第13話 才能のセカイ

「ああ、そうだな。いきなり、『勘でやった、お前も真似しろ』は流石にキツいし、意味がわからないだろうよ。じゃあ、俺の言う『勘』って何なんだ?と考えてみろ」


俺は、銃をナナオに返しながら、射撃場の生徒達に呼びかけた。


「勘なんて、科学的にはあり得ません。ただの、学習結果の無意識のフィードバックなのでは?」


真面目そうな子がそう言った。


「はい、加点。その通りだよ。今までの経験から形成される無意識の対応力……、それこそが俺の言う『勘』だ」


俺は、真面目ちゃんに+1点を与えてから、訓練用の拳銃を構えて言った。


「正直、構えは何でも良い。サイボーグだからな、形式にこだわる必要はあまりない。俺は若い頃の癖でC.A.R.システムを使うが」


訓練用ロボットを再起動させる。


で、さっきやったことをスローで見せる。


「例えば、これは一例なんだが……、このタイプのロボットは、腕を動かすときに、人間で言う鎖骨のあたりのマッスルシリンダーが動くんだよ」


ロボットが、自らの手にある、訓練用機銃をこちらに向ける……。


その時、鎖骨にあるアクチュエータのマッスルシリンダーの軸受が、大きく動いた。


「本当だ……」


ナナオは、アザのできた額を抑えながら、そう言って驚く。


「そして、引き金を引く時は、手首外側のシリンダーが動く……」


「確かに……」


「電脳に感知能力がある子は、電波を拾うようにしてみろ。そうすると、微弱にだが、『SAF_010R75315529』という信号が拾えるはずだ。これは、ロボットに必ず取り付けられている発砲のためのセーフティ解除信号で、相手がロボットならこれを感知すれば発砲に気付ける」


「「「「おおー……」」」」


「それが分かれば、撃とうとしている奴を優先して撃てば、敵の火線はどんどん減る。そうだろ?」


「り、理論上はそうですが……」


難しい顔をする真面目ちゃん。


他の子達も、言うは易し行うは難し……みたいなことを言っている。


「相手の機構や電気信号から次の動きを予測し、己の機構をフル活用し有利を確保する……。それが、『機甲道』の主題だ」


だが、俺がそう言うと、全員が驚き、息を呑んだ。


「日本軍、最強の戦闘術……、『機甲道(パンツァーアーツ)』……?!!」


おっと、流石に知っているか。


有名だもんな、機甲道は。


俺が考案した、サイボーグ戦闘術だが、名前だけは広く知られているはずだ。


軍隊用の格闘技としてな。


「先生はもしや、ニンジャではなく、『サムライ・コマンド』なのですか……?!」


『サムライ・コマンド』と来たか。


特殊作戦部隊第一番、『冥土送り』……。


懐かしいな、俺が指導した部隊だ。


軍上層部では、「ダーク・レイヴンを作ろうとしてできた失敗作を再利用した部隊」などと言われているが、とんでもない。


世界でも屈指の特殊部隊だぞ。


刀一本で飛行戦車を両断する出鱈目な彼らを、海外ではサムライ部隊の意味を込めて『サムライ・コマンド』と呼ぶようになったとか。


「『サムライ・コマンド』に入隊したいのか?それなら、かなりキツいだろうが特別授業をしてやれるぞ。それと、俺からの推薦もな」


ついでに、俺から推薦すればほぼ確実に通るとも。


「何でサムライ・コマンドに推薦をねじ込める影響力があるんです……?」


「何でだろうなあ、おかしいなあ」




とりあえず俺は、一列に並べたロボットを、ランダムなタイミングで動かす。


で、女の子達には、動いた奴をいち早く撃てと命じた。


んー……。


光るものがある子もちらほら、と。


まあでも大半はダメだな、才能ないわ。


ナナオも……、うん、才能ない。


インテリなんだし、前線に出るべきタイプではないな。


「んー、才能ないなお前」


「は……?!あ、あんたねぇ!!!」


まあ、はっきり言えばキレるか。


「いや、正直な話だ。お前、荒事とか向いてないよ。他の子もそうだ、大した才能はない」


「あんた教師でしょ?!そんなことはっきり言う?!」


「教師だから言ってやってるんだろうが。向いてないことをやり続けるのは、辛いぞ」


俺がそう言うと、ナナオは……。


「だから、だからどうしたのよっ!才能がなければ、努力でカバーしてみせるわ!!!」


と、俺の襟首……は高さ的に掴めないから、上着を掴みながらそう言ってきた。


ふーん。


ま、良いんじゃない?


「才能がなくても、やりたいならやれば良いんじゃねーの?俺はただ、向いてないと親切で伝えただけだからな」


「……どうも、あ、り、が、と、う!!!」


お、キレてんねえ。


「いやマジで、嫌味とかじゃねーぞ?そんなにキレるなよ。ま、怒ってる顔も唆るけどよ」


「こ、この、変態教師ーーーっ!!!!」


蹴られた。




「一通り見せてもらったが、まあ、A判定まで取れそうな奴は殆どいないな」


しゅんとする生徒達。


あー……。


「でも、才能ない奴もちゃんと授業受ければCはちゃんと出すから、落ち込まなくて良いからな」


そう言ってやったんだが、下がったテンションはなかなか上がらない。


「……あの、私、才能ないって、本当なの?」


お、ナナオ。


んー……。


「申し訳ないが、本当だ。会ったばかりだが、お前みたいな真面目で良い奴は好きだし、あえてキツイことを言うぞ?」


「う、うん」


「世の中には、生まれつき『できる奴』ってのがいるんだよ。『見えている世界が違う奴』がな。悪いが、お前らは殆ど凡人だ。そして、生まれ持った才能は今更どうしようもない……」


「そんな……」


「だが、ナナオ。お前の言う通りだ。努力と実戦経験で、ある程度は補える」


「ほ、本当?」


「本当だ、これについては嘘を言わない。俺がいままで一体何人の才能も何もないクソガキ共を一端の軍人にまで育てたか、お前に分かるか?」


「そ、そうなの?」


「ああ、そうなんだ。他の子も安心して良いぞ、真面目に努力すればA判定もなるべく出す」


「……分かった。頑張るわ!」


うんうん、こんなもんだな。

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