第17話 チカラを叩きつけて

あーもうめちゃくちゃだよ。


折角、休暇だと思ったのに、なんで学園都市も治安が海外並みなんだ?本当に勘弁してくれ。


確かに、核戦争で滅亡したロシアでは、地下鉄内などに街を作って細々と人々が生活しているし……。


核によって汚染されたアメリカも、放射能コーラを飲みながらスカベンジングしているし。


日本本州は、暗黒メガコーポが支配する古典的サイバーパンク的世界になっている。


だが、学園都市だぞ?


女の子いっぱいの学園都市だ。


折角、穏やかな休暇を楽しめると思ったのに……、ここでも仕事をせにゃならんのか?


勘弁してくれ、本当に。


俺は癒しを求めて、隣に座るムルモのデカ乳を揉む。


「あれ〜?セクハラだあ〜」


「治安が酷過ぎる。ショックだ。ムルモ、ショックを受けた先生を癒してくれ」


「ん〜、奢ってくれたし、別にいっか〜!」


あ、良いんだ。


「部長、良いんすか?」


ニカラが、腕の一本でサブマシンガンを掴みながらそう言った。


「いいよいいよお〜、減るもんじゃあないしい〜。むしろ、イケメンさんに私みたいなおデブさんがモテてるのは、ちょっとしあわせ〜!」


にへら、と笑って俺にくっつくムルモ。


かわええ。


とてもええ。


「部長はテキトーっすねえ……」


そう言って銃から手を離したニカラは、そのまま足を組んで座り込み、電子タバコに点火した……。




その時である。


「料理研究部部長!恨みはないが死んでもらう!」


と、カフェにアサルトライフルを持った女の子達が雪崩れ込んできた!


「わあ〜」


驚きつつも、食べる手を止めないムルモ。


すげえな、肝が据わってる。


「もぐもぐ……、ごくん。で、誰の差し金なのかなあ〜?ちゃんと話し合ってくれれば、私としても落とし所を探れるよ〜」


お、まずは交渉か。


平和的だな。


「馬鹿なのあんた?これから死ぬ奴に、そんなことを話して何になるの?」


と、不良生徒達はライフルを構える。


まあそれはそう。


「ええ〜?やめようよ〜、殺し合いなんて、お腹が減るだけだよう〜?」


「うるさいっ!」


そう言って、不良生徒は、机の上にある料理に発砲した!


あーあ、こりゃもう食えないわ。


「お、ま、え……」


「ッ、ヤバ……!部長!抑えて!」


ん、何だ?


副部長のニカラが、ムルモを全力で宥めている。


そして、部長秘書のハイは……。


「せ、せせせ、先生!ここは危険です!逃げましょう!」


と、俺の手を掴んだ。


んんー?


今更逃げるのか?


判断が遅い、こりゃ減点ものだぞ。


「あのな、逃げるんなら最初から……」


「そ、そうじゃないんです!『部長から』逃げるんですよ!!!」


……はい?


「た、た、た、食べ物を……、粗末にしたなあ?美味しいものを……、粗末にしたなあ?!!!」


「部長ッ!!!」


「黙れえ、ニカラあ!私は怒ってるんだあ!許さない、許さない、許さないいい!『Try taking on a 375kg steel bar!(百貫目の鉄棒を受けてみろ!)』!!!」


うわ、こりゃヤバいぞ。


今スキャンしたが、ムルモの脳内にインプラントされているあの回路は、ロッシュ・ホールディングス製軍用バーサークシステムBER20341803……。通称『ジェヴォーダン』だ。


2034年式の骨董品みたいなインプラントだが、その分、今のものよりもずっと規制が少なく、シンプルな構造で高出力。


痛覚鈍化、筋力上昇、反応速度向上。それに伴うオーバークロックにより、全身からオーバーヒート寸前の高熱が発されて、白い煙が立ち上る。


人工皮膚の切れ目から、出力が向上して膨張した黒いチューブ……、人工筋肉(マッスルアンプ)が飛び出る。


赤く染まった目玉がギョロリと動き……。


「死いねえ!!!」


凄まじい質量とパワーが、不良生徒の顔面に叩きつけられた。


まあ、非正規品のインプラントで少し強化しているようだが、ムルモに……、50%を機械化した軍用サイボーグボディに敵うはずもない。


エグい音と共に、殴られた女の子の頚椎がへし折れ、首が千切れ飛んだ……。


千切れた首がゴロゴロと転がる。普通に可愛い顔した女の子だったのだが、顔面はぐちゃぐちゃに潰れて、眼球が零れ落ち、脳核が露出する。


残された身体の方は、生物としての反射から、ショック症状で痙攣。尿と大便を漏らしつつ、ビクビクと動いていた。


あ、死んではいないぞ?


脳核を破壊されない限り、死ぬことはないからな。


……まあ、この後脳核が回収されて、借金返済の為に色々と搾り取られたり強制労働させられたりするだろうから、死ねた方が幸せかもしれんが。


「あ、ああ、うわあああっ!!!」


仲間の一人の凄惨な死に様(死んでないけど)を見た襲撃者の不良生徒達は、半狂乱になってアサルトライフルを連射してきた。


その辺の自販機で売っている護身用の弱装弾とは言え、生身部分に当たれば普通に抉れる威力。


それを、ムルモは腕をクロスさせるだけで防いだ。


がち、がち。


弾切れの音か、恐怖による震えからの歯がぶつかり合う音か。


「ゆ、許し———」


「許さないと、言った筈だぞお……!」


大型の、375kgほどの重さの大型メイスが、凄まじいパワーで振り下ろされた……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る