第23話 青い炎
謙太郎さんが出した青い炎の光線に
会場の全員が驚きを隠せない。
「やっと出たな。面白くなるぞ。」
当然俺も驚いたが、隣にいる青さんは
満足気に頷いている。
雑賀さんが放った水龍の弾丸。
あの攻撃も相当な技術が詰まっているはずだが
印象さえ残さない謙太郎さんの衝撃。
驚きの声が会場を埋め尽くしている。
「あれは・・青さんが・・・?」
「いや、わしは教えておらん。
やったことと言えば炎の術の性質と魔道に
対する姿勢を教示したのみじゃ。」
「姿勢・・ですか?」
あれだけの魔術を使う謙太郎さんが
魔道に対して邪な考えを持っているはずがない。
「・・あなたの入れ知恵でしたか。」
青さんの隣に藤野さんがやってくる。
戦いに集中して近づいてきているのに全く気が付かなかった。
「最近熱心に魔術の鍛錬を行っているのを不思議に思っていましたが、
青さんが指導をしていたんですね。」
「龍穂にも言ったが指導などしとらん。
謙太郎が自分だけであの魔術を開発したんじゃ。」
「心に火をつけ、自分の魔道と向き合う様に仕向けたのでしょう?
そして効果は絶大。
誰がどれだけ言っても魔道の道を進もうとすらせず、
雑賀との戦いでやっと嫌々踏み出した謙太郎が
繊細で、煌々しい炎を出すことが出来たのは
青さんのおかげだ。
これを指導と呼ばずしてなんと言います。」
以前の謙太郎さんのことはよくわからないが
今までろくに魔術を使ってこなかったのに
あれだけの火の魔術を使えるとなると
才能の原石でしかない。
「・・努力の男じゃからな。
少し齧っただけでも異名をつけられてしまう才能を
持ってしまっては他の二道にはあった
進歩する実感が湧かず、
目標もなかったためせっかくの才を腐らせておった。
まさか教えた漫画から使ってみたい術のヒントを得てきた時は
驚いたが、初めて手こずった魔術に
謙太郎はのめりこんでいきおった。」
「その結果が・・・・あれと。」
謙太郎さんは再び火の光線を放つため、
先程と同じ構えをとっている。
「ですが、雑賀も黙ってやられる奴じゃありません。
何かしら手を打ってくるはずです。」
藤野さんの言う通り、スナイパーを手に持つ雑賀さんだが
構えておらず、棒立ちで謙太郎さんを眺めているだけだ。
ここまで来て降参はしないはず。
何を狙っているのだろう?
「・・龍穂に準備をさせなくていいのですか?
あいつらは幾度となく戦っていますが、
どの試合もかなり長引いています。
体が冷めてしまうのでは?」
「いや、大丈夫だ。
謙太郎と言えど、あれだけの魔力を長時間は保持できまい。
すぐに勝負を決めに行くはずじゃ。
それが通らなければ・・・ほぼ負けじゃな。」
青さんは早期決着を予想しており、
その予想通り謙太郎さんが動き出す。
「ハアアアァァァァァ!!!!!」
先程同様雄たけびと共に炎の光線を
雑賀さん向けて放つ。
先程より太い光線は喰らったらひとたまりもないだろう。
「最初は驚いたが、威力が高い分は軌道は変えられへんようやな。
こんなん一度見てしまえば避けるのなんて簡単や。」
近づくだけで炭になってしまいそうだが
雑賀さんは焦らず迫ってきた蒼炎の光線を
高く跳ねて避ける。
「こんなんより身にまとっている炎の方が
面倒やな・・・。まずはあれを・・・」
弾を込めたスナイパーを背負い、
新しい銃を取り出す。
先程使ったハンドガンと同じサイズだが
銃口の大きさが段違いに大きく、スナイパー同様
弾を込めるタイプの様だ。
懐から大きめの弾を取り出し
銃口から込め、銃に力を込める。
「神力・・・・?」
魔術のみしか扱えないと思っていたが、
どうやら神術も放てるようで
放たれた弾からは大量の土が飛び出してきた。
「大鯰(おおなまず)!!」
人差し指と中指を立て、言霊を使うと
土が形を変え、大きな鯰に姿を変える。
鯰と言えば地中深くに潜み、地震を引きおこしていたと
言われていた伝説の妖怪であり、
使役はもちろん、力を借りて神術を放つのも
かなりの技量が必要になる。
「ただの水じゃすぐに蒸発されてまうけど
土を混ぜた鯰はどうや?」
大鯰は大きな口を開いて
謙太郎さんへと向かうが抵抗する素振りすら見せない。
「・・・・・・」
ただ鯰を眺めており、無抵抗のまま
大きな口の中に飲み込まれてしまった。
「大鯰か。そんな技量がある奴とは思えんがのう・・・。」
雑賀さんが放った神術を見て、青さんが不思議そうにつぶやく。
「あいつが使っている銃のほとんどは
込めた力を増加させる機能が備わっています。
魔力だけではなく、神力も同様。
その力のおかげで実力以上の術を放てるのです。」
自らの実力以上の術を放てる装置と言うだけで
誰もが欲しがる大発明だ。
「ほお・・・。魔力は杖を応用すれば可能ではあるが、
神力までもか。なかなか面白い物を作り上げたの。」
「ええ。一体どういう技術なのか気になりますが、
聞いても教えてくれないんですよ。」
青さんも知らない知識となると
もしかすると雑賀さんが独自で作り上げた
技術なのかもしれない。
「・・教えましょうか?」
そう考えていると、後からタオルを持った
楓がやってくる。
「教えるって・・・、何か知っているのか?」
「聞いたことがある苗字だなぁと思っていましたが、
先程使った神術でピンときました。
あの人、忍びですね。」
忍者?雑賀さんの動きに忍術の気配も感じなかったが、
楓はどこを見て忍者と判断したのだろうか。
「神術を使った時、人差し指と中指を立てていましたが
あれは甲賀流の忍びが使う”手印”です。
通常、神術を使う際には神様に力を使うための祈願が
必要になりますが、甲賀流はそれを手で結ぶ”印”で
口での詠唱の代わりにできるんです。
雑賀さんが放ったのは、大鯰を呼び出すための土と
神力が込められた弾。それに印と言霊を組み合わせることで
あれだけ短時間で神術を放つことが出来るのです。」
楓も同じように印を持ちいて術を放つが、
楓の場合は神術ではなく、魔術で使用する。
おそらく流派が違うのだろうが、
この話と神力を増幅させる技術につながりはない。
「忍びなのは分かったけど、それが今までの
話しとどう繋がるんだ?」
「雑賀と言う名前が日ノ本の歴史に現れたのは
戦国時代と言われており、あの人が使う銃を使って
傭兵として活躍したと雑賀衆が有名です。
その時代銃が伝来し、
日ノ本中で広く伝わっていましたが
その中でより秀でた活躍するため、雑賀独自の製法で
作られた”鉱石”の力を使用したと言われています。」
楓はどこからか一本のクナイを取り出す。
「こちらは雑賀独自の製法を加える前の鉱石で
作られたクナイ、”殺生石”で作られたクナイです。
殺生石は神力を封じる効果を持った特殊な鉱石ですが、
雑賀衆はこの殺生石を効果を”反転”させ、
神力を込められるようにしたと言われています。」
殺生石と言えば、日ノ本で有名な妖怪を
封じた石として全国に名が通っているが、
その効果を反転させるなんて技術は初めて聞いた。
「広い地域から兵で構成された雑賀衆は
銃の扱いも相当な実力だったと言われていますが、
それ以外に神術と鍛冶の名手が多く集まったと伝わっています。
おそらくあの銃はその特殊な鉱石を用いて
作られている。
そして土を出した銃弾には簡易的な封印が込められており、
解き放たれた瞬間に封印が解け
大鯰に由来のある土地の土が放たれたのでしょう。」
「ふむ・・・。わしも長年生きてきて、多少なり
忍びと呼ばれる奴らを見てきた。
楓の言った通り、甲賀の忍びも見てきたが
あれだけ器用に立ち回る奴を見たのは始めただな。」
「雑賀衆は戦国時代が終わったのち解散し、
農民に戻った者や銃の腕を買われ大名に仕えた者などが
いましたが、鍛冶が得意な者達は
裏に潜む忍び達の忍具を作る商売を行っていました。
忍び達御用達に鍛冶屋ですから表舞台に顔を出すこともなく、
長く生きていらっしゃる青さんが見たことないのも当然です。
また、商売のトラブルに備えて忍びの技術を
今でも磨ているらしく、
私も存在自体を噂程度にしか聞いたことが無かったのですが、
実力と使用した忍術。そして名前を聞いて確信しました。」
戦国時代から続く影に潜む忍びの家系。
しかも繋がれてきた技術を現代に通用するまで
昇華させた雑賀さん。
あの謙太郎さんと互角に戦えるのもうなづける。
大鯰に飲み込まれた謙太郎さんだが、大きな動きはない。
「よっと・・・」
雑賀さんも地上に降り、様子を伺っているが
いつ何が起きても対応できる位置に陣取っており、
勝負を決めに行く様子はない。
「前の炎なら大鯰で消せるやろうけど・・・」
まるで生きているように動いていた
大鯰は謙太郎さんを口に入れたまま動かない。
「・・・・・ん?」
よく見ると土の大鯰からは湯気が立っており、
所々から穴が開いて勢いよく噴き出している。
「フン!!」
謙太郎さんの声が聞こえたかと思ったその時、
大鯰の体から大量の水蒸気が噴き出す。
まるで蒸気機関車の様に、謙太郎さんの熱気に蒸発させられた
水たちが一気に噴き出し中から砂まみれの
謙太郎さんが現れた。
「フーー!いいサウナだった!!」
大鯰の土に覆いつくされてかなり苦しかったはずだが
涼しい顔をして砂を払っている。
よく見ると辺りの砂が解けている部分もあり、
謙太郎さんが出している炎がどれだけ温度が高かったのか
物語っていた。
「・・流石アカンか。」
「良い技だな!今度は俺の技を見てもらおう!!」
謙太郎さんは手のひらに魔力を込め始めるが
今までの構えをとらずに両手を離し片手ずつに
炎を溜めて雑賀さんに向けて放り投げ始めた。
「オラァ!!!」
次々と放り込まれる炎の弾は着弾と同時に
爆発していく。
これも漫画から得た発想なのだろう。
「威力を落として当てに来たか・・・!
ほんま厄介な奴やな!!」
雑賀さんは縮地で爆発を避けているが
謙太郎さんの隙を狙い、始めに使ったハンドガンで
攻撃を放っている。
火、水、土、風。様々な弾を撃ちこんでいるが
全て蒼い炎に焼き消されていた。
「アカンな。やっぱりあれを・・・」
「そんな余裕はあるのか?」
気が付くと爆発で燃えた炎が地面を埋め尽くしており
雑賀さんは逃げ場を無くしてしまう。
咄嗟の判断で宙に跳ねたが人間には羽が生えていない。
空中での移動手段を持たない雑賀さんは
謙太郎さんにとって格好の的だろう。
「あんま舐めんな・・!!」
宙で動けない雑賀さんに向けて容赦なく撃ち込まれる。
何もすることが出来ない雑賀さんは
蒼い爆発に包まれ、煙に包まれた。
「・・・・・・・」
直撃。その証拠に煙の中の雑賀さんが煙を巻きながら
下へ落ちている。
逃げ場を無くし、動けなくなった所を仕留める。
戦いの基本だ。
威力を抑えたといえど、戦闘に不能まで追い込むには
十分すぎる一撃だろう。
決着はついた。次は俺達の番だと準備しようとしたその時、
「まだです。」
隣にいる楓が俺に向かってつぶやき引き留めた。
「・・・!?」
下に落ちたのは大きな丸太。雑賀さんは落ちていない。
爆発で起きた煙を利用し、
視線を誘導させるための罠を仕掛けていた。
肝心の雑賀さんの姿が見えず、探していると
残った煙の中から大きめの銃弾が放たれる。
謙太郎さんに向かった放たれた銃弾だが、
生半可な攻撃は全て蒼い炎で炭にされてしまう。
「・・反撃の狼煙や。」
銃弾は青い炎に触れる前に破裂し
砂の混じった煙幕が謙太郎さんの前に広がった。
高火力の魔術を常時発動している謙太郎さん相手に
先程の忍びらしい視点誘導や煙幕のような
時間稼ぎは非常に有効な手だ。
雑賀さんは謙太郎さんの弱点に気付き、
時間を稼いで有利な状況を作り出そうとしているのだろう。
「効かん!!」
だが、高温の炎を身にまとった謙太郎さんの周りには
熱で出来た上昇気流が起こっており、
砂を含んだ煙幕はすぐに宙へ舞い上がった。
「それでええ。一瞬でええんや。」
煙幕が晴れ、視界が広がった先に見えたのは
貯めに貯めていたスナイパーを空で構えている雑賀さんの姿。
「お前用に作った弾や。当たり所悪いと
この先の人生おしゃかになるかも知れへんけど、堪忍な?」
先ほどまでなかったスコープを覗き、放たれた
弾丸は今までとは比べ物にならない爆音を共に
目に見えない速さで謙太郎さんに向かっていく。
青い炎が広がっているゾーンに入り込んでも
炭になることなく、熱帯びた弾は赤く光りながら
謙太郎さんの元へ進んでいった。
「くっ・・・・!!!」
予想だにしない一撃に謙太郎さんは反応が遅れ、
何とか体を仰け反らせるが弾丸は右腕の上腕を捕える。
「当たったな。これで終わりや。」
目に見えない勢いだったが、弾は腕を貫くことなく
謙太郎さんの強靭な腕の肉の中に留まっている。
なんとか魔力で体を強化して大けがを防いだように見えたが
秘策の弾丸の真の効果がすぐに見えてきた。
「今放ったのは”魔封弾”。
触れた者の魔力を封じ込める俺が作ったオリジナルの弾や。」
謙太郎さんの体を包んでいた青い炎が徐々に
弱まっていき、ついには消えてなくなったしまう。
「お前も知っとるやろ?魔封石。
魔力を封じ込める特殊な鉱石で魔術でのテロなんかを防止するために
そこら中に使われとる便利な奴や。
やけどこの鉱石自体の耐久力は紙同然でな。
大体強度を上げるために他のもんに混ぜて使用されるのが一般的なんやけど
刀や槍なんかに混ぜて使うには強度がどうしても足りんかった。
前回お前の魔術に刃が立たんかった時、
真っ先に魔封石の加工に取り掛かり半年。
たった一発やけど銃弾として使ってもバラバラにならへん
強度のもんが作りあがった。
良かったなぁ?内臓なんかに埋め込まれんくて。
お前に確実に勝つために着弾して体の中に入り込んだ瞬間に
返し用の刃が飛び出す設計にさせてもらったわ。」
街中に敷かれているコンクリートや家の外装に
必ずと言っていいほど含まれている魔力を通さない効果を持つ
魔封石。
雑賀さんも言っていた通り、魔術での犯罪やテロ防止で
人が多い繁華街の建造物のほとんどに使われており、
その壁の近くにいるとほとんどの魔術は使用不可になる。
「あ、あとな。そいつは返しが付いている他に
長時間生き物の体の中にあると肉と一体化して
最終的に取れんくなるで。
早めに取ることをお勧めするわ。」
しかもたちの悪い仕様に改造されているようで
先ほど言っていた当たり所が悪いと人生がおしゃかになるという
意味の真意が見えてくる。
幸い腕に命中したので取り除くのに時間はかからないだろうが、
もし体の深い所に留まれば
取り除くのに時間がかかり、体と一体化して
二度と魔術が使えない体になるだろう。
「ぐっ・・・!!!」
腕を抑えて、膝をつく謙太郎さん。
空を跳ねていた雑賀さんも地面に降り、
とどめを刺すためスナイパーをしまい今度は銃口が開いたハンドガンを
手に持ちながら近づいてくる。
「降参しろ。いたぶるのは趣味やない。」
謙太郎さんに近づき、頭に向かって銃口を突き付ける雑賀さん。
降参しなければ打ち込む。お前に勝利の道は残されていない。
直接口には出さないが、行動で謙太郎さんに示していた。
「・・・・・変わったな。お前。」
謙太郎さんが何かを呟いている。
遠くから見ているのでその内容までは聞き取れない。
「ん?言い訳か?」
「以前のお前なら俺の力に対抗して
さらなる力を付けたはず。それが死ぬほど憎んでいた武道であってもだ。」
「・・・そうかもな。で、どうするんや?」
「お前は逃げた。俺との真っ向勝負を恐れ、
まともな勝負をしなかった。」
「・・・・・・・・」
何か話している二人。謙太郎さんは真っすぐに謙太郎さんを
見つめているが、優位なはずの雑賀さんの表情に
イラつきが見えている。
「そんなに負け惜しみを言いたいんか。
不快や。これで寝とけ。」
イラつきの先にあったのは冷酷な瞳。
零距離で突きつけた銃で謙太郎さんの額に引き金を引いた。
放たれた銃弾は頭を打ち抜くことはなく、
代わりにすさまじい衝撃で謙太郎さんは頭から
後ろに吹き飛ばされてしまう。
使用されているのはおそらくゴム弾。
殺傷能力はないが、気絶させるには十分の威力があり
試合を終わらせるためには十分すぎる一撃だ。
(止めに・・・入らないのか・・・?)
例え謙太郎さんが立ち上がったとしても、脳震盪を起こし
まともに戦えないだろう。
生殺与奪の権利は雑賀さんの手に握られている。
だが、竜次先生も毛利先生も近くに駆け寄るどころか
腕を組み足を完全に止めており
試合を止める気配すら見せない。
「・・・・・・・」
吹き飛ばされた謙太郎さんだが、頭は下を向いているものの地面に着けることなく
膝をつきながらも何とか意識を保っている。
「勝利とは・・・奪うもんじゃない・・・。
相手から差し出されるもんでもなく・・・掴み取るもんだ・・・・!!!」
何かをぼそぼそと呟きながら抑えていた腕が勢いよく引かれ、
血だらけの手には何かが握られていた。
「怖いのか?俺が。勝利を掴み取る事を止め、俺から
引き出そうとした。その時点でお前は勝負から下りてるんだよ。」
手に持っていたのは黒く、鋭い突起が何個も付いている銃弾。
謙太郎さんの体の中にあった魔封石の弾。
「お前・・無理やり・・・!?」
打たれていた所を隠すため、手で押さえていたのではなく
なんと傷口に手を突っ込んで弾を引き抜こうとしていたんだ。
「言っただろ?勝利は掴み取るもんだって。
俺は真っすぐ行く。お前の様に器用じゃないからな。」
手に持っていた魔封弾を遠くに投げつける。
その瞬間、二人の周りが蜃気楼が起き始めた。
謙太郎さんの魔力が復活した証だ。
「・・・・・・」
「こっちを真っすぐ見ろ。俺はお前が何をしようと
全てを力でねじ伏せる。お前は・・・、誠吾はいつも通り
絡め手を入れつつも正面から打ち勝ってこい。」
再び青い炎が発現するが、謙太郎さんの体を包むことなく
二人の周りにのみ燃え上がる。
「・・・・・・・ああ。」
青い炎だけではなく、心を掴む言葉を巧みに使い
心身ともに逃げ場を無くした雑賀さんは
再びハンドガンを取り出し謙太郎さんに向かって構えた。
「・・・・フッ!!!」
炎の中、最後の戦いが始まる。
先に踏み込んだのは謙太郎さん。
拳に青い炎を包み、正拳を雑賀さんに向けて放つ。
当たったら燃やし尽くされてしまう青い正拳だが
雑賀さんは低い体勢で謙太郎さんに懐に潜り込み
無防備の腹に向けて右手に構えた魔銃で魔力の弾丸を放つ。
しかもそれだけではない。
左手にはとどめ用の銃が握られており
拳を放つため伸びきった腕の関節部分を打ち放った。
的確に人体の弱点である筋肉に覆われていない部分を
打ち放つ雑賀さん。
なんとか反撃を狙う謙太郎さんだが
全ての動きに対応され、そのたび狙いすました一撃を受けている。
「あれがあいつが作った魔銃流だ。
精通している武術が多く、大抵の動きは
予想できる。魔弾の射手の異名は才能を評価されて
付けられたが、その中身は多くの武術に長く触れ、
血のにじむような努力でつけられたものだ。
今回で五回目の二人の試合だが、そんな少ない回数でも
見てわかるほど雑賀は努力を続け謙太郎に食らいついてきた。
それは謙太郎も同じ。
だからこそ、謙太郎は雑賀を煽るような事を
言ったのかもしれないな。」
先ほどまでの魔術、神術の応酬から
接近戦による殴り合いに変わったが、
先程より華がある試合となっており
二人が積み上げてきた武道がいかんなく発揮された
達人同士の戦いが目の前で起きている。
雑賀さんの動きはまるで無駄がなく、
謙太郎さんの動きを完全に見切り、
容赦なく弱点に銃弾を叩き込んでいる。
攻撃を全て受け、劣勢に立たされている謙太郎さんだが
動きは決して悪くない。
むしろ洗礼された拳に青い炎が重なり
掠りでもしたら戦闘不能に持っていくほどの一撃を
放ち続けているため
雑賀さんがかなりプレッシャーを受けているだろう。
「・・想定以上に長い戦いになったな。」
戦っている二人を囲む青い炎が段々と弱くなっていく。
謙太郎さんの魔力が残り少なくなっている証拠だ。
武術で圧倒されており、魔術が無くなると
残る対抗手段は神術のみだがそれも未知数。
だが、あれだけダメージを喰らっていれば
神術を使う前に倒されるだろう。
謙太郎さんに残された時間は少ない。
「これで最後・・・・か。」
戦いを優位に進めていた雑賀さんだが、
謙太郎さんの隙を突いて空へ大きく跳ねる。
「このままいたぶってもええけど、俺ららしくない。
最期は残された全力をぶつけようや。」
背中に背負ったスナイパーに弾を込め、
下にいる謙太郎さんに放つ。
弾は途中で弾け、中から大量の火が溢れ出てきた。
大鯰と同じように神術を使うつもりだ。
一度の拍手のあと、手印を使い
神術の詠唱を始める。
大鯰の時より手印の数が多い。
宣言通り、今使える神力を全て動員して
一番強い神術を放つつもりだ。
「・・・・・天駆ける凶星(てんかけるきょうせい)!!」
手印を終え、言霊を放つと
炎の塊が姿を変え四足歩行の化け物に姿を変える。
「これが俺の全力や!!破ってみろや!!!」
火の化け物は空を駆け、謙太郎さんの元へ向かっていく。
「・・・・・・・・」
それを見た謙太郎さんは腰を落とし、最後の一撃を
放つ準備を始めるが、辺りの炎がどんどん小さくなっていってしまう。
もう反撃できる力も残っていないのか。
「最後の一撃のため、常時発動を解いたか。
これで決まるぞ。」
青さんの言う通り、辺りの炎はなくなったが
身にまとっている炎が再び煌々しく輝き始める。
そして、決着をつけるため、両手を包むように
青い炎を塊を作り上げる。
そして空を見あげ、炎の化け物を凝視し、
両手を化け物に突き出した。
「ッッハアアアアァァァーーーー!!!!!」
謙太郎さんが魔力を全て使い、全力の蒼い炎を放つ。
その瞬間、まるで世界から一瞬だけ音が無くなったような
静けさが辺りを包んだ。
空気を割きながら突き進んでいき、青い炎と
空駆ける炎の化け物が相対する。
化け物は大きな口を開け、炎に飛びかかった。
「・・!!??」
衝突の瞬間、今日一番の爆発音が響き渡り
思わず耳を塞いでしまう。
何とか結末を見届けようと目だけは戦場に向けていると
二人が放った全力の一撃はお互い一歩も引くことなく
鍔迫り合いをしていた。
「ぐっ・・・!!!!」
だが、徐々に押されていく青い炎。
これまでに消費していた魔力でガス欠を起こしており、
威力が徐々に落ちてしまっていた。
「・・ぐっおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
負けることは許されない。
そう心に決めていた謙太郎さんは
腹の奥から雄たけびをあげると、
青い炎の威力が増していき
化け物を押し始める。
もう魔力はそこを尽きているはずだ。
だが、魂を削っているかドンドンと魔力が上がっていき
炎の化け物も抵抗を見せるが、なすすべなく
押されていき、術者である雑賀さんの元まで
押し込まれてしまう。
「・・・・・・・・」
あと少しで青い炎に包まれる。
命の危険が迫っているのに、雑賀さんはなぜか笑みを浮かべていた。
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