第31話 王弟殿下とシャルロットの秘密会議
――王弟殿下side――
――それから直ぐに事態は動いた。
緊急招集をし、自分の目で見てきた事を全て語ったのだ。
ハルバルディス王国の地下に眠る遺跡の大元となったアンク・ヘブライトの人形がいた事。
今では作る事も難しい護衛人形に軍人人形、更には医療人形に、天才と名を馳せたピリポ・ハルディアの人形に、アンクの妹ヤマの人形がいた事。
人形でありながら人形師のコウとエミリオもいた事や――歴代の悪女の中でもトップと呼ばれている、シャルロット・フィズリーの人形がいた事も伝えた。
流石のざわめきだったが、それを鎮めさせ更に口にする。
「そのシャルロット・フィズリーの人形が、軍人人形を連れてこの城に来る事となった」
「な、なんですと!?」
「確かに歴代の悪女だろうが、彼女は人形だ。それも古代人形でもあり、何よりずば抜けた知識を持った人形でもある。彼女が俺に対し、過去の遺産である脳だけの人形の状態の見学及び、人形師の人形を作る姿等、色々と事細かに見たいと言って来た。古代と比べて現代はどれだけ衰退したのかと言いたいのだろう」
「す、衰退など……」
「君たちは覚悟を持ってシャルロット・フィズリーの言葉を聞かねばならない。城に泊る事はしないそうだが、今の人間がどういう姿であるのか、そして古代人形から見て現代の人形はどうなのかと言うのも見たいそうだ」
「「「「………」」」」
「また、シャルロット・フィズリーと一緒に来る軍人人形は、彼女の夫だそうだ。とてもじゃないが、威圧感は凄いものがある……。優しい顔をしているが本職は軍人人形のトップだった人形だ。覚悟して掛れ。下手な気を起こすな。首が撥ね飛ぶぞ」
そう顔面蒼白になりながら告げると、全員顔を青くしてゴクリと唾を飲み込んだようだ。
先の考古学大臣に至っては興奮してたが、彼は命が惜しくはないのだろう。
だが、一応釘は刺して置く。
「ロンダ大臣」
「は、はひ!」
「間違っても、シャルロット・フィズリーに触ろうとするな。命はない」
「そそそそそ、そんな!」
「古代文明を知る前に命が無くならないといいのだがな?」
「くっ!」
そう全員の前で言って置けば奴も下手な真似はしないだろう。
兄である国王のお気に入りとはいえ、死なれては目覚めも悪い。
もし死んだ場合はその時だ。
「彼らは我々の上をはるかに行く者達だと心せよ! 我々など足元にも及ばないと心せよ!」
「「「「はい!!」」」」
「彼らは人形にして人形に非ず!」
「「「「了解いたしました!!」」」」
こうして、シャルロット・フィズリーを招く日を検討するのだが、早くしろと言われている事も伝えると、せめて一週間は猶予が欲しいと言うものが多く、その間に問いかけたい事や現代も謎とされている事を纏める時間が欲しいらしい。
だが、彼女は視察にくるのであって、質問を聞く時間があるとは一言も言ってはいない事を告げると、奇跡的に聞ければと言う強い願いにより、私は溜息を吐いて「聞いてみるだけは聞いてみる」と口にした。
それからトーマに直ぐに連絡をし、一週間後の月の曜日に是非シャルロット様をご案内したい旨を伝えると『了解いたしました』と返事が来たのでホッとした。
「しかしトーマは凄いな……あの面々を前に全く臆する事がない。堂々としている」
「俺さぁ~…トーマってスゲー奴とは思ってたけどぉ~……おっかねぇって思ったわ」
「そうなのか? 俺はその豪胆な所が気に入っている。臆さず怯えず知りたい事に貪欲であればこその学者だ。無論礼儀は必要だがな!」
「あの人形達にぃ~全員だぜぇ? 好かれるって相当だと思うんだけどぉ~」
「そこが彼の魅力の一つだ! 彼があの性格故に開いた扉と言って過言ではない今回の出来事……。歴史的瞬間。そして開かれた考古学、歴史学のその先! 人類がどれだけ衰退していようと甘んじて受け入れるしかない。その上で、改善すべきところは改善し、前に前に進むしかないのだ!」
「モリミアの言う通りだな……。後戻りは出来ない。我々は先に進む事しか最早残されていないのだろう」
「……引き篭もりの国王に全ての責任負わせてぇ?」
「汚いやり方だが、それも致し方ないだろう。今のままでは先へは進めない」
それでも、妻が生きていれば何かアドバイスを貰えたのだろうか……。
モリシュを生んだ後、産後の肥立ちが悪く亡くなってしまった愛しい妻でもあり、現王妃の妹でもあった。
今の王妃様を見ているとお辛そうで見ていて辛い。
兄上も幾ら政略結婚であったとしても、王妃様をあそこまで蔑ろにする事などなかっただろうに――最低な側妃を迎えてどれ程お辛かった事か。
妻が生きていた頃はよく愚痴を零しに来ていたが、最早一人で立っておられるのも限界だろう。
悪いが兄上にはここで引いて貰う。
そして、王妃様を自由にして差し上げねば!!
「父上、俺達は母上にするなら王妃様のような方でなければ認めません」
「俺もぉ~」
「お前達、流石に兄上の妻だぞ」
「いいんじゃね~の? 夫婦破綻してんだしぃ」
「情けない限りだよな。妻である王妃におんぶに抱っこ等、男の風上にも置けぬ」
「……そうだな」
「でもぉ、王妃様が自由になりたいっていえばぁ~自由にしていいんじゃないのぉ~?」
「その上で、父上を手伝いたいと言えば妻に貰えばいいだけの事」
「そう簡単な話ではないのだがな」
「シャルロット様なら、その辺『ご自由にしたらいいんじゃありませんの』っていいそう~」
「ははははは!」
「王妃様にも一応連絡を入れてくる。お前たちは各自仕事をしていてくれ」
そう言うと執務室を出て王妃様の執務室となった国王の執務室へと向かうと、ノックをして返事を待ち中にはいる。
昔と比べて随分と苦労が滲んでいる王妃様だが、俺が来た事で少しホッと安堵の息を吐いたようだ。
「ご報告せねばならない事が御座いまして」
「陛下の事ですか? 側妃様の事ですか?」
「関係は少しありますが、そうではありません」
「では何でしょう?」
「シャルロット・フィズリーを御存じですね?」
そう王妃様に問いかけると「それは有名ですもの、存していますよ」と苦笑いされた。
これが側妃なら「誰それ」で終わりそうだが、そこも含めて口にする。
「ボルゾンナ遺跡は本来、人形保護施設であったことは既に報告が行っていると思いますが、そこに住むシャルロット・フィズリー及び、護衛に軍人人形が城に来るのです。偵察……と言いますか、どれだけ人類が衰退したのか目にしたいと」
「……そうですか」
「泊る事は無いそうですが、王妃様にもお目通りをと思いまして」
「ええ、陛下の代わりに致します」
「もし陛下がしゃしゃり出てきた場合は?」
「あら、それはそれで見ものではありません事? 手痛いしっぺ返しがくるのではなくて?」
「ははは、言えていますね」
「でも、あの馬鹿達は部屋で贅沢三昧だとか。外の話題は入ってこないのだと思いますわ」
「ええ、なので一つ罠を仕掛けて仕留めてしまおうかと思っているのです」
その言葉に王妃様は手を止めた。
俺の真剣な顔に色々悟られたようで「聞きましょう」と口にする。
「最終日、貴族たちを集めたパーティーを開こうと思います。そこでシャルロット様に陛下を断罪して頂ければと思いまして」
「まぁ、まるで陛下は悪役ね?」
「その通りです。国を衰退させた責任を負わせて幽閉と言う形を取ろうかと思います」
「んふふ……面白い事。でもあの人は責任転換のプロよ? 出来る?」
「それをさせないのがシャルロット・フィズリーでしょうね。彼女はとても頭の回転が速い」
「そう……。お手並み拝見と行こうかしら。その時はわたくしも幽閉されるのかしら?」
「宜しければ、自由にして差し上げたいと思っております」
「自由……に、して頂けたら嬉しいけれど、まだやるべき仕事が残っているのよ。放っては自由にできないわ」
「でしたら、俺の妻になりますか?」
そう真剣な表情で伝えると、王妃様は驚いたような顔をしつつも苦笑いし「出来たら幸せね」と悲しそうに眼を閉じた。
「でも、貴方の隣には白髪交じりのわたくしより、美しい聡明な娘が合うでしょう」
「いいえ、息子達も幸い貴女様でしたら母と呼んでも良いと」
「まぁ、あの子達が?」
「是非、ご検討の程を」
「そう……分かったわ。返事は後日致します」
こうして部屋を出ると緊張が解けてフッと息を吐いた。
そして慌ただしい一週間が過ぎて行き、ついにその日がやってくる――。
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