第24話 上杉兼定
青い炎に包まれていく雑賀さん。
このままでは焼き尽くされてしまうだろう。
「ここまでだ。」
青い炎を身にまとっている謙太郎さんの
肩に手を置く人物が見える。
審判を務めている竜次先生だが
あの青い炎の体に触れている。
よく見ると竜次さんはジャケットを脱ぎ、
ワイシャツの腕をまくっているが見えている肌が
人のものでは無くなっており
固い鱗に覆われていた。
「・・・分かりました。」
謙太郎さんは竜次先生の指示を大人しく聞き、
青い炎の放出を止める。
だが、既に雑賀さんの出した化け物は焼き尽くされており
その後ろにいた雑賀さんも無事では済まないだろう。
「雑賀さんは・・・!?」
「馬鹿者。よく見ろ。」
まともにくらっていれば青い炎に影が出来るはず。
眼を凝らしてよく見ても影一つ見えることはない。
「!?」
再び耳を塞ぎたくなる轟音が響く。
それは爆発音ではなく、曇天に響く雷が空気を割いて
落ちてくるような音だ。
「大丈夫ですか?」
轟音と共に突然現れたのは毛利先生と抱えられた雑賀さん。
体には小さな雷がバチバチと音を立てながら溢れ出ていた。
「・・・ええ。少し痺れましたけどね。」
抱えられていた雑賀さんはすぐに立ち上がる。
化け物が青い炎に押し負けた瞬間、
毛利先生が雷を身にまとい助けに入ったのだろう。
その証拠に傷一つ付いていなかった
雑賀さんの制服が所々焦げてしまっており
青い炎がギリギリまで迫っていたことを示していた。
「ありがとうございます。最後は自分の足で行きますよ。」
雑賀さんは軽い足取りで謙太郎さんと竜次先生の元へ
向かうが、対する謙太郎さんは足元がおぼつかない様で
向かってくる雑賀さんに千鳥足で近づいていく。
「・・敗者が元気で勝者がフラフラって格好つかんやろ。」
ため息をついた雑賀さんは足を早め
謙太郎さんの元へ向かう。
そして肩を組み、このまま倒れそうな謙太郎さんを支えた。
「勝者、上杉謙太郎!!」
竜次先生の勝敗の結果の掛け声と共に、
支えていた雑賀さんはボロボロの勝者の腕を掴み、
空へ向かって掲げる。
「シャッキとせい。・・お前の勝ちや。」
勝者を支える敗者。激闘の末に
敗北を喫してしまったはずなのに
雑賀さんの表情は明るい。
それは良い戦いだったというすがすがしさと言うよりかは
どこか安堵したようなように感じた。
「次鋒戦を行う前に、戦いで崩れた地形や
結界の修復を行います。
終わり次第再開いたしますのでしばらくお待ちください。」
高火力の青い炎の衝撃に、会場の水は干上がり
草木は燃え、観客を守るために張られていた
結界は所々にヒビが入っている。
このまま交流試合を再開すれば魔術の属性によっては
不利が生じ、攻撃の当たり所が悪ければ
結界が壊れてしまうだろう。
そのため竜次さんや毛利先生。
その他三道省の職員が数十人と会場に出てきて
復旧作業を開始する。
そんな中、肩を組みながらこちらへ歩いてくる
戦いを終えた二人。
「・・助かったわ。」
雑賀さんが何かを呟いている。
「・・何がだ?」
「しらばっくれんな。止めてくれたことや。
俺が一番嫌な事をな。」
眉間にしわを寄せながらしゃべっている雑賀さんは
まるで悩みを吐き出しているように見えた。
「・・・・・・」
「武道・・と言うか、忍びの道を死んでも歩きたくない
俺がお前に追いつめられて取った選択肢が
結局は忍びが使うような相手を殺す攻撃。
あのまま俺が勝っていれば、自分の事を
二度と信じられなくなっていたわ。」
「・・俺がそんな深くまで考えているわけないだろ?
俺はただ・・、誠吾らしくない
行動を取っていたことに違和感を覚えただけだ。」
吐かれた悩みに対して答えている謙太郎さんは
少しだけ笑みをこぼしながら答えている。
「・・そうか。」
わずかな言葉しか答えていなかったが、
雑賀さんは納得したような表情を浮かべていた。
「お疲れさん。」
戻ってきた二人に労いの言葉をかける藤野さん。
「おう!勝ってきたぞ!!」
勝利の報告をしている謙太郎さんの元へ
青さんがゆっくりと近づいて行った。
「あ!師匠!見ていただけましたか?」
「ああ。青い炎の安定化と精密な魔力操作。
特訓した成果をしっかりと出せておったな。」
青さんが素直に人を褒める事なんてなかなか無い。
謙太郎さんも言葉を受けてかなり嬉しそうだ。
「だが、課題は多いな。
大味の魔術しかないため今回の相手の様に
選択肢の多い相手にはうまく立ち回れ優勢を明け渡してしまっている。
理想を追い求めるのは良いが、
その力を一番に発揮できる状況を作り上げる小技の
必要性がはっきりとしたな。」
そしてしっかりと今後に必要な事を伝えている。
他人に対して指導をする青さんの姿は初めて見るが
俯瞰して見ると飴と鞭の使い方が上手いと感じた。
「そうですね。誠吾のように
達人相手にはまだまだ通用しないと実感しました。」
「何を言ってんねん。あれだけの火力を
無詠唱で放っている時点でお前も立派な達人や。」
雑賀さんは近くにあったベンチに謙太郎さんを
優しく座らせながら文句を言っている。
「まあ、あんだけの魔術嫌いで呆れるほどの
宝の持ち腐れの重い足を動かしたもんやで。」
こちらにやってきていた治療班に治療されながら
青さんに向かって文句のような誉め言葉を送る。
「それにそのしっぽ。人間やないな。
あんた、なにもんや?」
「わしか?わしは龍じゃ。
ここにおる龍穂の式神で謙太郎の師匠でもある。
雑賀と言ったか。お主もなかなかやるな。
見たところ魔力、神力量はかなり乏しいが
知恵を絞り、技術で補うその姿を
今まで技術を培ってきた先人達が誇りに思っているじゃろうな。」
確かに雑賀さんが使っていた魔銃や弾丸に謙太郎さんは苦しめられていた。
「・・お褒めいただき光栄や。」
「だが、いくら技術を高めたとしてもそれは限りがある。
はっきり言わせてもらうが、謙太郎のような
”本物”を相手にする場合、決め手に欠ける。
あのような禁じ手に手を染めたのも、その自覚があるからなのだろう?」
青さんの言葉を聞いた雑賀さんの表情はほとんど変わらないが、
眼がほんの少しだけ細くなる。
「いきさつは知らないが、武術の事を嫌っている事を耳にした。
謙太郎との差が生まれたのはそこにある。
指南する際、謙太郎が魔術よりか武術の方が興味がある事を聞いた。
しかも魔術が嫌いだというもな。
だがな、その嫌いな魔術を極めることでお主に勝てるのなら
その道を本気で歩むと決心したんじゃ。
まあ、別の理由も絡んでいたがな。」
「・・・・・・」
「既に気付いているとは思うが、お主が歩まなければ
ならない道はただ一つ。武道じゃ。
培ってきた技術は武道が無ければ最大限に効果を発揮させられん。
自ら切り開いた道のひとつである魔銃流。
近距離で謙太郎を圧倒したのは見事だが、
まだまだ精錬させられるはずじゃ。」
この戦いで見せた二人の異なる才。
しかも二人とも歩みたくない道に限って才があり、
それを極めていないなんて
雑賀さんも言っていたがなんて宝の持ち腐れだろう。
「・・わかりました。」
雑賀さんから苛立ちが消え、全てを受け入れるような
返事が返ってきた。
「お主らは運がいい。過程は違えど思いを共有できる
ライバルがすぐ近くにおるんだからな。
負けん気は成長にとって一番の肥料になる。
例え挫けそうにになっても、お互いの顔を思い出して精進すれば
最終的に唯一無二の力を得る事だろう。
謙太郎は行き詰まったらわしに声をかけろ。
龍穂の修行の手が空いた時に限るが、出来る限りのことはしてやる。
雑賀も同じじゃ。
何か聞きたいことがあれば連絡をくれ。
幼い姿ではあるが、これでも数千年と生きておる。
武術の事から心構えまで何でも答えてやるぞ。」
厳しいことを言った手前、責任はとると言っているが、
「それは頼もしいですわ。
まあ、俺も武術に自信はありますから聞くのは心構えだけに
なると思いますけどね。」
雑賀さんは生意気に返しており
それを聞いた青さんは生意気だなと呟いていた。
青さんが俺以外に目をかけるのは見たことが無い。
それだけ二人の才能が秀でているのだろう。
「次の試合見ておれ。わしの実力を見せてやろう。」
そう言うと俺の腰に付けていた札から
自分ほどの大きさの大太刀を取り出す。
「そんな背丈でちゃんと振れるん・・・ん?」
話し途中で青さんが持っている大太刀をじっと見つめ始める。
何か気になることがあるのだろうか?
「・・・・・龍穂君。」
青さんから大太刀を借りて刀身を眺めている雑賀さんを
見ていると後ろから服を引っ張られ名前を呼ばれる。
振り返るとそこには不安そうな顔をした千夏さんの姿があった。
「千夏さん?体調は大丈夫なんですか?」
「ええ。そんなことよりお聞きしたいことがあるんです。」
何故だかかなり焦っているようで引っ張りながら
俺を部屋の隅へと誘う。
「な・・なんでしょう?」
「・・・おじい様、いえ、校長先生を見かけましたか?」
辺りを見渡しながら怯えるように尋ねてくる千夏さん。
先生たちは修復に出払っていて二校の学生しかいない。
千夏さんも出場するのでいずれ戦う相手がここにいるとはいえ
怯える必要はないはずだ。
「い、いえ。見てないです・・・。」
「そうですか・・・。」
俺の答えを聞いて安堵のため息をはく。
一体何に怯えているのだろう。
「良いですか?よく聞いてください。次の—————」
千夏さんが何かを言いかけた時、部屋の扉が開き
通る声が聞こえてきた。
「千夏ちゃーん!!」
大人の男性の声。先生方ではない声が千夏さんを探している。
「・・・!!」
その声を聴いた千夏さんは俺の影に身を隠し
その人物が誰なのかを確認するため顔を出す。
「・・・・・・あれ?」
俺はその声に聞き覚えがあり、千夏さんを隠しながらも
声の主の方へ体を向けた。
「ここにいるって聞いたんだけどな・・・。おっ!」
真っ黒なスーツと黒ネクタイを身にまとった人物が
俺の顔を見てこちらに駆け寄ってくる。
「兼兄!!」
俺のもう一人の兄貴。上杉兼定(うえすぎけんさだ)だ。
「龍穂!!久しぶりだな!!」
後ろに隠れている千夏さんを兼兄の見えない位置に
手を使って誘導し、距離を開けるため近寄る。
会いたくない理由が何かはわからないが、
探しているのならもしかするとどこかへ連れて行ってしまうかもしれない。
千夏さんが何を伝えたいのか気になるし、
俺は兄貴に聞きたいことがある。
忙しい人なので次どこで会えるかわからないから
この機会を逃すわけにはいかなかった。
「大変だったみたいだな。親父や定明、青さんから色々聞いたよ。」
「兼兄。聞きたいことがあるんだ。」
話しを長引かせて、機会を逃すわけにはいかないと
すぐさま話題をけしかける。
「この生徒手帳と式神契約をしたとき、
変なことが起きたんだ。その場にいた毛利先生に聞いたら
同じことが兼兄に起きたって聞いたんだけど、
俺に何が起きたんだ?」
まずは謎に包まれた生徒手帳の契約について尋ねてみる。
寮生活で毎日使っていて実害は出ていないが
眼が出ていないか毎回確認してしまうほどの
トラウマになってしまっている。
「・・その説明は長くなる。もうすぐ龍穂の試合だろ?
この後時間が取れるからその時に話をしよう。」
「本当に?毎回そう言って仕事って言って先延ばしにしてるでしょ。」
「大丈夫だ。転校前に時間が取れなかった分、
今回は確実に時間を取るために調整してきた。
安心してくれ。」
そう言うと兄貴の視線が俺の後ろに移動する。
隠れている千夏さんの元へ行くつもりなのだろう。
「あ、兄貴!!」
止めようと兄貴が踏み出そうとしている方向へ
体を入れるが、
「すまん、仕事なんだ。」
俺の肩に手を置いて千夏さんの元へ向かってしまった。
「千夏ちゃん。こんなところに居たんだ。
仙蔵さんが呼んでいるよ。」
「おじい様が・・ですか・・?」
怯えるように兼兄の言葉を聞く千夏さん。
先程校長先生のことを尋ねてきたが、
その本人が呼んでいるのは探す手間が省けたということか。
「・・・・・分かりました。」
決心をしたような顔で千夏さんは部屋から出ていくために
歩き出す。
兼兄は応接室にいると伝え、その後姿を見守っていた。
「あれ・・?兼定さん?」
俺が離れたことに気付いたのか楓が近くに寄ってきており
兼兄の存在に気付く。
「おっ!楓!見ないうちに大きくなったな!」
楓に気付いた兼兄は楓の頭を撫でる。
背丈の小さい楓は撫でるにはちょうどいい頭の
高さをしている。
「・・もう!いつまでも子供扱いしないでください!!」
俺もよく頭を撫でてしまうが、本人はそれを
良く思っていないらしく、すぐに兼兄の手を払いのけた。
「いや、ごめんごめん。ついな。」
「ん~!!」
まあ、楓の子供らしい仕草がそうさせている要因の一つでもあるとは思う。
「そうだ。今日は雫もこっちに来ている。
楓の試合も見ると言っていたぞ?」
「え!?姉さんがですか!?」
怒っている楓の機嫌を取るように兼兄は楓の姉である
雫さんが来ていることを告げる。
確か年は二十七歳で小さい頃は八海にいたが
兼兄と一緒に高校入学と同時に東京へ出たはずだ。
なかなか八海へ帰ってくることはなく、
前に顔を見たのは何時だろうか思い返してしまうくらいだ。
「ああ。良い所を見せろよ?」
そう言うと楓の頭はポンポンと軽く叩く。
また楓が唸り始めたが、兼兄は構わず俺の方へ向いた。
「龍穂。当然俺も見させてもらう。
それに・・・、親父もいるぞ。
八海上杉家の人間として、恥のない戦いをしろ。いいな?」
いる事は自体は分かっていたが、改めて口に出されると
一層心が引き締まる。様々な意味で負けられない戦いだと再認識した。
俺達に激励の言葉を伝えた兼兄は小走りで青さんの元へ向かっていく。
「青さん。」
後ろから声をかけると、耳元に口を近づけ何かをささやく。
「・・・・おう。兼定も気張れよ。」
「分かっています。では。」
短い会話ののち、すぐさま足早に部屋から出ていった。
何を話していたか探りに行こうとすると
毛利先生の声が響く。
「もう少しで次鋒戦が始まります!
両校の選手はこちらへ来て準備をお願いします!!」
会場の修復がもうすぐ終わり、次鋒戦の準備が着々と進められていた。
青さんの元へ足早に向かい、手にしていた大太刀を受け取り札を収める。
「行きましょう。」
待っている毛利先生の元へ向かうと既に純恋と桃子の二人が来ていた。
「来たな。」
重要な戦いを前に、平静を保っている二人。
場数を踏んでいるのか。それとも肝が太いのか。
どちらにせよ、焦りを誘ったミスは期待できなそうだ。
「・・相変わらず獣くさいのぉ。」
会場前の出入り口の前で並んでいると青さんが
純恋に向かってぼそりと呟く。
「何や。喧嘩売っとるんか?」
「いや、すまん。決して純恋に言っとるわけじゃない。
連れている”奴”が臭くてしょうがないって意味じゃ。」
「・・・あんた、青さんか。
あの時と姿が変わってないな。成長期終わったんか?」
明らかに失礼な発言に純恋が噛みつき
前哨戦の口喧嘩が始まった。
「龍に成長期なんてあるわけないじゃろ。
奴に言っておいてくれ。昔の様に香を焚いて匂いを隠すのではなく、
強い匂いが出る香水で隠せとな。」
「・・そんなこと気にすることが出来なくなるほど
叩きのめすって言っとるわ。」
二人が何に対して言っているのか見当もつかないが、
純恋が青さんに代弁している所を見ると
純恋が契約している式神に対して文句を言っているようだ。
「青さん。俺に中に戻ってください。」
これから戦う相手にこれ以上の侮辱はさすがにいけないと
半強制的に青さんを俺の中に戻す。
「ごめんな。」
「別にええよ。これから戦う相手に気なんて使うな。
これから私たちがすんのは殺し合いや。
寸前に止めが入るってだけのな。」
冷たい目線が俺を襲う。
ちょっと前まで話していた時とは全くの別人のようになっており、
試合への覚悟が見て取れた。
「・・そうだな。」
先鋒戦での戦いは助けが無ければ雑賀さんは命を落としていた。
純恋が言っていることは何一つ間違いない。
同調する短い言葉をかけ、俺は会場に目を向ける。
焼け焦げて更地になっていた会場は元通りになっていた。
これなら魔術を絡めた戦い方が出来るだろう。
(多いな・・・・。)
そして観客席に目を移すと、明らかに人が増えている。
俺達の実力を見に来た惟神高校の生徒達はもちろん、
それ以外の三道省の高官の姿が増えていた。
珍しい転校生である俺達を見に来たのだろうか?
それとも隣にいる純恋達を見に来たのだろうか?
いずれにしても恥のない戦いを見せつけなければならない。
「・・・準備が出来ました。行きましょう。」
毛利先生の掛け声で会場に足を踏み入れる。
お互いが負けられない戦いが始まろうとしていた。
—————————————————————————————————————————————————————————————————————————
「なあ、誠吾。」
後輩達が会場に歩みを進める姿を見ながら謙太郎は
隣で共に治療を受けている雑賀に声をかける。
「ん?なんや。」
「あの大太刀。何も言わずに返したが、何か気にかかる事でもあったのか?」
龍穂の式神である青龍から受け取った大太刀を
じっと見つめた後、何も語ることなく返した姿を見ていた
謙太郎が何があったのかと尋ねるのは当然の事だろう。
「・・・・あの大太刀な。おそらくやけど、
親父が手掛けた一本や。」
「誠吾の親父さんが?」
「ああ。あれは魔帯刀。魔帯石と玉鋼を練った物を
何度も叩いて作られる刀やけど、
魔帯石と相性がいい特殊な鋼を使われとる。
玉鋼以外の鉱石やと、強度が足りずに刀として
使い物にならないのが普通なんやけど、
親父が代々継いで来た雑賀家の特殊な技術に
よって玉鋼より強度が高い刀を作り上げることが
出来るんや。」
「そうなのか・・・。でも確か雑賀の一族は
忍びのような裏に潜む者に対して武具を作っているんだろ?
楓は持っているかもしれないが、龍穂がなんでそんなものを・・・」
「そこが疑問や。
そもそも親父はあまり刀を打たん。
一人で作業しとるから一本に時間がかかる刀は
体への負担が激しいから作るのが嫌らしい。
やけど、時間が余って尚且つ金がない時はしょうがなく刀を作る。
あまりの出来に高額で取引されるからな。」
雑賀の言葉を聞いた謙太郎はさらに尋ねる。
「・・それは、どこで取引されるんだ?」
「裏も裏。一般の人間はもちろんの事
極道者でも、忍び達でも知らないような深い闇で取引されるらしい。
忍びが使う忍具にはないが、親父は刀の茎に銘の代わりに家の家紋を刻む。
柄を取れば確認できるはずや。」
忍び且つ、忍具を作る職人である雑賀家は
銘などの情報を刻むことで名を知られることを恐れ
自身が作り上げた忍具に銘を全く打つことが無い。
だが、刀など価値が高く高額で取引されるものには
銘の代わりに家紋を打つことで
暗に名を売ってきた歴史があった。
「闇・・・・か。」
雑賀の話を聞いて謙太郎が呟く。
「なんや。思い当たる節があるんか?」
「・・いや、何でもない。」
隠す様に目を逸らしたが、雑賀は違和感を感じ
問い詰めた。
「言え。気になる。」
「・・・・あまり鵜呑みにするなよ?
これは噂程度の話だ。
昔は辺境の土豪でしかなかった八海上杉家が
皇に使えるほどの華族まで成り上がったのは
表に出せない闇の仕事をこなしていたからだと言われている。
何百年に一度起きる魔王や国の転覆を狙う大妖怪。
そして国賊と呼ばれた悪党どもが暴れる前に
討伐してきたと言われている。」
「国の英雄やん。すごいな。」
「結果だけを聞くとそう思えるが、そのやり方は
非道そのもの。周りを考えずに戦ったため
被害は相当なものだったらしい。
しかも事後処理を上手く、隠してしまったため
被害のあった土地は国の援護が得られずに
ひどく荒れてしまったようだ。」
「・・有能すぎるのも考えもんやな。
その家出身やから親父の大太刀を持っていると。」
「そう考えられる。だがその話は何百年も前の話だ。
今現在どうかは分からない。」
「でも・・・、疑いたくはなるな。
話しだと同学年の北条君を倒したようやし
かなりの実力は有している。
そんな子が三道省の目に留まらずに転校してきたと
なると何か裏があるな・・・。」
三道省の目から逃れられる生徒はほぼおらず、
本人が望んでいなくともスカウトの声が必ずかかる。
しかも華族である八海上杉家出身であるならば誰もが声をかけたいと
思うだろう。
考えれば考えるほど龍穂と言う存在が怪しくなってくる。
「やめろ。噂程度だと言っただろ。
八海上杉家の逸話にははっきりとした証拠がない。
先入観が人を貶めることだってある。
あいつを上杉龍穂として見てやってくれ。」
「・・そうやな。すまん。
俺としたことが二度同じ過ちを繰り返すところやったわ。」
釘を刺された雑賀は、すぐに謝ったのち
過去の過ちを打ち明ける。
「あの二人のことか。」
「ああ。うちの次鋒の二人。
皇の血を引いている二人やからおしとやかなんかなぁって
初めは話しかけたけど、全然普通の子やったし
持ち上げてやらんとなって慎重に接したけど
本人達がそういった下手に出てくる奴に飽き飽きして
距離を取られてもうた。
お前も知っとるやろ?大阪校は京都校の名残で
家の格が絶対。学年よりも格で上下関係が決まるくらいや。
当然クラスの中のみならず、学校中の奴らから
媚びを売られ嫌気の刺した純恋達は逃げるように
いつも人気が少ない所で過ごすようになったわ。」
「その結果、今までの交流会に顔すら出さなかった訳か。」
「ああ。何とか距離を詰めて多少話すことが出来るようになったけど
交流試合だけは来てくれへんかった。
恐らく、東京校の奴らも同じように下手にくると思っとったんやろ。
俺達の勝手な先入観で距離を取られ、楽しい学校生活や行事を
奪ってしまった。
やけど今回は自ら出ると名乗り出てくれてな。
少しでも他の奴らと仲良くさせてやろうと思ってるんやけど・・・、
なかなかうまくいかないもんやな。」
龍穂達と話している以外の時間、純恋達は雑賀の発言通り
人気の無い所でウォーミングアップを行っていた。
少しでも距離を詰めようと京都校の生徒達が会話を試みたが、
完全に心を閉ざしてしゃべることなく会話を拒絶していた。
「・・そうか。でも大丈夫か?
龍穂はかなりの実力だぞ?コテンパンにされて
二度と顔を出さなくなるんじゃ・・・・」
「・・会場をよく見てみい。止めにはいる三道省の職員の数が
かなり増えとるやろ?」
先ほどまで東京校の教師二人のみだったが、
戦場を取り囲むように十数人の職員が配置されている。
「ん?・・ああ。確かに増えてるな。」
「あれは純恋が持っている式神の危険性から
配置された奴らや。
全員が三道の全てで上級の資格を有しており、
そんな奴らがあれだけの人数を掛けて止めに入らざるおえない式神達を
連れている。まあ、大阪校でも指折りの実力者と言えるやろうな。」
何気なく話を聞いていた謙太郎だが、何かが引っかかるようで
深く考えて後、まるで先ほどの雑賀の様に尋ねる。
「・・なぁ。それって・・・。」
「ああ。あの子達は国指定の人柱。
陰陽師ですら討伐が困難な妖怪達を人に封印する
”護国人柱(ごこくじんちゅう)”。
その特級の持ち主や。」
会場の中央で止まる四人を見ている観客席は異様な雰囲気に包まれている。
それは龍穂達の実力を見る人達。
そしてすさまじい力を有している式神を持った
純恋達が暴れる瞬間を今か今かと待ち望んでいる
高官達の期待と不安が入り混じってできたものだった。
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