第32話 ショータイム!

こちらでは、保健委員がパタパタと動き回り、サイボーグの肉体をいじり回している。


インプラント換装のための無菌室は隣の棟だが、オーグメントならば弄れるからな。


その他にも投薬や輸血、透析なども行なっているようだった。


ちょくちょくセクハラを繰り返しながら一晩。


やっと決戦だ……。




敵、Dr.无の捕縛。不可能な場合は抹殺。


大人数にて各地の潜伏予想地点全てに一斉に攻撃。


動員数を活かした順当な作戦。


かの諸葛亮が小数を率いて大軍を策略にて撃破した話が、今も昔もよく語られるものだが、まず大前提として数が多い方が強い。


搦手が大軍を罠に嵌めることもある。あるが、そんなことよりもまず、数が多くて武装が高性能な方が強いのだ。


シンプル、王道な手段というのは、最も優れていて最も強いんだよ。


分かりやすく言えば……。


良い子の諸君!よく頭のおかしいライターやクリエイター気取りのバカが「誰もやらなかった事に挑戦する」とほざくが、大抵それは「先人が思いついたけどあえてやらなかった」ことだ。王道が何故面白いか理解できない人間に面白い話は作れないぞ!


ということになる。


いやごめん違うかもしれん。


まあなんだ、つまり、正攻法が一番強くて、搦手とか策ってのは勝てそうにない側が仕方なくやることって訳。


俺はそんな胡乱な話をしながら、ミコシの運転するテクニカルの助手席でタバコを吸っていた。


「そ、そうか」


胡乱なものを見る目でこちらをチラ見したミコシは、そう言うと前を向いた。スルーの姿勢だ。


「どうでもいいけど、紙巻タバコはやめてよ!臭いがつくじゃない!せめて電子タバコにして!」


俺の後部にある座席からキンキンと喧しい声で叫ぶのはナナオ。


バックミラーで表情を窺ってやると、目を吊り上げていつものように怒っていた。


「うるせー、電子タバコなんて吸ってられっかよ。あんなもん女とオカマしか吸わねえよ」


「そうなの〜?」


と、後部座席のもう片方から声をかけるのは、カルイ。


「そうだな。俺がいた頃の軍部じゃ、電子タバコは軟弱者のもんだって言われたもんさ」


「へえ〜、そうなんだ〜」


「軍部は男社会だからなあ、飲む打つ買うをやらん奴は異常者扱いよ」


「んー……?何それ?飲むのってお酒でしょ?打つのと買うのって何?」


「博打と女」


「あ、あ〜……。男の人はそういうのあるもんねえ〜」


「案外馬鹿にできるもんじゃねえぞ?博打は気晴らしに最適だってだけだが、特に女は重要でな。戦って荒んだ心は、女を抱かなきゃ正気に戻れんもんだ」


「……先生もそうなの?」


「ハハ、どう思う?」


「え〜!気になる〜!彼女とかいるの〜?!」


「結構いたなあ」


「どんな人〜?」


「一人を除いてとっくの昔にみんな死んじまったから、あんまり覚えてねえや」


「あ、うん、はい……、なんかごめんね……?」


「いや、気にすんな。長く生きてるとこうなるもんだ。因みに、一番愛し合ったのはお前も知ってる女だぞー」


「えー?!誰?!」


「学園長」


「「「………………は????」」」


「おっと、そろそろ到着するぞ。気を引き締めろ」


「えっちょ」「今の詳しく!」「まさか、ロリコン……?」


テラワロス。




「学園長?あの学園長?本当に????」


「ほら、ナナオ。ちゃんと集中しておけ、ここは敵地だぞ」


「あ、うん。……後で話聞かせなさいよ?」


「気が向いたらな」


潜伏先。


恐らく、ここが一番大きいだろう。


廃棄された地下鉄道の駅の末端……。


ここを根城に、Dr.无の軍勢がいるそうだ。


テクニカルにより、出入り口を包囲して……、内部に、サイボーグの感覚器官にダメージを与える鎮圧ガスを流し込む。


「クソがーっ!」


「何よこの軍勢?!」


「武器持て!殺せ!」


巣に水を流し込まれた蟻のように、ワッと複数人が出てくるが……。


それは即座に鎮圧した。


「やっぱり、内部にいるのは小物の不良程度ね。本当に隠すべきものは、密閉された隠し部屋にあるんでしょうね。そして……!」


さあ、来たぞ……。


「「「「ボランティア部!突撃ー!」」」」




本丸は当然、囮のようなもの。


相手の本命の戦力は、雇ったボランティア部だった。


「私は無理!無理ですぅ!」


「ん、無理ではない。仕事、やるしかない」


「前金は受け取ってんのヨね。傭兵商売は信用第一、こうなりゃもうやるっきゃないワよ?」


ID検索……、ふむ、なるほど。


不良落ちはしていない、正規の生徒か。


不良というのはつまり落第生であり、要するに「何者にもなれなかった落ちこぼれ」を指す。


無能なら無能とそれを受け入れ、分相応の生活をすれば良いものの、暴力によって現状を覆さんとするカス共。


そんなものに、こちら側が斟酌してやる必要は一切ない。


立派な教師であれば、不良生徒も救い上げるべきなのかもしれんが、それはドラマの見過ぎというものだ。


教師の仕事とは、最大数の平均的な性能を持った生徒をロールアウトすること。


こちらから口出しせんでも上にぐんぐん行くような天才ちゃんは、ほっといても上に行く。


不良生徒のような救えないカス共をどうにかしようと四苦八苦して汗を流すのは違う。


主題は、何度も言うが、真面目にやる気がある大多数の生徒を、可能な限り使い物になるように仕上げることにある。


平均レベルの底上げという訳だな。


何故か?


先ほども言ったと思うが、数は力だからだ。


基本的には、ある程度の能力を持った多人数の動員力が、ごく少数の天才様よりも、力として上だから……。


俺から言わせりゃ、できない奴ややる気のない奴を掬い上げることにかまけて、本題である平均レベルの底上げを怠る「熱血教師」というのはマヌケそのものだってことよ。


「……ご高説、どうも」


ナナオが冷たい目でこちらを一瞥し、三人の敵に対して銃を構える。


さあ、戦いだ。

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