ケレ

 キ・パレにはケレと呼ばれる二季の森ラ・ヒゥイがある。レィ暑い季節──初夏の青草と厳冬の白木が共生する、珍しい二季の森ラ・ヒゥイだ。季節を問わず──そもそも森の中の気候は外の季節に左右されないが──雨の降るケレには、うすく透ける青磁の六枚翅を持つ蝶が多く棲息していた。その翅を雨粒が叩く音が強弱を伴って幾重にも響くのは、まるきり潮声のようであった。それだから、森の中はいつでも浜辺に打ち寄せる波音で満ちている。海など遥か遠くだというのに、まるで浅瀬に頭を沈めたようにいつでも波の音がするのだ。

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ケ・パ 泉 京助 @izumi_kyosuke

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