第30話 ショーの準備?

「じゃあ、後の捜査はよろしくね!ボクは残りの仕事があるから!報告はこっちでやっておくよ!」


そう言い残して、ノデンは、渡すべき資料をこちらに渡してから本部へ帰還。


一方でナナオ、カルイ、ミコシのスリーマンセル三人組は、一旦アイリス学園へ戻っていた。


理由は簡単。


「作戦を立てるわよ」


ということだ。


要するに、Dr.无の隠れているであろう場所が見つかったから、そこを攻めるための人員や装備を集めるのだそう。


三人で行けば手柄独り占め?


馬鹿を言っちゃならんよ。


先ほど、三百を超えるボランティア部員に襲撃されたばかりじゃないか。


ここに無策で突っ込むのはアホだ。


しかも、見つかったポイントは複数。


となれば、人を増やすしかあるまい。


トラブルシューター学のグループチャットに、作戦会議の為の招待URLが貼り付けられた……。




電脳VR空間。


学園のサーバにジャックインすることにより、機密性が高い仮想現実空間での会議を可能とする。


様々な、本当に様々なアバターが続々と集まる。


元々の姿そのままの子もいれば、デフォルメされたかんたん作画のアバターや、好きなアニメのキャラクター、何故かカッチョイイロボの子も。


俺?俺はスーツ姿に黒い鳥の頭って感じ。


狐面に巫女服のキャラクターになっているナナオが、VR空間らしくふわりと空に浮かび上がり、仮想空間の中心に立つ。


「パンツーーーッ!!!!」


俺は叫びながら、飛んでいるナナオのアバターの下に滑り込んだ。


「死ね!!!!」


《!ホストの坂本ナナオさんにキックされました!》


そしてキックされた。


仕方ないのでハッキングして不正にVR空間に侵入する。


瞬時に潜入用の少女アバターに切り替えてIDを偽装、いかにも「一般参加生徒です」というツラをして、作戦会議VR空間に紛れ込んだ……。


「風紀委員会、キャプテンIIIの坂本ナナオよ。今回は集まってくれてありがとう。ここにいるということは、私達と足並みを揃えて戦ってくれるとこちらは認識しているけれど、相違ないわね?」


《!エモーション:賛成!》

《!エモーション:歓喜!》

《!エモーション:拍手!》

《!エモーション:賛成!》

《!エモーション:賛成!》

《!エモーション:拍手!》


集まっているトラブルシューター学の受講生徒達の目の前に、ハートマークなどのプラス感情を表すエモーションコマンドマークが舞う。


「よし、じゃあ、まずは人員の割り振りから始めるわよ。お互いの役割(ロール)の確認のために、偽装なしのフォーマルプロフィールを投げて。もちろん、データはこの場限りで目の前で破棄するわ」


その瞬間、数千のアバター達の手元から、光の玉がピュンと飛んで、ナナオの掌に集まる……。


フォーマルプロフィール……、生年月日と名前、住所と学歴と資格の書かれた、つまるところ履歴書のようなもの。


これをナナオが、即座に区分けして、ずらりと並べる。


目の前の可視化されたデータ塊にタッチしたナナオは、パッとそれを地面に投げる。すると……。


色とりどりの光のサークルができた。


「突撃組は赤、バックアップ組は青、後方支援組は黄色、医療組は緑に区分けしたわ。それぞれが役割を果たしてもらうわね」


突撃組:敵拠点を強襲して敵を炙り出しつつ攻撃


バックアップ組:炙り出された敵を遠距離攻撃


後方支援組:車や武器の用意


医療組:怪我人の護送と治療


このような形でいくようだ。


まあ妥当だろう。


これだけの人数がいることだし、奇策は必要ない。


王道に勝る邪道はないんだよ。こと、戦闘においてはな。


細かい説明や、認識のすり合わせ、場所の確認や質疑応答などを二時間程度で素早く済ませたナナオは、VR空間からログアウトし、即座に行動を開始した……。




折角なので、俺は、ナナオのケツを追っかけるのをやめて、他の美少女のケツを追っかけることにした。


作戦開始はどうやら明日の朝イチ。


時間にして18時間後程度。


その間、女の子達に会ってこようじゃないか。


ナナオは、なんか忙しそうにしているし、ここで流石に邪魔するのはちょっと良くないな。


俺が出した課題を頑張ってるんだから、それの妨害をしちゃダメだってことよ。


よし、では、アイリス学園の作業棟に行くか……。




作業棟。


ちょっとした工場並みの作業機械が立ち並ぶここは、その気になれば自動車や銃器を一から作れる複合工業施設だ。


この高校の授業で使用したり、購買部に置いたり、風紀委員会などに卸したりする武器弾薬車両などをここで作っているらしい。


と言っても、基本的には数少ないオーダーメイド品の受注生産か、学園用のモデルの生産が主らしく、超大規模な弾薬量産などは工業高校が請け負っているとのこと。


むしろここは、研究所的な意味合いの方が強い。


そんなこの作業棟には、極めて多くの生徒が集まっていた。


「9mm弾はこっちでーす!」

「グレネード?それはあそこの……」

「小型ミサイル!新型の高追尾型はいかがっすかー!」

「ヒートソードはこちらの方で研ぎをやってるんで……」

「車両レンタルでーす!機銃込みでなんとたったの十五万クレジット!弾薬はそっち持ちで〜……」

「えー!もっと安くしてよ〜!今月厳しいんだからー!」

「こっちのライオットシールド買うから、もっと安くならない?」


目にも止まらぬ速さと精密さ、莫大な熱量。しかしそれを振りまかない安全性をも兼ね備えた巨大な工作機械が、限界ギリギリまでフル稼働する。


プレス機が赤熱する装甲板を引き延ばし、グラインダーが成形、大型冷媒液槽で冷やされたそれは、シールド。


それだけじゃなく、その辺で手足のオーグメントを外して、新品に付け替える者もいる。


ああ、体内に入れ込むインプラントは、無菌室で入れ替えをするぞ。サイボーグは細菌に弱いんだ。


造成機でガチャガチャと銃が削り出され、鋳型に液化した金属が刷り込まれる。


化学槽の溶媒に火薬元素が溶かされ、どばどばと高性能火薬が生まれて。


サイボーグボディ、サイバーウェア補修用のスプレーやテープが、台車に乗せられ行き来する……。


サイボーグの、戦争準備だ……。

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