第13話 本当は怖い異世界転生 其の三 『転生王女』

毎日毎日、残業残業。

休日も出勤。最近、休日だったのいつだっけ?


どんなに必死で働いても、仕事が追い付かない。

どう考えても無理のある納期だ、


会社に泊まった日も多々ある。

家に帰れる日は、ありがたいと感じるほどに。


「今日は家に帰れたし、いつものゲームするか」


彼女の唯一の楽しみは、空いた時間に乙女ゲームをすること。

とはいえ、空いた時間などほとんどない。

だが、仕事か寝るかの2つしかやることが無いのはつらい。

なので、寝る間も惜しんでゲームをする。


「ああ、いっそ、ゲームの世界に行けたらなあ・・・」


そのまま、彼女は倒れこみ、目を覚ますことは無かった。

過労死というやつだ。




(・・・ここは?)


気が付くと、見知らぬ場所にいた。

そこは、とても殺風景な場所。

というより、明らかに牢屋の中だった。


(なんで、こんなところに!?)


体を動かそうとするが、手足が思うように動かない。

彼女の手足は縛られ、口は塞がれている。


(な、なんで!?)


牢屋の外から、男性2人の声が聞こえる。


「いよいよだな」

「ああ、あのクソ王女とも、これでお別れだ」


(あれ、どこかで聞いたようなセリフ・・・)


彼女は、男性2人のセリフが何だったのかを考え、思い出した。


(そうだ、私の大好きなゲームに出てくる、悪役令嬢のジーナが処刑される前の兵士のセリフだ)


彼女は、自分が牢屋にいる事。

手足を縛られ、口を塞がれていること。

そして男性の会話。

そう、彼女は現世で死亡した後、ゲームの悪役令嬢に転生していたのだ。


(どうして、私はジーナに!?しかも、あと少しで処刑されるシーンじゃない・・・)


このままでは処刑されてしまう。

なんとかしたいが、身動きが取れない。


(そうか、ジーナは多彩な強力魔法を使えるから、手足も口も塞がれてるんだった・・・)


どんなにもがいても、自由に動く事は出来ない。

そうこうしているうちに、兵士の男性2人が牢屋に入ってくる。


「よう、ジーナ王女。気分はどうだい?」


ゲームとまったく同じセリフ。

この後、処刑台へと連れていかれる流れだ。


「んん、んんんんんん!!!」


なんとか自分がジーナでは無い事を伝えたいが、どうしようもない、

いや、話が出来たとしても、信じてもらえる方法が無い。


「なんだ、まだ悪あがきしてんのか?あれだけ非道の数々を行っておきながら、往生際が悪いぞ」

「ホント、最後の最後までクソ王女だな。さあ、来い!」


彼女は兵士2人に連れていかれる。

連れていかれた場所は、公開式の処刑台だ。

多くの人々が集まっている。

そして、ジーナ王女となった彼女を全員が睨んでいる。


「これより、ジーナ王女の処刑を行う」


彼女は涙ながらに訴えようとするが、誰も助けようとはしない。


「とっととくたばれクソ王女!!」

「テメーは人間のクズだ!!」

「苦しんで死にやがれ!!」


多くの国民に恨まれるほど、ジーナ王女が行ってきた事は非道なものだった。

そんな王女に、憎しみの目を向けるのは当然だった。


「んん、んんんんんん!!!!!」


必死で、泣きながら訴える。

だが、どんなに涙を流し訴えても、ジーナとなってしまった以上、処刑は止められない。


「ジーナ王女は、もっとも苦しい処刑と言われている、火やぶりの刑に決定した。

みなのもの、ジーナ王女が裁かれる瞬間を、とくと目に焼き付けるがよい!」


国民から大きな歓声が飛ぶ。


(そんな、あたし現世で死んだあと、またすぐ死ぬの?

そんな・・・)


現世も地獄、転生後も地獄。

彼女に、救いは無いのだろうか。


彼女は貼り付けにされ、下には多くのわらや木が積まれている。


「よし、火をつけろ!」


わらが燃え始め、徐々に火は強くなっていく。


(いや、熱い、誰か助けて!)


しかし、誰も助けてくれない。

それどころか、多くの人が喜んでいる。


彼女の体が次第に燃え始める。

辺りには人の焼ける臭いが漂う。


(ああ、もうダメ・・・せめて、次生まれ変わったら普通の人生を送りたい。

転生とかしなくていい。もう、普通に生きられる人生を送りたい・・・)


火力は増していき、炎は彼女の全身を覆う。

言葉では表現し難い苦しさを味わう事となった。


彼女は窒息し、体は全焼した。



(・・・ここは?)


目を覚ますと、彼女は牢屋の中にいた。

そして、手足は縛られ、口は塞がれている。


最初に目が覚めた時と、まったく同じ状態になっていた。

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