第2話 見える人、見えない人

色んな人が、楽しそうにしている。


コンビニでタバコを吸っている男性。

カフェで友人とくつろいでいる女性。

楽しそうにはしゃぎながら遊ぶ子供。


色んな人が見える。


そんな日常風景の中を、トボトボと歩く男がいた。


「ああ、やっぱり・・・」


男が歩いていると、正面からすごい勢いで

走ってくる高校生ぐらいの少年がいる。

急いでいるのだろうか。


男とぶつかりそうになる。

しかし、少年は男の体をすり抜けた。


「だろうな」


男は、何かに納得したようにつぶやく。


「昔、映画で見たんだよな。死んだ本人は、死んだ事に気付かずにいるって。

でも、俺は分かったよ。もう、死んでるんだって・・・」


男は、寂しそうな表情で独り言を繰り返す。


「この街も、こう見ると変わらないんだな。

あのパン屋なんか、メニューも店員も、5年前から変わってない」


パン屋の前に行く。

しかし、店員は男に気付いていない。


「わかっちゃ、いたんだがな」


店員は男に気付く事も無く、笑顔でパンを売っている。


「さて、次はどこに行こうかな」


ひたすら、街を歩く。

男は馴染みのある街を、ひたすら歩く。


「おっ、あれはよく行ったラーメン屋じゃないか」


そこには、人気のラーメン屋があった。

行列が出来ている。


「変わらず、人気がすごいな、このラーメン屋は」


今にも美味しそうな匂いが漂ってきそうなラーメン屋。

行列があると、美味しいという期待値が格段に上がる。


「ここは、麺とスープ以外にも、チャーシューや味玉も

めちゃくちゃ美味いんだよな。

けど、なぜかチャーハンだけは不味いんだよな。

これさえ無けりゃ、欠点の無いラーメン屋なのに」


人気店だからと言って、必ずしも全メニューが美味いとは限らない。

どこかしら、マイナスな面もあったりする。


「もう、食べる事も無いんだな・・・」


少し涙を浮かべながら、男はその場を去った。

そして、ひたすら街を歩く。


「おっ、この公園も久しぶりだな。

昔、付き合ってた彼女とよくデートに来た場所だ。

なんか、不思議と落ち着く空気があるんだよな」


その公園は、とても広い公園だった。

公園を1周すれば、おそらく10kmはある大きな公園だ。

緑が生い茂っている。

シート広げて、お弁当が食べたくなるような公園。


「う~ん、良い香りだ。やっぱり、この公園は落ち着くな。

この緑の香りは、まったく変わらない」


公園の中は、色んな家族が来ている。

バトミントンや、ボールで楽しそうに遊んでいる親子や兄弟姉妹の姿がたくさん見える。


「いいな。俺も結婚して子供が出来たら、あんな感じだったのかな」


少し、羨ましそうにその風景を見ている。

そして、再び寂しそうな顔をしながら、その場を去る。


「ちょっと、疲れてきたな・・・」


歩き続けて疲れた男は、バス停のベンチに腰を駈ける。

持っていたペットボトルのお茶を出し、ゴクゴクと飲む。


「ふぅ、美味いな」


ベンチに腰掛けた男は、しばらく無言で物思いにふける。

ベンチの背にもたれながら、晴れた空を眺める。

そして、悔しい思いが込み上げてくる


「あのウイルスさえ無ければ、死なずに済んだのに・・・」


ウイルスが原因で死亡したようだ。

見えない脅威ゆえ、なかなか対策は難しい。


「本当に、どうしよう・・・」


男は、冷静になる。

そして、絶望する。


「もう、この世界で俺以外に生き残ってる人は、本当にいないのかな・・・」

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