第34話 シャルロット・フィズリー王城へ招かれる③

 ――シャルロットside――



 本日最後に訪れたのは、仕事に撲殺されている王妃様に愛に行くことになりましたわ。

 こういう場合、王妃とは必ず参加するべきですのに……無能な国王がいると大変ですわね。

 政略結婚だった故に蔑ろにされて愛されることも無く、国王の代わりに仕事をしてきた彼女がとても哀れに見えましたわ。

 大きな扉をノックし、声が聞こえてわたくし達が部屋に入ると、立ち上がり深々と頭を下げて最大限の礼をする彼女に、わたくしはニッコリと微笑みましたことよ。



「こちらが王妃様です」

「初めまして、シャルロット・フィズリーですわ」

「ダーリン・エゾイフと申します」

「こちらは護衛のヘロス」

「初めまして王妃様♪」

「さて、此処からは腹を割って話しましょうか」



 そう言うと案内されたソファーに座り、笑顔でこれまでの事を質問しながら聞きましたわ。

 夫である国王が全く仕事をしていない事。それも結婚した時からだそうですわ。

 溜まりに溜まった書類を偶に読みもせず判子を押して去って行く。仕事とは言えませんわね。



「つまり、顔を合わせれば悪態をついて仕事のできない国王に変わり仕事をしているのに、更に暴言を吐きますの?」

「そうですね……わたくしが我慢をすれば何とかなると思いましたが、仕事は溜まる一方で……もうここ一年程は仕事すらしておられませんわ」

「それで通らない法案が多いんですのね」

「はい」

「これは由々しき問題でしてよ? 王弟殿下もそこは解っておられますわよね?」

「はい、兄上には仕事をして欲しいと何度もいったのですが、王妃が代わりにいるだろうと」

「まぁ、本当におんぶに抱っこですのね。死ねばいいのに」

「正直、本当に死んでくれたらと思う事は山ほどあります」

「でしょうね」

「最早以前のようにはいかない事が多いのです。昔のままではこの国は破綻します。それを言っても通じないのです」

「ああ、馬鹿には通用しないでしょうねぇ……宜しいですわ。実はここに来るまでに今の国王を引きずり下ろすだけのタネは撒いてきましたの。三日後のパーティーには側妃と共に参加するでしょう? その時纏めて消えて貰いましょうか」

「え! その様な事出来るのですか?」



 驚いている王妃に王弟殿下はこれまでの事と話すと「それは随分と陛下は敵を作ったものですね」と驚いているようで、わたくしはクスリと微笑むと持っていた扇を開いて口元を隠し「さすれば――」と口にしますわ。



「国王は幽閉、側妃も同じく幽閉し、罪人同様の食事を与えればいいのですわ」

「幽閉とは名ばかりの牢獄ですね?」

「ええ、その通りよダーリン。今は最後の晩餐中……といった所かしら?」

「本当の意味で最後の晩餐になりそうですわね」

「それで、何故貴族をも今回の訪問に参加させるのかと思っていたら……」

「今の国王では国に未来がない事を伝え、それが貴族相手にドンドン伝わって行きますわ。きっとパーティーでは貴族たち、その他の権力者たちの目線はきついものになると思いましてよ? 『国王に非ず』と言う最もたる結果がある訳ですもの。今までは心臓を患っているから……で済まされていても、今まさに側妃と贅沢尽くしをしながら部屋で遊び惚けていると分ってしまえばどうなるかしら?」

「それでパーティーに出席しても、前の様な同情の目は向けられることなく敵意のみむけられますね」

「そうでしょう?」

「貴族に対しても食糧が少ないから贅沢をするなと言っていたのに、自分たちは贅沢三昧ともなれば……貴族の怒りは爆発しそうです」

「素敵に爆発はしそうですわね」



 クスクスと笑うと王妃様はフウッと息を吐き「わたくしの仕事ももう直ぐ終わりですわね」と力なく微笑みましたわ。



「そうですわね。一旦は……かしら」

「と言うと?」

「王弟殿下には奥様がいらっしゃらないでしょう? 今更王妃の仕事が出来る相手って見つかるとは思いませんもの。いっそ王弟殿下とご夫婦になられたらどうかしら?」

「「え!」」

「王弟殿下なら王妃様を大事になさると思いますけれど?」



 そう後押しすると王弟殿下は顔を赤くし、王妃様も頬を染めて「ですが」と口に為さいますわね。全く持ってじれったい事。



「王妃様の代わりはいませんのよ? しっかり為さいませ!」

「む、むう……王妃様、もしよろしければ兄上と離縁して頂いて、私を助けてはくれませんでしょうか」

「無理何て言葉は聞きたくありませんわよ?」

「ふふふ……。ええ、分りました。離縁した暁には王妃としての仕事は致しましょう」

「ありがとう御座います」

「これでまずは纏まりましたわね。後は徹底的に三日後叩き潰しますわよ」

「「よろしくお願いします」」

「ふふふ、大悪女シャルロット・フィズリーがどう動くのか見てると宜しいですわ」



 そう言って笑みを浮かべると椅子から立ち、モリシュを呼ぶように王弟殿下に伝えると、暫く王妃と会話を楽しんでんからモリシュが訪れ、わたくしは人々がまだ見ている中で堂々と帰る事にしましたの。



「ああ、ダーリン。王妃様は本当にお辛いのね」

「その様ですね……御気の毒に。全く役に立たない国王の尻ぬぐいを延々と……」

「この国はあの国王がいる限りもう先はありませんし終わりですわね……」

「国民が国を捨てる日も近いでしょう。貴族はどうするんでしょうねぇ」

「国自体のレベルが低すぎますわ……後はあっという間に周囲の国に乗っ取られるのが関の山では無くて?」

「ああ……ではパーティーが終わったら閉じ籠りましょうか。知った事ではありませんし」

「そうですわね」



 そんな嘆く会話を聞く家臣や権力者、そして貴族たちの顔は苦痛に満ちているし、国王に対する怒りに満ちている。

 そこで――。



「仮にもし、王弟殿下と王妃様が手を組む事があれば……まだ何とかなりますけれど。それをよしとする頭のいい貴族や家臣はいらっしゃらないのかしら?」

「国民のレベルが低いと中々難しいのでは?」

「そうねぇ……王が馬鹿なら貴族や家臣も馬鹿で愚かなのかしら?」

「恐らく」

「なら、このハルバルディス王国も長くはありませんわね」

「そうですね」

「――では皆さん、三日後最後の国の晩餐でお会いしましょうね?」

「最後の国の晩餐なんて……全く、この国にいる皆さんお気の毒に」

「仕方ありませんわよ。今まで黙って無能に従っていた方々ですもの」

「つまり、彼らも無能と言う事ですか?」

「そうですわね。王弟殿下が国王になり、今の女王がその王弟殿下を支えるというのなら、色々知恵を貸しても宜しいですけれど」

「そんな日が来るといいですねぇ……」



 そう言ってモリシュの箱庭経由でトーマの家に戻り、そこから更に箱庭経由で人形保護施設に戻ったわたくし達は、やっと背伸びをして息を吐きましたわ。

 好きなだけ言って差し上げましたけれど、今頃城では大騒ぎになっているんじゃないかしら?

 何にしても三日後の晩餐会と言う名の断罪パーティーはどうなるのか楽しみですわね。


 施設に戻り、城であった事を報告していると暫くしてトーマから「王弟殿下がお目通りをお願いしていますが?」と連絡が来た為、御通しすることにしました。

 すぐさま行動に移さねばならない程に緊迫していると言う事かしら?


 そう思っているとトーマと共に王弟殿下がお越しになり、現在城では国王が仕事を全くしていなかった事や、現在側妃と贅沢三昧で部屋に閉じ籠っている事までバレてた上に、自分たちが如何にわたくしから衰退している人類とみなされてたことがショックだったらしく、このままでは本当に国が危ういとやっと理解したようでしたの。



「散々暴露してやりましたもの。もう陛下を支持する貴族も中々いないのではなくて?」

「ええ、流石に利権云々言っていられる状態ではなくなったようです」

「ふふふ。いいザマですわね」

「三日後のパーティーではどうなることか。今から楽しみです」

「ええ、わたくしも華やかに悪を演じて見せますわ」



 こうして王弟殿下は帰り、わたくしはダーリンとヘロスと共にお茶を飲みつつ、今後の事を話し合いましたわ。

 三日後のパーティーで今の国王と側妃を潰す為にね……ふふふ♪




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