第12話 本当は怖い異世界転生 其の二 『記憶を求めて』
異世界に転生された一人の少女、カエデ。
彼女は、現世で死亡したことにより異世界へと転生された。
職業はウィザード。
転生時に、女神から高い魔力を付与され、数多くいるウィザード達を
ごぼう抜きする勢いで成長していった。
しかし、彼女には一つ不思議な事がある。
それは、転生した事は把握出来ているのに、なぜか前世の記憶が無い。
転生時、リフレールという名の女神から、記憶は消して新たな人生を送ることを言われたとこは覚えているが、
なぜ前世の記憶が無いのかが不思議に思っていた。
多くの実績を残し、気が付けばA級ウィザードとして知名度も上がっていた。
人々は、カエデを神の申し子と言うほどに。
ただ、カエデはどうしても前世の記憶の事が気になって仕方がない。
「どうして、転生した事は分かっているのに、前世の記憶が無いんだろう・・・」
何度考えても、何度思い出そうとしても、前世の事は分からない。
もう、前世の記憶については諦めようと思った時だった。
「そんなに、前世の記憶が気になる?」
突然、誰かの声がした。
声の方を見ると、猫のようなかわいい容姿をした小動物のような生き物がいた。
「あなたは?」
「僕はランド。妖精族なんだ」
「妖精さんなの?さっき、記憶がどうとか言ってたけど、私の記憶の事、何か知ってるの?」
「うん。実はね、僕も昔の記憶が無いんだ」
「えっ、そうなの?もしかして、あなたも転生したの?」
「ごめん、転生なのかわからないけど、昔の記憶が無いんだ」
「そうなんだね。私と一緒だね」
「実は、女神が作ったと言われている、神秘の都という場所に、記憶を取り戻せる場所があるらしいんだ」
「記憶を取り戻せる場所?どんなとこ?」
カエデは、食い入るようにランドへ聞く。
その神秘の都にある、湖の水を飲むことが出来れば、記憶が戻るとのこと。
「どうして、ランドはそれを知っているの?」
「僕たちの種族に伝わる言い伝えで、聞いたことがあったんだ。
最初はただの昔話だと思ったんだけど、僕の村の村長が言ってたんだ。
神秘の都の近くにあるエルフの村の人が、この島を守っていることを。
そのエルフの村は、ここから遥か西にあるらしいんだ。
エルフに詳しい場所を聞ければ、神秘の都に行けるはず。
そして、そこにある湖の水を飲むことが出来れば、記憶も取り戻せるはず」
カエデは、突然現れた妖精の言うことが気にはなっていたが、
その話を信じてよいものかどうか迷っていた。
しかし、記憶を取り戻せるなら取り戻したい。
一晩考えた結果、行ってダメなら諦めよう。
その気持ちで、一か八か神秘の都へ行く事を決意した。
「じゃあ、よろしくねランド」
「うん、よろしく!」
とてもかわいいパートナーと共に、カエデは遥か西に向けて出発した。
旅の途中、いろんな街に立ち寄り、エルフの村に関する情報を集める。
そして、ようやくエフルの村に関する情報を手に入れた。
さっそく、カエデとランドは向かうことにした。
そして、その場所と思わしき所に辿り着いた。
「ここが、エルフの村なのかな?」
「誰もいないね」
森の奥深くにある村。
木の上に、家らしき物が多々見える。
しかし、エルフらしき人物は見当たらない。
「せっかくここまで来たのに、どうしよう・・・」
「仕方ないよ。とりあえず、今日はこの辺で野宿しよ。明日になれば、エルフが戻ってくるかも知れないし」
「・・・そうだね。そうしよっか」
カエデは火を焚き、食事をする。
これまでの旅についてランドと楽しく話しながら、食事を終える。
そして、就寝につこうとする。
「ねえ、ランド。もし記憶が戻らなかったら、どうする?」
「そうだね。戻らないのはショックだけど、それならそれで仕方ないよ。
別に記憶が無くても死ぬわけじゃないし、カエデだっているし」
「ありがとう」
「カエデは、記憶をどうしても取り戻したいの?」
「・・・そうね。ちょっと不安なんだけど、やっぱり前世がどうだったのか知りたい。私は、どんな子だったのか。家族とか、友達とか。
もしかしたら、彼氏とかいたかもしれないし」
「そうなんだね。カエデは凄く強いし有能なウィザードだけど、
こういう時は女の子なんだなって感じるよ」
「なにそれ、からかわないでよ!・・・ごめん、本当は怖くて仕方ないよ。
どんなに強い力を身に着けても、不安は尽きないよ・・・」
「そうだよね。それは仕方ないよ」
「ねえ、ランド。ちょっとそばに来てよ」
ランドは、カエデに優しく抱きしめられる。
「ねえ、ランド。私、前世で死ぬ前は、幸せだったのかな。
どういう経緯で死んだんだろうね。
病気なのかな?事故なのかな?
それとも、誰かを守るために犠牲になったとか、かな?」
その話を聞き、ランドはうずくまり、震える。
「ランド、大丈夫?」
「う、うん。大丈夫」
「体の具合でも悪いの?」
「違うよ。こんな優しいカエデの前世、きっと素敵な女の子だったと思うんだ。
けど、何らかの形で命を失った。そう思うと、現世でカエデを愛していた人たちが
凄く悲しんでいるんじゃないかって。
そう考えると、いたたまれなくなってつい・・・」
「ランド・・・」
カエデは、少し目に涙を浮かべる。
「ごめん、辛気臭くなっちゃったよね。もう寝よっか」
カエデはそう言い、眠りについた。
朝目を覚ますと、目の前には複数の女性エルフがいた。
どこかで争いでもあったのか、全員ケガをしている。
全員弓を構えて、臨戦態勢に入っていた。
「貴様ら、ここへ何しに来た?」
エルフの一人が、厳しい口調で聞いてくる。
「あの、私たちは神秘の都へ行きたいんです。失った記憶を戻すために」
「神秘の都だと!?あの場所は女神リフレール様が作られた神聖な場所だ。
貴様らのような連中が入っていい場所では無い!
痛い目にあいたくなければ、早くこの場から立ち去れ!!」
エルフは、聞く耳を持ってくれない。
せっかくここまで来たのに、諦めなければならないのか。
「待ってください!」
ランドが、割って入る。
「カエデは、そのリフレール様の力によって、この世界へ転生されたんです。
だから、神秘の都へ行く資格はあると思います」
「リフレール様によって転生した!?ふざけた事をぬかすな!」
「本当です。ねえ、カエデ。リフレール様からもらった力を使って証明するんだ!」
「えっ、ここで?」
「そうだよ。そうじゃないと、信じてもらえないから」
「わかった。やってみる!」
カエデは、天に向かって魔力を開放した。すると、空から光の粒が降り注ぎ、
エルフ全員のケガが完治した。
「こ、これは・・・リフレール様が得意としたライトニングヒーリング!?
まさか、本当にお前は・・・」
「これで、信じてもらえたでしょうか?」
「・・・確かに、ただの人間がこの技を使うのは不可能だ。リフレール様の特殊な力を得ない限り、絶対に使えない。
どうやら、本当にリフレール様によって転生した者のようだな」
エルフは、カエデの魔法を見て納得したようだ。
カエデ達に向けていた弓をおさめ、表情も優しくなった。
「本当に、神秘の都へ行くのか?」
「はい、行きます」
「分かった。お前には、その資格があるだろう。行くがよい。
ただ、リフレール様がわざわざ記憶を消したのには、何かしら理由があるはずだ。
私は、無理に記憶を戻さない方が良いと思うが、それでも行くのか?」
「ええ。前世の記憶を、どうしても知りたいんです」
「・・・分かった。ならばもう止めはしない。この先にある洞窟を抜ければ、
転移魔法のかかった石がある。それに触れれば、神秘の都へ行ける」
「ありがとう!ランド、すぐに行こう!」
カエデはランドと共に、教えてもらった洞窟へと入った。
奥まで進むと、微かな光を放っている、大きな石がある。
「これね、転移魔法のかかった石というのは」
カエデとランドがその石に触れると、二人は不思議な空間に飛ばされ、
気が付けば見知らぬ場所にいた。
「ここが、神秘の都?」
そこは、とても静かで綺麗な場所だった。
そして、目の前には大きな湖がある。
「カエデ、ここが神秘の都だよ。そして、目の前の大きな湖の水が、記憶を取り戻せる水だよ」
「これで、私の前世の記憶が・・・」
カエデは、嬉しい反面不安も抱えながら、湖に近づく。
「じゃあ、飲むね」
おそるおそる、カエデは湖の水を飲む。
すると、カエデの体が光りだした。
「カエデ、大丈夫?」
ランドがカエデに聞くと、カエデの表情が変わった。
「い、いや、やめて、ひどいことしないで、やめて、
いやああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
突然、カエデは泣きながら叫びだした。
体は震え、大粒の涙をこぼしながら叫び続けている。
「やめて、お願い、やめて」
ずっと、同じような事を繰り返すカエデ。
湖の水を飲む前とは、別人のようになった。
「へっ、やっと記憶を取り戻したか」
男の声が聞こえる。
カエデは、声のした方を見る。
しかし、男性の姿は見当たらない。
「どこ見てんだよカエデ、俺だよ俺、こっち見ろよ」
その声の主は、なんとランドだった。
先ほどとは別の生き物のように、悪人のような憎たらしい形相になっていた。
「思い出しただろ?お前が、塾の帰りに襲われた時の事を。
なあ、わかるか?そうだよ、俺はあの時テメーを襲った奴だよ!
テメーで楽しんだ後、最悪な事に事故に巻き込まれて死んじまったんだがよ、
知り合った悪魔の奴に転生してもらったんだよ。
こんな姿になっちまったがな。
だが、同時にテメーも自殺して死んだって聞いてな、そんで近づいてみたら、
マジでいやがったよ。
色々思い出すぜ、テメーの体とかな。
もう、興奮が止まらなくなりそうだったけどな、そこは我慢してお前に近づき、
記憶を取り戻したいと言ってたのを聞いて、悪魔の奴に神秘の都の事を聞いたんだよ。その話をテメーにふっかけたら、案の定食いつきやがったな。
まさか、あの夜の記憶がよみがえるとも知らずによ。
病気?事故?誰かを守るための犠牲?
あの話を聞いた時、笑いをこらえるのに必死になっちまったぜ!
いやぁ、ホント傑作だったよ。
どうだった?前世でお前の体を弄んだ男と一緒に長旅した気分はよ。
何も知らずに、のほほんと俺と旅してる姿はマヌケ全開だったよ。
本当にテメーは、体も生き様も最高だな!楽しませてもらったぜ。
ひゃははははははははは!!!!!」
ランドは、ケラケラと大笑いする。
そして、カエデはショックで何もしゃべらなくなった。
「・・・おい、これでいいのか?悪魔さんよ」
すると、魔族が1人現れる、
「よくやってくれましたよ。特殊な力を手に入れた少女の闇に染まった魂は、
我々にとって極上の物になりますからね。
女神もそれを警戒して少女の記憶を消したのでしょうが、
まだまだ詰めが甘いですね、リフレールは」
魔族はカエデに近づき、呪文を唱えてカエデの魂を抜き取る。
カエデはその場に倒れ、完全に動かなくなった。
「これで約束は果たしたぜ。だから、例の報酬をくれよ」
「いいでしょう」
魔族が呪文を唱えると、ランドは人間の姿になった。
「おお!!やっと元の姿に戻れたぜ。
それと、ちゃんと特殊な力も付いてるんだろうな?」
「ええ、付いてますよ。あなたが睨んだ相手が動かなくなる特殊能力を付与しています。この能力は、我々魔族以外になら効果があります。
お好きに使ってください。では、私はこれで」
魔族は、この場を去っていった。
「さて、カエデも使い物にならなくなったし、とりあえず元の場所に戻って、
さっきのエルフの女どもがいる村に戻るかな。
けっこういい女が揃ってたしな。
この能力を使って、たっぷりと楽しむかな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます