第7話 女子力の高い俺と、気に入らない今回の翻訳の依頼人。
ファーボさんから受け取った鍵の家は、商店街の近くにほど近い一軒家だった。
借りてはあっただろうに、元々ミルキィが誰かと結婚した際に渡そうと思っていた家らしい。そこで、俺達は有難く使わせて貰う事にした。
「定期的な掃除はマリシアに頼んでいいですか?」
「構わないよ、妖精たちじゃ無理だろうしね」
「よろしくお願いします」
こうして町にある家の掃除はマリシアに頼む事にし、家具などはその内揃えようと言う事になった。ついでに此処と俺の家も繋ぎいつでも行き来出来るようになったので随分と楽になりますね。
ついでに買い出しも行こうと三人で歩きながら買い物も終わらせ家路につくと、そろそろ夕飯の用意を始めないといけない。
ミルキィとマリシア、メテオが新しい家での家具を色々会話している中で料理を作り始めると――。
「ベッドは大きいサイズが良いわよね」
「ああ、ダブルベッドとか言う奴?」
「そうそう、夫婦用ベッドね。後は私に似せた娼婦人形も作り始めないとかしら?」
「俺には必要ありませんよ」
「あら? 男性なら必要って言われてるのに?」
「最近、男性用避妊具と呼ばれるものの改良が進んでかなり使い勝手は良いそうです。それを使うのでいりません。量産体制も整ったらしいので問題ないかと」
「へ――。便利になったもんだね」
「それに、抱くなら妻一人の方が良いですよ」
「もう! 恥ずかしいわ!!」
「夫となる男性に自分にそっくりの娼婦人形を用意する発言よりはマシかと?」
「それはそうかも知れないけど……」
「俺は、貴女が良いと言ってるんですよ」
「分かったから! もう!!」
「ほっほっほ! いちゃついておるのう! あのトーマがこうも変わるとは!」
「一生涯抱くのは君だけ……っつてね!! 甘い!!」
「マリシアまで!」
「俺は罰金を払う事になっても子供二人は欲しいですけどね」
「えええええ!?」
そこまで驚く事でもないだろうにと思いながらも、顔を真っ赤に染めている所が可愛いので眼福と思いつつフィッシュアンドチップスを作って行く。
これに昨日の残りのバケットにガーリックチーズをのせてまた食べると言うのが今日の晩御飯です。
簡単にしたかったんですよね。明日は早くから動きますし。
「簡単で申し訳ないですが、昨日のパンにガーリックチーズを乗せて、とフィッシュ&チップスです。ハーブソルトを使っているので美味しいですよ」
「本当、美味しいな」
「トーマ君、結婚しよ?」
「もう貴女を妻に貰いますよ。安心してください」
「お、今日の飴はべっ甲飴か。妖精たちも喜んでおるわ」
「そう言えば今日はムッツリさんを見かけてませんね」
「ムッツリなら飴を咥えてあそこにおるぞ」
そう、あの性格ムッツリスケベだと言う妖精さんを見つけると、美味しそうに飴を舐めていた。
彼は比較的新しい妖精さんで、性格がムッツリスケベなのを無視すれば言う事ない妖精さんなんですが……ミルキィを見る目が危ないんですよね。
「ムッツリさん」
「はぁ~い?」
「今後、ご飯以外の時は箱庭での作業をお願いします」
「えええええええ!?」
「命令」
「はひ」
取り敢えずそうしておけば大事なミルキィを守れるだろう……と思う。
案外俺も嫉妬深いんだなと思った瞬間でもありました。
「明日の朝早くから核を入れ込みますが、まずは介護用から入れますよ」
「ええ、解ったわ」
「弟妹人形の性格に関しても完全ランダムです……そこは伝えました?」
「ええ、それはそれで楽しそうだからОKって事だったわ」
「なら問題なさそうですね。確か兄弟となる方の写真あるんでしたね。それを見ながら核を入れます」
「お願いします」
「服は着せました?」
「子供の方は何とか、大人の方はまだね。支給品のメイド服はあるから着せるけど」
「なら私が手伝ってあげるよ。重たいのは得意なんでね」
「ありがとうマリシア!!」
――そう、人形と言うのは存外重いのだ。
弟妹人形でもかなり重く、ミルキィは頑張って服を着せたのだろうと言うのは理解できたが、余り無理をしないで欲しい。
これからはマリシアに頼るのが良いでしょう。
私が作れるのは所詮デフォルメなので着替えさせられますしね……。
「そう言えばマリシア、地図は見当たりました?」
「まだないねぇ……ただ、手書きの地図は見つけたよ。ノートだったけど」
「古代のノートも取ってありましたからね、そこにありましたか?」
「施設の名前も書いてあったけど、案外此処と近いんだね」
「施設……此処から近いとなると、ボルゾンナ遺跡の事でしょうか」
「現代だとそれだね。トーマのご両親が無くなったあの遺跡。箱庭のあんたの机の上に置いてるよ」
「ありがとう御座います」
今度暇を見てみてみよう。
そう思いながら食事を終え、片付けをしながら妖精さん達に風呂の準備をして貰う。
人形はシャワーを浴びるが、俺達人間は風呂にも入る。
その為、俺の家にも一応浴槽はあるのです。
「女性二人先にお風呂どうぞ」
「私は家で入ってから来るわ。マリシア先にどうぞ」
「じゃ入ろうかね」
「ワシ等は最後に入ろうかのう。風呂掃除もあるからな」
「何時も助かります。明日の予定は朝ごはん前に二人の人形を起こす事と、朝は翻訳ですね」
「ああ、あの鬱になりそうな古代書じゃな」
「鬱になりそうな古代書……まぁあながち間違いではないですね。でも何故アレに出て来る人たちの名をマリシアが知っているのか……あそこで生活していたと言う事でしょうか」
「恐らく」
「何かの拍子で外に出て魔素が切れた……のか」
「理由は分からんが、マリシアを害そうとしたものがおったのやもしれんし、何とも言えんな」
「……」
「読む限り、古代人はとても野蛮だったようじゃしな!!」
「そうですね」
取り敢えずあの本を読み進めて翻訳していくしかない。
当時の写真も多い事から本が分厚く感じるが、中身は結構薄そうだった。
恐らく依頼主である【モリミア】は本当に翻訳が出来るかどうか確認の為に送って来たのだろう。
此方としては色々と有難い内容の本ではあったが――。
「何か気にくわないな、今回の依頼者」
「ん? あの鬱本を渡してきた相手か?」
「簡単すぎるんですよ翻訳が。写真も多い、恐らく自分で翻訳している文を俺が翻訳できるかどうか試してるんでしょうね。なら付箋付きで詳しくもう少し書いて差し上げましょう」
「ほっほっほ! 確かに内容に驚いておったが、そのやり方もあるか。よいよい、好きに知れば良いじゃろう」
「そうします」
幼い頃からみっちり祖父に教わったやり方でビビりあがらせて差し上げましょう。
そうと決まれば明日は早いので早めに寝るとして……明日はこの前書いた翻訳を再度読んで付け加え、後は読みながら……になりますね。
本は後半分。殆どが写真や図が記載されている。
図の記載は有難いので取らせて貰おう。
やるべき事、すべきことがハッキリしているとやり甲斐もある。
そう思いながらマリシアの次にお風呂に入り、身体を洗いフウッと息を吐いて湯船で身体を温めていると――。
「お背中お流ししまーす!!」
「結構です!!」
ミルキィが風呂場のドアを開けてやってきたので思わずバタンと閉めた。
ブーブーと文句を言っていたが、こっちも年頃の男性であることは理解して貰いたい!
「もー! お背中流そうと思って来たのにぃ~!」
「トーマは恥ずかしがり屋なんじゃよ」
「全く、初心過ぎないかねぇ?」
「貴女方がそこに居たら出られないでしょう!?」
「「「はーい」」」
そう言って去って行った音にホッとして風呂から上がり、生活魔法で身体を乾かして着替えを済ませると、うつ伏せに机に倒れるミルキィにマリシアとメテオはニヤニヤしながらリビングに座っている。
「何です? 何が仰りたいんです? ミルキィどうしたんです?」
「いやいや、ミルキィが一緒にトーマと風呂に入れるにはどうしたらいいとな?」
「駄目です。行けません。絶対NOです。嫁入り前にその様な真似許しませんよ!!」
「ほらね? 頭カチコチなのよトーマって。貞操概念が古臭いっていうかさ」
「うう……キスまでは許してくれるのに」
「「へぇ~~?」」
「キスまでは許しますが、それ以上はアウトです。俺の理性の問題です。それ以上は流石にミルキィが危ないんです。気を付けてください」
「食べて?」
「今は食べません。熟すのを待ってるんです! 美味しい時に美味しく頂きたい!」
そう顔を真っ赤にして叫ぶとメテオとマリシアに茶化されたものの、ミルキィが元気になったので良かった。
くっ! 恥ずかしい!!
婚約者を持つって大変なんですね……っ!!
「それより、明日は早く起きるんですから早めに寝ますよ。俺の仕事状況を確認してきますのでそれまでは起きていても良いですが、メテオは風呂に行くように」
「はーい、じゃあ私は寝るよ。おやすみ」
「さて、妖精ども風呂じゃ――!!」
こうしてゾロゾロと妖精さん達は移動し、俺は魔道具の所に行くと数通の手紙が届いていた。一つはいつも通りファーボさんで入籍の日取りを決めたいと言う連絡だった。
そう言えば半年後がミルキィの誕生日だった筈。真新しい手紙を手にすると、「誕生日を待たずとも入籍は何時でも致します」と返事を返した。これでよし。
他2通は人形の「魔素詰まり」と「魔素の流れをよくして欲しい」と言うもので、町に住む二人からの依頼だった。
こうやって人形の手入れをする人はいい家族が多い。
悪い家族だと魔素詰まりだろうが魔素の流れが悪かろうが放置するのが普通なのです。
「ロゾンさんは弟妹人形と、こっちも弟妹人形ですね」
「メンテナンス?」
「ええ、この二つは貴女が手掛けた弟妹人形では?」
「そうよ、ロビン君とテレナちゃんね」
「大事にされているようですね」
「その様ね……安心したわ」
「明日一緒に向かいましょう」
「ええ」
こうして午後二人で町に行くことになり、メンテナンスをしてから帰ると言う事になった。
取り敢えずは早めに寝て明日の早朝から仕事に取り掛からねば。
「では早めに寝ましょう」
「それもそうね。ねぇ? 私もこの家で寝泊まりできるようにしてくれない?」
「多分その前に町長から連絡が来ると思いますので、焦らなくともいいと思います」
「と言うと?」
「入籍の日取りを決めたいとの事だったので、誕生日を待たずに入籍可能ですとお返事を送りましたので」
「まぁ!!」
「今頃喜んでいらっしゃるんじゃないですかね?」
「私も喜んじゃうわ!!」
「では、喜びの中眠りにつきましょう。また明日」
「ええ、お休み」
そう言ってお互いチュッとキスをし合ってからミルキィは自宅へ、俺は寝室へと向かいベッドに入る。
風呂上りのミルキィもいい香りだったなと思いつつ、ふとブラも付けていなかったあのミルキィを思い出してムラムラしたが、自分も若いなぁ……と呆れつつ気付いたら爆睡していて朝になっていたので「俺は子供か!」と内心突っ込んだのは内緒にしたい。
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最後まで読んで頂きありがとう御座います。
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【★完結★】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい
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