第4話 チートが使えるけれどバグなのかペナルティなのか……。

 翌朝、4人でミルキィの家に向かい彼女のお願いで自室に箱庭の扉を繋げたその時でした。

 玄関をノックする音が聞こえ、ミルキィが出ると――。



「ミルキィ~~! この数日何処に行ってたんだい!?」

「お父様!」

「新しい縁談だよ! 今回はね、」

「そのお話だけど、お断りするわ」

「むう、まだ結婚をしないつもりか? 流石にそろそろえり好みせずにだな?」

「違うの。私お取り置きされたの」

「お取り置き?」

「私、トーマ君と結婚するわ」

「!?」



 その言葉に俺が登場すると、町長であるファーボさんが目を飛び出さんばかりにこちらを見て来た。

 するとズカズカと歩み寄り俺の両肩を掴むと――。



「いいのかね!? 君は結婚適齢期にはまだ数年早いが!!」

「ええ、ミルキィには世話をよく焼いてくれる相手が必要でしょうから」

「そうか、そうか! 町の者たちがいつも『ミルキィはトーマくんが面倒を見ている』と言っていたが、そうかそうか!! ミルキィ、こんなに年の離れた相手を射止めるとは、流石俺の娘だ!!」

「と、言う事でお見合いは全てキャンセルでお願いね?」

「良かろう。だが来年には結婚と言う事になるが宜しいのかね?」

「ええ、俺でいいと仰るのでしたら喜んで」

「うう……やっと、やっと末娘のミルキィに相手が……君のお爺さんとお婆さんには世話になったからね! 是非うちの娘をよろしく頼むよ!」

「ありがとう御座います」

「ミルキィ!! 彼の為にもしっかり稼ぎなさい!」

「はい、お父様!!」



 こうして満足そうにして泣きながらファーボさんは帰って行った。

 殴られるかと思っていたんだが無事で良かった……年下過ぎて断られると思ったんだが。

 お爺さん、お婆さん、感謝します。

 というか、俺が養われる前提だったんだな……確かに箱庭師で登録しているから仕方ないですが……。



「これで憂いは去ったわ!! トーマ君は愛しの婚約者様よ!」

「おっと、ミルキィ。直ぐ抱き着く癖を何とかしなさい」

「婚約者の特権よ!」

「やれやれ」

「いいねいいね!! ちょっと狩りにいって上手そうな肉でも獲って来るかね!!」

「美味しい肉にして下さいよ?」

「分かったよ。いつも通り狩ったら血抜きして軒下に吊るしておくからね!」

「ええ」

「ワシはマリシアの胸からトーマの頭に移ろうかのう。狩りの途中で飛ばされたら溜まったもんじゃないわい」



 そう言って何時もはマリシアの胸の間にいるメテオがモゾモゾと動くと、ぴょーんと撥ねて俺の頭の上に着地した。

 小さいデフォルメ人形だからこそ、マリシアの胸を貸して貰えるのだ。

 寧ろうちの妖精さんたちはマリシアに良くなついている。



「まぁ憂いも無くなった事ですし、人形用の種類は量が多いですから持って行って書きますか? それともここで?」

「えっと、此処で書いて行こうかな。あら?」



 そう言うと遠隔用の連絡魔道具に手紙が届いているのを見つけ、ミルキィはそれを手に取り封を切る。中は何やら依頼の内容のようだ。

 なんでも、介護用人形が欲しいらしく、写真が一枚同封されていたが――。



「この依頼主のお爺様は痴呆が進んでいらっしゃるみたいね。この写真はお爺様のお母様の写真なんですって」

「その写真にソックリの人形を希望なのか?」

「そうみたい。声は付けなくていいって書いてあるわ」

「ああ、記憶の中にある母親の声と違ったら困るだろうからな」

「そうね」



 その他細かい設定の話も書いてあり、出来るだけ早めにお願いしたいと言う内容の手紙で、ミルキィはその日から人形作りに入ると言い出したので「定期的に様子を見に来ますよ」と言うと安心した様子で「お願いします」と微笑んでいた。



「お昼はサンドイッチを持って来て差し上げましょう」

「ふふっ」

「どうしました?」

「なんだかそれって、凄く贅沢だわ」

「何も食べずに倒れられるよりはマシですからね。それと今日はポンドステーキですから、ちゃんと夕食を食べないとポンドステーキは無くなりますよ」

「必ず食べます!!」

「宜しい。では俺は一旦家に戻ります。後は良いですね?」

「はーい」



 こうしてミルキィとはその場で別れて家に戻り、簡単なサンドイッチを作ってバスケットに入れ、紅茶の入ったポットは後で淹れたてを用意しようと思い椅子に座ると本を読み始める。


 ずっと読みたかった古代書の人形を作る際の書物で、自分もちゃんとした人形を作れるのではないだろうかと勉強中なのだ。

 人形にはいくつものパーツがある。

 頭部、顔、目、耳、腕や手首、関節が動くところは大体あるようなものだ。

 何度生成しても俺にはデフォルメ人形しか作れない……もっとこう、人間に寄せた人形が作りたいのだが……。



「むう」

「トーマはチート並みの古代魔法陣が使えるのに、そのペナルティかのう? ワシ等のようなデフォルメ人形しか作れんのは」

「悔しいですよね……人形師ならもっと人形らしいのを作りたいのに」

「じゃが、お前さんモグリの人形師じゃからのう」

「メンテナンスとかは出来るんですよ。魔素の循環を整えたりするのは得意です」

「普通はそっちの方が苦手と言うものが多いんじゃがな。トーマは応用が出来るが基礎が出来ぬと言う奴じゃな」

「初歩的な基礎が全く出来ないんですよね……何度練習しても、頭では理解出来てるのに。そもそも魔素を詰め込んで想像している性格が出来る事がない……完全ランダムと言うのも結構辛い」

「ふむ、古代人形と現代の人形ではどう違う?」

「今の人形とはかなり異なりますね。基本は一緒なんですがかなり高度な技術を用いて作られています」

「応用の人形は作れる……と言う奴かのう?」

「応用人形か……」

「普通の人形を作ろうとするから失敗するんじゃないのかのう?」

「なるほど」



 これは要確認ですね。

 応用人形とは古代には沢山いたと少し読んだことがあります。

 全ての本を読み終える……のには時間が掛かりますが、応用人形か。

 チラッと読んだ話では、今いる介助人形、介護人形の他に、医者人形、看護人形、最も有名な所だと、【人形でありながら人形師】と言うのもいたのだという。

 嗚呼、なんて夢の広がる……応用人形が作れるのなら、是非人形でありながら人形師だと言う人形を作ってみたい。



「軍に所属していた人形や開発者人形の恋物語……と言うのを昔読んだことがありますが、あれはあれでなんとも切ないものがありました。過去の古代人形は誰かのコピーが最初のスタートだったそうですね」

「うむ、過去の最初の古代人形は、誰かの脳をコピーして作られていたともお主から聞いたな」

「脳しか作られなかった人形もいると言うのですから……その脳だけの人形は今は機能停止しているそうですね」

「このシャーロック村の周辺は古代遺跡が沢山ある場所じゃろう?」

「ええ、国の調査団が何度も来ては開けられないと嘆いてましたね。爆破でも開かないのだとか。壁にヒビすら入らないとも聞いています」

「ほう……まぁ、国が守っている古代遺跡じゃからのう。我々では入る事など無理な事じゃろう」

「そうですねぇ。人間とほぼ変わらない人形もいたと言いますし、マリシアは俺が無理やり起動させたようなものですが、今のマリシアは不思議な実を核に動かしていますが、機能停止している核を動かす事も出来たんですよ。でも、それは危険な気がして……」

「マリシアは見た目も珍しい見た目ではあるからのう。真っ白な髪に切れ長の猫の様な大きな目、色黒な肌。元は何だったのだろうな」

「マリシアには古代のロマンがありますよ」



 もし、本来の魂となる核を動かしていたらどうなったのだろうか。

 魂の切り替えは古代魔法で可能だが、今はやるべき時ではないと思っている。

 何かの拍子に起動する可能性も古代人形な為否定できないが、今の所は大丈夫そうだ。



「脳だけの人形はハルバルディス王国の地下に眠っていると聞いています。もう機能停止して長いそうですが」

「そうなると古代地図がみたくなるのう!!」

「古代地図……ですか?」

「このハルバルディス王国付近の地図とか~~なかったんかのう!?」

「うーん、今度調べておきます」



 と、メテオとは古代関係について語り合うことが多い。

 マリシアとだと少し危険だと感じる時があるからだ。機械音が悲鳴を上げるというか、多分本人は古代の事を記憶しているのだと思う。

 古代の事を聞きたいのならマリシアの本来の核に魔素を入れるべきだろうが……それは余りにも危険だ。



「古代の地図か」

「古代の地図がなんだって?」

「おかえりマリシア。いい肉は獲れたかい?」

「新鮮なウサギと野ヤギが1頭取れたよ。血抜きしてるから後で捌くさ」

「頼みます」

「所で、古代地図がなんだって?」

「ええ、ちょっとこの辺の古代地図が見たいなって思っただけですよ」

「ふーん……古代地図なんてハルバルディス王国しか持ってないんじゃないのかい?」

「やはりそうでしょうか?」

「私も古代文字は読めるからアンタの図書館に入っていいなら手伝ってやるけど」



 そう言われるとあの膨大な量から地図を探し出すのは一人では骨が折れる。

 地図だけなら……と、俺は頷き笑顔で答えた。



「では、地図探しだけ手伝ってくれます?」

「あいよ。チマチマやろうかね」

「助かります。無理は禁物ですよ? いいですね?」

「あいよ」



 そう言うと苦笑いされたけれど、機械音が激しくなると言う事は魔素を大量に使っていると言う事。

 魔素の流れが滞れば死の危険もあるのだ。

『魔素詰まり』と呼ばれるその現象は、突然人形が壊れる時に起こりやすい。

 地図探しをしてくれた日は必ず魔素の点検をしようと心に決めた。

 すると――。



「そう言えば昼間は性欲の事でアレコレ言って悪かったね。アタシの友人で『セレスティア』って人形がいるんだけど、その子は娼館で働いてた娼婦人形だったんだけどね、娼婦人形は嫌だって施設に逃げて来て身体を新しく作り替えてね。施設では医者人形として働いてたんだよ。何時の時代も人形ってのは壊されやすいもんだねぇ。あーやだやだ」

「え?」

「ん? 私今なんて言ったっけ?」

「いえ……ただの独り言を仰ってましたよ」

「そうかい? 何か大切な名を口にした気がしたんだけどね。なんだったかな」



 そう――不意に古代の話をすると、マリシアから聞いたことのない言葉が出て来る。

 恐らく本来の魂、核の部分に魔素が少し流れて離しているんだと思われるが、その話とはおとぎ話のような……あり得るのかと言う話が多い。

 現代において古代の事など知る事が出来ないのに、まるで古代にいるかのようにマリシアは語るのだ。

 前に出てきたのは『夫のアンクとはとてもラブラブな夫婦だから早く帰りたい』……そんな言葉だった。

 そして今回出て来た『元娼婦だったセレスティア』……マリシアに関係する大事な人形なのだろう。

 彼女が過去の事を思い出すと何時も『帰りたい』と口にする。

 ――何処へ?

 その答えは、今も聞けないままでいる……。



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【★完結★】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

【★完結★】召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

【★完結★】石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!

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