閉ざされた王都

 王都に帰還した俺たち王国軍は、都市、を取り囲む城壁の前で三度目の行軍停止を余儀なくされた。城門は固く閉ざされ、堀にかけられていた跳ね橋もすべてあげられている。

 完全な籠城体勢だ。

 なんだよこれ。

 どういう状況?


「……いや、理屈ではわかるんだが」


 目の前の光景を信じたくない自分がいる。

 王の立場でそんなのんきなこと言ってたら、マズいのもわかってるんだが。


「よくおめおめと顔を出せたな! この逆賊が!」


 城門の上から罵倒が飛んできた。

 見上げた先には、ひとつ上の兄、第三王子マティアスがふんぞり返っていた。そのすぐ隣には、老宰相ディオスの姿もある。

 コレをやったのは、あいつららしい。


「マティアス、逆賊って意味わかってるか? 王様に逆らった奴のことだぞ。国王の俺がそんなもんになるわけないだろ」

「ううううう、うるさいっ! お前に王の資格などあるものか!」


 だったら今、俺の専用馬車に載せてある王笏と玉璽はなんなんだろうな。


「貴様は! 確かに魔王を倒したかもしれない! しかし、勝利と引き換えに多くの騎士を犠牲にした!」

「お前戦後報告書読んだか? 一万人規模の派兵で、死者はわずか5人。魔族戦闘の記録では最も損耗率が低い」

「しかもその後、兵の脱走を許し……!」

「開拓のデマ情報に踊らされたアホ兵のことか。その日のうちに全員捕まえて処断ずみだが」


 当然、その後に脱走兵騒ぎは起きてない。

 反論されて、マティアスの顔に血がのぼるのが、遠目からでもわかった。


「さらには、帰還途中に立ち寄った城で接待を強要し、貴族令嬢を集めて豪遊した!」

「あれはジオネル伯や地方貴族が自発的にしたことだ。俺から要求したものはない」


 まあこれは主観になるから、『王が城に来る意志を見せた時点で、すでに強要しているようなものだ』と言われたら、反論しづらいが。


「ライノール周辺では地元民の反感を買って、橋を落とされたそうじゃないか」

「全部逆だ。橋が壊されて立ち往生していたところを、地元民に助けられたんだ。お前、どこからどんな報告書を受け取ってんだ」

「そんなことがあるものか! やつらが王族に手を貸すなど……!」

「王族でも、俺だけは別らしい」

「ハ、下賤の子が世迷い事を。素性も知れぬみなしごを勇者と持ち上げ、あまつさえ王妃にしようなどと考えるだけはあるな」

「あ?」


 自分でも、驚くほど低い声が出た。


「誰がなんだと?」

「だから勇者だとかいう……」

「俺の女を侮辱するな。許さんぞ」


 俺はともかく、アレックスはお前に見下されていい女じゃねえんだよ。それだけは絶対許容しないからな。


「ゆ……許さなければどうだというんだ! そもそもお前は王の器ではない! 罪を認め、俺に王笏を返還しろ!」

「目的は結局それか」


 兄マティアスは、いまさら王位がほしいのだ。

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