第19話 獅子のジョウオウ

んー、面白いな。


治安が悪いことは残念だが、まあその辺をよく考えてみると、いつも治安の悪いところにいたから別に問題ないよなと気づいたわ。


先月まで、ズタボロの欧州で戦争してたんだから、このくらいの治安の乱れなら誤差みたいなもんだろ。


「はいはい、おしまいだぞー。もう敵はいないからな」


俺は、手を叩きながらそう言った。


「なんだあ?!お前も死にたいのかあ?!」


と、狂っているムルモが殴りかかってくるが……。


「おっと」


合気道の要領で、全身の関節をバネとして、クッションのように受け止めた。このくらいの力なら、サイボーグとしての機能を使わずに、生身でもあしらえるな。


「う、があ、あああ?!!!」


ムルモの握り拳を掴みながら、捻って倒す。


関節が曲がらない方向に上手く力を入れているので、ムルモは立ち上がれずに膝をつく……。


「お?!おお?!何でだあ?!」


「はいはい、落ち着けよムルモ。ほら、よしよし……」


と、抱きしめて頭を撫でてやると……。


「お、お……、お……。落ち着いたよお、先生……」


と、俺の胸元で、怒りではなく羞恥から顔を赤く染めた。


「大丈夫か?」


「うん、もう大丈夫だよお」


「よしよし。バーサークシステムを使って、システムダウン前に気を鎮められるなら上出来だ」


「えへへえ」


俺に抱きついて甘えるムルモ。かわいいね。


「うええ……?!ぶ、ぶ、部長を宥めた……?!一度バーサクすれば、カロリー切れで倒れるまで暴れ回るのに……!」


ハイがそう言って驚いているが……、驚くほどのことじゃないだろうに。


この子、ムルモは、元がかなり温厚な子だ。


でなければ、バーサークシステムになんて適合しない。


バーサークシステムは、内なる加害性、凶暴性を解放するようなシステムで、凶暴な人間に向いていると思われがちだが、逆に、本当に凶暴な人間に搭載すると「戻って来れなくなる」んだよ。


この子は恐らく、温厚過ぎて、身の危険を感じた時にも攻撃できないタイプの子だから、その性格の矯正の為にバーサークシステムを付けていると予想できる。


だからこそ、こうして諭せば分かってくれる訳だ。


出鼻を挫いて抑え込めば、抵抗しなくなったしな。本当にヤバい奴は、肉体の損壊をものともせず更に暴れるはずだもんよ。


さて、あとは、ボロボロになったカルイを介抱してやるか。


ん?


「おい、壊れる前に答えろよ。お前ら、どこの差金だ?」


頭を踏みつけながら、ニカラがサブマシンガンの銃口を不良少女に向ける。


「し、知らないって!私らは金がもらえるからやっただけで!」


「知らない?あー残念っすわー、じゃあ死ねよ」


「ま、待って!待ってよ!一応裏取りはしてて、メールのIDは『園芸部』からのもので……!」


「園芸部ゥ〜?……ったく、あの環境テロ屋共、さとうきび畑襲撃の件をまだ根に持ってんすかねえ……?」


「ね、ねえ、もういいでしょ?!ちゃんと喋ったじゃない!お願いよ、見逃して!私、保険に入ってないから、このままじゃ違法AVR行きだよ!」


「あ、そっすか。まあウチには関係ないんでぇ———」


「待っ……?!!!」


「———死ねよ、バァカ」


あ、やった。




午後。


授業をする為に、アイリス学園に向かう。


授業はとりあえず、先程、位置関係や時間の都合で、射撃訓練を受けられなかった子達を集めて再講義する。


午前の授業より、更に多くの子が来てくれたな。


そしてやはり、センスがあるのは、昼間にニカラから聞いた派閥のうち一つ、『体育会系』だ。


バイクや車で郊外からここに来てくれた女の子達は、非常に戦闘センスが高い。


その中でも筆頭と言える格は、ガイダンスの時にセクハラしたお嬢様だな。


金髪の美しいロングヘア、もみ上げを軽く巻き髪(ドリルヘア)にしている美少女だ。


しかし、凛々しい怜悧な顔立ちで、ひどく真っ直ぐな目をした子だった。


体格は平均より少し大きめの168cmほど。


胸は脂肪抜きをしているらしく、大きさは控えめながらも女性的なシルエットはしっかりと維持。


武道家特有の、キュッと盛り上がった締まりの良さそうなオシリが最高にセクシー!


しかしこの子はかなり凄いな……。


当然のように機械化率70%の高級軍用サイボーグでありながらも、凄まじく鍛え込まれた美しい肉体をしている。


先ほど会った、料理部部長のムルモよりも、何倍も凄まじい。


筋肉は鍛えてあるが、ムルモのように肥大化させずに圧縮し、女性の形を保ちながらも超強力なパワーを秘めている……。


ムルモは、身長240cmで体重は200kgはあるだろう。


だがこのお嬢様は、168cmの女の子らしい小さな身体に、ムルモと同等レベルの身体能力を圧縮して閉じ込めている……。つまり、168cmに200kgが詰まっている訳だ。


ムルモとは別の意味で恐ろしいね。


しかも、ムルモと違って、身長を伸ばしたり、人工筋肉を過積載するようなオーグメント(肉体拡張)処理はしていない。


いやー、怖い怖い。


「はあっ!!!」


飛んでくる銃弾を、高周波ブレード一本で弾くお嬢様。


素晴らしい技量だ。


「……これ、生まれつきできたのですが、機甲道の初歩だったのですね」


へえ、生まれつき?


「凄いな、才能あるよお前」


「あら、ありがとうございますわ」


「どうだ?サムライ・コマンドかニンジャ・エージェントで良ければ、推薦出してやるぞ?」


「授業はよろしいので?」


「そこまでやれりゃ、あとは応用だけだ。授業で教えられることは何もないわな」


「なるほど……。では、逆に言えば、『授業以外で』ならば、教えを受けられると思っても?」


へえ、頭も回るか。


ID検索……、名前は。


剣道部求道派部長、東郷マリカ……。


「もちろんだ、マリカ。皆に合わせたレベルの授業では教えることがないが、個人授業ならいくらでもやってやるぞ」

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