第31話 マダマダ備えよう!

「ふぁあ……、ふざけんなよ……。もう自分は一週間も寝てないんだぞ。そこに、なんでこんなデカい仕事が来るんだ……。死ね……」


サイボーグは、基本的に、生理調整の機能があるので、よっぽどのことでもなければ健康的な生理機能バランスが崩れることはない。


逆説的に、サイボーグなのに目元に酷いクマがあり、不眠症を患っているのは、何かがあるということだ。


ID検索……。


鳥の巣のような、何年も切っていないし手入れもしていない、枝毛まみれの黒髪。


酷い目のクマに、虚ろな瞳。


耳の部分には大型のイヤーマフ……否、演算力を向上させるための高級な副電脳がついている。


平均的な大きさながら、肋が浮かぶ痩躯を酷い猫背で捻じ曲げて、薄汚れ悪臭を香らせる白衣の裾を地面に引き摺りつつ現れた少女は。


工学部発明派部長、伊達テツリ……。


それはともかく、臭そうな女が出てきたので、とりあえず俺はこの子の腋の匂いを嗅いでみた。


……フレーメン反応!


「……何やってんのお前。まあいいや、全員死ね……」


「眠れないのか?」


「見りゃわかるだろ。分かりきった質問する奴ほんと嫌い、時間の無駄、死ね……」


オーゥ、塩対応。


「んじゃ、軍用の睡眠薬でもやろうか?」


「無理……。自分は効かない体質なんだよ……。ま、気が回る点は褒めてやる……、ん、お前、男か……」


「ああ、新たに赴任してきた教師だ、よろしくな」


「ふーん……、男を見るのは初めてだ……。でも、今は眠い……」


「んじゃ、電脳の強制ハックで意識落としてやろうか?」


「ハ、できるもんならやってみろ……」


「できたら、今回の仕事に協力しろよ。八時間後に起こす」


「……マジかお前。できるのかよ……。ゔっあ、システム介入キタコレ……、あ、きた、きた、寝れる、やっと寝れ、る……」


俺は、軍用の高性能ニューロチップにより、テツリの電脳の無線ハブに強制接続し脳システムに介入。意識を強制的に落とした……。


で、かくんと崩れ落ちたこの子を背負ってやり、他に挨拶をしに行く。


あ、後ついでに、俺の前で寝たのでおっぱいを揉んでおいた。


……ほぼ、骨と皮だった。




「うおっす!!!!!自分は!!!!工学部実用整備派の!!!遠藤ヤリスです!!!!!先生!!!ガイダンス以来ですね!!!!」


わあ、クソうるさい。


赤毛をベリショにした、褐色肌の煩い女。


インプラントによって、眼球に星のマークが浮かんでいるのが特徴か。


右目の方は入れ替えが容易にできるようになっているらしく、右頬から側頭部にかけてひび割れのようなラインがある。


恐らく、側頭部ごと右目を取り外して、別の目に替えられると言うことだろう。


「何ですか?!!!自分!!!この学園都市を守るためなら!!!何でもやりますよ!!!!!」


「じゃあおっぱい揉ませて」


「はいっ!!!!!!」


揉んだ。


……なるほどね。


ちょい大盛り。


良い具合だ、良い。


機械化率も低く、女性的なフェロモンが機械臭さで減少していないのもグッド。


溌剌な汗の香り……。


「先生!!!!私は何を!!!何を!!!何をしましょうかっ!!!!!!」


「それはお前自身が判断しろよ。何でもかんでも俺が教えてくれると思うな、大人だろうが」


「????私は!まだ!高校生ですよ!!!!」


俺は、この女、ヤリスの腰にある拳銃を指差した。


「人殺しの道具を手に取った時点で、『子供だから助けてください』は通用しないんだよ。それを手にした時点で、一人の大人、一人の人間として、自分の力と知恵で生きる義務が課されるんだ」


「なるほど!!!!!では!!!私は!!!私の思うままに!!!!私のできることをします!!!!」


あらまあ、素直で可愛いわあ。


「ところで!!!先生!!!!」


「何だ?」


「先生は!!!珍しい車両をお持ちだとか!!!!」


「そうだな」


「この事件が終わったら!!!お宅に!!!見に行ってもいいですか?!!!!!」


「いいよ」


「わああああい!!!!!やる気が!!!出ました!!!!頑張りますっ!!!!!!」


うるせー……。




俺は、電脳ハックで眠らせたテツリを背負いながら、ヤリスの仕事を見ていた。


ヤリスは、豪快そうな態度に反して、仕事に対しては神経質なまでの精密さを重視する。


「すみません!!!!ちょっとこれ!!!持ってもらってもいいですか?!!!!」


「え、ええ。こんな感じかしら?」


「重心のズレなどは!!!ありませんか!!!!」


「うーん……、これで大丈夫だと思うけど?」


「ダメです!!!!!」


「えぇ……?」


「本当にいい武器は!!!持った瞬間に『分かる』んです!!!『多分これでいい』みたいな程度では!!!!まだ!まだ!です!!!!!」


「は、はあ……」


「とりあえず!!!フレームの下部を!!!二ミリ弱ほど削らせていただきます!!!!!ハンマーも取り替えで、チャンバーも新型を使います!!!!」


「でも時間が……」


「問題!!!ありません!!!!ジャックイン!!!!……できました!!!!!」


「早っ?!」


「私のモットーは『実用性』です!!!!実現可能な範囲内で!!!!最も使う人の手に馴染み!!!!最も高性能な!!!!!命を預けるに足る!装備を用意すること!!!!!!」


「あ、ありがとう!お値段の方は……?」


「工学部実用整備派は!!!規定の料金以上も!以下も!とりません!最初に提示した額で大丈夫です!!!!!」


「良かった!助かるわ、ありがとう!次からも、実用整備派を頼らせてもらうわね」


「ありがとうございました!!!!!!!」


まともなポリシー、確かな腕、仕事は早い。


一番安牌な存在なんだな。


色物感溢れる人物だが、その腕前はかなりのものだ。


聞き出したところ、工学部実用整備派の部長なのだとか。


見るからに変人なのに、実は一番の安牌ってのは罠だよなあ……。

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