黒歴史
「最初は、子供を助ける気なんてなかったんだよ。俺が父王から命じられたのは、人の消えた村の片付けだけだったから」
がれきを整理して、死体を埋める。
たったそれだけの簡単なお仕事だ。
しかし村に入り、生存者を見た瞬間、俺は作戦を変えた。
「生き残った子供の中に、めちゃくちゃキレイな女の子がいてな……。十歳くらいだったかな。このまま放っておいたら、人買いにそのキレイな顔を搾取されるんだろうな……と思ったら、放っておけなくて、気が付いたら保護してた」
普段あれだけ王族の責任がどうのと言っておきながら、結局気が付いたら勢い任せで走り出してしまう。俺のよくないところだ。
「でもその当時は俺も17歳の子供だろ? 合法的に衣食住を与えるために孤児院を作ったはいいが、すぐに資金が足りなくなってな。ほうぼうに働きかけて協力をとりつけて、気が付いたら全国活動にまで拡大してたんだ……」
あれはマジで地獄だった。
事業が軌道に乗るまでの数年間、毎日金勘定の悪夢にうなされたものだ。
「だから、持ち上げられてもぴんとこないというか」
エドワードが神妙な顔で俺の肩を叩いた。
「陛下、それは十分誇るべき偉業にございます」
「孤児が助かったのならば、やはり善行でしょう。アレックス、あなたも……」
勇者に声をかけようとした神官が、言葉を途切れさせた。
どうしたのかと、彼女たちを見た俺も驚いて目を丸くしてしまった。
「……っ」
アレックスは真っ赤になっていた。眼をうるませて、今にも泣きそうだ。
今の話のどこに、泣くポイントが?
困惑する俺たちの前で、アレックスは唇を震わせる。
「覚えていてくださった……しかも、キレイな女の子って……」
んん?
そういえば、保護した女の子も金髪碧眼だったな。
十年前の少女は十歳くらい。
アレックスは今二十歳だ。
計算があう。
「少女は確か13の時に堅実な職についた、と報告を受けていたが……」
それが騎士団だったのなら、経歴のつじつまも会う。
「お前、そうなのか?」
ぐす、と鼻を鳴らしながら、アレックスはこくこくと頭を上下に振る。
「……陛下は、私を抱き上げて『人買いにはやらん』とかばってくださいました。その日からずっと……あなたのお役に立ちたいと……」
アレックスが武装したガントレットを顔に当てようとしたのを止めて、俺は自分のハンカチを頬に添えてやる。
こういう時に自分で拭くな、自分で。
俺にやらせろ。
「そう、か」
俺は、やっとアレックスの重すぎる崇拝を理解する。
家族を亡くした少女を救った王子様。
それは惚れる。
「陛下、本当にお気づきでなかったのですか」
ガストンに恨みがましい目を向けられるが、俺はため息をつくことしかできない。
「美少女が成長してイケメンになるとか、予想できるかよ」
王子様に恋した乙女なら、侍女とか女官とか目指すんじゃないのか。
そこで選んだ道が『勇者』とかおかしいだろ。
アレックスらしいといえば、アレックスらしいんだが。
「このあたりがお前の地元なんだな。だったら橋の修復を手伝うよう、住民にかけあってくれないか」
「おまかせくださいっ! すぐに橋をかけ直してみせます!」
涙をぬぐったアレックスは周りの兵に声をかけると、すぐに飛竜で飛んで行った。
ライノール周辺の住民が俺を慕っている、という話は本当だったようで、『ウィルヘルム陛下のためなら』と人が集まり、あれよあれよという間に仮設橋が完成してしまった。
そして、最小限の遅延で再び王都に向かった俺たちは……王城から閉め出された。
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