第48話 アサシンの姫!
「面白」
なんか、戦争が始まったらしい。
本物の戦争と比べれば、まさにガキのごっこ遊びに過ぎないが、それでも展開的には面白い。
しかも原因は予算配分を巡って、とは。
この学園、つくづく一枚岩じゃねえなあ。
いや、軽く調べた感じだと、暴れる奴と、暴れる奴らが暴れると思ってそれを止める為に暴れる奴と、暴れる奴全員殺すマンと……、と暴動の基本形みたいな要素が揃っているとのことなので、むしろ暴動なんじゃないだろうかこれは?
まあ可愛いもんよね、暴動とか。
デモとか暴動とか非常にお行儀がいいよ?
世界的に見れば、気に食わんことがあるとすぐみんなテロするんだし、それと比べりゃまだマシよ。
例えば、この学園都市の市販銃器なんて、火薬量と弾頭の材質を調整して、脳核を貫けないようになっている。
これ、事実上の銃規制なんだよね。
海外じゃもっとヒデェよ?
その辺のサイボーグがダムダム弾やら劣化ウラン弾やらを重機関銃でぶっ放し、女の子宮にプラスチック爆薬詰め込んでハニトラ&爆破させたり、公共電波で電子ドラッグぶちまけたりするもん。蛮族だよ海外の奴らは本当に。
まあそれも仕方ないか。
核兵器の汚染で重金属雨が降り注ぐ大地で、パワードスーツを着ながら、放射能変異したミュータントと年中殺し合うような国ばかりじゃあな。
まともなのは日本だけだ。
……で、だ。
なんか今、アホの子が暗殺計画とか立ててるのを、たまたま(耳部内蔵の高性能マイクで)聞いちゃったんだよな。
んー……。
まあ、殺されると拙いね。
特に、「学園の首脳を皆殺しにして、海外のような修羅の国を作る」とか考えてるのは、普通にチョイヤバって感じ。
まあ確実に実行力はないんだけど……。
……あ、そうか。
俺、教師だったな。
教えてやらなきゃ駄目だろう。
修羅の国なんざ作っても良いことないよ、ぬるま湯で楽しく生きた方がお得だよ、と……。
清掃委員会。
自らを「求道者」などと自称して、世のため人のため悪を斬る!とか言っちゃってる若干イタい暗殺者集団だ。
まあうん、そうね。
高校生だもんね。
悪そうな偉い奴をちょっと暗殺すれば、それだけで社会が変わるだなんて夢物語を本気で信じちゃってる辺り、ピュアな女の子って感じがして良いね。可愛いよ。
今の世の中を動かしているのは、「独裁をする巨悪の個人」ではなく、多数の官僚や政治家、そして企業が作り上げた「運営システム」なのに。
こんなもの、遥か昔の二十一世紀頃からそうだった。
アホが天下を取っても引き摺り下ろせる「仕組み」……「民主主義」ってのがあってだな?
確かに、今の世の中の閉塞感だの、生き辛さだの、そういうものがあるのは分かる。
だがそれを「国が悪い」「政治家が悪い」と責任転嫁するのはどうかと思うよ。
力尽くで世界を変えようとする前に、まず自分の認識から変えるべきなんじゃない?
……こういう正論言うと、大抵の人間はキレ散らかすが、そうは言ってもそれ以外に言うことないしな。
真面目な話、自分の人生は自分のもので、操作できない他人にイラつく暇があれば、その分自分のやりたいことやった方がいいよ。
政治家が気に入らないんなら、たくさん勉強して自分が政治家になってね!ってことよ。
まあ、政治家になっても、官僚機構の運営の邪魔になると判断されれば速攻で切り捨てられるけど、それはそれ。
賄賂、籠絡、恫喝、暗殺、色々と上手くやればいいんじゃない?
え?暗殺するなって話だったろ、って?
いや、別に暗殺そのものが悪いなんて言ってないよ俺は。
寧ろ、暗殺の技能は上手く使えば本当に強力な手札になるし、暗殺の手口を熟知していれば自分の身を守ることにも繋がるから、じゃんじゃん勉強すべきだ。
大切なのは、湿っぽい信条で正義の為に暗殺をするのではなく、リスクリターンを考えた上での営利暗殺をすることだ。
暗殺は目的じゃなくて手段だ、その辺間違うのは良くないぞ。
……そんな話を、俺は。
清掃委員会総会長である、山縣アギトを捕まえて、言った。
人とは思えぬ漆黒の肌、黒髪に黒い瞳。
某ボランティア部の「白き破滅の聖女」とは正反対の女の子……。
さしずめ、「黒き人の闇」とでも言うべきか。
しかし可愛いのでヨシ!
「……貴様の戯言を聞くつもりはない」
あらまあ。
けんもほろろ、とりつく島もないって感じ?
「うーん、君ってそんなにアホの子って感じしないんだけどなあ……。言ってる意味、ちゃんと分かってる?」
「黙れ」
あら発砲。
銃は……、『グリフォンFP9』か。
イギリスに本社を置く銃器製造企業「ブルースLtd.」の古いモデルだな。
堅牢性と静音性を兼ね備えながらも、一般的なサイボーグの金属フレームを貫けるだけの威力がある名銃。
大戦時にヨーロッパ軍士官のサブアームとして採用された後、更に威力を高めた特殊浸透部隊用にカスタマイズされたものがFP9だ。
FP9の名の通り、特殊弾頭である『9mmフレーム・ピアッシング弾』を使えるんだが、これがまた強力でなあ。
拳銃弾ほどの大きさで、超高性能火薬による擬似的なモンロー・ノイマン効果を起こすというイかれた弾丸で、並みのサイボーグの脳核を貫く威力がある。
……だが、俺に撃ってきた弾丸は、学園の自販機で売っている普通の9mm弾だった。
FP弾は学園外から密輸しているんだろうし、そんな貴重品を俺に撃つ訳にはいかないってことかね。
そう言う損得勘定ができる辺りで、完全無秩序に暴れ回る狂人ではないと分かるもの。
恐らくは、本人にも少なからず自覚はあるんだろう。
偉い人を殺したところで、世の中が変わる訳じゃない、と。
だが、それを自覚すると言うか……、理解してしまう訳にはいかないのだろう。
その辺が、この子の若さ、いや、幼さか。
なんだかんだ言ってまだ高校生だもんな。
そんなもんか。
「ま、じゃあ、見守っておいてやるよ。先生として、な」
「何を言っている?付き纏うな」
「いやあ、こっちも仕事だからさあ。ちょっと行動を見させてもらうわ」
「もう一度言う……。付き纏うな」
電脳通信で増援を呼んだ、か。
同じ装束……黒いフード付き外套を羽織った女の子達、清掃委員に囲まれる。
あら〜、かわいいねえ!
具体的にどこが可愛いかと言えば、そんな程度の手勢を並べて俺をどうこうできちゃうと思ってる辺りが!
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