第27話 警視総監がやってくる!

「除染班を呼んで!部屋の封鎖もよ!」


「こちらに対毒感知システムはない。各自、バイタルチェックを!」


「ドア閉めてー、気密スプレー吹くよー」


封鎖されたドアの隙間に、カルイがとりもちスプレーを吹き付けて密閉する。


このスプレーは元々、宇宙船の気密スプレーとして開発されたのだが、重サイボーグの機械部品の穴を塞ぐのにも使えるから、ファーストエイド的な意味合いで重サイボーグが持ち歩くようになったという裏話がある。


とにかく、これは吹き付けると数秒でゴム状の固形になるスプレーだ。


これにより、ドアはほぼ完全に密閉され、毒物の流出は抑えられた。


ミコシはバイタルチェックプログラムで自己診断をしながら、風紀委員会のバイオテロ対策班に連絡。


ナナオは風紀委員会本部に報告の電話を入れていた……。




その三十分後、バイオテロ対策班がゾロゾロとやってくる。


耐毒インプラントで、鼻や口に鱗のような金属板……空気フィルターがついた少女達がずらりと並び、ナナオに敬礼をした。


バイオテロ対策班は、剥離剤で気密スプレーコーティングを溶かし、そのまま扉の内部に突入。


……そこには俺がいた。


「「「「うわあああ?!!!」」」」


「よう、やってる〜?」


満面の半笑いで出迎えてやったのだが、ナナオは普通にブチ切れた。


「なっ、んっ、でっ!アンタがここにいるのよぉーーー!!!!後ろにいたでしょ?!!!!」


「追い抜いたに決まってんだろ?」


「スリーマンセル行動中、警戒している私達を?後ろから?追い抜いて、気付かれない????」


「まだまだヘボのお前らを追い抜くぐらい、訳ねぇよ」


ヘラヘラ笑いながら、俺はナナオの頭をぐしゃっと撫でつけた。


「ステルス迷彩……?」


「いや、現実的に考えれば裏道とかじゃないの?」


「嘘だろう……?熱源反応も、音も、嗅覚センサにも引っかかってはいなかったぞ……」


戦慄しているスリーマンセルの三人組は、そう言ってボソボソと愚痴り合う。


まあ何を言っても、俺がここにいるという現実は変わらないのでね。


本当に普通に、スリーマンセル三人の間を歩いて追い抜いただけなんだがねえ。


ちょっとばかし、「意識の隙間」をついたのはあるが。


そんな話をしているうちに、バイオテロ対策班の検分が終わったようだ。


「異常なし!」


「異常なし!」


「異常なし!」


律儀に指差し確認をし、飛び散った肉片を集め、検査機にぶち込む少女達。


「で……、これ、何かしら?」


ナナオが、バイオテロ対策班にそう訊ねる。


「はっ、どうやら、未知のバイオ物質が使われているようです。筋肥大ステロイド系の投薬と人工細胞の改造によるものかと思われますが、詳しい結果は本部に持ち帰らなければ……」


ビシッと敬礼して、真面目に答える対策班モブ子ちゃん。


「バターじゃね?」


俺が横から口を出す。


「はぁ?」


「『ちびくろサンボ』だろ?四匹の虎はバターになるのさ」


「……何言ってんのあんた?」


あ、知らない?


Dr.无はそういうことよくやるんだけどな。


まあ分からないか。


マニアックな悪党だからなー。


それに古いし。


「とにかく、何か知ってるんなら教えなさいよ。授業ってだけじゃなく、事件なのよこれは!」


「えーーー?どーーーすっかなーーー????」


「アンタねえ……!」


「ボクも興味あるなあ、その話」


少女だ。


この年頃の平均的な少女のそれより、いくらか小柄な。


少年のようにさっぱり短く切りそろえた金髪の、太陽のような少女だった。


いきなり、そんな女の子が、部屋に入っていた。


「あ、なた、は……!」


ナナオが言葉を失う……そして我に帰ると、パッと敬礼をしてみせた。


カルイとミコシもだ。


飄々としたカルイも、無表情なミコシも、珍しく緊張したツラをしている。


少女は、それに軽く手を挙げて応えると、俺に微笑みかけてこう言った。


「キミが噂の先生君かな?初めまして!」


「ああ、初めまして」


「ボクは、風紀委員総会の総会長……、COPの大久保ノデンだよ!よろしくねっ!」


そう言って少女は、銀色に輝くサイボーグ腕を差し出してきた……。


……サイボーグ率70%?


軍用ハイエンド・ヘビーサイボーグだと?


ここ、学園都市だよな?


何でこんなちょっとした特殊部隊員レベルの子がいるんだよ。イカれてんのか。


「ナナオ、誰この子?」


「バカっ!風紀委員総会の会長よ?!」


「COPってことは……、警視総監?」


「そうよ!もうちょっと他人を尊敬することを覚えなさいっ?!」


ナナオにめちゃくちゃ足を踏まれながらも説明された。


つまり、この目の前にいる少女は、この学園都市の治安維持集団で最も立場が高い人間ということになるらしい。


なるほどね。


「先生君、今回の事件について知っていることがあるなら、何か教えてほしいな〜?」


人好きのする、人懐っこい、子供らしい笑顔。


裏のない笑顔。


「えーーー?どうしよーーーっかなーーー????」


おっと、横からナナオのガチ蹴り。


「うーん……、どうすれば教えてくれる?」


「そうだな……。ノデンちゃんって処女?」


「ふえっ?!え、そ、そうだよ……?」


「んじゃ、ファーストキス頂戴」


「う、うん……。こんな感じ?ちゅー♡」


あ、隣のナナオがショックで失神した。

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