第2話 人形師は実入りが大きい。だが国に管理される。

 王都より少し離れたシャーロック町に、何故人形師がいるのか。

 国が管理する人形師は、確かに王都に集中しています。

 しかし、他の街や町、村でも人形師は少なからず存在しており、人形を作れば面倒な書類を書いて国に提出すれば、他の場所でも人形師は仕事が出来るのです。

 楽をして人形を作りたい人の為に、人形のパーツも各村や町などにも店があり、それを購入する事ができる――と言う訳ですね。


 人形師は実入りが良い。

 無論国が管理する人形師ですから収入も馬鹿でかい。

 そもそもレアスキルなので、それを持っているだけで国から補助金すら出ると言う優れたスキルです。

 けれど、規約もその分厳しく、人形師が人形を作って書類を提出しないだけで罰金が科せられます。

 人形に魂を入れる前ならば書類を提出する必要はありませんが、人形に魂を入れた時点で国に面倒な書類を送り、その人形を依頼主にまで国の用意した馬車がやってきて送り届けると言う段階で、最後の書類にサインをしないといけないと言う二段階の厳しい制約。

 それを経てようやく仕事としては終わり――と言う事になります。


 隣人ミルキィは、介護要員や介助要員の人形を主に作る人形師。

 それでも、たまに弟妹人形を作って欲しいと言う依頼が舞い込むほど、腕前は良いのです。

 個人的な依頼の場合はその分料金も跳ね上がる。

 王都では良い屋敷に人形師が住んでいる――なんてのは、当たり前の光景だそうですよ。



「ミルキィも王都で使用人を雇って住めば宜しいのに」

「いやよ。だって王都ってお金持ちが多いイメージだもの。人込みも嫌いだから行けないわ。それより古代文字を読めるトーマ君こそお城で雇われるべきじゃないの?」

「嫌ですよ。俺は自由に生活して自由に楽しんで自由を謳歌したいのに」

「それは私も同じだわ? 私だって自由でいたいからパパのいる町に住んでる訳だもの」

「でも実家には住んでないじゃないですか。実家ならお手伝いさんもいるから生活には困らないでしょう?」

「嫌よ実家なんて。兄は結婚して既にお嫁さんと一緒にいるのに、私が行ったらまた『お前は何時結婚出来るんだ? 行かず後家にでもなるつもりか?』ってチクチク言われるわ」

「男性は結婚出来なくともチクチク余り言われませんけど、女性は厳しいですからねぇ」

「いっそトーマ君が私を貰ってくれないかしら? 駄目?」

「本当に貰い手が無かったら貰って差し上げますよ。まずはちゃんとお見合いをして下さい? この前お父様が来ていた時、お見合い断ったでしょう?」

「う……。だってお相手が40歳も年上の方だったんだもの」

「ああ、それは断りますね」

「今度のお見合い相手は60歳って聞いてるし、自分の価値の無さを改めて痛感してるわ」

「むう……確かに貴女はとっても、とっても手が掛かるのは否めませんが」



 それでもミルキィとは長い付き合いです。

 自分に価値がない等とは言って欲しくはないですね。

 本当に貰い手が無い場合は嫁に貰おうとは思いますが……期限としては後一年程でしょうか。

 今住んでいる家を離れる気はないですし、問題はミルキィも住んでいる家を離れる事を望んでいないと言う事。

 徒歩15分圏内ですが、何かと面倒なんですよね。

 まぁ、ミルキィの家に箱庭の扉を繋げれば問題はないんですが……今は言わなくともいいでしょう。



「まぁ、ミルキィが結婚しなかったら嫁に貰うってトーマも言ってる訳だし、それまで見合いを断りまくって断っちゃいなよ。んでもって! 婚期にもなってない年下の旦那をゲットだよ!!」

「ワシもそっちがええ気がするのう。トーマは何だかんだと世話焼きさんだじゃからの」

「そうなの! トーマ君って凄く世話焼きさんでとっても気が利いて優しいの!!」

「むう。褒めても美味しい料理しかでませんよ」



 と、俺が料理をしながら妖精さん達がワタワタ手伝いつつ、マリシアとミルキィはダイニングテーブルに座って紅茶を飲みながら料理が出来るのを待っている。

 今日はミルキィの身体を元に戻すべく柔らかい食事からスタートで、最終日にポンドステーキを出す予定にしています。



「料理出来ましたよ。ミルキィはまず胃を元に戻すためにパン粥からスタートです。ポンドステーキは最終日に御出ししますからまずは身体を慣れさせて下さい」

「はーい……」

「マリシアは猪を獲ってくれたお礼にポンドステーキです」

「やったね!!」

「俺はデミグラスソースを沿えた肉団子と野菜スープにパンですね。明日のミルキィの夜の食事です」

「うう……ひもじい」

「そう思うなら、もう少し食事に気を使って下さい。俺がいないと本当に貴女は何もできませんね」

「うう……自分の無価値を痛感してます」



 こうして食事が始まり、ミルキィはパン粥を食べつつも「久々のお料理美味しい」と泣きながら食べ、マリシアは豪快に食べ、俺は肉団子を半分に切って食べつつ野菜もしっかり摂る。

 そう言えばミルキィの母親は何処かの貴族だった筈。

 町長と貴族の子供なら貴族……では中々難しいだろうが、良い所の男性とは結婚でき……る筈だったんでしょうが、【生活魔法】を持っていないと難しいのでしょうね。



「はぁ……貴女は無価値ではありませんよ。しっかりと仕事はしていますし、個人依頼も多い。先日は介護要員3人作り上げたじゃないですか」

「でも、介護人形って壊されやすいのよね……人形って丈夫だけど、心がある人形だって理解しない人が多いから……」

「前々回作った介護人形3人の内、二人は身体が壊されていて、一人は心が壊れていたんでしたね……」

「身体を壊された人形だって笑う事がもう出来なくなっていたわ。私じゃどうしようもなくてトーマ君に【強制停止】して貰ったけど……」



 人形が生きたまま【心を壊された】場合、救済処置として核の魔素を抜き取り強制停止させることが出来る。

 本来ならば作った本人がしなくてはならないのだが、ミルキィは人形を壊すことが出来ない人形師なのだ。

 そこで、古代魔法が使える俺が無理やり魔素を抜き、強制停止させたのは三日前の事だった。



「彼女たちにはお墓は作ったんですか?」

「ええ、綺麗に元に戻して墓に入れたわ」

「また税金が上がりますよ」

「だからこそ頑張って人形を作ってるじゃない」

「貴女は人形を作れば作った分だけ税金を払う御つもりですか?」

「……無事に戻ってくれる人形が少ないのが、この国の病よね」

「そうですね」



 人形師の作る人形は、人間ではないからと言う理由で破壊されやすい。

 手荒に扱われて壊れる事など日常茶飯事で、だからこそ国でも人形を乱暴に扱うのを禁止している。

 しかし、それを無視する人間とはとても多く、人形を壊した場合の罰金が国の法律で定められたのはつい最近の事だ。

 その罰金は人形師の心のケアーに使われる事になっていて、罰金の金額は大きいが、支払いに応じない場合、国の弁護士との裁判の末、高確率で懲役されることが決まっている。

 そこまで厳しくしてやっと、人形たちの【命と心を】守れるようになったのも、つい最近の事なのだ。


 また、ミルキィのように人形を壊せない人形師は税金を人形一人につき結構な金額でし払わねばならない。

 だからこそ壊せる人形師は強いのだが……この境目こそが、人形師の素質の問題とも言われている。



「トーマ君の家は寿命で死ぬ人形は多いけど、皆幸せそうだものね」

「人形と言うか、妖精さんですね。彼らは寿命が近づくと箱庭にある見た事のない木の前に集まって眠りにつきますから……しかしあの木は何なんでしょうね」

「植物図鑑にも乗ってない木なんだよねアレ」

「ええ」



 真っ白な幹と真っ白な枝、真っ白な葉をつける見た事も聞いたこともない木が俺の箱庭には一本だけ生えている。

 そこは妖精さんたちの憩いの場でもあり、俺も箱庭に入れるようになってから既に大きい木として聳えていた不思議な木だ。

 妖精さんがまた一人、また一人と寿命を終える時、その木の根元で幸せそうに眼を閉じて永遠の眠りにつく……。

 その度に金色の実が生まれ、俺はそれを大事に保管している。


 俺の初めて作った人形であるメテオと、しっかりとした性格を考えて目覚めさせたマリシアは、その実に古代魔法陣を浮かび上がらせ、これでもかと魔素を注ぎ込んで核としている。

 不思議とメテオは喋るのが得意ではない妖精さんとは違い、流暢な言葉を使う人形になった。

 マリシアもだが、とても淀みのない言葉を使う事が出来る。

 人形は喋るのが余り得意ではない場合が多い。

 声帯を作り上げるのが難しいと言うのもあるが、人形の中には声を入れられずに起動させられる人形も多いのです。


 特にその系統が強いのは、娼館などで働く人形たちでしょうか。

 彼女たちに声がある者は殆どいない。

 故に男性達は本当に性欲のはけ口として使って、終わればサッパリして帰る。と言うのが当たり前でもあった。

 この町にも数軒の娼館があるが、全て人形の娼館だ。

 数名の人形師たちが、娼館用の人形を専門に作っている為、お気に入りの店に男性は通う……と言うのも、この国では当たり前の事でもあった。

 無論、独身男性の場合オーダーメイドで専用の人形を作って貰い、家に置いて楽しむと言うのもあるようですが、俺には良く分からない拘りなんでしょうね。



「まぁ、妖精たちが楽しく人生を送って、幸せに満ちた様子であの木の根元で眠りにつく。それは一つの命の終わりではありますが……幸せだったと言う記憶を持って眠りにつけるのなら、それで良いのだと思います。実際そういう人形の方が少ないのですから」

「それもそうね……」

「人形の数だけドラマがあって、人形の数だけ人の営む人生があって、平和で人形も人間も仲良く笑い合える世界が戻ってくればいいんでしょうけどね」



 そう言うと「おとぎ話みたいだわ」とクスクスと笑うミルキィだったが、古文書を読む限りそういう時代もあったのだと書いてあったのだ。

 人間と人形が対等であった時代が――それは長く続いたのだと。

 でもある日、とある一体の人形が暴走し、多くに人間を殺めた為に人形と人間の間に亀裂が入り今の時代になった。

 そこからは人形を管理するのは人間だと古文書には書かれていた。

 ――何故暴走したのかは不明とされていますがが、本当に何故……。



「ポンドステーキ美味かった!!」

「それは何よりです」

「パン粥も美味しかったわ!」

「明日の昼まではパン粥ですよ」

「うう……トーマ君、もう私の面倒見て~~」

「行かず後家になったら貰って差し上げます。後一年誰とも結婚しなければね」

「うう……もうお父様にお見合い持ってこないように言っておこう。お取り置きされてるって言っちゃおうかしら」

「自分から進んで行かず後家にならないで下さいよ……せめて結婚出来るように頑張りましょう?」

「だって~~!! 変な男性と結婚したくな――い!!」

「「トーマ……」」

「何故俺が悪いって言う目をするんですか」



 そう言って食器を片付けて生活魔法で綺麗にしてから食後の紅茶をお出しすると、スンスンと涙を流すミルキィに小さく溜息を吐き、どうしたものかと悩みながら数日面倒を見ることになったのは言う間でもなく……。




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【★完結★】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

【★完結★】召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

【★完結★】石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!

【★完結★】天候を操れる程度の能力を持った俺は、国を富ませる事が最優先!~何もかもゼロスタートでも挫けずめげず富ませます!!~


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