第8話 新しい力の開花! でも平和に暮らしたいので封印です!!
早朝の6時、着替えを済ませて一人地下に降りてミルキィの家に向かう。
まだ妖精さん達も動き出した頃合いだ。
「今からか?」
「ええ、今からですよ」
一緒に眠っていたメテオにそう伝え、俺とメテオは一緒にミルキィの寝室へと入った。
ミルキィも起きて準備していたらしく、軽く挨拶を済ませると眠っている人形の元へと向かう。
最近ではミルキィの家には、今はマリシアが住む様になっている。
俺が頼んだのだ。ミルキィに夜何かあっては駄目だと思って護衛として着いているように。
我ながら過保護だとは思いますが、俺の精神的衛生上とても大事な事でした。
「服は着せてるよ」
「ありがとう御座います。木の実は此処に」
そう言って瓶に入った金に輝く木の実を取り出すと、心臓部となる背中にあるハッチを開けて中にセットする。
大きさが違っても魔素が捕まえてくれるので問題はない。
写真を再度見てイメージを膨らませ、大きく息を吐くと手を翳して魔法陣を浮かび上がらせる。
耐久年数は20年でイメージをし、魔素を一気に注ぎ込む。
あの時思ったイメージの通りの『母親』を注ぎ込みつつ、どうかランダムにならないでくれと思いながら魔素を注ぎ込み、魔法陣がグルグル回ってパチン! と音が鳴ると魔素の入れ込み完了だ。
起動は依頼主の頼みで家に帰ってからするらしいので、そのまま眠らせておく。
問題は子供の人形だ。
愛らしい人形で年は5歳くらいだろうか。
依頼主の男の子はとてもワンパクで、出来れば叱って支えてくれるような妹が欲しいと言う依頼だったが、これもどうなるか分からない。
ただ、ワンパク坊主を叱り飛ばすと言うと、マリシアが浮かぶので困ってしまう。
もう少し柔らかい感じのマリシアをイメージしながら魔素を入れ込み、こちらもパチンッと音が鳴ったら魔素の入れ込みは終了。耐久年数は20年にしてある。
「無事に終わった様じゃのう」
「良かったです」
「あら、そう言えば今まで気づかなかったけど、トーマ君の人形はいないの?」
「両親が人形師に頼もうとしたところで亡くなったので、俺にはいないんですよ」
「そうなの……」
「その代わり、俺にはメテオもマリシアもいますからね。大事な家族ですよ」
「ふふ、それもそうね」
「ミルキィの弟妹はどんな感じだったんです?」
「うちは妹だったわ。ミルって名前の女の子で一緒にお洒落したりして過ごしてたの。双子みたいに作って貰って、とても大切にしていたわ。私が二十歳になる時に止まってしまったけれど、『素敵な男性と恋をしてね』って言って眠ったの」
「そうだったんですね」
「正に素敵な男性と恋をしたわ!」
「んん! それは良かったです」
思わず照れてしまったものの、魔素が安定するまで少し時間を要する。
まだ魔素を取り込んでキュルキュルと回る実は安定せず、一時間もすると安定し始めて二人の木の実はピタリと止まった。
後はハッチを閉めて作った人形師しか開けれなくすれば大丈夫だ。
本来人形に使われる宝石は高いものが多い。
その為、中には人形を壊して宝石を奪い売りに出す闇組織もあるのだと言う。
それに元々人形自体が高級品だ。
無理やりハッチを開けて好みの人形を愛玩にする馬鹿もいる。
所謂『生きている人形では興奮しない』と言う人種が一定数いるのだ。
その為に人形師のオーダーメイドの人形は狙われやすいし、弟妹人形は特に狙われやすい。
「毎回人形を送り出す時は、ハラハラするのよね」
「無事に、と言う想いと、大事にされるようにと言う想いですね」
「ええ……シャーロック町では早々大事にされない人形なんて早々いないけど、近隣の村に行くと雑に扱われたりするから」
「介助人形だと言っているのに、農作業をメインにさせようとしたりですね」
「そうそう。本当困るの」
「それでミルキィはシャーロック村限定に今はしたんですよね」
「ええ、もう村に頼まれても人形を出さないわ。今回も数か所の村から依頼が来てたけどお断りしたもの」
「でしょうねぇ……ホーリーは娼婦人形を村にも出してるようですが、それでも扱いが杜撰だと文句を言っていましたよ」
「娼婦人形まで?」
「元々村で買うには高いのが人形なので、持ち寄りで一人だけ買って、後は男性全員の相手と言うのが壊れる原因だそうです」
「最低な屑野郎共ね」
「壊れる回数が余りにも多くて、お金のあまりない村にはもう出さない事が決まったそうですが」
「当たり前よ!」
「買うのなら3人から。と決めてるそうです」
そうすることで人形を買う為に男共は必死になるし、3人からとなれば金額もかなり跳ね上がる。
その為、ある程度お金に余裕のある裕福な村では、大層大事にされているらしい。
それでもメンテナンスは半年に一度あるらしいが。
「ワシ等のような妖精さんじゃ需要がのう」
「ありませんからね」
「そもそもがトーマがモグリなんだから難しいだろうに」
「それもそうですね。取り敢えず朝ごはんにしましょうか。一旦俺の家に戻って貰って食べてから、取りに来られるのは朝10時でしたね?」
「ええ」
「ではその前に戻っておきましょう。俺は姿を消しておきます」
「分かったわ」
「午前中は箱庭で作業しますので、午後からメンテナンスに伺いましょう」
「はーい」
こうして一日の予定を確認し合い、一旦家に戻って朝ごはんを食べ、ミルキィが戻った所で俺とメテオは箱庭の自室に向かい、依頼の本を翻訳しながら過ごした。
その他にも人形でありながら人形師だった『コウ』と言う人形と『エミリオ』と言う兄弟人形の事も書かれており、彼らは足元にも魔法陣を置いて人形に魂を与えていたそうだ。
足元に魔法陣……人形故のやり方だろうか?
そう思った途端頭で歯車がカチリとハマり、そのやり方が津波のように押し寄せ目を回して椅子から倒れ込んだ。
「トーマ!!」
「う……」
「大丈夫か!? 一体どうしたのじゃ!?」
「暫くすれば……元に……新しい……人形の魔法陣です」
「新しい人形の魔法陣じゃと!?」
「ああ、俺が……まともに人形を作れなかったのはこれが無かったから……なるほどです」
一分もすれば痛みは収まり、上半身を起こして溜息を吐くと汗をどっぷりかいていた。
なるほど、俺が作れるのは『応用の人形のみ』で、普通の人形を作ろうとするとメテオのような妖精さんになるのか……。
今の現代において応用人形などいないし、とてもじゃないが力はあっても宝の持ち腐れだ。
国にバレれば特殊なこの力で使い倒されるのも分かっている。
冗談じゃありませんよ!!
「この力は封印です!!」
「ふ、封印するのか!?」
「俺は自由に暮らしたい! 皆と、ミルキィと幸せに暮らしたいのに、こんな高度な技術があったら平和に暮らせない!! もし本当に必要に迫れる場合があれば使いますが、その時は国にバレないようにコッソリです」
「な、なるほど」
「応用人形のパーツなら作りだすことも可能になりましたが、とてもじゃないが今の技術とは違い過ぎます。とても出せない」
「なるほどのう……相分かった。トーマの好きにするのが一番じゃ」
「ありがとうメテオ」
こうして再度お昼まで読み進め、辞書を開きながら付箋で更に詳しい書き込みも行い、ついに一ヶ月もせず翻訳が終わったので、後は清書して出すだけだ。
無論本も返すが。
「この手の古代書はまだ持ってるんでしょうね……是非読ませて欲しい」
「嫌がらせで送りつけて来るんじゃないかのう?」
「嫌がらせ? この程度が? 受けて立ちましょう」
そうニヤリと笑うとメテオも「ほう、面白そうじゃな。知識VS知識か」と口にする当たり理解がありますね!
とは言え、午後からは別の仕事です。気持ちを切り替えましょう。
数回深呼吸し、襟もとをただすと俺は家に戻り、ミルキィと合流すると無事に人形を渡せたようで、書類も既に国に送ったらしく、「では」と俺の仕事についてくることになった。
まずはロゾンさんの家のロビン君のメンテナンスだ。
町にある家に到着しドアを開けると家具が配置されていた。
一体誰が――と思ったら、「これ、お父様ね」と溜息を吐いていたので苦笑いが零れる。
「も――過保護なんだから」
「俺がまだヒモだと思われているんでしょうねぇ」
「何度もヒモじゃないって言ってるのに!」
「まぁ、草の根運動で分かって貰うしかありませんよ。ロゾンさんのお宅に向かいましょう」
「それもそうね」
こうして住宅地が並ぶ一軒のお宅に到着すると、チャイムを鳴らすと10歳くらいの少年が出て来た。
彼がロビンの兄となる子供の筈だ。
「こんにちは、人形師の、」
「ロビンが苦しそうなんだ! 急いで見てやって欲しい!!」
「直ぐ行きます!」
こうして急ぎ中に入ると、ロビンはベッドの上で苦しそうにしており、直ぐに『魔素詰まり』だと分った。
背中のハッチの前に手を翳すと、急ぎ応急処置から始める。
ロビンの体には9個の魔素詰まりが出来ていた。
魔素詰まりは10個出来れば死に至る……魔素も大量に使った痕が見える為、かなり危険な状態だ。
それでも、一つ、二つ、三つと魔素詰まりを溶かしていき、2時間経過する頃には魔素詰まりは全て取り除くことが出来た。
これが第一段階。
続いて魔素の滞りを治す作業を行い、綺麗に循環しだすと苦しさが消えたようで眠りについている。
「安定しましたね……魔素の残りは……後2年」
「ロビンは後2年しか生きれないの!?」
「魔素詰まりが9個で来ていたんです。もう少し早く知らせてくれれば魔素はそこまで減らずまだ持ったんですが……」
「だから父ちゃん早めにって言ったのに!!!!」
「し、仕方ないだろう!? 忙しかったし」
「忙しいで死んだら意味がないんだよ!!」
「……それもそうだな、ロビンの寿命は俺の責任だ……増やすことも出来ないのだしな」
「ううううう……ロビンッ! ロビンッ!!」
可哀そうだが、魔素を増やす方法は……あるにはある。
先ほどの頭に流れて来た情報では俺であれば魔素を増やすことは可能だった。
だが、それは『現代の人形師にとっては出来ない技』なので、とてもしてあげることは出来ない。
「後2年、どうか可愛がってあげてください」
「申し訳ない、本当に申し訳ない!!!」
「忙しさにかまけていたら、次はもっと大事な者を失いますよ」
そう忠告すると男性は自分の息子を見つめ眉を寄せて今にも泣きそうな顔をし「肝に免じます」と頭を下げてくれた。
お代は既に斡旋所経由で俺の通帳に入れてくれているそうなので、後で確認にも行こう。
「仕事ばかりで家庭を顧みない親は多いとは聞いてたけど……」
「今回はその事例ですね」
「ロビンが死ななくて良かった……それでも、もう寿命が短いけれど」
「後2年あるんです。沢山思い出を作られるでしょう」
「それもそうね」
そう言って次なるお宅へと足を運ぶのでした――。
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