第16話 ガクエン生活!

培養肉の唐揚げをザクッと齧れば、添加脂の肉汁がブワッと口内に広がる。


計算され尽くした油分と塩分の割合は、味覚センサに「美味である」という誤認情報を叩きつけてくるものだ。


食感再現にも力を入れているらしく、レプリケータによる分子配列調整で繊維質な鶏肉のような食感にしているのもプラスポイント。


味覚調整の為のナノマシンは15%と最小限で、代わりに化学調味料を添加する手の込みよう。


この唐揚げ盛りを、たったの500クレジットで食えるとは、企業努力が垣間見えるな。


「んん〜!おいひい〜!」


それを、スナック菓子かのようなペースで口に運ぶムルモ。


ブロンドのふんわりとした癖っ毛の下にある、耳を覆う角のようなアンテナインプラントがぴょこぴょこ動く。


「あぐ……、ウマー!」


分割式の顎が、カマキリのそれのように大きく開き、人の手首くらいなら丸呑みにする大口のインプラント。


それで、小倉トーストを一口で食べるニカラ。


「おいしいです……。ありがとうございます……」


そう言って、首の下にある穴にアイスクリームを流し込むハイ。


頭についている口は発声用で、どうやら、摂食用の口は首の下にあるようだ。


サイボーグらしい食事風景だなあ。


カルイは普通にパフェをパクついているが。


で、折角なので話を聞いてみよう。


「俺はまだ、この学園都市の仕組みがよく分からんのだが……、部活ってのはなんなんだ?」


その質問に、ムルモが答える。


「ううん……、派閥?」


「派閥……、なのか?」


「はあい〜。委員会活動はお金がもらえますけど、部活動は予算がもらえます〜」


んー?


ニカラが横から補足する。


「委員会活動は、学園都市の運営に関わる仕事を、給料をもらってやる感じっすね。例えば、生徒会なら政治活動、風紀委員会なら警察活動……。ウチらみたいな給食委員会は、食料プラントの管理維持なんかをやってます」


「へえ」


「逆に、部活動は、部に降りてきた予算で研究活動なんかをやる感じ?部活動で結果を残せば、下手な学歴を積むよりプラスかもしれないっす」


「そうなのか」


「ま、派閥ってのも間違いじゃないっすね。『文系』『理系』『芸術系』『体育会系』の四つの大派閥がありまして……」


ふむ?


「例えば、ウチら料理研究部は、『理系』派閥のかなり大きな部なんすけど……」


「よく分からんな、何で学生が派閥を作るんだ?」


「それはその……、えっと……、んー、これ言っていいんすかね?」


ちらりと、部長たるムルモの方を見るニカラ。


「いいんじゃないかなあ〜?遅かれ早かれ、この学園都市にいれば知ることだしね〜」


「っす。じゃ、説明させてもらうっすよ」


ふむ……?


「『文系』派閥は、学園都市の生徒の三割強を雇用する傭兵組織である『ボランティア部』を頂点とする武闘派派閥っす。ボラ部の傭兵ボランティアは金払いも良いっすから、他の派閥の人も傭兵ボランティアを雇ったり雇われたりしてるみたいっすね」


……はい?


「『文系』派閥は、浅く広く分布していて、特に商業関係に深く食い込んでるんで、表立って逆らうと文字通り『生活できなくなる』んすよ……。その代わり、直接戦闘能力が強いのは『神学部』や『哲学部』くらいで、自前の戦力はそう多くないっすね。まあ、基本的には金儲けのことしか考えてない連中っす」


何言ってんだこいつ。


え?何?


なんかそう言う感じなの?


もっとこう、俺はほら、平和な感じのアレだと思ってたんだけど……?


「『理系』派閥は、学園都市の予算配分量が一番多い組織っす。その資本力は、並の企業を大きく上回るとか。流石にサクラダK.K.ほどじゃありませんけど、かなり金持ってますよ。エイジャーナカトって言う企業の運営もしてます」


はあ……。


「組織は、ほぼ本州のメガコーポと同じ感じの、ガチガチの縦割り社会っすねえ。保険機構とかもやってて、バウンサーやレスキューの派遣もやってます。……まあ、もちろん、メガコーポと同じように、サービスを受けられるのは金払いが良い奴だけっすけど」


うわ……。


「『工学研究部』は稼ぎ頭ですし、メディックやテックドクターもいるっすよ。その代わり、直接的な戦闘能力はあんまないっす。でも、装備の質は最高なんで、強いと言えば強いっすね。あんまり自分らの派閥を悪く言いたくないっすけど、研究バカが多くて倫理観ないっす……」


そ、そうか。


「で、『芸術系』派閥。これは、『軽音楽部』のスーパーロッカーのカリスマによって辛うじて連携を取れているけど、本質的には我が強い変人達だらけの集団です」


はい。


また変な奴らの話か。


「自由な表現、抑圧からの解放。その為なら、暴力的な行為も辞さないチンピラっす。けど、娯楽関係や思想関係に強いので、発信力が高くて……」


ふむ……、まあ、そう言う存在は、本州にもいるな。


「『軽音楽部』『合唱部』『漫研』『ゲーム部』と、戦力は粒揃いっすね。少数精鋭が沢山いる感じですけど、やっぱり『芸術性の違い』で内ゲバすることが多いっす。逆に言えば、内ゲバしなけりゃ最強の集団っす」


なるほどね。


「最後に『体育会系』派閥……。こいつらはかなりヤバいっす。基本方針が『力こそ全て』って感じで、派閥の長を倒した奴が次の長になるっていう蛮族です。基本的には、ギャングみたいに部(ファミリー)ごとにまとまってる部族社会って感じっすかね?とにかく、独特の理論を持ってるんで、話が通じないっす」


ふうん、アメリカのノーマッドみたいな連中ってことか。


「その代わり、平均レベルがめちゃくちゃ高くて、しかも戦闘慣れしてるパターンが殆どっす。怒らせなければ無害ですし、気に入られれば利益度外視で助けてくれるらしいっすよ」


ますます、ノーマッドだな。


「あと……」


「まだ、何かあるのか?」


正直、もうお腹いっぱいなんだが。


「はい。派閥って訳じゃないんすけど……、『不良』ってのが、割と結構な数いるんすよ」


不良?


「そりゃあ……」


いるだろ?


学校なんだからよ。


「あ、いえ、不良派閥ってのは、何ていうか、その……。『犯罪者』なんすよ」


「……犯罪者?」


「はい。学園から退学、停学を言い渡された罪人生徒が、学園都市外部の犯罪組織とかと手を組んだり、もしくは犯罪組織を作ったりして、暴れてるんす。こいつらは、まともな全生徒の敵っすね」


「マジかー……」


マジかぁ……。

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