第2話 学園長はコンコンキツネ?

《特別任務》

《学園都市にて、教師の身分で潜入しつつ、治安維持活動及び『光芒』の残した負の遺産を回収せよ。

任務の際、現地学生に情報収集の為接近することも許可する。また、学生や教師など、現地の人間に対する情報収集の結果、殺害することも許容する。》


「うそーん……」


あいつマジか……。


マジで、女子校に俺を捩じ込みやがった……。


しかも、現地の女子高生は犯しても殺しても別に良いよとまできたもんだ。


イカれてんだろこの国。


とは言え、軍人として辞令が来た以上、行かなきゃならんよなあ……。




ったく、こんな潜入任務みたいなこと、やったのはいつぶりだ?


身分表データチップを……、よし、首の後ろの端子接続口に差し込んで、と。


サイボーグらしく、電脳にデータをインストール……。


なるほど、これが学園都市での身分と履歴の偽装書類か。


名前は……、瓜中バンジ、ねえ。


……瓜中万二、吉田松陰の偽名じゃねえか。教師だからってことか?馬鹿らしい。


で、他のフォルダには学園都市の情報もある。


えーと、何々……?


学園都市……、正式名称『アキツシマ学園島』ね。


日本列島の本土の半分ほどの大型のメガフロートに、第三次世界大戦で核ミサイルにより焼き払われた東京の街並みを再現した、風光明媚な学び舎、と。


まずは、『セントラル・エリア』という中心部に行き、そこで学園長に会え、か……。


仕方ねえ、行くか。




港に着いた。


体内のナノマシンが健康状態を観測してあるので、基本的に防疫のためなんちゃらかんちゃらをやる必要はない。


俺が若い頃は、確か、コロナウイルスとかいうのが流行って大騒ぎだったんだがな。便利な世の中になったもんだ。


入国用のゲートをくぐり、身体探査を受け入れる。


これもまあ、大昔みたいにパスポートを見せて「サイトシーイング」だのと答えるアレもない。


完全電子制御で、AIがこちらのIDを無線通信でチェックする。


駄目なら、ゲート横に突っ立っている警備用のロボットやドローンが発砲するだろうな。


IDは……、うん、ちゃんと認証された。


これで弾かれたらブチギレてたかもしれん。上がアレな場合、貰ったIDが弾かれるパターンとかマジであるからなあ……。


で、ゲートの先は。


「ほお……、本当に景色はいいな」


日本本土では見られない自然が多く、若い子がいっぱいいて雰囲気もいい。


うーん、こうなったら開き直って、しばらく休暇と思って楽しく暮らすか!


トランスポーター……まあ飛行する電車みたいなものに乗って、セントラル・エリアに到着、と。


「わ、イケメン……!」


「誰かな……?」


「きゃーっ!こっち見てくれたー!」


黄色い声の女の子達に手を振りながら、俺は、この学園都市全てを支配する、『学園長』に顔を出しに来た……。




「新任教師の瓜中じゃな?ワシが、学園長の徳川テンショウじゃ!よろしくなのじゃ〜!」


あ。


「おお、久しぶりだな、『ヴィクセン』」


「貴様、何故私の昔の名前を……って!せ、せせせ、先輩?!!!『ダークレイヴン』先輩?!!!!」


ダークレイヴン……、懐かしいな。


俺のコードネームだ。


久しぶりに会ったヴィクセンは、昔のような妙齢の美女ではなく、小中学生くらいの幼い美少女になっていた。


恐らく、インプラントやバイオ技術で義体を弄って、若返ったのだろう。いや、そういうタイプの義体か?


だがしかし、狐っぽい表情と、人を食ったような笑みは、昔と変わっていない。


いやあ、懐かしいな。


それに、可愛い見た目だ。


そう思って俺が感心していると……。


「つ、ついに……?!!まさか!」


と、泣き始めた……。


んー、まあ俺は紳士なので、慰めてやろう。


「よしよし」


「……え、えっと、その!せ、先輩?何のご用ですか?」


「何か、俺に怒られるようなことをしたのか?」


「嫌だなぁ!してませんよぉ〜!」


ふむ。


懐かしいな。


こいつと同棲した日々を。


ほんの数年間だったが、夫婦同然に過ごしていた。


たくさん愛し合ったし、今でも好きではある。


仕事の都合で同棲生活は終わったが、気持ちは変わらない。


そして、共に暮らした女のことを、俺が理解していない訳がないな。


「嘘つくなよ、ヴィクセン」


「嘘じゃないですよ?!私本当に、何も悪い事はしてないです!!」


「それも嘘だろ?」


「な、何でぇ……?!心音を誤魔化すための人工心臓と、脳波を誤魔化す電子副脳も付けてるのに、どうして先輩は他人の嘘を見破れるんですか……?!」


「『勘』だが」


「勘んんん?!?!!?!」


「同じ『魂』を持った人間だ。気持ちが通じ合い、身体を重ねた相手のことを、どうして分からないんだ?」


「うへえ……、出ました、先輩の『魂』理論!昔のロボットアニメの主人公みたいなこと言ってるからもう!!!」


ペチペチと俺の胸を叩くヴィクセン。


95%のフルサイボーグに魂なんてないでしょもう!などと言いながら、俺の胸を一頻り叩くと……。


ペタッと胸に抱きついてきた。


俺は、ヴィクセンの頭を撫でてやりながら、ヴィクセンの話を聞く……。

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