霧島式ショートストーリー
霧島 翔
第1話 思い出は晴れ、今は雨。
外は大雨だ。
こんな日は、絶対に外へ出たくない。
誰でも、そう思うだろう。
じゃあ、どうする?
家の中で楽しむのが一番だ。
「なあ結菜、覚えてるか?俺達が初めて会った頃。
幼稚園の入学式だったんだよ。
覚えてるか?
あの時、俺は緊張でおもらしして、周りの奴にめちゃくちゃ
からかわれたんだよな。
そしたら、結菜が助けてくれたんだよな。
あの時の結菜カッコ良かったんだよ。
俺にはヒーローに見えた。
えっ?女の子なのにヒーローは嫌だって?
いやいや、本当にヒーローだったんだよ。
あの時の結菜は、誰よりも活発だったもんな。
他の男子より、男子してたよ。
おかげで、俺も少しは逞しくなったかな!
結菜がいなかったら、超内向型の人間になっていたかもな」
春人は、学校では特別目立ったタイプでは無いが、
決して陰キャでは無い。
仲の良い男子も女子も多々いる。
それは、幼馴染である結菜の影響が大きかったのだろう。
「そういや小学校2年生の時さ、結菜はいつも給食食べるのが
遅かったんだよな。
普段あんなに活発なクセに、給食だけは苦手だったよな。
俺さ、あの時は今こそ恩を返すチャンスだと思ったんだ。
だから、こっそり結菜の給食を食べる手伝いをしてたっけな。
何回か繰り返しているうちに、先生に見つかって
めちゃくちゃ怒られたっけな。
アレは辛かったな。
なんせ、みんなの前で怒られて、二人揃って恥かいたよな」
そりゃそうだ。
いくら給食が苦手でも、食べるのを手助けすれば怒られる。
こんな事を許していたら、教育上良く無い。
しかし、春人は春人なりに、結菜を思っての行動だったのだろう。
「なんやかんやで、小学校時代は男友達のような感じで結菜と
遊んでたもんな。
けど、5年性の時に衝撃があったよ。
結菜に借りてたゲーム返そうと部屋に入ったら、
結菜が着替えてたんだよな。
あの時、お互い顔を真っ赤にして慌てたっけ。
結菜、いや~って言ってたよな。
まるで女の子だったよ。
いや、女の子だよな。こりゃ失礼!
そんで、俺もデリカシー0人間だから、あの後学校行く途中で
結菜もブラジャーするんだなって言って、俺ボッコボコにされたよな。
けっこう痛かったぞ。
結菜は力強かったからな。俺は半泣きになったよ」
間違っても、女の子にそんな事言ってはいけません。
小学校時代で、しかも幼馴染が相手なら遠慮も無くなってしまうのだろう。
でも、節度は大事にしないといけない。
「けど中学に入ったら、結菜も大人っぽくなったんだよな。
男子達の見る目が変わった気がするよ。
小学校時代は、影の女番長みたいだったのに。
春休みのほんの2週間で、何があったんだよって思った。
一方俺は、小学生の延長をしていた感じだったよ。
どうやったら大人っぽくなれるのか、俺にはミステリーだったな」
女の子は、突然変わる事がある。
理由は色々あると思うが、よくあるパターンとしては、恋をしている事が多い。
結菜も、誰かに恋をしていたのだろうか。
ただ、中学校という新しい生活に合わせただけなのだろうか。
「そんな大人っぽくなった結菜は、男子からも人気あったよな。
そんで、2年の秋にサッカー部のエースから告白されてたっけ。
驚いたよ。結菜が男子から告白されるなんてな。
だって、小学校の時は男子に混じってサッカーやバスケしたり、
カードゲームとかもやってたもんな。
当時は髪も短かったから、男子に混ざっても何の違和感も無かったのに。
それが、男子から告白される女の子にまで進化してんだもんな。
その告白された事を、俺にどうするか相談してきたっけ。
俺、結構動揺してさ、何て言ってあげればいいか分からなかったから、
"付き合っちゃえば"な事をつい言ったんだよな。
そしたら、結菜がちょっと寂しそうな顔してた。
結局、サッカー部エースと付き合わなかったみたいだけど、
あの後からしばらく、俺たちは気まずい雰囲気になって、
一緒に学校も行かなくなり、話す事も無くなったんだよな。
ちょっと、後悔したよ」
結菜は、春人に付き合うなと言ってほしかったのだろうか。
それとも、もっと違う事を言ってほしかったのだろうか。
女心と秋の空、男には永遠にマスター出来ないテーマである。
「そんな気まずい雰囲気が続いたけど、3年の夏にクラスメイトから
思い出に海へ行こうって言われて、とりあえず了解したんだよ。
そしたら、そのメンバーに結菜も入っててびっくりしたよ。
最初はどうしようって思ったけど、その半面仲直り出来るチャンスかなとも
思ってたんだ。
海について、最初は何をキッカケに話をしようかと思ってたんだけど、
なかなか話しかけられなくて。
他の男子は、女の子達の水着姿にキャーキャー言ってるんだけど、
俺はそれどころじゃ無かったんだよ。
そしたら、たまたま飲み物買いに行った時に、結菜も偶然同じ自販機まで
来たんだよな。
お互い、ちょっと目を反らしたんだけど、結菜が戻ろうとした時に
俺が待ってと引き留めて、近づこうとしたらつまづいて、
結菜によりかかったんだよな。
そしたら、お互い変な雰囲気になって、何故かお互い笑ったんだよな。
あれから、また元の関係に戻って、俺は心から嬉しかったよ。
ホント、俺のせいだよな。ゴメンな」
キッカケというのは、とても大切だ。
1つのキッカケ次第で、後の人生を大きく左右する事もある。
少なくとも、春人と結菜は良いキッカケを得たと言えるだろう。
「夏も終わって、高校受験も近づいたから、お互い勉強大変だったよな。
そう言えば、お互い将来の夢を話し合ったっけ。
確か、結菜は東京の美術大学行って、将来はデザイン系の仕事に就きたい
って言ってたな。
俺、また結菜と距離が出来てしまうと思って、ちょっとつらかったよ。
そしたら結菜が、春人も東京来る?何て言ってきたから、
あの日から東京の大学を視野に入れ始めたんだよな。
けど、結菜と違って明確な目標があるワケじゃ無いから、
東京の大学へ行く理由を、一生懸命今も考えてるよ」
ほとんどの学生は、ただ何となく大学へ行き、
とりあえず入れる会社へと就職する。
それが悪い事では無いが、やはり夢を持って先へ進んだ方が良い。
その方が、人生に良い張りが出る。
「もうすぐ4月、俺達も高校生だよな。
高校では、どんな生活が待ってるんだろうな」
そして、春人の目から、大粒の涙がこぼれおちた。
「結菜、何で遠くに行ってしまったんだよ・・・」
━━━━━━ 半年後、とあるニュースが流れる ━━━━━━
『昨晩未明、17歳の女子学生が遺体で発見されました。
死亡推定時刻は、昨晩9時前後と見られており、
被害者は、部活後の帰宅途中に襲われたものと思われます。
遺体には、性的暴行を受けた痕跡も確認されており、
死因は、縄のような物を使用した絞殺の模様です。
今年3月2日に発生した女子中学生殺害事件と手口が酷似していることから、
警察は、同一犯の可能性があると見て調査を進めています。』
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