第29話 キタカゼとタイヨウ

「あ、あー、つまり。Dr.无はロボットのような存在だから、仕えるべき存在が滅びたことが理解できずに、日本に対して攻撃をし続けている、と?」


ノデンはそう言って話をまとめた。


「恐らくはな。だが、奴らは最早、人間の理論で論理的な理由付けができるような高尚な存在じゃねえと思うよ俺は」


「まあ……、狂人の理論を解することはできない、か。うん、大体分かったよ、ありがとう」


そう言いながら、地下下水道から出た……。




ふむ。


なるほどな。


リアリストにして正義漢、それでいて融通も利き、政治的な動きも充分にできる。


エキスパートでありながらオールラウンダーでもある。


それがノデンから受けた印象だ。


そんな存在が、「部下を労う」のような、ただそれだけのことに貴重な時間を割くことはまずない。


では、ノデンはなぜここに来たのか?


「ボランティア部、突撃ーーーッ!!!」


「ノデンを殺せば十億クレジットよ!」


「それだけあれば、新作のインプラントも買えるし、新しいトラックに機銃も込みで……!」


「南の島で遊んで暮らすーっ!」


「殺せ!殺せ!今はたったの四人!」


「バイオテロ対策班や捜査員は戦闘型じゃないから、仕留めるのは簡単ねっ!戦力の勘定に入れなくていいわ!」


「アハハハハハハ!!!死ね死ね死ね死ねェー!!!!」


理由はこれだろう。


ボランティア部……。


要するに、「傭兵派遣会社」……。


HTTPのようなインターネットプロトコルにより、ボランティア部本部のサーバに部員個人、つまりはクライアントが依頼という名のデータファイルをリクエストし、部員個人が勝手に仕事をやったりやらなかったりする投げっぱなし方式なのだが……。


これは、本土以外にも地球全体で使われている、傭兵派遣会社の方便のようなものだ。


つまり、「傭兵個人が勝手にウチの依頼を見て勝手に行動しているだけなので、ウチは指示してないので責任ないでーす」みたいな。


クソみたいな話だが、現行法ではこれ、合法なんだよね。


利権的な話も大分あるから、今後も一生こんなんなんじゃない?


クソだねぇ〜。


で、まあ、こんな風な傭兵派遣会社の胡乱な金額の数字だけがデカい「依頼」に飛びつくようなアホって、考える力がないんだよ。


いや、考える力がないから、金額さえ高ければ何でもするんだろうな。


そして残念なことに、世の中にはそういうアホが信じられんほどに多い。


そんな訳で、武装車両含む三百人以上のボランティア部に囲まれた。


しかもこれね、匿名のメールで依頼を受けて、受けた依頼を仲介して公式サーバーに貼り付けるのがボランティア部なのよ。


つまり、ここにいるボランティア部を拷問したり、本部を叩き潰したりしても、依頼主は全く誰だか分からないってこと。


はい、カスー。


ただ一つ分かるのは、依頼主がボランティア部に依頼を出せるほどの金持ちであるということだけ。


ボランティア部に依頼を出すには、最低でも七桁クレジットは必要。


ヒットマンなら、その辺の不良にクレジットを握らせた方が安く済むからな。


かなり力を持った存在なんだろうよ。


ごちゃごちゃ言っておいて何だが、まあつまり、このボランティア部との戦闘は得るものが一切ないという話だ。


そんな訳だからボランティア部は、真っ当な組織からは蛇蝎のように嫌われている。


無論、ノデンも……。


「こ……の……!イカレポンチ共がああっ!!!公務執行妨害だ、全員脳核を引っこ抜いて逮捕してやる!!!!」


口では切れているが、大体予想はしていたんだろうな。


有力な情報を得たならば、得た奴を警告として消しにくる、と。


ノデンの口ぶりからすると、この誘拐事件はかなり大きなヤマらしく、対策本部も既に作られているそうだ。


今回はそれの大きな手がかりで、この情報を安全に持ち帰れるのはやはり……、風紀委員会最強最大の委員長だけということなのだろう。


相手側もそれを見越した上で、ここまでの大戦力を送り込んできた訳だ。


え?無線通信で本部に情報を転送しろって?


何言ってんだ。


こんなん絶対近くに電子戦要員がいて、ネットに電脳を繋げたらその瞬間、電脳をハックしてくるぞ。


つまりここはこの三百を超えるボランティア部を蹴散らして、迅速に本部に情報を届けなければならないんですね。


「撃てーーーッ!!!!」


わあ、何だか大変なことになっちゃったぞ。


機銃、榴弾、ライフル弾に散弾が雨霰。


さて、このままじゃ死ぬが、どうする?


そんな時、ノデンは、片腕を挙げて叫んだ。


『The North Wind and the Sun had a quarrel about which of them was the stronger!(北風と太陽は、どちらが強いか議論していました!)』


ノデンの両腕、五本指の人の手型のマシンアームの、外部装甲が展開される。


《パルスアーム:起動》


「電磁パルス最大!」


その瞬間、圧倒的な磁場が発生し、ローレンツ力によって磁性体である弾丸が逸れる。


数千数万の弾丸は、見当違いの位置に着弾した……。


「なっ……、何よあれ?!」


「電磁パルス?!あんな小型なオーグメントでここまでの大出力を?!」


確かに、あれは俺も見たことがない。


既製品じゃないな、これは。


名前は……、SUNDAWN777『シルエットフォーミュラ』、か。


ん?


ノデンの持つアタッシュケースが割れて……なるほどな。


あのアタッシュケースは、ノデンの『換えの腕』だ。


それも、同じ種類ではない、色々な種類がある。


「パルスアーム、自立稼働。切り離し」


《パルスアーム:自立稼働》


「ハンマーアーム、セット」


《ハンマーアーム:装着》


「ハンマーアーム、ロケットパンチ」


《ハンマーアーム:射出》


おお、あれは凄い。


人間の腕ほどの質量体をロケットパンチ……、音速以上の速度で射出するとなると、戦車砲に匹敵する威力があるだろう。


少なくとも、こちらで計測したエネルギー反応では、新型飛行戦車をも一撃で撃墜すると出ている。


そんなロケットパンチは、直撃はもちろんのこと、掠っただけのボランティア部員も挽肉に変えていく。


いや、挽肉なんてのはまだ甘い表現だ。


ヒトの動体視力ではとてもじゃないが捉えられない超速の質量弾。


触れたかどうかも分からず、ただ、質量弾が音速の壁を突き破る時の轟音が響くや否や、射線上にいた者が血霞に変わるという一瞬の場面しか、一般的なサイボーグには認識できないだろう。


爆音、そして赤い霧がパッと舞って、それでおしまい。


「う、うわああああああ!!!!」


「何だアレはぁ〜〜〜ッ?!!!!」


「ば、化け物だ!!!」


「テメェ〜らのようなクソ廃棄物野郎共を……、このボクが逃す訳ねェーだろう?エレクトロアーム、セット。レーザーアーム、セット」


《エレクトロアーム:装着》

《レーザーアーム:装着》


「エレクトロアーム、放電、ロケットパンチ。レーザーアーム、拡散レーザー射出、回転、ロケットパンチ……!」


《エレクトロアーム:起動・射出》

《レーザーアーム:起動・回転・射出》




そうして、たった一人で、三百を超えるボランティア部員は蹴散らされたのであった……。

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