隠し事

それは突然のことだった。今日も今日とて当然目が覚めると、スマホを手に取る。ネットの海を彷徨っていると、通知が来た。びっくりして息ができなかった。そこには見慣れたその文字が表示されていた。忍。見慣れたとはいっても、もう数年前のことだ。はじめに感じたのは嬉しさだった。けれど、数年ぶりの元友人からの連絡は、私を絶望していたあの頃の気持も同時に思い出させてくれた。メッセージを読むか読まないか数分迷っていたが、流石に読まないわけにはいかないと、思い切ってトーク画面を開く。『久しぶり。突然連絡してごめんなさい。どうしても話したいことがあって連絡しました、良ければ会って話しませんか?時間のある日付を送るので、都合の良い日を教えてください。』

身勝手だ。ある日突然絶縁を言い渡されたかと思えば、またある日には突然会いたいと言い、断るなんてしないだろうという心意気のおまけつきだ。まあ、正直会ってみたいのは山々だ。あのときの彼女の気持ちを知りたいし、そもそも何があったのか知りたいのだ。彼女の予定のつく日時を確認し、一番早い日付を指定して会うことを承諾する。すると彼女は集合場所として駅前の、高校の頃に通い詰めたあのカフェを指定した。ああ、どんな気持ちで彼女に会おう。今の私は喜怒哀楽すべての感情を感じている。そして、私には解決しなくてはならない大きな問題があった。ずっと気づかないふりをした、ふとした時に脳裏によぎる彼女の顔。こんなありきたりな自分なんかが、彼女にこれほど大きな感情を向けるのはおこがましいと。けれど現実は虚しく、結局自分の感情に勝るものはなかった。忍が好きだ。これは恋だ。幼少期に足の早い男の子に向けた好意なんかとは全くの別物なのだ。私にとっての人生で初めての一番は、彼女だ。彼女から連絡が来たときの胸の高鳴りや、ドキドキにようやく理解が追いつく。私は隠し事が苦手だ。今まで彼女にどう思われていただろうと思うと、気が気ではなかった。好きな人に会えることは嬉しいことだが、別れ方があまりにもひどいものだったし、彼女を好きだと自覚したからには、ぎこちなくなることも確定している。スマホのカレンダーを眺めても、当然どうにもならないが、今の私にはそうすることしかできなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る