【★完結★】お人よし人形師は、古代人形の陰に隠れる
うどん五段
第1話 人形師の歴史と俺のチート持ちなのに致命傷持ちな宿命。
街から少し離れた山の中に古びたログハウス。
そこに俺は一人……ではないですが住んでいます。
沢山のデフォルメ人形と共に――。
【人形師】と言うスキルはレアスキルの一つで世界的にみても【人形師】とは国が管理する。
国によっては兵士として人形を作って兵隊を作ったりもしているが、俺の住んでいるハルバルディス王国では、人形師の作った人形には幾つかの役割を持たせて作られている。
一つは、増えすぎた人間の為に一人っ子政策が進み、その弟妹にと人形を作る事。
一つは、介護要員や介助要員として人形を作り働かせる事。
一つは、男性または女性の欲を吐き出す為に娼婦として人形を作り働かせる事。
この三つを国は了承しており、人形師は依頼を受けて人形を作る。
人形師が人形を作る際、核となる魂に魔素を送り込むのだが、その核には宝石が使われる。
その宝石に魔素を送り込む作業も、国のお抱え人形師なら数人掛かりで魔素を送り込むが、一般的な人形師達は、宝石に数日掛けて魔素を送り込んで人形の【命】として使う。
無論一般的な人形師が人形を作ったら国に面倒な書類を提出するのも忘れてはならない。
古代では、宝石を使わずとも魔素を魔法陣で練り上げて核を作る事が出来たそうで、人形が人形師であった時代もあったそうだ。
無論、はるか昔――古代の出来事である。
人形師は人形に命を吹き込む事が出来るが、宝石や魔素の多さに比例して、大体の人形の寿命は5年から20年と言われている。
壊れた人形は人形師が責任を持って壊さねばならない。
躊躇なく先程まで生きていた人形を壊せるか、人形を壊せないかで、また人形師としての格は違ってくると言われている。
そんな俺――トーマ・シュバルは【モグリの人形師】でもあり、箱庭師です。
俺は自分が人形師である事を国に報告はしていない。箱庭師としては登録しているけれど、広大な農地を保有するこのハルバルディス王国では【箱庭師】としてスキルがあっても役に立たない。
そこで、俺は自分の箱庭を古代学者でもあり歴史学者でもあった祖父母の遺した遺産を管理する為に、ログハウスの地下にある部屋から自分の箱庭に行けるように扉を作り、元々あった屋敷と広い農地、魚が泳ぐ川と小さな温泉がある箱庭の屋敷に、【古代図書館】を作り、またそこを作った人形たちが管理してくれている。
主に畑仕事や魚釣りをさせたりと自由にさせているし、屋敷の掃除も頼んでいるし、屋敷には祖父母が残した一生遊んで暮らせるだけの金も保管している為、その管理もして貰っています。
そんな俺にも、一つ問題があった。
俺は先に言った通りモグリの人形師です。
幼い頃から祖父母と一緒に王国文字を覚えると同時に古代文字を教え込まれていたと言う事もあり、今では失われた【古代魔法】で【人形の魂】である核を作る事が出来る。
一種のチートかも知れないですが、これには致命的な欠点があった。
――【自分の思い描く性格の魂を作る事が出来ない】と言う致命的な欠点が……。
それだけではない。
モグリの人形師故に、国が運営する人形を作る為の技術を徹底的に覚える学校に通っていない。つまり――俺はちゃんとした人形を作る事が出来ない。
俺の作る人形は、所謂【デフォルメキャラ】しか作れず、どれも似たり寄ったりの姿形をしている為、人形とは呼ばずに【妖精さん】と呼ぶことにしています。
モデルにしたのが絵本に出て来る【妖精さん】でしたから、そう呼んだ方がしっくりくる見た目だからですね。
古代魔法で宝石もなしに【核】を作る事が出来ても、思い通りの性格も作れなければ、人形師として人形らしい人形も作れない。
チートと言う応用があっても、基礎が無いと言うのと同じなのです。
無念っ!!
そんな俺に対し、祖父母は一つの古代人形を遺してくれました。
まるで人間のような精巧な人形で、俺は【理想的な、優しくて甘えさせてくれるお姉さんの様な性格】を練り上げて作った筈でした。
だが、何度も言うように【思い通りの性格が作れない】。
結果として生まれたのが――。
「トーマ!! トーマいないのかい!?」
「いますよ! 今度は何です!?」
「聞きな!! 今日は肉が食えるぞ!! さっき猪を斧で仕留めて来たからね!!」
「斧で一撃?」
「首をズバッとさ!! 今軒下に血抜きで吊るしてるからね」
「相変わらず野蛮だけど、お肉は有難いから助かります……」
この斧一つで猪の首を斬り落とすメイド服に身を包んだ彼女――マリシアこそが古代人形で、俺が一生懸命【理想的な、優しくて甘えさせてくれるお姉さんの様な性格】を作り上げようとして大失敗し、豪快で姉御肌の人形として生み出してしまったのは、今から数年前。
魔素をこれでもかと言う程詰め込んだため、寿命は恐らく20年以上は持つと思われます。
「久々に肉が取れたんなら、ミルキィにお裾分けに行くかのう?」
「メテオもそう思うかい?」
「そろそろ様子を見に行かねば、ミルキィ死んでおるんじゃないのか?」
「流石に三日前様子を見に行ったばっかりですよ? そう簡単に死なれたら困ります……」
「「でもミルキィだよ?」」
「は――……お隣さんの様子も見に行ってきますかね」
箱庭から古代文献を持ってきて読んでいた俺は、本を閉じてアイテムボックスに本を仕舞うと、他の妖精さん達に「血抜き終わったら教えてくれる?」と頼んでお隣さん――ミルキィ・シャーロックの家に向かう。
ミルキィ・シャーロックは俺達が住んでいる町、シャーロック町の町長の末娘で、現在25歳のそろそろ婚期を逃そうかと言う女性。
隣の国である宝石の国ダイヤ王国でもそうだが、女性と男性の婚期は22歳から26歳と言われています。
俺はまだ後2年はあるが、俺も正直婚期を逃しそうだと思っている訳ですが……。
一生独身でも全く問題はないけれど、ミルキィは女性だしそうはいかないのでしょうね。
町長が何度もお見合いを持って来ていたが、全て相手から断られて終わっています。
見た目は綺麗なフワフワの金髪に青空の様な青の瞳と言う正に理想的なお嬢様の姿なんだけど、根本的な問題があった。
――生活能力が全くないのです。
人形作りに没頭して数日食事を摂らないなんて事は間々ある事で、女性としては必須と言われている【生活魔法】も一切使えない。
料理なんて壊滅的に駄目だし、本当に生きているだけで奇跡なんじゃないだろうかと言わんばかりの女性。
俺は【お隣さん】と呼んでいるけど、15分もすれば広い土地にポツンと建つ一軒家が見えてくる。
ドアを開けようとしたが……思わず溜息を吐いてしまう。
「ん? 見事な腐敗臭だね」
「三日前に掃除したばかりじゃぞ」
「も~お隣さんはどういう生活したらこうなるでしょう。ミルキィ? 入りますよ?」
そう言うと手渡されていた鍵を使ってドアを開けると、彼女はノーブラにタンクトップと短パンと言う姿で風呂に入っていたのでしょう、普段フワフワの髪を濡らしたまま――。
「あら? どうしたの?」
「ミルキィ、年頃の男性に部屋の鍵を渡してるなら下着くらい付けて下さい? 女子力無さ過ぎですよ?」
「うふふ……昨日まで三日間徹夜だったんだもの。冷蔵庫で食べられそうな物でも今から見ようかなって思ってた所なの」
「それより頭貸して下さい。髪を乾かさないと風邪引きますよ」
「ありがとう!」
そう言うと彼女の髪に生活魔法の【ドライヤー】を使って乾かし、フワフワの金髪は肩までしかないが綺麗になった。
「うん! トーマの生活魔法は便利ねぇ」
「で、三日前も注意しておいたけど、また人形の核を作る為に三日間も徹夜して魔素を送り込んでたんですか?」
「そうそう! 今回特別依頼が来てて! 【弟妹人形を作って欲しい】って依頼でね? 可愛い女の子が出来たと思うのよ~」
「――前に弟妹人形はもう作らないって言ってたじゃないですか!!」
その言葉に思わずキツイ口調で叱り飛ばすと、ミルキィは身体を小さくして落ち込んだ。
「今度こそ大事にして貰えればいいけど……実際は違うでしょう?」
「でも……契約でちゃんと大事にするって決めて貰ったし……」
「その契約を何度破られたと思ってるんです? もう弟妹人形は駄目です」
「それを言ってたら、人形師なんてやっていけないわ」
「むう」
「トーマ、説教は後じゃ。ミルキィよ、数日トーマの家に泊らんか? マリシアが猪を仕留めて来てな」
「お肉!?」
「今日は豪快に肉料理なんてどうだい? トーマが作ってくれるよ!」
「トーマが!?」
「何故俺が作る事が決定してるんですか……まぁ良いですけど」
「トーマきゅん……私の為に美味しいお肉料理作って?」
「下着をつけてください下着を」
両手を掴んで見上げてくるミルキィにそう告げると、「お泊りセット持ってきまーす!」と言って違う部屋へと去って行った間に部屋の掃除です!
俺とマリシアで生活魔法を使い部屋の換気をしながら掃除を進めて行く。
冷蔵庫の中を開けようとすると、氷の魔石が切れている事に気づき溜息を吐くと勝手知ったる我が家のように納戸から氷の魔石を二つ取り出し空の魔石を取り出して新しく魔石を入れ、冷蔵庫の中身も綺麗にする。
幸い……ではないが、食事もまともに取っていなかったようで、炊事場は綺麗でした。
「マリシア、ミルキィに紅茶を入れて上げて。メテオはこのクッキーをお皿に並べて。歩いてる時に倒れられたら大変です」
「何だかんだとミルキィの為の非常食を用意してある辺り、お主よのう?」
「全く手の掛かるお隣さんですよ……。来年までに嫁に行けるんですかね?」
「無理じゃないかなぁ」
「アレじゃ、嫁に行けなかったらお主が嫁に貰ってやれ。知らん間柄でもないじゃろう」
「無責任な」
そう言いつつ俺とマリシア、ミルキィ分の紅茶の用意が終わる頃、彼女はリュックを持って「お待たせ~~!!」とリビングに駆け込んで来て当たり前のように椅子に座り、紅茶を飲んでホッと息を吐いている。
「うん! やっぱり美味しい! 生き返る!!」
「一応魔素を入れていても水だけは飲んでいた様で助かりますよ。クッキーはよく噛んで食べてくださいね?」
「非常食何時もありがとう!」
「どういたしまして」
「ミルキィも身の回りの世話をする人形くらい置いたらどうじゃ?」
「だって、お別れが辛いもの。私は家に置かないわ」
「はぁ……」
こうして彼女が倒れない程度にクッキーを食べ終えてから生活魔法で片づけを行い、ミルキィの荷物を背負って俺の家に帰る。
何かと手の掛かる隣人ミルキィだけど、町長さんからも「出来るだけ面倒を見てくれ」と頼まれている為放置は出来ない。
「お肉♪ お肉♪ ガッツリ食べたいわぁ~!」
「分厚いステーキにでもしますか」
「スパイスたっぷりでお願いね!」
「くっ! スパイス高いんですよ!?」
「って言いながら、箱庭で違法に育ててる癖に」
「仕方ないですね……黙って下さいよ?」
「はーい!」
こうして徒歩15分先の自宅へと戻りながら、三日でまたゲッソリと痩せてしまったミルキィを元の体重に戻すためにアレコレ手を焼くことになるんだろうなと、自分に対して「人が良すぎる」と呟いて溜息を吐いた。
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