第45話 委員会ひとつ!

七色の髪、お下げとドレッドと巻き髪とが一つになったメチャクチャな髪型。


頬にあるのは太陽、手の甲には二つの朔月。チューブトップのコルセットから覗く胸には、七つの口の刺青が並び。


背後に並ぶ、四足歩行戦車を改造された「音響車」は、頭のおかしい大きさのスピーカーから、頭のおかしい爆音を轟かせる。


彼女こそ、放送委員会総会長。


———『無敵のロックスター』


伊藤セイキョウであった。


彼女は叫ぶ。


「舐めるんじゃぁ……ねぇえええええ!!!!!!!」


頭がおかしくなりそうな爆音。


思いの丈、邪な念。


ノンポリの、反体制の、古ぼけたロックンロールの、しょうもない叫びだった。


「気に食わねえ!気に食わねー気に食わねー気に食わねーーーッ!!!!このアタシを!セイキョウ様を呼ばずに、何が予算だ?!!!!」


枯れぬ喉からロックが飛び出て。


「なーーーにが生徒会総会だ!何が、円卓生徒会だ!ふざっけんじゃねーーーよ!!!!バーーーーーーーーカ!!!!!!」


権力に噛み付く牙を通して。


「アタシは認めない!アタシより偉そうにしてる奴らを認めない!偉そうな生徒会のビッチ共も、何もしない学園長のババアも、クソの役にも立たねえ大人達も!!!!」


真紅の唇から。


「気に食わねーったら気に食わねー!従うなんて絶対やだもんね!アタシはアタシのやりたいように生きる!好き勝手やって盛大に死んでやる!」


放たれる……。


「さあついて来いバカ女共!喧嘩だ喧嘩だ!圧政者を叩きのめして、全員で焼肉食いに行くぞ!!!!!!」


「「「「おおおおおおっ!!!!セイキョウ、ばんざーーーい!!!!」」」」




「……でもあの人、会議に呼ばれてるのに寝坊して遅刻しただけだよね?」


「しーっ、言わなくて良いじゃん。その方が面白いよ」


「……確かに!この世に混乱を起こしてそれを放映するのは、放送委員会冥利に尽きるね!」




「あーーーーーッ!いけませんいけませんいけませんネーーーーーッ!!!!」


自然公園の真ん中で、ヒッピーのような姿をした女が叫ぶ。


割れるような、甲高い怪鳥のような、生理的嫌悪を催す声だった。


サイボーグ化率……、何とたったの10%の、ほぼ生身の少女だ。


緑色の髪、翠色の瞳、碧色の……血管。


伝説に語られるドリアード、木霊のような少女。


「ワタシはネ?いつも言ってるよネ?」


しかしその顔つき、凶相、爛々と輝くように見えるギョロリとした瞳。


「『皆で自然に還りましょう』ってサア!!!!!!」


まさに狂人のそれだった。


「保健委員!許せなイ!人が病んだらそれが寿命!手を加えずに死んで土に還る!それがイノチの正しい在り方!」


桂ジュリ様!……誰かが叫んだ。


「生活委員!許せなイ!自然を潰してコンクリートで埋める!自然に逆らう愚か者!」


ジュリ様!緑化委員総会長様!叫ぶのは。


「図書委員!情報委員!許せなイ!コンピュータを使うなんて、インテリの仕草!人は皆、家畜を飼って田畑を耕し慎ましく生きるべき!」


叫ぶのは、このジュリと同じように、ヒッピーのような格好の少女達。緑化委員会だ。


「全部全部許せないィ!みなさん!みなさん!みなさンッ!全部全部自然に還してあげましょう!原始の世界に戻りましょウ!愚かな機械文明を捨てて、平等な世界を作りましョオウ!!!!!」


緑化委員会、またの名を。


———『共産党委員会』である。




「リーダー!どうするっすか?!」


「リーダー!アタイらは準備万端だよ!」


「リーダー!ついに生活委員会が学園の頂点に立つ時が?!」


「リーダー!」「リーダー!」「リーダー!」「リーダー!」「リーダー!」「リーダー!」「リーダー!」「リーダー!」「リーダー!」「リーダー!」「リーダー!」「リーダー!」「リーダー!」「リーダー!」「リーダー!」「リーダー!」「リーダー!」「リーダー!」


「あーーー……、もうっ!ちょい待ち!待ちぃや!!!!」


鍋を被ったような黒髪で顔を隠し、黄色い安全ヘルメットをしっかり被る。


小さな身体を薄い緑色の作業着で包むこの少女こそ、生活委員総会長の大隈テスラだ。


彼女は、古臭いデザインの電子メガホンと同期する。


『あー、あー、マイクテス、マイクテス……。お前らー!聞いてくれやー!』


「うおーっ!リーダー!」


「リーダー愛してるーっ!」


「リーダー!」


圧倒的な人望。


恐怖でも利益でも思想でもなく、人柄によって好かれていることが窺える。


『じゃかあしい!聞けぇ言うとるがな!ぶちのめすぞ!』


「リーダー!」


「リーダーにならぶちのめされてもいいよー!」


『分かった!分かったから!ありがとな?!せやけど聞いてくれやホンマに!な?!』


こほん、ひとつ咳払い。


『まずな、別にウチは喧嘩だの戦争だのしとうないわ』


「「「「えーっ?!!!」」」」


『えーっ、やない!何で自分らは自ら痛い思いしに行くんや?!学園都市の建設業を一手に担うウチらが、自分から怪我しにいっちゃ駄目やろがい!はい、みいんな一緒に!ご安全に!!!』


「「「「ご安全に!!!!」」」」


『せや!分かっとるやん自分ら!ただでさえ最近物騒なんやから、何も自分から危ないことせんでな?なっ?!……なんかあるんなら、ウチが話聞くから!皆、真面目に働こ?なっ!』


「「「「えー!!!!」」」」


『えー、やないて!人間、真面目にコツコツ働いて、自分の食い扶持を稼いでくのがいっちゃんええんや!こんな喧嘩や戦争やー、言うて手に入れた泡銭はな、身に付かんのや!人生に楽な道はないで!ええなっ?!』


「「「「えー!!!!」」」」


『うっさいわ!真面目に働くんや!ええか、世の中にはな、働きたくても働けん人がやな……』


「なんか急にお母さんみたいなこと言い始めたぞこの人」


「リーダーはママだった……?」


「ママーッ!!!」


『あーはいはい!もうママでもなんでもなったるから!とにかく、真面目に働こうな?!戦争には不干渉!自衛だけして……ってかそれよか、戦争して壊れた街を直す仕事が先や!かき入れ時やぞ!今日も一日頑張りましょー!!!!』


「「「「おーっ!!!!」」」」




大弓、薙刀、西洋剣に鞭。


鎖鎌、槍、六角棒と三節棍。


ハルバードにパイク、バトルアックス、フランベルジェ。


武具を携えた美少女達が、超巨大な道場に集まる。


その前に立つ、金髪巻き髪のお嬢様……。


東郷マリカである。


「私から、皆様に申しつけることはありません。体育委員会の掟は『弱肉強食』!好きに生きて好きに死になさいな」


体育委員は基本的に、委員会であって委員会ではない。


ただひたすらに強さを求める求道者達で、頭数は少数。


総会長であるマリカの言葉にも、平気で従わない者もかなり多い。


だがそんな者達も、ただ一つ認めるのは……、東郷マリカが『最強』の武芸者であると言うこと。


代々、学園で最も強い戦士が名乗る称号こそが、『体育委員総会長』である。


彼女達は、各々が、各々の信義に従って生きる。


「各々、己の信義を曲げることのないよう、よろしくお願いしますわ」


信義を曲げる時は、死ぬ時だ。


そう思っている。


「……それはそれとして、会長の恋の行方はどうなんですの?」


「あっ、わたくしも気になりますわ!」


「もうっ!嫌ですわ皆様ったら!まだ少し、デートをしていただいただけですっ!」


「デート?!殿方とデートだなんて、もうそれは婚約ですわーっ!」


なお、女の子なのでガールズトークもする模様。

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