第13話 貴族人形の行く不明はあくまで可能性として――。
――ハロルドside――
フロソワの容体が安定している間に馬車に乗り込み半日かけて侯爵家の屋敷にたどり着いた。
直ぐに父上に話があると伝えると、執務室に向かい部屋をノックする。
「父上、ハロルドです」
「入りなさい」
「失礼致します」
父上は侯爵家を取りまとめ侯爵領を豊かにするために日々頑張っていらっしゃる。
そして、人形をとても大事にする人でもあった。
そんな父上に今から話すことは酷な事だろうが、本日あったフロソワの事も含め全て話をする事になった。
まず父上がお届いたのは人形大臣であるモリアティ様の名を使っている人形師団体の事だ。
フロソワだけではなく、我が家で働く人形もその団体から人を寄こして貰いメンテナンスをして貰っていた。
父上は慌てて契約書を取り出し読み直したが、フロソワを持って行く以外に他の人形を持って行くという内容は掛かれていなかったそうだ。
――何故フロソワだけを?
そういう疑問が父上にも芽生える。
そして、本日治療して貰ったトーマの言葉を伝えると顔面蒼白し、厳しい表情になった。
「あくまで可能性の話です」
「だが、確かに魔素詰まりを起こされた挙句寿命を削らされたのだ。これは許せる事ではない」
「後、人形は死亡した場合、人形師に送るのが国の法で義務付けられています。それなのに何故フロソワをモリアティ様の団体に贈らねばならないのです? 死んだ弟妹人形を愛玩にする者達も多いと聞きます……どうなんでしょう?」
「……きな臭いな。親しい貴族たちにこの事を伝えておこう。一応法務大臣と陛下にも何時法律が変わったのかお聞きせねば」
「そうですね」
そういうと、父上は我が家の使っている便箋に今回の騒動と、何時法律が変わったのか等を記載した手紙を書き、我が家の手紙と分かるように封蝋を押して遠隔用の魔道具に投げ入れる。
そして次の日返事が来たようで、まず法務大臣からは『そのような法律改正等はしておりません。この事は人形大臣モリアティに事実確認を急ぐことにする』と返事が返ってきて、更に『他所でも弟妹人形をモリアティの団体に送らねばならないという連絡が来ているので、その事についても言及する』と書いてあったそうだ。
どうやら揉めた貴族もいたらしい。
この事が発端となり、人形大臣モリアティが作っていた人形師団体は国から調べられる事となった。
それもそうだ、高位貴族や貴族の人形のメンテナンスを行う業務をしているのに、どうにも動きが怪しかったからだ。
結果からして――名を貸しているだけで団体は確かに存在したが、人形師を雇っていると言いつつ人形師では無い者達も多くいて、彼らがメンテナンスに向かっていた事も分かった。
これには多くの貴族が怒り狂い、名を貸しているモリアティにも追及が及び、人形大臣でありながら架空の人形師や人形師でもないのに人形師を語る者達に自分の名を貸していたのかと追及され、更に調べを進めるとモリアティは団体から多額の資金を貰う代わりに名を貸していたことを露見した。
これにより、王弟殿下に連絡が行き『人形大臣の任を解く』とまでされ、モリアティは人形大臣から退く事が決まった。
また、金で買収されるような貴族は大臣職など出来ないとされ、城からも追い出される事となったのだ。
その後モリアティは貴族たちから後ろ指刺されながら過ごすことになるのだが……この男はその事に全く気にする様子もなく、『ワシの方が被害者である』と開き直ったのだ。
そんなものが人形大臣をしていたなんてと啞然としたが、父上は「モリアティはそういう奴だ。大臣たちからも忌み嫌われていた」と語り、「貴族としても成り立っていない」とため息交じりに語っていた。
「もう城では仕事をさせて貰えないのですよね?」
「ああ、これだけ問題を起こせば流石に城に勤める事など不可能だ」
「次の人形大臣には誰が使命されるのでしょうか」
「それは私が陛下から直々に任命されている」
「父上が、ですか!?」
「事の発端を見つけた事も含めてだが、侯爵家として任務につけとの仰せだ。モリアティの後に着くのは頭が痛いが、今後このような事が無いように徹底せねば。それと、モリアティが集めた弟妹人形の行方も気になる」
「そうですね……」
「この数年で30体は行方不明になっている。一つ一つ探して行かねばなるまい」
「やはり、愛玩として……でしょうか」
「恐らくな。そういう貴族がいるというのは社交界でも聞いたことがある」
「……」
「この事に気づいた青年はトーマと言ったか?」
「はい」
「先見の目がある青年のようだ。貴族ならば是非力になって欲しい所だが」
「考古学者としても歴史学者としても活動しているそうなので、ボルゾンナ遺跡の調査にも参加するのではないかと思われます」
「ほう……春の嵐が去ったら行われるそうだな」
「ええ、今年は長く荒れそうだという話です」
「そうか……花散らしの春の嵐が早く収まると良いが、彼の大手柄だ。報酬を送って置こう」
――こうして、トーマ・シャーロックに我が侯爵家からこの度の騒動に関する報酬が支払われる事となり、その旨を書いた書状も贈ったのだが、一般市民から侯爵家に連絡をする事は無い為、きっと恭しく受け取ったのだろう。
我が領にあれほどの切れ者がいるとは嬉しい限りだが、今後も是非活躍して貰いたいものだ。
だが、その思惑通り、彼は更に活躍していくことになるのだが、それは歴史を変える程の活躍ぶりで、病状の悪化で仕事のできない陛下に変わり仕事をする王弟殿下すら腰を抜かす羽目になるのだが……その話を聞くことになるのは、長く続く春の嵐が去った後の事となるのは、まだ少し先の話である――。
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