第20話 鬼斬りのレディ

「うふふ……、では、先生?よろしければ早速、個人授業をお願いできますか?」


うーん、えっちだ。


妖艶な感じ?若いのに良いねぇ!


「よろしい、かかってらっしゃい」


俺は、高周波ブレードを構える東郷マリカに軽く構えて見せた。


「……『I am going to Onigashima to conquer the demons.(鬼ヶ島へ、鬼を征伐しに行くのです)』!」


パワーセーバー解放、出力向上。


瞬間、凄まじい剣気。


溢れ出す殺気。


センスがない者でも、重圧を感じられるほどの重苦しい気当たりだ。


へえ、やるじゃん。


で、そっち系のタイプか。


この感じだと、才能と努力で負け無しって感じかな?


ふんふん……、よし。




じゃ、いっぺん折るか。




いやさ、確かに凄いよ?


才気溢れる若者だよ。


だがあくまでもそれは民間人のものなんだよなあ。


数々の戦場を練り歩いた本物の殺戮者達のそれとは、残念ながら格が違う。


余談だが、殺気というのは発する人物によってどんな苦痛を感じさせる力があるのか、それぞれ異なるんだ。


この、マリカの殺気は、背中に氷柱を突っ込まれたかのような、少しヒヤリとする程度のものだが……。


「ひ、いや、いやぁっ?!!」


「痛い、痛い……?!」


「ひいいっ……!」


俺の殺気は、物理的な痛みを、幻痛を伴うらしい。


それも、心臓や肝臓、首筋に脳核など、生命維持の根幹に関わるような器官が焼け付くような痛みを感じるとか……。


いやあこれが面白くてな?


殺気の力には人格が出るんだよ。


サディストの殺気は相手の恐怖心を増幅させるし、気あたりした相手を痺れさせるタイプもいる。相手の思考能力を鈍らせるタイプとかもあるな。


俺は相手を殺すことしか考えていないので、死の瞬間を強く意識させることができるって訳だな。


まあこれは、『魂』がある存在にしか通用しないんで、ロボットとかにはあまり意味がないが。


ロボット相手なら、気当たりで一瞬計器に不具合を出してコンマ一秒程度動きを止めることくらいしかできない。


まあなんだ。


とにかく、周囲にいた女の子達は、俺の殺気に飲み込まれて失禁しながらへたり込んだ……。


ふーん?えっちじゃん。


あっヤベ、ストレス負荷高過ぎて信号遮断してる子もいる。


ちょっとやり過ぎたか?


「はーっ、はーっ、はーっ……!」


片手でブレードを構えながら胸を押さえて、荒い息を吐くマリカ。


よく立っていたな、それだけで賞賛に値する。


「どうした?ご自慢の剣術とやらを見せてくれよ」


「な、めるなっ!!!!」


脚部のマッスルアンプは、炭素ナノ繊維を使った機械的な人工筋肉ではなく、強化型生体細胞を使った最高級モデルのバイオマッスル。


生物兵器などに使用されるタイプの、生体式インプラントだな。


マッスルアンプとは違い、フレキシブルで柔らかな動きと、即応性に富む、近接格闘向けのインプラントだ。後、マッスルアンプよりお高い!かなり高い!


それで、地面が揺れたかと錯覚するほどの力強い踏み込み。


腕部のバイオマッスルには、小型の軍用マッスルシリンダーを組み込んでいるらしい。二重式か?設計が難しいのに良くやるよ。


しかも、古い機構であるカートリッジ式……要するに、マッスルシリンダーにカートリッジを仕込んで、火薬などの爆発力を利用して、一時的に超加速超パワーを実現するというもの。


例えるならば、人間パイルバンカーとでも言うべきか?


肘の裏辺りから、カートリッジたる小型の円筒が排莢される。


爆発音と共に振り下ろされた一撃の勢いは、戦車すら両断できるであろう、凄まじい力だった。


が、すまんね。


今日はお嬢ちゃんを「わからせ」てやるつもりだからな。


全身全霊、気迫の込められたその一撃を、俺は指一本で受け止めた。


「………………は?」


呆気に取られ、目を丸くして立ち尽くすマリカ。


「無駄が多過ぎる。体捌き、足運びもまだまだ。サムライを名乗れるが、サムライとしては底辺だろうよ」


「あ……、あああああっ!!!!」


連撃。


何度も、爆発音と排莢が続く。


コンマ一秒のうちに五連撃!確かに素晴らしい、民間人レベルではな。


軍でも、並の歩兵なら蹴散らせるだろうよ。


だが……、俺のような特殊作戦部隊では、まだまだひよっこ扱いだ。


俺は指一本で全攻撃を防ぐ。


そして、最後の一撃の時に、防ぐ角度を変えて、マリカの攻撃の力を利用してブレードをへし折る。


キン、と。


呆気なくへし折れたブレードの先端が飛んでゆき、グラウンドに突き刺さった。


そしてそれは、マリカの心が折れる音でもあった。


高周波ブレードの柄を取りこぼし、ぺたりと女の子座りになるマリカ。


ん、ちょっと折り過ぎたか?


慰めておくか。


「私が、負けた……?」


「あー、その、なんだ。落ち込むなよ。今回はあえてお前に世界の広さを……」


「先生」


「ん?何だ?」


「好きです、惚れましたわ。結婚してくださいな」


んんんんん?


んー?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る