第21話 蟷螂のオオガマ

「この東郷マリカ、伴侶にするならば、わたくし自身よりも強い殿方と心に決めておりましたの」


「はあ、そうですか……」


「ええ。わたくしも武家の娘ですわ。負けた以上、嫁ぐ他ありません。ですから、結婚してくださいな」


んんんー……。


「いやその……、困るんだけど」


結婚とかちょっと……。


家庭とかめんどくさいし。


いや、セクハラやセックス、お遊び程度の恋愛はしたいんだがね?


だが結婚となると、仕事や立場の都合上、そう上手くはいかない。


俺が唯一、結婚しても良いと思える相手は、学園長……ヴィクセンだけだな。


だからそういうガチなのはちょっと……。


「なるほど……、ではまずはお友達から、ということで?」


「アッハイ」




うーん、参ったな。


俺は美少女にセクハラして、「きゃーっ!先生のエッチー!」と叱られたいから教師になったのだが……。


乳尻ふともも、どこを触れようが微笑んだまま身体を開くお嬢様は、これ、どうすりゃ良いんですかね?


まあいいや、揉めんなら揉んどこ。


俺の横にピッタリくっつくマリカの腰を抱きつつ、指導再開。


「おっ、良いねえ。君らはどっちかって言うとエンジニア系かな?銃の腕はそこそこだが、ロボットの動きを知り尽くしている。加点だ」


「ありがとうございます!」


オレンジツナギの集団の頭を撫でてやる。


「ほー、良いね。身体操作と反射神経に長けている。加点だ」


「ありがとうございます!」


奇抜な格好をした女の子達を撫でてやる。


「んー、君らは対人戦を意識し過ぎで、ロボットに対応できてないな。もう少しがんばりましょう、だ」


「はーい」


日焼けした近接武器持ちの女の子達を撫でてやる。


うんうん、指導は順調だな。


今週はガイダンスとして、あえて俺の力や立場をひけらかすような真似をしたんだよ。


女子高生にマウント取っても意味ないだろ?わざとやってるんだこっちは。


申し訳ないが、俺みたいなジジイからすりゃ、女子高生なんて鼻垂れのガキ同然。


直接的に示威してやらんと、色々と伝わらんのよ。


別に俺自身が舐められてムカつくとかそういうアレではないが、俺を舐めているようでは先はないからな。


一応、教師として赴任してきたんだから、仕事は真面目にやるとも。


個人的にセクハラを楽しみながらだが。


生徒達も、態度がまともになってきた。


最初は、「ちょっと授業受ければ学園長推薦もらえるんでしょ?」みたいなのがかなり多かったが、圧倒的な力を見せてやれば、敬意を払うようになった訳だな。


治安が悪い土地では、敬意ってのは大事だ。


舐められると安易にちょっかいを出されるようになるからな。


獣みたいな理論だが、マウント取ってこちらが上だとアピールしてやらんとならん。


そして……、敬意を払われると、色んな奴が会いに来てくれた。


所謂、大物という奴らだ。


「———お初にお目にかかります、先生。私は、工学部企業派部長、木戸マギルと申します」


完璧な作り笑いで、白手袋に包まれた手を差し出してくるのは、男物のスーツを着て男装した麗人だった。


すらりと背が高く、細身で、中性的な顔の作り。知的なARグラスを付け、嫌味にならない程度のアクセサリーをつけた仕事人で。


濡れた烏羽のような黒髪を、恐ろしく長いロングヘアにしている美しい女。


この学園都市の企業である、『エイジャーナカト』のCEO……、木戸マギルだ。


ふむ……。


作り笑いで誤魔化そうというのは少し良くないな。


崩してみるか。


俺は、握手を求めるマギルの手を掴む……と見せかけて腕を引き、強めに抱きしめた。


「おやおや……?私に興味がお有りですか?」


ほうほう?


崩れないか。


驚きも恐怖も完璧に封じ込み、表に出さない。


企業のトップとしては合格だな。


もうちょい攻めるか?


抱きしめて、軽くキスをする。


唇を舐めるかのような、性的なキスを。


「んっ……♡いけませんよ、先生?私の唇を奪うだなんて……」


へえ!やるな。


これも受け入れるとは。


しかも、経験なんてないだろうに、上手い具合に身体を押し付けてくる。


身体を使ってでも俺に取り入って、自分の企業に貢献するつもりだ。


素晴らしい。利益が出るなら、自分の親兄弟すら売り払うというコーポのやり方そのもの!


覚悟が決まっている奴は大好きだ!


「ふふふ……、私のファーストキス、おいくらで買い取って頂けるのですか?」


そう言ってマギルは、妖艶に唇を舐める。


血よりもなお紅い、紅桜色の舌で。


「女の『初めて』より高いものはこの世にないからな。何でも欲しいものをやるよ」


「でしたら、『貸し一つ』ということで?」


「良いだろう。だが……」


俺は更に強く抱きしめて、マギルの尻を撫でつつも、首筋の匂いを嗅ぐ。


「あまり貸し付けが絡むようでは、自棄になってお前そのものを貰ってしまうかもしれないな?」


つまりは、「今回は面白いから貸し一つで納得してやるが、今後は貞操を切り売りして貸しを作るような真似は許さんぞ」という訳だ。


「ええ、それはもう。重々承知ですよ。ですが———」


マギルは逆に、俺の唇を奪って、言った。


「———『大戦の英雄様』になら、貰われてしまうのも悪くはありませんね?そうでしょう?『ダーク・レイヴン』……?」


……ほう?


俺のことを知っているのか。


まあ、企業のトップならそうだろうな。


エイジャーナカト、だったか?


商圏の大きさはこの学園都市を中心に日本だけと小規模であるとは聞いていたが、実際はかなりの大企業……メガコーポらしい。


「では、いずれまた。よろしくお願いしますね、先生?」


うーん、加点!

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