地獄

うつ病。テレビの特集か何かやらで何度か見かけた程度のものだったそれが、突然身近なものになった。

「影山さん、あなたはうつ病です。」

いくつかの問診票に記入したり、お医者さんとしばらく話しているうちに、そう言われた。そうだろうとは思っていたが、いざ言われると、これからを憂う気持ちと、病名がつき、なにかから開放されるような気持ちとで頭がぐちゃぐちゃになった。ここまで長かった。体が動かなくなったあの日から、少しマシになり、病院に電話をかけられるようになるまで一週間。最短で1ヶ月後に予約が取れる、と告げられ絶望を覚えた。この状態で一ヶ月も過ごすことができるだろうか。学校もバイトも、本当はいかなくてはいけないのに。この一週間、運良く母親は帰宅しなかったが、母親にバレたらなんと説明すれば良いのだろうか。当然母親とは喧嘩になった。思い出したくもない。泣きながら母親に怒鳴るなんて、初めての経験だったし、そんなことが生涯のうちにあるとも思っていなかった。しかし、母は私の行動に驚いたのか、早々に好きにすれば、とまたどこかへ出かけていった。それから母は帰ってきていない。学校にも自分で連絡を入れた。重い体を起こし、泣きながら電話をかけた。担任は日頃の私の努力を認め、頑張りすぎかもしれない、と言って暫く休むことを勧めてくれた。それからは地獄だった。毎日泣きながら布団にくるまり、空腹で腹痛と吐き気を感じると、どうにかキッチンへ行き、味のしないシリアルを食べた。正直、途中から記憶がない。毎日日付を確認するためだけに生き続け、ついにやってきたのが今日だった。これからは薬を飲むことで、少しは楽になると説明され、少し安心した。あの地獄が続くとしたら、本当に自分の命に手をかけてしまうこともありえただろう。少し軽くなった体、診察室の椅子から立ち上がりその部屋を去る。この地獄はいつまで続くのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る