フラワーボックス

フラワーボックス

　花なんて、

　野に咲く姿を見るだけで、いいのだ。

　ポメガバース。

　ポメガは疲れがピークに達したり体調が悪かったりストレスが溜まるとポメラニアン化する。

　ポメ化したポメガは周りがチヤホヤすると人間に戻る（戻らない時もある）。

　周りの人がいくらチヤホヤしても人間に戻らない時は、パートナーがチヤホヤすると即戻る。

　ポメガはパートナーの香りが大好きだから、たくさんパートナーの香りで包んであげるととてもリラックスして人間に戻る。

　「オメガバース」の世界観を踏まえて作られた「バース系創作」のひとつである。

「………」

「………」

　贈り物だ。

　知人の宮（みや）からにやけた顔で箱を手渡された時点で、嫌な思いがしたんだ。

「おまえ。何してんだ？」

「………」

　ますます顔が渋くなってしまった。

　うんともすんともわんとも言わない相棒の燦（さん）を見て。

　彩り豊かな花に囲まれる、ポメラニアンと化してしまった燦（さん）を見て。

「また宮に騙されたのか？」

「………」

「初めて喧嘩して、どうしたらいいかわからなくて、宮に相談して。で。この様か？」

「………」

「………あ～。俺も悪かったよ。仕事が忙しくて、うまくいかなくて。イライラして。おまえに当たっちまった。しかも昨日はせっかく、お互いの誕生日だってのに。忘れてて。で。俺も。さ。おまえが喜ぶかどうか、なんてわかんねえけど」

　俺は箱ごと燦（さん）を持ち運んでは居間の机に置いて、そこに置いてあった箱の蓋を開いた。

　花なんて、

　野に咲く姿を見るだけで十分だった。

　はずなのに。

　白のマーガレットと黄のアカシアで彩られた箱を持ち上げて、俺は燦（さん）に見せた。

　耳が燃えるように熱かった。

「昨日の誕生日のやり直しをしたい。から。その。ポメラニアンのままでも。まあ。いいか。あ～～～。ケーキと、焼き肉の準備。をしてくるから。ちょっと待ってろ」

「………ついて行くか、ここで待っているか」

　どうするか。

　箱花から飛び出しては人間に戻った燦（さん）は真っ赤な顔で唸ったのであった。