第41話 学園長とコンコン♡デート!

俺はこうして、しばらくは生徒とのコミュに時間をかけた。


大規模作戦で皆疲れているだろうからな。


まだ最初だし、加減してやらにゃならん。


何も、軍事教練だって、軍に入ったばかりの素人をいきなり厳しく躾ける訳じゃない。


最初から壊すつもりで訓練するのはアホだからな。


可能な限りは優しく、そして基本的には厳しくしていきたい。


……まあ、女の子相手なのでどうしても優しくなってしまうが。俺は紳士なのだ。


そもそも、女子供を守る為に軍人になったというのに、女子供を傷つけたい訳がないんだよな。もちろん任務なら殺すけど。


とにかく、そういう感じで、しばらくは休息としておいた。


今日は休講。


無論、俺に会いにくるならば構うが、今日は俺も休みたいので雲隠れ……。


結果として、最も休めそうな場所へ……。つまりは、普通の生徒が立ち入りできないここ……。


セントラル・エリアの隣、特別区画のチヨダ・エリア。


つまるところの学園長直轄の地域に、俺は向かっていた……。




何故かある古き良き日本庭園、屋敷の縁側で、ヴィクセンが茶をしばいている。


俺はそれを見て、こう一言言った。


「軍用警備システムのTAKAO-J9は、カメラシステムのうち外郭にある別のカメラと交差点にあるものに対して、日本軍の軍用救難信号のMMC44を3ms感覚で五秒ほど発すると、システムがバグって0.8秒だけノイズが入るんだぞ。知ってたか?」


「はぁ……、そんな変態的な侵入をしてくる人は先輩しかいないのでセーフですっ!」


ため息と共に俺を迎え入れるヴィクセン……。


かつて愛した女だ。


俺はとりあえず隣に座り、ヴィクセンの肩を抱く。


「とりあえず、一つは終わらせたぞ」


「ええ、ありがとうございます。あれには手を焼いていたので、本当に助かりました」


「Dr.无なあ……。俺が皆殺しにしたと思ったんだがなあ」


「大方、遺伝子サンプルから再生した劣化品でしょう。華僑の中でも過激派の団体は、未だにそう言ったことをしますからね」


「そうだな……、全く、困るなあ」


「ですが、先輩が仕留めた歩行戦車から抜いたデータに色々と使えるものがありましたから。これで、学園都市外部にいる華僑過激派の取り締まりができるかと思います」


「ああ、お前の『人形』でか?『傀儡師』さんよ?」


「『傀儡師』……、ですか。懐かしい呼び名ですね」


ヴィクセンには、俺ですら及ばない一つの神業を持っている。


それがこれ、『傀儡繰り』だ。


それは、脳核と脳核同士を特殊な通信で繋げて、脳核によるネットワークを形成し……。


『自分自身を複製する』という、凄まじい能力だ。


普通、自分の脳細胞を培養して、培養した脳味噌を脳核に突っ込んで、その脳核をサイボーグボディに詰め込んだとして……。


それで、その肉の塊が「人間」として行動できる訳がないのだ。


もしできたとしても、それは、本体とは全く別の人物となってしまうだろう。


だが、ヴィクセンにはそれができる。


『ナインテイル』と本人が呼称する、九体の『完全義体』……。


魂すら宿るもう一人の自分を、九体、この女は世に放っているのだ。


俺の目の前にいるロリババア狐娘も、その内の一体……。


本体である三国黒子、ヴィクセン自身は、恐らくは宇宙にあるだろう……。


武装した軍用の軍事衛星の中に、本体をコールドスリープ状態で保管して、端末にしてもう一人の自分である『人形』を複数地球上に放ち、それを使って様々な身分と立場を使って色々とやっている訳だな。


中々に化け物だ。


「にしても、今日は可愛いな?」


そんなヴィクセン、いや、この肉体……徳川テンショウの装いは、今日は一味違っていた。


普段は、白を基調とした美しいドレス姿なのだが、今は浴衣のようなラフな格好をしている。


「プライベートでまでドレスなんて着たくありませんよ……」


まあそれはそうか。


「そっちの格好も良いな、好きだぞ」


「えへ、そうですか?」


「ああ、最高だな。また、昔のように浴衣で花火でもするか?」


「本体下ろすのが面倒ですし、お金がかかりますから難しいですけど……、またいつか、そうやって過ごせたら幸せですね」


優しく微笑むその横顔には、本体の面影が充分にあり、懐かしい気持ちにさせてくれる。


まあ、本体も何も、ヴィクセンの操る全ての『人形』は、ヴィクセンの体細胞を培養して作った肉の器だからな。


サイボーグ化率75%とはいえ、それでも九体の完全に連携が取れるもう一人の自分を操るのであれば、その戦術的価値は計り知れない。


だからつまり、この目の前にいる人形を愛しても、それもヴィクセンを愛しているのと変わらないのだ。


「いつかじゃなくて、今でしょ」


「ふぇ?」


「いつか幸せになりたいなどと夢想する必要はない。今幸せになれよ。とりあえずデートするぞ」




「ちょっ、ちょっと、先輩!恥ずかしいんですけど?!」


俺は、浴衣姿のヴィクセンを姫抱きにして、セントラル・エリア周辺を歩き回る。


その様を、生徒達が愕然とした顔で見ているが、そんなものは気にならない。


「気にするな。お前を見ているのは俺だけだ」


「……もうっ!好きですっ!」


俺に抱きついてキスをするヴィクセン。


久しぶりだもんなあ。


ここに来て挨拶しに来た時は、時間がなくてほぼ会話もできなかった。


元夫婦でもあるんだから、もっと色々したいよな。やっぱり。


「先輩、私の作った街はどうですか?」


「良いところだ。東京をモデルにしているんだな、懐かしい気持ちになる」


「ふふっ、そうですね。もう百年以上前なので、私も殆ど覚えていませんが……、東京は良い街でした……」


本当にね。


世界大戦で核ミサイルなんて落ちて来なけりゃなあ……。


「子供の頃の思い出も、故郷も、友人も家族も……。全部なくなって、記憶は殆ど風化してしまいましたが……」


「だが、俺達は、お互いのことを忘れない。こうして会いに来れるんだからな」


「はい……!そうです!また会えて本当に嬉しいんです!この世界で唯一残された絆が、貴方なんですから……♡」


「ん?『カラード・ビースト』と『スカラバエウス』は?」


「あいつらは嫌いです。話が通じないので」


あ、はい。


「と言うか、デートなんですから、変な奴らの名前を出さないでくださいよ〜!」


「おっ、そうだな。今日はお前だけを見るぜ」


「きゃー!先輩大好きー♡」


そのヴィクセンの一言に、周囲の女子生徒達が騒つく。


それもそうだ、普段やっているヴィクセンのキャラと全く違うからな。


ヴィクセンはそもそも、潜入工作員として、複数の人格を自由自在に入れ替えられるのだが……、この「丁寧口調後輩系」は、ヴィクセンの素の性格なのだ。


普段は「年齢不詳のじゃロリババア狐娘」をやっているが、今は子供のようにはしゃいでいる。


可愛らしい狐の耳と尻尾が、ぴょこぴょこと激しく揺れて、俺のことが好きなのだと全身を使って表現している……。


二人一緒に小さなカフェに入り、いちゃつきながらケーキを食べる。


「先輩のもちょっと下さいよ〜♡」


「良いぞ、ほら、あーん」


「あーん♡」


子供のデートのようだ。


恐らくこれは、小学生程度の年頃の頃から徴兵されて、青春を全て軍務で塗り潰されたヴィクセンの代償行為なのだろう。


失った青春、平穏な人生を取り戻そうと、俺の目の前にいる時には子供というか、年頃の少女のように振る舞う。


……というか、相当にストレスが溜まっていたんだなこいつ。


大分幼児退行してる……。


「先輩♡しゅき♡」


「よしよし」


頭を撫でながら、俺に両手両足を使って抱きつくヴィクセンを抱きしめつつ、二人でウインドウショッピング。


「あっ!浴衣!」


「新しいのを買ってやろうか?」


「本当ですか?!嬉しいです!」


「おう、いっぱい買ってやるぞ。ほら、赤色はどうだ?試着して見せてくれよ」


「はいっ!」


VRヴィジョンではなく、直接服を着ての試着は、高級店の証だな。


天然素材の綺麗な和服を身に纏ったヴィクセンを褒めてやる。


「綺麗だぞ、ヴィクセン」


「嬉しいです、先輩……♡」




二人で街を歩き回り、至る所で抱き合って唇を重ねて、愛の言葉を囁き合った。


そして、夜。


小さなバーにて。


「……満足したか?」


「あー……、やっぱり、分かっちゃいます?」


「そりゃまあ、な?」


ため息をつき、目の前の小さなグラスを摘んだヴィクセンは、グラスに注がれたマティーニを飲み干して、一言。


「……大好きな先輩が、私以外の女といちゃついてるんですもん!ムカつきますよ!」


ああ、全く。


可愛いな、こいつ。


「ははは、悪いな」


「全く……、私も清い体なんて口を裂けても言えませんけどね?!それでも、女として、愛する男が他の女に目移りしていたら気分は悪いですよーっだ!」


ぷいっ、と顔を逸らすヴィクセン。


顔が赤いが、ヴィクセンがアルコール程度でどうにかなるはずはないからな。


「良いんだぞ、別に。お前だって、他の男に目移りしてもな」


「生涯で一万じゃ利かないくらいの男を咥え込んできましたけど、本気で惚れたのは先輩だけですぅー」


「またまた、俺より上手い男だって居たろ?」


「セックスの上手さは、私の『愛』の心に何も関係ありませんよ?」


「へえ?」


「相手が下手なら、こちらから奉仕すれば良いだけですし……。まあ、先輩はかなり上手いですけどね」


「お前の『奉仕』は最早洗脳だからな……。中東の独裁者が、お前を手に入れるためなら国を売り渡しても良いと言って、実際に国の権利を全部売り払った時なんて、流石の俺も笑っちまったよ」


どんなチート能力だよ、とな。


「ああ、あの人は少し『愛』が足りてませんでしたからね。存在しない『神』からのアガペーなんてくだらないものより、本物の『愛』を少し注いであげれば、簡単に骨抜きになりましたよ」


「おー怖。俺も骨抜きにされちまいそうだなあ」


「どの口で言ってるんですかー!私の全力の『愛』を受け止めておいて、籠絡されなかった人なんて、生涯で貴方だけですよっ!」


まあ、そりゃあな。


「俺には不屈の『魂』があるからな。『魂』は決して折れることのない剣なんだよ」


「もー……、またそれですか?『カラード・ビースト』は『夢』って言いますし、『スカラバエウス』は『理』って言いますし……、同期のサイボーグはみんな気狂いばっかりですぅ……」


「あの二人もなあ……。ん?でも、あいつらの籠絡の命令は受けてないのか?」


「『カラード・ビースト』は性別ないし、『スカラバエウス』は両性具有ですからねえ。不適格とされたみたいで、命令はありませんでした」


「ふーん?」


「それにっ!あいつら気持ち悪いから嫌いなんですよ!話通じないし、私の学園都市を否定するし!」


「そうなのか?」


「はい、そうなんですよ!予算の無駄だ〜とかそんなのばっかり!」


あ〜……。


まあ、『カラード・ビースト』なら賛成と見せかけて自分の良いように作り変えようとしてくるだろうし、『スカラバエウス』は予算の無駄扱いして切ってきそうだし……。


「……まあ、俺は賛成してるよ。お前の考えにも、学園都市の存在にもな。どうせ、俺みたいな戦うことしかできない奴は今の軍じゃ要らない子扱いなんだ、お前に手を貸すぜ」


「もーっ!先輩ったら〜!……また結婚しません?今度は二人で、スペースコロニー一つ買って一緒に暮らしませんか?」


「してやっても良いが、学園は良いのか?」


「ゔ〜……、学園は捨てられません……」


どうやらヴィクセンは、全てを捨てて俺と静かに暮らしたい欲と、学園都市を運営して多くの子供達を救いたい欲の二律背反に苦しんでいるようだな。


だが……。


「安心しろ、もう戦争なんざ起きないから、これからはずっとお前のそばにいてやるよ」


「……先輩〜っ♡」




この後、俺はヴィクセンと一晩中愛し合った。


そして、報道部の連中にすっぱ抜かれて、学園都市中のネットワークに俺とヴィクセンの逢引きシーンが大公開されたが、まあこれは特に問題ないのでスルーした。

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