第9話 無限深度ダンジョンを探索しよう
「精霊フロストリア様……この方が、あの森の外神を封じていらっしゃったのか。考えてみれば私たちは、自分の国を守っている精霊の名に思いを馳せることがなかった。まさか剣聖ジェイクの契約精霊がレルグレンド王国にいただなんて……フロストリア様の石像を建てましょう。毎年フロストリア様の名を冠した祭りを行いましょう!」
フロストリアはボクと契約したことで力をかなり取り戻した。おかげで長い時間、実体化できるようになった。
なのでボクは父様にフロストリアを紹介しに行ったんだけど、想像以上の反応だった。
まあ、サインをねだるほどジェイクのファンなら、その契約精霊が出てきたらテンション上がっちゃうよね。
「うふふ。私はただレントと一緒に、手が届く範囲のみんなを守りたいだけ。かつてジェイクと一緒にしたように。そのことでなにかお願いするかもしれないけど、石像なんていらないわ」
「分かりました! フロストリア様に協力を求められたら最優先で行うよう、兵士や魔法師に伝えておきましょう!」
というわけで、ボクが剣聖の生まれ変わりなのも、フロストリアと契約したのも、王宮中の知るところとなった。
王宮を歩いてると色んな人に話しかけられるので、エルシーを連れてダンジョンに腕試しに向かった。
「無限深度ダンジョンに来るのは初めてです」
「用事がなきゃ一生来ないもんね。ジェイクはかなり潜ってたから、案内できるよ。三百年前の情報だけど」
無限深度ダンジョンはレルグレンド王国の片隅にある。
世界六大ダンジョンに数えられるほどの超巨大ダンジョンだ。
『無限深度』という名は大げさではなく、本当にどこまでも下へ続いている。
もちろん、いつか底につくのかもしれないけど、今のところ誰も見つけていない。
深いだけでなく広い。
町がすっぽり収まるような空間がいくつもあり、いちいちダンジョンの外に出るのが面倒という需要に応え、本当に町が作られてしまった。その町は本格的なもので、ダンジョンから一歩も出ずに生涯を終える人がいるほどだ。
「……地下に続く洞窟なのに、とても明るいのですね」
「ダンジョンの壁がうっすらと光ってるんだ。地上が夜になると、壁の光も弱くなる。不思議だよね」
洞窟を歩いていると、少し開けた場所に出た。
町を作れるほどじゃないけど、派手に走り回っても狭苦しさを感じない程度の空間。
そこには草花が生えていた。
洞窟の天井から光の柱が降り注ぎ、幻想的な景色を作っている。
「地下にこんな場所があるなんて……いえ、話には聞いていましたが、聞くのと見るのでは別物です」
「でしょ。だけど見とれてばかりはいられないよ。モンスターが来る。フロストリア、力を貸して」
「ふふ。レントが私をどこまで使いこなせるか楽しみね」
ボクが呼ぶとフロストリアが現れ、ふわりとボクの隣に降り立った。姿が見えないだけで、彼女はボクのそばにずっといたのだ。
「それでは抜剣を」
ホウキでは格好がつかないからと、父上にもらったお小遣いで買った剣。
それにフロストリアを憑依させる。
茂みの奥からサソリが飛び出してきた。頭部から尻尾まで二メートルを超すような巨大なものだ。
ボクが剣を振り下ろすと、強烈な冷気が吹き荒れ、サソリを一瞬にして氷漬けにしてしまう。続いて氷に亀裂が走り、中のサソリごと粉々に砕け散った。
「どんなもんかな?」
「初めてにしては上出来ね。魔法を使える分、むしろ斬撃を飛ばすのはジェイクより上手いかも」
剣からフロストリアの声がする。
今、彼女は剣と完全に一体になっている。それにより、ただの中古の剣が国宝級のものと同等の切れ味と強度を持ち、精霊の力を放つ触媒になるのだ。
「じゃあ、次はエルシーが剣を構えて。あなたも私の使い方を覚えなきゃ」
「……え? 私もですか? レント様以外もフロストリア様の力を使っていいものなんですか?」
「普通はダメ。でも私、あなたを気に入ったし。それに三人でえっちしたから。エルシーは第二契約者よ」
「そ……それでは、やってみます」
丁度よくまたモンスターが現れた。
エルシーはボクと同じように剣を振り下ろす。けれど精霊の力の強さに押し負け、狙いがズレた。モンスターの半身しか凍らせられなかった。
そのあとも練習を繰り返し、なんとか十発中八発は当たるようになった。
「絵本で見た剣聖ジェイクの技を私が……夢のようです」
「よかったね。じゃあ次は深度計を探そう」
無限深度ダンジョンはひらすら下に続いている。
調子よく進んでいると、自分がどこにいるかすぐに分からなくなってしまう。
引き返す途中で食料が尽きて餓死、なんてことになりかねない。
しかし無限深度ダンジョンでは、便利なアイテムが出土する。
「あった。これが深度計だよ」
岩陰から見つけたのは懐中時計のような物体。
蓋を開けると、数字がぼんやりと浮かび上がった。
134。
今ボクたちがいる深さを意味している。
「確か、この深度計を最初に発見した冒険者がメートルという名前で、メートル法の語源になったんですよね」
「そうそう」
深度計の数字がたまたま人間が使っている単位と一致したんじゃない。人間のほうが合わせたんだ。昔は長さを現わす色んな単位があったみたいだけど、メートル法が分かりやすいので、ほぼ統一されてしまった。
「深度計、もう一個あった。こっちはエルシーが使って。それじゃ千メートル目指して出発」
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