第22話 聖母マリア

理系トップのマギル、体育会系トップのマリカ。この二人は、早速俺と顔を繋いできた。


判断が早い。


一方で、合議制で運営されている文系と、それぞれが別派閥である芸術系は、未だに音沙汰がない。


だか、ガイダンス最終日の今日は違う。


神学部救済派部長にして、ボランティア部運営委員会役員、高杉サツキ……。


芸術系の派閥のトップのうち何人か……。


この学園都市の大物達が、俺に頭を下げにきた……。




「こんにちは!貴方が、先生ですか?」


一目見た瞬間、「ああ、こりゃ駄目だ」と気付いた。


嫌味なくらいに白い肌、白銀を溶かして折り重ねたかのような輝く白髪、インプラントによる白い瞳。


唇も、舌も、眦までもが全てが白亜。


輝く聖者のような、光を纏う女。


たまにいるんだよなあ、こういうの。


「私、高杉サツキって言います!よろしくお願いしますね!」


白き少女は、陽光をその身に受けて輝いた!


影の闇色すら払わんとする、圧倒的な光!


生半可な絵画よりよほど美しい光景!


……題するならば、『破滅の聖女』か?


猛烈な、『滅び』の匂いがする女だ。


「ああ、よろしく」


「私、ボランティア部の役員さんなんです!神学部の部長さんでもあるんですが……、普段は、みんなとボランティア活動をしているんですよ!」


「へえ、そうなんだ」


「はい!私、『みんなを幸せにしたい』んです!」


……俺が聞いた話だと、ボランティア部とは、この学園都市における傭兵派遣会社のことらしいのだが。


みんなを幸せに?はは、何だこいつ?


破滅の匂いの正体はこれか。


「傭兵を派遣して幸せになれるとでも?」


「もちろんです!みなさん、喜んでくれています!私、たくさんの、たくさんの、そのまたたくさんの人を幸せにしたいんです!」


あー良いね、狂ってるよ。


自覚はないし、指摘しても無駄なやつだなこれ。


国を滅ぼすようなテロリストに必要なのは、凶暴さでも強さでも知識でもカリスマでもない。


ただ単純な『信仰』、己を信じ抜く心なんだよ……。


「で……、用事は挨拶だけか?」


俺は、神経調節剤が入った紙巻きタバコに火をつけて、咥える。


「いいえ!先生にお願いがあるんです!」


輝く笑顔をそのままに、サツキは告げる。


「先生は、力を持っている生徒に高い評価をしてくださるんですよね?」


「ああ、そうだが」


「良かった!じゃあ先生———」


俺の咥えたタバコの先端か撃ち抜かれる。


狙撃だ。


「———これから貴方を殺すので、私達ボランティア部に評価をください!」


瞬間、対人用の小型マルチミサイルの雨霰。


うーん狂人。


俺は、教導用の刃引きされたアーミーナイフをミサイルの雨霰に向かって投げつけた。


それも、最も誘爆時に多くミサイルを巻き込める一発を即座に見抜いて。


弾頭に突き刺さるナイフ、ミサイルは爆発四散。


その爆風を受けて、大半のミサイルは軌道を逸らされてぶつかり合い、誘爆の連鎖が始まる……。


その爆風を気にせずに突っ込んでくる複数の影!


「「「「さんたまりあ、うらうらのーべす。さんただーじんみちびし、うらうらのーべす」」」」


聖母マリアの連祷か?訛りが強いな。


全員が画一化されたインプラントを施している。


機械化率40%の戦闘用サイボーグだ。


そして全員が、白色の防刃サーコートを着込んでいる。


十字軍かな?


サーコートは軍用繊維の防刃タイプで、内側には鎖帷子の代わりにリキッドアーマーを着込んでいる。


ああ、リキッドアーマーというのは、ダイラタント流体を利用した液体状のボディーアーマーのことだな。


要するに、特殊な液体でできているアーマーで、普段は水のように柔らかいけど、銃弾などの衝撃を受けると瞬時に硬化してダメージを無効化する感じのアレだ。


その上から、えーと検索……、うん、この学園都市にある『サンタマリア神学校』の白い制服を羽織っている。


武器は、強化型ポリカーボネート製のライオットシールドと、ショートソード型のヒートブレードか。


面白い。


「「「「あんめいぞ、ぐろおおおりあす!!!!!」」」」


狂ったように歌いながら、女騎士達が俺にヒートソードを振り下ろす。


……が、まあ、無意味だ。


「おらよ」


刃を受け止めて、弾く。


「「「「すぴりとす、さんくて、でうす!!!!」」」」


お、判断が早い。


剣も盾も捨てて掴みかかってきた……これは!


俺の肌が焼ける!


手のひらから高温を発するインプラント……、ヒートハンドだ!


しかも、鉄くらいなら溶かせる軍用の超高温モデル!


「へえ……、良いんじゃないの?思い切りもいい、気合も入っている。何より、死さえ厭わずに殺しにかかってくる奴は強い」


そう言って俺は、素早く身体を回転させて、女騎士達を弾き飛ばした。


だが、まだ立ち上がってくる女騎士達……。


フェイスシールドが衝撃で脱げている子がいた。


顔は……おお!


この学園都市は、一応、女の園な訳で。


可愛いお顔を弄る子はそう多くない。


やるとしても、口や顎に軽くインプラントを入れるか、眼球を取り替えるか……、とかそんなものだ。


だが、この神学校の女騎士達は、顔面を完全にインプラントで変えている。


目元と鼻を、鋭角なバイザーで覆うようにインプラントしているみたいだな。


サーモグラフィー、赤外線視認、広角視認ってところか?


その覚悟に免じて……。


「全員、+5点だ。だがまだまだ甘いので、勢いでゴリ押しせずに頭を使って波状攻撃をしかけるようにしましょう———」


一撃で終わらせてやる。


機甲道が奥義の一つ……、インプラントにより堅牢な外殻を持つサイボーグの内部に衝撃を与えてダウンさせる技!


———浸透勁!


「「「「あぐっ?!!!」」」」


俺の放った掌底が、女騎士達の胸を張る。


そして、内臓に衝撃を受けた女騎士達は、膝から崩れ落ち、倒れた……。


あ、念のために言っておくが殺してないぞ?

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