第4話 兄を倒した。宮廷魔法長官に認められた
「じゃあ軽く……」
いくらムカつく相手でも、実の兄弟を殺すわけにいかない。
ボクは兄様の腹に、かるーくかるーく掌底撃ちを放った。
「ごぽべぶはぁっ!」
変な悲鳴を上げながら兄様の体が浮き上がった。
放物線を描いて飛び、地面に落ちてからゴロゴロ転がっていく。
「痛い……痛いぃっ!」
「ごめん、やりすぎたよ。ほら、回復魔法」
「あ、ありがとう……」
普通にお礼を言われた。もしかして仲良くなれた?
「弟に殴り合いを挑んだあげく、思いっきり手加減した感じの攻撃で吹っ飛ばされて泣きわめいたぞ」
「おまけに回復してもらうとは恥ずかしすぎる」
「やっぱりレント様は優しいな。そして強い。森でモンスターの群れを撲殺したのは本当だったんだ!」
「にしても、フレデリック様の情けなさよ」
また兄様が赤くなる。噴火するんじゃないかってほどだ。
「きょ、今日のところはこのくらいで勘弁してやる! 次は俺が勝つからなぁ!」
そして涙目で逃走していった。
「次は俺が勝つ……つまり今日の敗北は認めるんですね。思ったよりも素直じゃないですか」
エルシーは呆れた顔で兄様の後ろ姿を見送る。
それからボクに向き直って抱きしめてきた。
「レント様、とってもお強かったです! 五つの的を同時に貫いたときなど、本当に痺れました! 気だるげに出した掌底撃ちも格好いいです! あれなら確かに並のモンスターでは束になってもレント様には敵わないでしょう。これなら安心して一緒に王都の外に行けます」
「エルシーの信頼を勝ち取れてよかったよ。喧嘩を売ってくれた兄様に感謝しなきゃ」
「ええ。これからも瓦割りの瓦のように、レント様の技を受けてもらいたいものです」
エルシーはご機嫌な様子で、俺を抱く力を強くした。
「やっべぇ……俺もあんな美人で巨乳のメイドさんに抱きしめられてぇ」
「エルシーさんって、スタイルよくて元聖女で美人で……レント王子、そこ代わってくれ」
兵士たちは鼻の下を伸ばしながら呟く。
するとエルシーは氷のように冷ややかな視線を彼らに送る。
「美人? 私の顔がただれているときにも同じことを言ってくれたら嬉しかったのですが。レント様は、今も昔も変わらず、私を綺麗と言ってくれます。私が美人だとすれば、それはレント様の回復魔法のおかげです。私がレント様に尽くすのは当然では? 一体どの面を下げてレント様に『代われ』などと言っているのですか? 冗談であっても口にして欲しくありません」
エルシーが呪いに冒されていたとき、誰もその顔を正面から見ようとしなかった。父様や母様でさえ。
それに負い目があるのだろう。兵士たちは軽口を閉ざした。
「エルシー。みんなを許してあげてよ。こんな美人を今まで放っておいた愚かしさに今更気づいて慌ててるんだから。それにエルシーの本当のよさを知ってるのは、やっぱりボクだけだ。それでいいじゃない」
「……確かに! そのほうが特別感がありますね! というわけで、みなさんは私の上っ面の外見だけ見ていてください。内側は全てレント様のものでございます」
「あ、はい」
「なんだ、この熱々っぷりは」
「だが美少年王子と美少女メイド……絵になるなぁ」
そのとき兵士たちの中から、白髪の老人が前に出てきた。
鎧を着て折らず、剣も持っていない。一人だけ装いが違う。
それもそのはずで、彼は兵士ではなかった。
この国の魔法研究の最先端を行く集団、宮廷魔法庁。
老人は、その長官である。
「熱々のところ失礼しますじゃ。レント様、先程から拝見しておりました。五本の指から魔弾を出し、全てド真ん中に命中させた瞬間、久しぶりに興奮しましたぞ。自覚しておられるじゃろうが、あなたは天才ですじゃ。ワシならばその才能を伸ばすお手伝いができると思いますが、興味ありますかな?」
「弟子をとらないことで有名な魔法長官がレント様の才能を認めた……? 元聖女の私さえ関心を持たなかったのに。レント様、凄いですよ!」
「ほっほっほ。弟子なんて大げさな話ではありませんぞ。ただレント様に、オススメの魔法書を見繕って差し上げようと思いましてな」
それだって十分、凄いことだ。
ボクは当然、長官の提案にありがたく頷く。
すると王宮の図書室に案内された。
いくつかある図書室のうち、宮廷魔法師しか鍵を渡されない、魔法図書館だ。
「噂は聞いていましたが……まさかこれほどの蔵書があるとは……!」
「ほほほ。聖都の図書館に行ったことのある元聖女から見ても、ここは凄いじゃろう。さて、レント様にはこれとこれと、それから……」
ボクには剣聖の記憶がある。だから剣術や体術のお手本が頭の中にある。
けれど魔法は、なんとなくでやっている。
自分の魔法が正しいのか間違っているのか分からない。
これでようやく指針ができる。
ますます楽しくなりそうだ。
……あれ?
ボクはいつの間に魔法をこんなに楽しんでいたんだろう?
病気の苦しさから逃れたくて、見よう見まねで始めた。自分の足で歩くための手段だった。
けれど今は手段じゃない。心の底から楽しんでいる。
長老がどんな本を貸してくれるのか、ワクワクが止まらない。
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