第3話 失礼で放っておけない隣人さん……ミルキィには手を焼きます。
歩いて一時間程掛かるシャーロック村には定期的に通っている。
野菜の種を買う為だったり、ミルクを買う為だったり、その日いい食材を見つけたら買いたいからです。
野菜に関しては箱庭に農園を作っているので、そこで妖精さんと呼ばれる俺の作った人号達が世話を焼いてくれている。
本当はヤギ等買えたらいいんですが、育てたヤギを肉にすると言うのはどうにも……。
肉は諦めてマリシアが時折山で狩ってくる野生動物で何とか凌いでいます。
この辺りはモンスターがでない平和な地区なので問題はありませんね。
出たとしてもスライムくらいで、よく川に流されているスライムを見ることがあります。
平和ですね。
「トーマ、今日は新鮮なミルクが入ってるよ!」
「頂きます。昨日からミルキィさんの世話を焼いているので欲しかったんですよ」
「あら、またミルキィちゃん倒れたの?」
「仕事のし過ぎですね。全く手の掛かる隣人です」
「ははは! ミルキィちゃんの方が年上なのに、トーマが面倒見てる状態だな!」
「早くお嫁さんに行ってくれるといいんですがねぇ」
「そりゃ無理だろうよ」
「トーマが貰っちまえ! はははは!」
皆さんも言いたい放題ですね。
思わず遠い目をしたくなったものの、卵も幾つか仕入れ、野菜の種と新鮮な野菜を調達する。
後は日用品ですが……石鹸がそろそろ欲しいのと、ミルキィさんを少しでも早く治って貰う為に初級ポーションと……。
アレコレやはり買ってしまうのはミルキィさんがいるからですね。
もう少し質素倹約で行きたいですが、女性に厳しい節約を強いる訳には行きませんし。
服は大体中古品で買えますし、もうそれなりに大人になった俺は服を早々買い替える必要もありませんからね。
鞄くらいは大きいものに買い替えたいですが。
「それでは日が暮れる前に帰ります」
「ああ、あんな不便な場所に住まずこっちに越して来ればいいのに」
「祖父母との思い出もありますからね。若い内はあちらで過ごします」
「ミルキィにもよろしくな!」
そう言われて山道を歩いていると、前から一人の男性と一人の人形が歩いて行きました。
ホーリーとリリシアですね。
俺の友人でもあるホーリーは元貴族。
亡くなった婚約者に模して作られたリリシアと生活する、娼館専用の人形を作っている人形師でもあります。
「久しぶりですねホーリー。リリシア嬢」
「久しいな。息災か」
「ええ、今家にミルキィが来てますよ」
「また保護されたのか。全くだらしのない女性だ」
「ホーリーは今からメンテナンスですか?」
「ああ、娼館にいる人形の動きが悪いらしくてな。メンテナンスして動くようなら使うし、駄目そうなら壊して新しいのを用意する」
「そうですか」
「君も若いんだし、ミルキィ嬢の相手ばかりしてないで娼館にでも行って発散すればいいのに」
「俺はそういうのは遠慮しますよ」
「潔癖症だな。それとも、君には世話になっているからオーダーメイドで好みの女性を作ってやらなくもないぞ? 夜のお供にどうだ?」
「生憎、貰ってくれと煩い女性がいるので、そういうのを持っているだけで大変な目に遭いそうです」
「ははは。ミルキィ嬢は嫉妬深いのか」
「どこに行ってもミルキィを貰えと言われるんですよ。こんなの町長が聞いたらどうなることか」
「喜ぶだけだろう」
「うーん……」
「まぁ、君が結婚適齢期ではないから強く言って来ないだけだろうな。結婚適齢期ならミルキィ嬢を嫁に貰えとせっついてると思うぞ」
そう言って苦笑いする想像に難くない問題に頭を抱えつつ、「優しくするなら最後まで面倒を見てやったらどうだ?」と言って町へと去って行きました。
――優しくするなら最後まで面倒を……ねぇ。
「お取り置き、お願いしとくかな」
別にミルキィが嫌いな訳ではない。
手は掛かるし世話も掛かるが、彼女といると楽しいと言うのも否めない。
メテオとマリシアが懐いていると言うのも大きい。
それに、何だかんだと言って放っては置けないんです。彼女は俺がいないと何時か死にそうですしねぇ。
小さく溜息を吐き、自分も何だかんだとミルキィを慕っているのだと気づき少し悩んだが、こういうのはもう恋に押した方が負けなんだろう。
現状どっちが先に落ちたのかと言うと、多分ミルキィの方だと思いますが。
そんな事を考えながら家路につくと、家の冷蔵庫に買ってきた物を入れて氷の魔石が足りているのをチェックし冷蔵庫のドアを閉める。
しかし三人が見当たらない。
「妖精さん、三人は何処に行きました?」
「はこにわー!」
「ありがとう御座います」
その言葉を聞いてリビングの床下に入り地下にある物置を抜けた先にある大きな見た目は引き戸の箪笥の扉を開けると、そこから俺の箱庭に通じる道がある。
人が入ってきてもこれならバレにくい。
中に入ると程よい気温の中、マリシアとミルキィが畑に水をやっていた。
「ただいま帰りました」
「「おかえりなさーい」」
「種は買ってきたかのう?」
「ええ、野菜の種は買ってきました。妖精さん、これが買ってきた種です。また畑をお願いします」
「「「りょうかいでーす!」」」
そう妖精さんに種を手渡すと、早速作業に入った様子。
今日使う分の野菜を収穫し、やはり野菜スープは神料理と思いつつアイテムボックスに入れていると――。
「ねぇトーマ君?」
「何でしょう?」
「メテオから聞いたんだけど、この家と私の家、繋げられるって本当?」
「……メテオめ」
そう言うとメテオは顔を反らし、マリシアは苦笑いしていた。
「確かに繋げられますが、箱庭で生活するつもりですか?」
「いやいや、行き来が楽になるなーって思って?」
「と言いつつ、同棲生活するつもりでしょう?」
「ん~~? 避難所が欲しいって言うか……やっぱり年の離れたおじさんと結婚はしたくないっていうか」
「それに付いては、今度ミルキィが町長に連絡して貰おうかと思ってたんです」
「というと?」
「俺、貴女をお取り置きしたいので」
「お取り置き」
「一年後、妻に貰おうかと」
「妻に貰う」
「嫌ですか?」
「末永くよろしくお願いしま――す!!」
そう言ってホロホロ泣きながら抱き着かれ、やれやれと思いつつ抱きしめる。
「手の掛かる相手ですからね、俺が面倒を見ないと死んでしまうような女性ですしね」そう語ると何度も頷き「そうね、そうね!」と喜んでいたのでよしとしよう。
「これで憂いは無くなりましたか?」
「ありがとう、ありがとうトーマ君!!」
「はぁ……責任持って面倒見ますから、貴女の家に今度通路を繋げますよ」
「うん! うん!!」
「結婚するまでは寝室は別々です。貴女は自分の家で寝泊まりしてください」
「むう……」
「婚前に身重にしたくないので」
「う、解りました」
そう言うと俺から離れる瞬間に頬にチュッとキスをされ驚くと、満面の笑みで微笑んでいるミルキィがいて、「全く」と少し頬を染めて見つめると顔を赤くして離れて行った。
これで本当の意味で憂いは無くなった事でしょうし、後はミルキィが町長に手紙を送るなり話をしに行けば問題は解決するでしょう――と思ったら。
「今度実家に一緒に挨拶に来てね!!」
「くっ! 仕方ないですね!!」
俺も行くようだ。仕方ない……殴られるか喜ばれるかのどちらかだろうと思いますが覚悟を決めて行こうと思います。
――その後夕飯の準備に箱庭から外の古びたログハウスに戻り、夕飯の支度をし始めるとメテオがやってきた。
「お主も年貢の納め時じゃのう」
「そう仕向けたのはメテオでしょうに」
「まぁ、ミルキィが随分と思い悩んで負ったからな。それこそここ3年ほどじゃろうか」
「3年も?」
「お主に惚れ取ったんじゃよ。男冥利に尽きるのう!」
「3年前ってまだ俺10代ですよ?」
「お主の目が好きだと言っておったな。確かに珍しい目じゃし、古代昔ではそういう目を持つ者を何と言っておったのかお主も知っておろう?」
「古代では当たり前にあった目ですよ。この目のお陰で古代魔法が使えて人形の核を作る事が出来るし、込める魔素は現代の人間よりも数倍から数十倍多い」
「うむ。今の人形師たちの作れる人形の命は精々5年から20年……。お主の場合は、それよりもはるかに多い。人形の為に出来る【強制停止】させる方法もお主は古代のやり方じゃ。お主は人形の【記憶を削除】も出来るじゃろう? それを使えば助かる人形とて多いじゃろう」
「【人形の記憶削除】は……ミルキィには言わないで下さいよ」
「うむ、だが現代では【人形の記憶削除】をする魔法陣はまだ開発途中だと聞いているが?」
「現代に出来上がっていないスキルを使うと、碌でもないことが起きますよ」
「確かにのう」
そう言って料理を作りつつ今日は肉団子をふんだんに使ったスープに、昨日俺が食べたデミグラスソースが掛かった肉団子、それにパンを用意するとマリシアとミルキィが箱庭から出て来て手を洗い椅子に座った。
「そう言えばミルキィが作っていた弟妹人形は何時出荷なんです?」
「予定では一週間後。後は書類を書いて国に送ったりって感じかな」
「ああ、遠距離通信用の魔道具がありますもんね」
「トーマ君も買えばいいのに」
「分不相応です。俺は身の丈に合った生活で良いんです」
「じゃあ、お父様に話して婚約出来たらお祝いに買いましょうね?」
「全く……」
「私の方が稼いでるんだから養ってあげる!!」
「養われている人が何を言ってるんです」
「えへへ、それもそうね!!」
思わず苦笑いが出たが、料理が出来上がり三人分の料理を机に並べると、やっと食事となり、ミルキィも「やっとお肉~~!」と喜んで食べていた。
流石に三食ミルク粥は辛かったらしい。
「そう言えばこっちに来る途中にホーリーに会いましたよ。娼館の人形のメンテナンスとかで」
「そうなんだ。トーマ君は娼館行ったりするの?」
「ホーリーにも言われましたが、行きませんね」
一般的にこの国では男性は女性を余り抱かない。
二人も子供を産ませると罰金を支払わされるからだ。
その為、子供が一人生まれたら娼館で発散するのが一般的でもあった。
女性もそれは仕方ないと思っているようで、反対する者は殆どいないのも知っているが。
「トーマって性欲あるのか? ってくらい性欲無いんだよ」
「マリシアそうなの?」
「うん、枯れてる」
「枯れてるの!?」
「失礼な事を言わないで頂きたい」
「まぁ、男にだけにしか分らぬ事もあるわなぁ?」
「そうですね」
そう言うとマリシアとミルキィは「ふーん」と口にしていたが、別に性欲がない訳ではない。
無い訳ではないが……うん、確かに枯れているんだろうな。
「子供ができたら、奥さんに似せたそういう人形を作る家も多いだろう?」
「やだ、私そっくりのそういう人形が増えるのかしら」
「増やしませんから、作らなくていいですから! 変な事言ってないでご飯食べて下さい」
そう怒りながら言うとマリシアとミルキィは「はーい」と口にして食事をする。
全く、ミルキィそっくりのそういう人形なんて……まぁ、在れば使うでしょうが。
そんな口が裂けても言えない事を心で呟きつつ、明日は一旦ミルキィの家に戻り、箱庭の道を繋げると言う事で合意した。
明日も明日でやる事がある。
古代書を読むのはまだ先になりそうだなと思ったのは言うまでもない。
そして翌日――思わぬ事が起きるのだ。
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【★完結★】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい
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