第35話 秘密の戦鬼アルカナム

「誠に申し訳ないが、お上の方が口出ししてくるんでね。俺のパスワードは長くて面倒になっちまう」


ったく……、多重長文パスワードなんて、警戒し過ぎだろうに。


そもそも俺がその気になれば、解放せんでも議事堂を吹き飛ばせるんだから、そんなに警戒しても……いや、政治的なポーズか。


まあこの辺はどうでも良いだろう。


政治の世界には関わらんと決めてるんだ俺は。


俺は俺の仕事をするだけだ。


Per me si va ne la città dolente,
 per me si va nell' eterno dolore,
 per me si va tra la perduta gente.


唱える。


瞬間、青白い炎が、俺の体表にある皮膚を焼き、そして鋼鉄のフレームが露出する。


「嘘……?!肉のパーツが……、無い?!」


誰かの呟きを背に受けながら、俺は前に歩いてゆく。

Giustizia mosse il mio alto Fattore;
 fecemi la divina Podestate,
 la somma Sapienza e il primo Amore.


唱える。


体表面を、特殊なナノマシンによる増加装甲で覆う。


鋭角で、黒く、西洋のフルプレートアーマーを近代化したかのようなフォルムの装甲だ。


途中、砲弾が飛んでくるが、そんなものは効かない。



Dinanzi a me non fur cose create,
 se non eterne, ed io eterno duro:
 lasciate ogni speranza, voi ch' entrate.


唱える……。


漆黒の装甲に、赤いエネルギーのラインが走る。


魔神、鴉、骸、そして破壊と破滅。


黒い鳥を模した『一体型強化外骨格』……!


秘伝無限、『アルカナム』の戦鬼!


俺が、『ダーク・レイヴン』だ!


『行くぞ』


地面を踏み締め、跳躍。


『ジャガーノート』は、四足歩行の所謂歩行戦車というもので、四本の大きな脚に回転する砲塔を取り付けた兵器。


脚の一本一本に補助兵器としての20mm機関砲が二門ずつ設けられ、高く上に伸びる上半身の腕に当たる部分には、超強力な四連装75mmオートキャノンをそれぞれ装備。


そして更に、胴体の部分には150mmレールガンなんてモンをつけちゃっていらっしゃる。


こんなモンどこで使うつもりなんだよ、校舎一つが吹っ飛ぶぞこれ。


『こーんな危ないモンはしまっちゃいましょうねぇ』


俺は、人工衛星『タロット・ボックス』に信号を飛ばして、武装をコール。


本来なら多重承認が必要だが、俺個人の権限で許可が降りる範囲での武装なら呼び出せるように、今回の任務で権限をもらっておいてある。


それにより、セキュリティロックが解除される。


軍の機密技術である『ジョウント空間転送技術』により転移してきたものは……。


《!13/DEATH!》


一本の刀だった。


黒い、黒い……、可視光の殆どを吸収してしまう特殊金属でできたそれは、この世のものでは無い幽玄的な、死神の牙のように見える。


だが奇妙なこの刃物は、とても素晴らしいものだ。


銀河の彼方にある特殊な金属を、宇宙空間で処理し合金化することによって作られた世界一頑丈なブレードで、単分子の細さの刃先を持ち、それを俺の圧倒的な出力で超振動・加熱して相手のことを斬るという、死ぬほどシンプルな武器である。


それと、俺の技能を合わせれば……。


『おらよ』


『———主砲破損!』


機械兵器の装甲を断ち切る程度、訳はない。


とは言え、相手はAI制御の機械兵器。


「怯む」とか、そういう機能は一切ない。


一瞬で演算し、即座に反撃してくる。


武装は、胴体に残ったレーザーだ。


六条のレーザー光線が、俺を寸断せんと迫る!


……が、まあ、こんなものに当たる訳がない。


レーザーとレーザーの隙間に飛び込むような動きで華麗に回避。空中でトリプルアクセル。


ちょろいものだ、『魂』の篭らないAIの動きは、予想を外れることがこれっぽっちもなくて、寝てても回避できるな。


俺が、俺以上の『魂』を持たない相手に殺される訳がない。


『ちょろいもんだぜ』


剣風一閃、前足一本を破壊。


それと差し違えんと、大質量の腕部オートキャノンで横殴りにしてくるが……。


『ォオオ!!!!』


それを俺は、相手の殴る手を正面から掴み取り、相手側の大きな力を利用して、背負い投げの形でジャガーノートを投げ飛ばした。


これも、サイボーグ軍用格闘技の秘技、『機甲術』である。


投げ飛ばすその中空で、相手の自重を利用して砲塔を捻り、関節部分を捻じ切るのも忘れない。


『終わりだ』


倒れたジャガーノートの背中、最も装甲が薄い部分に、音速の投擲で『13/DEATH』を投げつけて内部機能を破壊すると共に地面に縫い付ける。


そしてそれを、脚部ハードポイントで掴み取り、斬りつけながら引き抜いた。


《!機能……停……止……!》


因みに、斬った場所はしっかりと、エネルギー供給のための電線だったので、爆発することはない。


「……ッ!あ、危ない!」


生徒の誰かが叫ぶ。


が、それは分かっている。


ジャガーノートの本体からパージされていた腕部オートキャノンが自立稼働し、こちらを狙ってきているのは既に予想済み。


振り向きざまに『13/DEATH』を振り抜いて、命令を出すためのICを引っぺがすように斬り飛ばした……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る