第14話 本当は怖い異世界転生 其の四 『リアルな転生』
僕はつらかった。
友達もいない。
もちろん、恋人もいない。
学校では常にぼっちだ。
不良に目をつけられ、イジめられるなんて日常茶飯事。
毎日がつらい。
だから、いつもラノベを読んで楽しんでいた。
まるで、作品の主人公になったかのような気分で楽しんでいた。
主人公がチート能力を手に入れ、無双する。
そして、かわいい女の子達が次々と主人公に惚れていく。
なんて理想的な世界なんだ。
こんな風になれたらなぁ。
そんな事ばかり考える毎日。
もう、現世に未練は無い。
僕は縄を天井にかけ、首を吊った。
気が付くと、見知らぬ場所にいた。
辺りを見渡すと、見たことない景色があり、道行く人も見たことない人がいっぱいだ。
耳の長いエルフみたいな人もいる。
兵士と思わしき男性がいたり、
ウィザードと思わしき格好をした人もちらほらいる。
そして、僕は悟った。
夢が叶ったと。
「やった、ここは、異世界じゃないのか!?
ついに、夢にまで見た異世界へと転生したんだ!!」
僕は大喜びした。
ずっと憧れていた異世界。
これで、夢のような新人生を送れる!
そう思っていた。
「あれ?でも、転生前と同じ服装に、同じ見た目だよな」
異世界へ転生したは良いものの、現世の時と特に変化は無い。
「それに、何かチート能力とか無いのかな?
ラノベだと、すごい魔力とか手に入れているのに」
何か特殊な力があるような感じはしない。
そもそも、異世界へと導いてくれた神様のような存在と接触もしていない。
「・・・今はまだ能力が開花されていないだけなのかな」
このままではどうしようもないので、ひとまずこの世界の住人に話を聞いてみることにした。
「あの、すみません」
通りがかった男性に声をかけてみた。
「@%&#=?%#$$#>\」
何を話しているのか、まったく分からない。
英語でも無い、フランス語でも無い、ポルトガル語でも、中国語でも、韓国語でも・・・
「ヤバい、言葉がまったく通じない・・・」
僕は焦った。
能力も無い。言葉も通じない。ここがどこかも分からない・・・
「どうすればいいんだよ。このままじゃ、何もできない・・・」
遠くに街らしき所がある。
ここに行けば、どうにかなるかと思い、僕は街へと向かった。
「あの、すみません・・・」
「$$#>\@%&#\%#」
誰に話しかけても、まったく言葉が通じない。
しかも、よそ者のためか、みんなから冷たい態度を取られる。
「どうしよう、どうすれば・・・」
1日中、話が通じる相手を探してみたが、誰一人言葉が通じない。
気が付くと、日も暮れていた。
「ダメだ、誰も言葉が通じない。お金も無いし、食料も何も持っていない。
どうすればいいんだ・・・」
僕は空腹を我慢しながら、裏路地の
夜はとても寒くて辛かったが、疲労もあってか深い眠りについた。
翌朝、体調が悪くなり、体が重くなった。
ただでさえ何も食べていないのに、弱り目に祟り目だ。
「ああ、体はだるいし、お腹は減るし、本当に死にそうだ・・・」
とりあえず、街を歩く。
すると、いろんな店があるのを発見した。
その中には、食料を売っている店もあった。
「ああ、あのリンゴでいいから食べたい」
空腹は限界に達しようとしていた。
もう、背に腹は代えられない。
僕は他の人に紛れて、そっと店に近づく。
そして、リンゴを1つ、そっと盗んだ。
「よし、これで少し助かる」
しかし、盗んだ事がすぐにバレた。
店主が激怒して、僕を追いかける。
「すみません、見逃してください!」
と言ったところで、言葉は通じない。
いや、通じたとしても、許してはくれないだろう。
必死で逃げるが、普段から運動などしない体のうえ、空腹で体力も無い。
僕は、あっという間に捕まった。
店主は、こぶしを振り上げ、僕を殴る
1発、2発、3発・・・
もう、何発殴られたか覚えていない。
結局、リンゴは店主に取り返され、僕は食料を失った。
しかも、顔が別人になるほど腫れあがっていた。
僕は泣きながら、街から離れて行った。
すると、大きな畑を発見した。
そこには、見たことの無い植物が栽培されていた。
「これ、食べれるのかな?」
食べられる物かどうかは分からないが、今は何でもいいから食べたい状況だった。
幸い、今は畑に誰もいない。
僕は一か八か、その植物を食べてみることにした。
「うわ、苦い・・・なんて苦さだ」
恐ろしいほど苦い物だった。
もしかしたら、食べ物では無い可能性もある。
しかし、空腹が限界だった僕は、それを必死で食べた。
「すごく苦かったけど、これでなんとか一時的には凌げたかな」
満腹になるまで食べた。
味はひどかったが、このまま飢えて死ぬよりはマシだと思った。
「とりあえず、他の道をひたすら進んでみよう。何かあるかも知れない」
どこに続くか分からない道を、ひたすら歩く。
あてもなく、ただひたすら歩く。
大きな不安をかかえながらも、少しでも希望となる場所へ行けるよう祈りながら歩いた。
すると、村を発見した。
さっきの街と比べればすごく田舎なところではあるが、
そこそこ人はいる場所だったので、この村の人に話しかけてみることにした。
「あの、すみません・・・」
「$$#>\@%&#\%#」
やっぱり、話は通じない。
しかし、さっきの街とは違い、すごく温かい感じで接してくれる。
言葉は通じないが、身振り手振りで何とか通じたのか、
寝る場所を提供してくれる事となった。
小さな小屋のボロい布団があるだけだったが、
今の状況を考えれば、とてもありがたかった。
「よかった、ここの人たちは温かくて。けど、この世界はスマホやゲームも無いよな。
というか、電気そのものがどこも通ってない。
いったい、みんな何を楽しんで生きてるんだろうな。
ああ、動画サイトが見たいよ。ゲームで遊びたい。元の世界で遊びたい」
ずっと憧れ続けた異世界へ来たが、現実は厳しいものだった。
まさか、あれほど嫌だった現世の方が良かったと思える日が来るとは、夢にも思わなかった。
「とりあえず、明日の事は明日考えよう」
そして、眠りに就いた。
その時、外が騒がしくなったので、目が覚めた。
「何があったんだ?」
外を見ると、多くの家が燃えている。
そして、見知らぬ連中に、村の人々が殺されていた。
どうやら、どこかの野盗が村を攻めてきたらしい。
野盗連中は、ゲーム感覚のように村人を殺していく。
「そんな、こんなことって・・・」
すると、小さい女の子が泣きながらこっちへ来る。
そして、僕の目の前で転んだ。
少女は、僕を見た。
助けてほしいと言わんばかりの目で、僕を見る。
すると、少女を追いかけてきた野盗の1人が、こっちへ向かってくる。
僕は怖くなった。
少女を助けたい気持ちはあったが、僕にはどうしようもない。
戦ったところで、勝ち目は無い。
僕は、一目散に逃げた。
とにかく、助かりたい一心で逃げた。
村から少し離れたところで、女の子の悲鳴が聞こえた。
さっきの子だろうか?
とても可哀想な事をした。
でも、僕には何も出来ない。
僕はひたすら、村から少しでも遠くにと、ひたすら走った。
走って走って、走り続けた。
そして疲れ切った僕は、大きな石にもたれかかるように眠った。
気が付くと、朝になっていた。
逃げていた時は分からなかったが、
ここは森の中のようだ。
一人で森の中は不気味で怖い。
とりあえず、森から抜け出すため歩き出した。
あれから、あの村はどうなっただろう。
そんな事を考えつつ、森の外へ向けて歩きだす。
しかし、どこを歩いても、森から出られそうな気配がない。
それどころか、より深い所へ入ってるような気がする。
「どうしよう、迷ったのかな・・・」
次はどこへ進むべきかと右往左往していると、
唸り声が聞こえた。
「な、なんだ今のは?」
また、唸り声がする。
徐々に近づいてくる。
唸り声のする方に目を向けると、
何か光るものが見えた。
「な、なんだあれは!?」
そして、その光るものは徐々に近づいてくる。
その光るものの正体は、鋭いキバを持った、恐ろしい姿をしたモンスターだった。
「うわああああああああ!!!!」
僕は慌てて逃げた。
しかし、モンスターは恐ろしく速い。
「ダメだ、逃げられない」
モンスターは、鋭い爪を持つ前足を振り上げ、僕の背中を引っ掻く。
「ぎゃああああああああ!!!」
僕の背中に激痛が走る。
背中から大量の血を出すほどの深い傷を負った。
「だ、誰か助けて!」
思わず、助けを請う言葉を言った。
もちろん、周辺には誰もいない。
分かってはいた。分かってはいたけど、それでも助けてほしい気持ちでいっぱいだった。
「もう、ダメだ・・・」
すると、偶然にも何かの穴に落ち、そのまま僕は落ちていった。
落ちた際に気を失ったようで、目を覚ますまでかなりの時間が経った。
そこは、森の深層部とでも言うべきか、暗くて静かな場所だった。
あのモンスターも、ここに落ちてからは追ってこないようだ。
「い、痛い・・・」
背中の傷もひどいが、同時に落ちた影響で、足もやらかした。
もう、歩くのも無理な状態だ。
「何で、こんなことに・・・」
僕は、涙をぼろぼろと流した。
もう、辛くて辛くて仕方なかった。
泣き疲れた僕は木に背もたれ、ぼーっとする。
もう、色々考えるのも疲れた。
何もかも、嫌になった。
そして、もたれた木をよく見ると、ツルがたくさん生えていた。
しっかりとした、頑丈なツルだった。
僕はそれを触りながら、こう思った。
「これ、あの時の縄に似てるな」
結局、僕にはこれしか無いのかな。
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