第6話 外神、復活
王都から遠く離れた森の奥深くに、
外神とは名前の通り、この世界の外側から来た神だ。
異世界の神、と言い換えてもいい。
ボクたちが生活しているこの世界のほかにも、無数の世界があるという。
それぞれの世界に神々がいて、なにかの理由でこちらの世界に来る。
外神がやることは様々だ。侵略しようとする者。やたら暴れるだけの目的不明の者。なにもせず岩のようにジッとする者。
異世界から来ているので、この世界の最高神の支配が及ばない。
それどころか外神がいるだけで、世界の法則が歪む。気温が乱高下したり、物体が異様に変形したり、死体が動き出したり、生物が精神に異常をきたしたりする。
外神はいるだけでこの世界を壊してしまうのだ。
それに対する対処は主に二つ。
封印するか。殺すか、だ。
剣聖ジェイクは外神を何体も殺した。
殺して殺して、最後に殺された。
その記憶を受け継ぐボクも、外神には因縁を感じる。
外神という響きを耳にするだけで、敵だ、と身構えてしまう。
そんな外神の一体が、この国の領土に封印されているのだが――。
「外神の封印が解けかかっている?」
「はい。精霊が再封印するまでの時間を稼ぐため、ソフィーナ様が指揮する部隊が森に向かうと。今、その準備をしているようです」
「そうか。心配だな……姉様は強い人だけど、外神と戦えるほどじゃない」
「いかがいたしましょう?」
「先回りしてボクらで倒すか」
ボク、ではなく、ボクら。
エルシーが素振りしているのを目撃してから一ヶ月ほど経ったけど、その間に彼女はもの凄く強くなった。
断言してもいい。エルシーは剣聖ジェイクを超える才能の持ち主だ。
外神にも色んなのがいるけど、弱い個体ならエルシーは十分通用する。
というわけでボクとエルシーは、外神が封印されている森に来た。
詳しい場所なんて知らない。
でも気配を追えば分かる。
「……話には聞いていましたが、外神の気配とは、ここまで強いのですね」
「エルシーは聖女のとき、外神とは戦わなかったんだ」
「はい。魔族討伐には何度か参加しましたが……魔族も恐ろしかったですけど、これは比べものになりません」
魔族がいくら厄介でも、しょせんはこの世界で生まれた存在。
異世界の法則を撒き散らす相手とは、根本からして違う。
「封印が完全に解けたらこんなもんじゃないよ……いた、あいつだ」
ボクの視線の先には、人の形をした黒い影がいた。
そこは森の中でも木々が少ないところで、太陽光がたっぷりと降り注いでいる。なのにそいつは全身が影だった。
ゆっくりと歩くたび、足下も暗黒に染まっていく。
闇を放っている。
おそらく奴が力を十全に発揮すれば、周囲一帯に終わらぬ夜が訪れる。
しかし封印が残っている。
黒い外神の周りに、氷の粒が帯状になって流れ、閉じ込めるように漂っている。
「見て、エルシー。あの氷が精霊の力だ。精霊は外神と融合して、内側から押さえつけている。だから奴の作る法則が広がらず、この程度で済んでいる。だけど、何百年も封印し続けたせいで精霊の力が弱まっている。ボクらは外神に攻撃してその力を削り、精霊が封印をやり直す手助けをする。あるいは――」
「別の選択肢があるのですか?」
「外神を完全に殺して、精霊を解き放ってあげるかだ。ボクは二つ目の選択肢がいいと思う」
「外神を完全に殺す? そんなこと可能なのですか……?」
「あれ? エルシーが読んだ絵本には書いてなかった? 剣聖ジェイクは、神殺しを何度か成し遂げてるよ」
そう言ってから、ボクは外神の正面に立った。
エルシーは驚いているけど、半分封印されている外神なんて恐るるに足らず。
「殺さなきゃ問題を先送りにするだけだからね。なにより精霊がかわいそうだ。今のボクは前世ほど強くないけど、こいつを仕留めるくらいは、ね!」
ホウキに魔力を流し、振り下ろす。
光属性に変換され、斬撃となって外神へと迫る。
直撃。
肩から脇腹にかけ一刀両断だ。
けれどこの外神は、黒いモヤだけで作られていて実体がない。
断面はすぐに繋がってしまった。
「そんな、一瞬で……」
「いや、大丈夫。再生したのは見た目だけ。ダメージを与え続ければ、外神はこの世界に存在するための力を失って死ぬ。だからエルシーも攻撃して。二人でやったほうが早いから」
「分かりました!」
エルシーもボクと同じように、自分の剣から光の斬撃を放った。
元聖女だけあって、魔力を光属性に変換するのはボクより上手い。
二人がかりの連続攻撃を喰らい続け、外神の闇が薄くなってきた。後ろの景色がうっすらと透けている。
あと少しでトドメだ。
けれど外神だって死にたくはない。残った力を振り絞って、精霊の封印を跳ね飛ばした。
闇の形がゆがみ、無数の鞭に変形し、辺りを薙ぎ払う。
「エルシー、避けて!」
「平気です、目で追えています!」
十数本の黒い鞭がデタラメに暴れる。
ボクたちはそれを回避し続けるけど、足を止めて攻撃に転ずる余裕がない。
離れた場所から連続攻撃って戦法はもう使えないな。
だったら至近距離から仕留めるか。
「エルシーはそのまま回避し続けて、外神の集中を散らして」
指示を出してから走る。
四方八方で暴れる鞭の隙間を縫って、一気に距離を詰める。
目の前に来た鞭を弾く。体を捻って避ける。蹴飛ばして反動を利用して加速。
ああ、楽しいなぁ。
思い通りに体が動く。
健康って素晴らしい。
(ジェイク、私が外神の動きを止めるから。トドメの一撃を)
突然、頭に直接、声が聞こえた。女性の声だった。
聞いた覚えがある。今世じゃなくて前世で。
誰だ……考えてる場合じゃないな。
言われた通りにトドメ。外神に肉薄して、本体にホウキの先端を突き刺す。そのまま魔力を放出。
外神は内側から弾け、そのまま呆気なく消えた。
気配は一欠片も残っていない。
(さすがジェイク。私の剣聖)
また声だ。
なにかが外神がいた場所から飛び出して、ボクの中に入った。そんな感覚。
「レント様! じっくり見ておりました! なんという動きでしょうか! 私は剣聖ジェイクの動きをこの目で見たのですね……好きな本の主人公が目の前で戦ってくれるなんて眼福この上ありません」
「エルシーもよく無傷だったね。凄いや」
「お褒めにあずかり光栄です――」
そのとき茂みから音がした。
ボクとエルシーは視線を向ける。
そこにはソフィーナ姉様と、それに率いられた兵士たちがいた。
ああ、しまった。敵意がないから気づくのが遅れてしまった。
外神を倒すところをガッツリ見られたかな?
「お、お前たち……強すぎだろぉぉぉぉ!?」
「違うんだよ姉様。外神を倒したのはボクたちじゃない。通りすがりの凄い人が、いい感じにガッとやってくれて」
「誤魔化すの下手くそか! 私たち全員でマジマジと見たんだからな!」
「そうか……じゃあ隠すのが面倒だから言うけど、実はボク、剣聖ジェイクの生まれ変わりなんだよ」
「はあああああ!? 突然のカミングアウトに私の理解が追いついてないぞ! お、おおおお、落ち着けぇぇぇぇっ!」
「うん。姉様、落ち着いて」
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