第10話 ネクロフィリア

俺は某アパレル会社で働く社員。

そこで一緒に働く三田村という男は、とても不気味な奴なんだ。

そいつは、いつもマネキンを見ては「美しい」と言って、うっとりしている。

ただのマネキンに美しさを感じるとか、俺には理解出来ない。


「お前は本当にマネキン好きだよな。なんでそんなにマネキンが好きなんだ?」

「実はね、工藤さん。僕は、ただマネキンが好きなわけじゃないんです」

「そうなのか?」

「僕は、ホラー映画が大好きで、特に死体が出てくるシーンが大好きなんですよ。

とある映画で、殺された人間が剥製はくせいにされるシーンがあるのですが、

あれがとても魅力的だったんですよ。

あれから、そのシーンとマネキンを重ね合わせるようになったんです。

ほんと、いつ見ても綺麗ですよ、マネキンは」


ダメだ、こいつは末期レベルの奴だ。

すげー危ない奴だな。

いつかは捕まるだろ。

そうなったら、この会社にもいろいろ影響が出るだろうな。

面倒事が起きる前に、こいつには早く退職してもらいたいよ。


けど、こういう奴に限って仕事は優秀なんだよな。

問題起こされたら面倒だけど、今こいつを手放すのは厳しいのよな。

むしろ、こいつのおかげで仕事が円滑になっている。


「だったらお前、本物の死体見たいとか思うんじゃねえのか?

殺人したりとかすんじゃねえの?」

「いやいや、さすがに犯罪はやりたくありません。逮捕されるのは嫌ですからね。

それに、マネキンで十分なほど楽しめますから」

「そっか。正直言うと、最近行方不明の若い女性が多発してるみたいだから、

お前が何かやったんじゃないかと心配だったんだよ」

「ご心配にはおよびませんよ」


とりあえず、こいつが常識ある人間ではあったようだ。

今のとこ、三田村が犯罪者になる心配は無さそうだ。


「じゃあ、マネキンパワーで店の売り上げ高めてくれよ!」


不気味なマネキン愛好家と同じ職場ではあるが、

それ以外はごく当たり前な日常だった。


ある日のこと、


「あれ、工藤さん。ずいぶん今日は疲れてますね。

昨日はそんなに忙しかったんですか?」

「ああ、後処理がちょっと大変でな。それは無事に終わったから、仕事に影響することはないよ」

「そうですか。後処理って、何です?」

「まあ、女性服の件でちょっとな・・・」

「そうですか。あまり無理なさらないでくださいね」

「ああ、気を付けるよ」


まさか、マネキン男に心配される日が来るとはな。

俺も衰えたかな。


「よし、今日も終わりだ。三田村、明日のキャンペーンの準備は問題なしか?」

「はい、準備万端です」

「よし、明日は忙しいから、早く寝て体力全快にしとけよ!」

「工藤さんこそ、明日は元気で出社してくださいね」

「わかってるよ」


店のシャッターを閉め、家に帰る。

そして、俺のお楽しみが始まるんだ。


「そんなに怯えるなよ、すぐにイっちまうからよ」

「んん、んんんんんんん・・・」


手足を縛られ、口をテープで塞がれた状態の女性がいた。

工藤は、ニヤケ顔で女性を見ている。


「さて、そろそろ始めるか」


工藤は、太い縄を取り出し、女性の首を絞める。


「んんんんんんんんんんんんんんん」


女性は涙を流しながら、苦しむ。

やがて、動かなくなる。


「いやあ、ホントたまんねえな絞殺は!何度やっても飽きねえぜ!」


工藤は恍惚の表情を浮かべ、一人興奮している。


「ほんと、つまんねえ奴だよな三田村は。やるなら、こんくらいはやんねえとな。

マネキンごときで興奮してるとか、頭おかしいぜアイツは」


ケラケラと笑いながら、家の地下室で楽しむ工藤。

何度も女性を家に持ち込んでは、このような事を繰り返していた。


「さて、こいつもやっちまったし、後は証拠が残らねえように処分するか」


そんな悪行を繰り返している工藤だが、その部屋に隠しカメラがある事を、工藤は知らない。


「いいですね、工藤さん。あなた、最高ですよ。やはり本物の死体には勝てません。マネキンは、所詮マネキンですから。

それに、あなたは女性を絞殺してくれるおかげで、体はほぼ綺麗な状態で死体を見せてくれます。

美しい、実に美しい!

これからも、楽しませてくださいね、工藤さん」

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