は有限だから、計画を立てよう!うじうじしてる暇なんてないもんね?」

 「…。あの!私達、いつまでこうしていればいいんですか?そろそろお家に帰してください!」

 「…? 君は、何を言っているの?」

 「その、…だから、えっと…お家に帰してください!」

 「だからさー!普通に考えてよね!返すわけ無いでしょ?君たちは僕のモルモッと…じゃなくて、話し相手なんだから!帰っちゃったら寂しいでしょ?」


 そう言うシンの顔に浮かんでいたのは口元が大きく歪んだ狂気的な笑顔だった。二人の少女は瞬時に理解し、抵抗するのをやめた。(あぁ…この人は人の皮を被った怪物だ。)と。


 「そうだ!お腹が空いてるからそんなひどいことが言えるんだね?ちょっとまってて、今用意するから!」

 そう言ってシンは食事の準備を始めた。もっとも、普通の人からしたら食べ物とすら認識できないようなものだった。中身はというと、そこらに生えている食べられはするが美味しくない草、昨日の晩、解体した比較的鮮度の高い肉。それと隠し味のように入れられるのは2ミリから3ミリでも接種すれば致死量になる猛毒、テトロドトキシン。


 「おまたせー!いっぱい食べてね?」

 (最後の晩餐だよ?楽しんで!)

 食事の用意をしている姿を見ていない少女は警戒こしたが、ためらいがちにも口へ運んだ。次の瞬間心の眼の前は少女たちの吐き出した血によって真っ赤に染まる。


 「かハッ…、な…にこれ?目の前が暗くなる」(急に視界が、もうだめ、意識が。きっとあいつがなにかしたんだわ。話し相手だとかなんとか言ってたのに…。)

 シンの方に顔を向けた少女の目に写ったのは、見たこともないほど整った容姿の持ち主が恍惚の笑みを、狂気の笑みを浮かべているところだった。

 (あーぁ、最後に見るのがあいつの顔だなんて…。そうだ、あの子は?一緒につかまった村の子。)

 もう一人の少女はすでに息絶えていた。

 (私のせいでごめんね。)そう心の中でこぼすと同時に少女の意識は暗闇に消えた。


 この部屋にいる自分以外の人間の生命活動が止まった。胸の鼓動が興奮していることを教えてくれる。


 「あぁ、なんて美しい紅。人間は死ぬ瞬間が一番きれい。僕は幸せだなー!ここの暮らしはどんなに人を殺そうと誰も僕を責めないし、罰せない!」

 「やっぱり、僕が興奮できることは唯一、殺人だけだ!」


 はやく、僕だけのutopiaを作りたいな!

 


 

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