第12話 緊急案件のメンテナンスと、不穏な空気。

いざマナリアの身体を何とかしようとしたところで、朝から緊急のメンテナンス依頼が来た。

相手はこの村に来ていた貴族で、急に弟妹人形が苦しみ出したというものだった。

直ぐにミルキィと一緒に呼ばれたシャーロック町一番の宿屋に装着すると、案内された部屋に通して貰い直ぐ診察を始める。



「魔素詰まりですね。個数は7個……定期メンテナンスは?」

「王都の人形師に毎年一回は」

「それで1年で7つも出来たりはしないですよ」

「では!」

「様子を見る振りをして放置してきたって事?」

「そうでしょうね。魔素詰まりを直したり、魔素の流れを良くするのはとても技量がいるんです。恐らくその人形師はその技量が無いのにしていたんでしょう」

「ああ……なんて事だ。フロソワ……」

「王都でもこういう詐欺ってあるんですね……」



そう呟くミルキィを横に魔素詰まりを直し、魔素の循環をチェックして残りの魔素の残量を告げると、顔面蒼白にして座り込んでいる貴族様には申し訳ないが……恐らく持って後1年。

学園を今年卒業したばかりだという彼は、18歳。本来なら後2年一緒にいられる筈だった。

魔素詰まりは魔素を一気に消費する為、寿命が急激に減るのだ。

だからこそ、適切な人形師に見て貰うのが良いのだが……。



「王都ではこういう詐欺は横行しているんですか?」

「……分からない。だが、俺が頼んだ所はしっかりした人形師を雇っている所なんだ。ハルバルディス王国の人形大臣であらせられるモリアティ大臣が立ち上げた人形師による人形師だけの団体で……そこから毎年派遣して貰っていた」

「だとしたら、恐らくその団体がまともに機能していないのでしょうね。そこに所属するとどういう事が出来るようになるです? 寧ろそこに頼む際どの様な契約をされるんでしょう?」

「あ、ああ。人形のメンテナンスの他に、人形が寿命で亡くなった場合は引き取ってもらえるんだ」

「馬鹿ね! それは違法よ!?」

「え!?」



青年の言葉にミルキィが声を張り上げ叫んだ。



「人形は依頼人が作った人形師の元に返す。それが国の決まりなの。何時から国の法律変わったのよ。連絡受けてないわ!」

「!?」

「まさか、そのモリアティ大臣が詐欺まがいな事をしている可能性なんてありませんよね?」

「そ、それは無いと……だが、確かに言われてみればそうだ。人形は作った人形師の元に返すのが法律では義務付けられているのに、何故モリアティ大臣の所へ送らないと駄目なんだ?」



今になって法律を思い出したのか、スヤスヤ眠る弟妹のフロソワを見つめながら青年は眉を顰めた。

数年もの間全くメンテナンスが滞っていたという事案もある。



「魔素詰まりは1年に1つ、出来るか出来ないかだと言われています」

「そう、なのか」

「それを7つ放置……故意なのか、本当に分からなかったのか不思議ですね。魔素の滞りさえも放置していたのですから、そこに所属していたら知らず知らずに法律違反の上、大切な人形すら奪われていたと……泣くに泣けない現状ですね」

「……帰ったら父上に相談しようと思う。俺の名はハロルド・ローダン。この領地の嫡男だ」



思わぬ大物に目を見開くと、ミルキィは慌てて淑女の礼をしながら――。



「ロロロロ……ローダン侯爵様だったんですか!? 数々の無礼をお許しください! 私はシャーロック町が町長の娘、ミルキィ・シャーロックと申します」

「俺はミルキィの婿のトーマ・シャーロックと申します」

「男性が婿入り……となると」

「いえ、私は末娘なんですが、父がどうしてもトーマ君を息子にしたいというので」

「婿入りは気にしませんでしたので」

「そ、そうか。だが君も優れた人形師なのだな。魔素詰まりや魔素の滞りを直せるなんて」

「いえ、俺は人形師ではありません。ミルキィの手伝いをしていたら出来るようになっただけで、俺に出来るのはその二つだけなんです」

「なんと!! まるでテリサバース女神の与えたギフトのようだな!」

「ははは……王都には行きませんよ?」

「む、残念だ。君ほどの腕前ならもっと稼げるだろうに」

「俺はこの町にいてこその俺ですから」



まだ解明していない謎を解き明かしたいという目標もありますしね……。

しかし、人形大臣であるモリアティが、そのような法律違反を犯すだろうか?

俺がするなら違う方法を取りますが……。



「失礼ですが、その団体と言うのは本当に人形大臣であるモリアティ様が会長を?」

「ああ、していると父上から聞いている」

「だとしたら、全ての人形師に通達が来る筈ですよ? 今後作った人形は自分達の元に持ってくるように、とかある筈なんですがね」

「それもそうね。言ってはアレだけど、なんで金持ちの弟妹人形だけ欲しがるの?」

「可能性としてあげられるのは――【愛玩として手元に置きたい人種】の為か」

「「な!!」」

「貴族様の人形なら綺麗なモノでしょう? それなら価値がとても上がる。しかも一点物となれば欲しい変態は数多いでしょう? 何をそんなに驚いてるんです?」



俺の言葉に二人は目を見開いているが、実際そうだでしょう?

死んだ人形、特に弟妹人形を手に入れた場合、する事と言えば愛玩くらいしか予想が付きません。



「言っておきますが、随分と過去の記事にあったんです。貴族の弟妹人形を屋敷一杯にしてそこで寝泊まりする変態貴族の記事が」

「「そ……っ!」」

「そういう人種は貴族には一定数いるのだと書いてありました。ハロルド様の人形もそういう輩に狙われたという事でしょう」

「なんて非道な!!」

「その契約を早く破棄しないと、フロソワが後一年で亡くなった場合無理やりでも連れて行かされますよ」

「……直ぐに父上に相談する。確かに違法なのにどうして貴族たちは気付かなかったのだろうか?」

「恐らく、人形大臣だというモリアティが会長と言えば、自ずと信頼があって頷いたんでしょうね。でも可能性としての話ですが、そのモリアティがその手の変態だったら?」

「なるほど、そういう見方もあるのか」

「……そこは盲点だったわ」

「でしょうね」

「トーマ、父上に聞いて目が覚めて貰えたら直ぐに連絡したい」

「構いませんよ。俺はあくまでも『可能性の話』をしているだけですから。不敬罪で捕まりたくはないものですね」

「あくまで可能性の話だったと言っておこう」

「お願いします」



こうしてホッと胸を撫でおろしつつ可能性の話としてしたつもりだったが、二人には刺激が強すぎたようですね。

少し反省せねば。



「しかし、一体何時の記事なんだろうか?」

「今から135年前の記事ですね。俺は歴史学者も兼任と言うか、古代遺跡にも興味があって色々調べていたら偶々見つけまして」

「君は博識なんだね」

「ありがとう御座います」

「確かに婿に欲しくなるのが理解出来るよ」

「ありがとう御座います。父もとても喜ぶでしょう」

「だが君たちのお陰でフロソワは助かるし、何より国の法律を破らずに済みそうだ。侯爵家を陥れた落とし前は着けて貰うが」

「それが宜しいかと」

「うむ、慌てていた為どれ位金額が掛かるかも忘れていたな……後で入金しても良いだろうか?」

「いえ、出来れば入金は必要ありませんので、その団体が可笑しいと声を上げて頂けたらと思います。多くの人形師や家族が悲しむだけでは済まないと思いますので」

「分かった、必ず伝えよう。そして行動に移そう」

「お願いします」



こうして朝一番の問題は去ったので俺達は家路に着くことになったのだが、後日ローダン侯爵家からお礼金としてとんでもない金額が支払われ、どうした事かと慌てるのだが、その金が以外な所で役に立つのは――まだ先の話。



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