第11話 本当は怖い異世界転生 其の一 『勇者』

異世界に転生した一人の少年、竜輝りゅうき

彼は、現世でトラックにはねられそうになった女の子を助け、

代わりにはねられて命を失った。


そして、気が付くと異世界へと転生していた。

転生したことにより、彼はチート能力を手に入れていた。


通常の10倍のパワー、スピード、魔法耐性。

さらに動体視力や剣技術など、

あらゆる能力が10倍となっていた。

その能力を買われ、転生した先の王から勇者として認定される。

王から人々を苦しめている魔族を討伐してほしいと頼まれ、竜輝は承諾した。


そこで、パートナーとなった魔導士の美女、レイニーと一緒に魔族を倒すための旅が始まった。


「竜輝、あなた剣の腕がすごいわね。どうやって身に付けたの?」

「いや、その、俺はこの国に来る前に、ずっと剣道を習っていたから」

「剣道?」

「まあその、特殊な剣術の修行だよ」

「そうなんだ」


この世界では、剣道というものは存在しない。

だが、戦う際は剣が基本の世界。

現世で打ち込んでいた剣道が、この世界で活かされていたのだった。


「レイニーも、どこかで魔術を学んでいたの?」

「ええ。私は魔道学園で幼少期から学んでいたわ。そこで培った魔法スキルを認められて、今は国王軍の魔導士として働いているの」

「そうなんだね。すごく優秀な魔導士だね」

「そんなことないわよ」


たわいもない話をしながら、最近よく暴れているという魔族の住む場所へと向かう。

それは、険しい山を登った先にある。

二人は、その山をひたすら上っていく。


「すごいわね竜輝、あれだけ山を登ったのに、全然疲れを感じさせないなんて」

「いや、それなりに疲れはあるよ。だけど、これくらいでへばってたら、

魔族を倒す事なんて出来ないからね」

「なるほどね。さすが勇者!」

「いやいや、まだ勇者ってほどの実績は残してないよ!」


山をひたすら上り、頂上付近へ辿り着いたころ、一つの洞穴を見つける。


「魔族は、あの中かな?」

「ええ、あの洞穴に例の魔族がいるのは間違いないわ」


二人は洞穴の中へ入り、様子を見る。


「今は誰もいなさそうだな。どこかに出かけているのか?」

「そうかもね。周辺を探してみましょ」


二人が洞穴を出ようとした、その時だった。


「ぐおおおおおおおおおおおおおお」


一匹の魔族が襲ってきた。

洞穴の天井に張り付き、二人が隙を見せる瞬間を待っていた。


「うお!!」


驚いた竜輝は、慌てて剣を抜く。

しかし、魔族は予想以上に強く、防戦一方になる。


「レイニー、離れてろ。すぐに片付ける!」


必死で戦う竜輝だが、思うように剣が入らない。

焦れば焦るほど、相手の思うツボだった。


「くそ、こんなはずじゃ・・・」


その時、竜輝は一瞬つまづいてしまう。

その瞬間、魔族の攻撃が入り、大ケガをしてしまう。


「ぐああああああ!!!」


肩から胸にかけて、切り傷が入る、

血がどんどん溢れ出てくるほどに。


「し、しまった」


魔族は、そのまま竜輝にトドメを刺そうとした。

その時、


「ブリザードアロー!」


氷の矢のようなものが、魔族の心臓を貫く。

魔族はもがき苦しみながら、絶命した。


「す、すまないレイニー。おかげで助かった。

しかし、すごいな。あの魔族を一瞬で倒すなんて。

すまないが、傷の手当をお願いできないかな」


すると、レイニーは1つの水晶を取り出す。


「まさか、この程度とはね。

もういいわ、これで終わり」


レイニーは、水晶を地面に投げつけて割った、


「な、なにをして・・・」


その瞬間、竜輝の体が燃え上がり、体がドロドロと溶けはじめる。


「うあああ、熱い、体が、熱い!

た、助けてくれレイニー」

「バカね竜輝。あんた、せっかくパワーアップした状態でこの世界に転生させてあげたのに、そのザマは何?

とんだ期待外れだったわ」

「ど、どういう事だ?」

「あんたはね、前世で死んだ時、魂になって幽界を彷徨っていたのよ。

その魂を見つけて、特別な力を与えたのは、この私なの」

「な、なんだって・・・」

「私はね、ただの魔導士じゃないの。あんたみたいな、異世界で死亡した人間の魂から使えそうなのを選び、力を付与して戦士にするのが仕事なの。

そして、私たちにとって邪魔な存在である魔族と戦ってもらうのよ。

ただし、仮の命でしかないから、せいぜい1年しか命が持たないのよね。

今までもたくさんの転生者を利用してきたけど、なかなかコレという存在はいなかったわね」

「そ、それじゃあ・・・」

「そう。あんたは魔族を倒すための捨て駒。仮に魔族を完全に制圧出来るほどの

転生者が現れても、1年経てば今のあんたみたいに勝手に死ぬから、国を脅かす存在になる事も無いわ。

でも、最後に一つだけいいこと教えてあげる」

「・・・?」

「あんたは今までの転生者で、一番使い物にならなかったわ」


そして、竜輝は完全に燃え尽きてしまい、跡形も残らなくなった。


「ほんと使えなかったわね、コイツは。次は、もっと優れた捨て駒を探さないとね!」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る