第32話 シャルロット・フィズリー王城へ招かれる①

 ――シャルロットside――



 ハルバルディスの王弟殿下から色々な要望があった時は驚きましたわ。

 そう……本当に色々な要望、ふふふ。このわたくしが心躍るような日がダーリン以外で来ようとは思いも寄りませんでしたの。

 だってそうで御座いましょう?

 一国の王に罪を全て被せて退陣――と言えば聞こえは良いですけれど、幽閉だなんて。

 そもそも仕事をしていないで頭の悪い側妃と贅沢三昧。

 国庫を食い尽くす害虫と同じですわ。

 好きに成敗して下されば幸いだと言われ、ならば色々話を聞こうと思いましたの。

 無論――ハルバルディス国内の事はトーマからも聞いておりますし、城の中ともなれば嫌でも耳がありますわ。



「さて、そろそろお迎えが来ますかしら?」

「ええ、もうじきお迎えは来る時間だと思うわ。トーマは時間にルーズな子ではないもの」

「そうですね。しかしこの一週間良くぞ礼儀作法を覚えましたね。ご立派ですよヘロス」

「ありがとう御座いますダーリン様。ですがしっかりと護衛の務めも果たしますのでご安心下さいませ。セキュリティレベルは10にしてありますわ」

「心強い。是非色々言葉も拾って下さいね」

「無論ですわ」



 そう話をした所でトーマがやってきて、わたくし達三人はついにトーマの箱庭から初めて……現世の外に出ましたの。

 古い家を飛び出しあの頃では見る事の余り無かったうっそうとした木々に、世界は浄化されたのだと理解しましたわ。

 第二次、第三次とあった世界大戦後、この世界は見るも無残な姿になりましたものね。

 そして、わたくしをお迎えに来たのは言う迄も無く王弟殿下と沢山の付き人達。

 軽い挨拶の後、わたくし達はついにハルバルディス城へと足を踏み入れましたの。


 ――途端に湧く歓声と驚きの声。

 わたくしは周囲を見渡してからこの上ない笑顔を見せましたわ。



「まぁ、あの頃から人類とは増えたものですわね。ダーリン」

「そのようですね、シャルロット」

「実にいい傾向だと思いますわ。ええ、王都だけは」



 わたくしの笑顔での最後の棘のある一言に、鳴っていた拍手が止まりましたわ。

 あら、可笑しいですわね?

 この程度で?



「シャルロット様、『王都だけは』と言うのは? 確かに他の領地からは農産関係だけでも例外に子供を増やしてもいい様にして欲しいと言う連絡は来ていたのですが」

「ええ、その通りでしてよ。このままいけばあなた方、飢餓しか待っていませんけど、それで宜しいのかしら? ねぇ? 人口関係の大臣はいらっしゃいませんの?」

「わ、私です!!」



 そう言って出てきた情けなくも少ない髪に縋る、禿げたおじ様でしたわ。



「ご報告は各領地から来ている筈でしてよ?」

「そそそ、そうなんですが……」

「時間がありませんの、サッサッと言って下さらない?」

「へ、陛下の許可が降りませんので」

「まぁ! ここの陛下と言うのは無能なのですわね!!!」



 この大きな一言に周囲は騒めきましたわ。

 無論このくらい序の口なのは、ダーリンはお判りでしょうけれど。



「その無能な陛下とやらはどこにおりますの? そう言えば働いている王弟殿下としかあったことが御座いませんわ?」

「そそそ……」

「陛下は心臓が弱く側妃様と部屋に閉じ籠っておいでです」

「まぁ、お可哀そうに……陛下はあなた方に、飢えて死ねと仰っていますのね」



 これに更に騒めきが起きましたわ。

 ええ、『人間何時までもあると思うな親と金』とは申しますけれど、食べ物に関しても言える事でしてよ?

 それが全く理解できていない国王なんて、ただの害虫ですものねぇ?



「まぁ、わたくし人形ですし、知った事では御座いませんわ。あなた方が飢えてその内飢餓で死のうとも……ああ、人間が多くて一人っ子政策でしたわね? いいのではないかしら? 食べ物を争って人間が減れば丁度宜しいでしょう?」

「ははは、手厳しい。そうならない為にも政策を考えているのですが、何分陛下が仕事を為さらないので、決めねばならぬ法案が溜まる一方ですよ」

「無能は何処までも無能ですわよ? あなた方も大変ね、無能の下にいるなんて」

「申し訳ございません」

「もしかして、その国王陛下とやらは自分の死期が近いから、国民も共倒れにしよう……なんて考えているのではなくて?」



 これに更に騒めきが起きましたけれど、わたくしは全く気にせず王弟殿下を見つめますわ。

 此処までがまず一つ目。

 でもここで一つわたくし達に動きを出しますの。



「シャルロット。そのような……事実であっても、口にしてはなりませんよ?」

「まぁ、ダーリン」

「今まで王弟殿下は必死に国民、そして貴族を守る為に国王の代わりに仕事をしてたのです。更に聞けば、仕事をしない国王の代わりに、とても聡明な王妃様がひとりでこの国を支え居ていたというではありませんか」

「ああ、お可哀そうな王妃様ですわね……話を聞いた時はどれ程心を痛めたか……是非後で王妃様とのお時間を作って下さるかしら?」

「お心のままに」

「では、時間もそうありませんもの。まずは調べたい事、見てみたいことをしても宜しいかしら? 時間が余れば……仕方ないですけれど、王弟殿下がわたくしに頭を下げて『家臣たちの為に質問する時間を与えたい』……なんて仰るから、渋々時間を作るつもりではありますけれどもね?」


 この一言に王弟殿下を見つめた後わたくしを見つめ、「ありがとう御座います!!」と言う大きな声が上がりましたわ。

 これで王妃様と王弟殿下がどれほどの人格者かは家臣や質問したい者達には植え付けることは出来たでしょう。まずは――これで二つ目。


 その後は城を案内されつつ「歴史的なー」と言う言葉を聞く度に「あら、わたくし達に対しての嫌味かしら?」「この程度の年数で?」と口にしていると、城を案内する老人は静かになりましたわ。

 わたくし、その様なものには興味ありませんの。

 ダーリンはその度に「実に新しいものですね」と言葉を返していたけれど、お優しいわ。

 さて、まずは脳だけの人形――アンク・ヘブライトの脳を見に来ましたけれど……。



「機械も何もかも古くなって動かなくなっておりますわね」

「スイッチも壊れているようです」

「一度爆破によって壊された後は突貫工事のように直した後もありますわね……電源も入らない、動きもしない、いいえ、動かそうにも二度と動かせない……と言った所かしら」

「そそそそそ……そんな」



 意気揚々と「自分は考古学者のロンダ伯爵と申します!」と息巻いていた爺は、期待をしていたんでしょうけど、この壊れ具合を見て期待する方が馬鹿ですわね。

 現実が見えていない考古学者程馬鹿はいませんわ。



「聞いた話によると、この国では明かりは蝋を使うそうですわね。『電気』は使いませんの?」

「『電気』とは古代文明時代にあったという魔法の事ですね!?」

「魔法と言えば魔法ですけれど、それは今は無い……と言う事かしら?」

「はい! 失われた物の一つで代表的なものです! どうすれば電気を起こせるのか全く理解不能でして……考古学的にも試行錯誤するのですが」

「ほほほほほほほ!! 貴方、面白い事を仰いますのね? でも、謎は謎のままにした方が良さそうですわ。特に貴方の様な目先の欲に忠実なおバカさんに話す事でも無さそうですし」

「そ、そんな事は!! 是非、是非お話を」



 そうわたくしに手を伸ばした途端、ヘロスの腕が老人の腕を掴み捻って老人を捕えましたわ。



「御免なさいねお爺様。シャルロット様に触れるのはご法度なの」

「ぐううう!!」

「ヘロス、痛めつけたらその辺に捨てておいてくださいませ」

「分かりましたわ」



 そう言ってグギリと音を立てると男性は悲鳴を上げておりましたけれど、ヘロスは手を離してわたくしの隣に戻ってきましたわ。

 王弟殿下は頭を抱えていましたけれど、何処かホッとした様子も伺えましたの。



「そう言えばダーリン様は解りましたが、そちらの人形と会うのは初めてですね」

「今回特別に付き添ってくれる護衛人形のヘロスですわ」

「初めまして~♪」

「こんな見た目ですけど、ダーリンと互角に戦える素晴らしい人形ですわよ」

「そ、そうですか。それは……心強いですな!」



 ダーリンと互角に戦えると聞けば護衛兵士たちは一瞬にして怯えましたわ。

 ふふふ。ヘロスはそれだけの体術とナイフ使いがとても上手い護衛人形でしたの。

 作り上げたトーマは天才ですわね。



「それにしても、ハルバルディス城地下にあるこの遺跡は、もう動かないとは」

「例え電気があったとしても動きませんわね。既に機能停止していますの、二度と蘇りませんわ」



 脳だけのアンク・ヘブライトは死んだとは聞いておりましたけれど、実際目にすると本当に死んだのだと理解出来ましたわ。

 今はニャムと一緒にいるアンクこそが本体……こちらは抜け殻。

 その事は、秘密にしますけれどね――?



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