中編
君との別れ
「えっ?」
あまりの驚きに言葉が出なくなる
「いま、なんて言ったの?」
余命?余命ってなんだっけ?
あれ、なんか、目から水が…って涙?
何で出てくるのだろう
「余命、半年。詳しく言うと、お前の友達が告白した時には、そう言われてた。あと、5ヶ月しか俺は生きられないんだ」
ようやく、その言葉の重さに気がついた
「あと5ヶ月って!卒業式の日じゃん!」
そう。丁度今から5ヶ月後には卒業式があるのだ。
「そうだ、俺は卒業式を迎えられないんだ。俺は、その日、死ぬんだよ」
「何でよ…」
「…分からない。医者もこんな症状見た事ないって」
「なら、死ぬかも分からないじゃん!」
「いや、分かるんだよ。今でも俺の体を蝕んでいるんだ。薬の量もどんどん増えていくばかりだ。学校に来たくない。本当はゲームとか好きな事をしたい。でも…。それじゃあダメなんだ。せめて、誰かと一緒にいたい。でも、そんな願いは叶わなかった。失った。消された。邪魔された。拒まれた。でも、お前は与えてくれた。消えないでくれた。手伝ってくれた。信じてくれたんだ。だから、俺は…ここまで来れたんだ」
「…!」
あぁ、そんな事を言わないで。
あなたが苦しんでまで来る理由を私にしないで。
やめて。
そんな私に希望を持たせようとしないで。
だってあなたは他の人が好きなんだから。
「…そう、なんだ。ごめん。ちょと考えさせて」
こんがらがる頭を抑えイスに座る。
「うん」
そうやって帰ろうとする。
けど、
「待って」
と止める。
「一緒にいて」
白斗君は優しくうなづいて近くに座ってくれた。
私は彼によりかかり体を密着させる
白斗君は少し驚いた様子だったが、笑顔になり、頭を撫でてくれる。
あぁ、この時間が永遠に続けばいいのに。
そう思っているうちにも白斗君の人生の時計が終わりへと進んでいるのを忘れながら、
幸せな時間に浸っていた。
10月22日
あれから1週間近く経った。
あれからは別に何も変わらなかった。
でも今日、変化があった。
白斗君が病欠した事だ。
普段の私なら(大丈夫かな〜?)で済むが、
『俺は、余命半年なんだ』
『医者もこんな症状見た事ないって』
そんな言葉を聞いたばかりだったからとても心配だった。
そして、今日大事なプリントがあり、それの提出期限までが短いので誰かプリント届けてくれないか。
と先生が言った。
クラスの女子が喚き出すかと思ったら、そんな事は無かった。
あぁ、そうか。
私は呆れていた。
自分達が始めた事で、他人に擦り付けたのに、それに関わったら何か言われるのを怖がってやらないなんて。
私は仕方が無く「私がやります」と後で先生に言って、プリントを貰うついでに白斗君の家を教えて貰った。
教えられ初めて気がついたのだが、県内でも最も優れた病院の近くに住んでいたのだ。
きっと、症状が酷くなった時に直ぐに駆けつけられるようにしているのだろう。
私はそんな事を考えながら、白斗君の家に行った。
家に着き、インターホンを鳴らすが、誰も出ない。
親が仕事で忙しいのだろうか。
にしても、息子が余命半年も無いのに一緒にいてあげないのは酷いのではないのだろうか。
いや、きっとお金を貯めて頑張って治そうとしているのだろう。
そんな考え事をしていても、ただ時間が過ぎていくだけだ。
私はプリントをポストの中に入れ家に帰った。
10月25日
「よう」
「白斗君!」
週明け。
白斗君が学校に来た。
それだけで嬉しかった。
「もう大丈夫なの?」
「あぁ。ただの風邪だし」
「そうなんだ、良かったぁ…。私、死んじゃうんじゃないかって心配だったんだよ」
「昔から、体が弱かったから、風邪とかひくことが多かったんだよ」
「そう。でも、心配なものは心配だよ」
「大丈夫だって」
「授業中に倒れて保険室でかれこれ数時間休んで言う事?」
「そうだな」
白斗君は授業中に倒れ、私に運ばれた。
そして、保険室で休んでいた。
心配で来て、白斗君は大丈夫と前のやり取りをしているが、今すぐ帰った方がいい程、顔色が悪い。
「なんで無理してまで学校に来たの?」
「家に、誰もいなくて退屈だったんだよ」
「なに?私が看病してあげようか?」
と冗談(半分欲望)で言った。
「えっ?いいの?」
「へっ?」
「んじゃぁ、お願いしようかな」
とニヤニヤしながら言う白斗君。
困惑していたら、
「嘘だよ」
と言ってきた。
この大嘘つきめ。
「お前、将来詐欺とかかかるだろう」
「うるさい」
はぁ…。とため息をついた。
そのため息をついている間にはもう白斗君の帰る準備は整っていた。
「じゃあね」
「あぁ、またな」
そうして私達はいつもより早い一日の別れを告げた。
11月8日(月曜日)
「また、告白されてきたの?」
そう聞くと彼はラブレターと思われる手紙をひらひらとさせながら言った。
「そうだよ。よく懲りないよな。悪い噂が流れてるから自分が癒してあげなきゃとか思ってんのかな」
「そうだろうね」
「でも、脅しのつもりの言葉をかけられたからなぁ」
「なんて言われたの?」
「『付き合ってくれなきゃ、悪い噂をもっと広める』って」
「白斗君からしたら嬉しいことだね」
「…そうなんだよ。アイツらに『別にいいよ』って言っても『強がらないで』とか言われてるし」
「事情が分かったらどうなるんだろうね」
「やめろ。考えるだけで倒れそうだ」
「そう。でも本当に、私は白斗君が嫌われたい理由が皆に分かるといいんだけどね」
「何でだよ」
「そうすれば、嫌われたくないって手を出さないんじゃない?ほら、恋は盲目って言うでしょ。別の手を考えないぐらいバカになってるからそれはそれでいいんじゃない?」
「…まぁ、それでも伝える気にはならない」
「何で?」
「…」
「言いたくないならいいよ」
「本当にお前は優しいんだな」
「…なんか、お前って言われると気持ちがこもってるように聞こえないだけど」
「じゃあ、なんて呼べばいいんだ」
「樺乃」
「分かった。樺乃」
私はそう呼ばれた瞬間、とても嬉しくなった。
あぁ。本当に好きな人から名前を呼ばれると嬉しいんだな。
私はそう思いながら、満面の笑みを浮かべたのだった。
11月13日(金曜日)
あの事件から丁度1ヶ月がたった。
白斗君はあれからも告白されている。
白斗君は前より告白されてはいないものの、まだ完全に告白は止まない。
そして、
「ストーカーが現れた」
「マジすか」
白斗君がそんな事を言ってきた。
「いつから」
「つい先日。俺がそれに気がついたのはだけどな」
「どんな女なの?」
「…樺乃、まずその怖い顔をどうにかしよう」
「いいから、早く」
「…同じ高校て言う事は分かる。学年は知らないが、長めの髪で前髪にヘアピンを付けている」
「…よく、覚えてるね」
「いや、俺記憶力がよくて…」
「そう」
「すぅぅぅはぁぁぁぁ」
「なんでそんなデカイため息ついてるの」
「いや、なんでもない」
そういうと白斗君は近くにあった椅子に座り、話し始めた。
「そんなに怒る事じゃないだろ」
「私にとっては怒ることなの」
「何で」
「何でって、この前言ったじゃん。す、好きだって」
「…。そんなの言ってたっけ?」
「え?さっき、記憶力いいとか言ってたよね」
「怖い怖い、じょ、冗談、冗談だって!」
「はぁ…。とにかく、その女捕まえるよ」
「あ、あぁ。分かった」
放課後。
「ストーカーいる?」
「あぁ。あの電柱に隠れてるやつだ」
見ると、存在を隠しきれていない女の子がいた。
「…あれで隠れてるつもりなのかな?」
「…昨日、数秒間目があったが、まさか自分が見られてるとは思わなかったのか、そのまま見続けてきた」
「いや、バレてるのが分かってて、そんな事しているのかも」
「…。とりあえず聞いてみるか」
そして、電柱の後ろに隠れているやつの前に行き、話しかけた。
「おい、お前」
「…」
「バレてないと思ってんのか?お前だよ、お前」
「…」
「はぁ…」
何を言っても彼女が、動く気配は無さそうだ。
仕方なく肩に触れ、
「あなたの事を言っているの」
と声をかけたら、
「ピぇ!」
と変な声を出して驚いてしまった。
「な、なな、なんですか!?」
「いや、ストーカーしてたでしょ」
「そ、そんな事ないです!あ、あの!」
「何?言い訳でもあるの?じゃあ、聞いてあげるよ」
「こ、これ!これをその人が落としたんです!」
「それって…」
女が持っていたのは見覚えのある手帳だった。
「俺の手帳…」
「これ、私とぶつかった時に出てしまったみたいで…。拾って届けようとしたけどもうそこにはいなくて…。この数日間、付きまとってしまいました。本当にすみません」
「中は、見たのか」
「…はい。ダメだとは思ったのですが、名前が表紙に書いていなかったので…」
「誰にも言ってないよな」
「はい…」
「なら…良かった」
そう言って手帳をバッグの中に入れる。
「これ、本当なんですか」
「あぁ、これに書いてある通りだ」
「なに?この前、もしかして黒歴史って言ってたやつ見られたの?」
「あぁ」
「嫌われたかもしれないよ」
「そうかもな」
「…彼女さんに言ってないんですか?」
「えっ!?私はか、彼女なんかじゃ…」
「そうだ」
「白斗君!?」
「彼女さん」
「わ、私彼女じゃ…!」
「…幸せを願っています」
「ね、ねぇ!」
「それでは」
「行っちゃった…。って、それよりも白斗君!なんであんな事言ったの!?」
「別にいいだろ。減るもんじゃないし。それともなんだ?嫌か?」
「嫌じゃないけど…、でも…」
「何が言いたいんだよ」
「そういうのは、やっぱり…告白とかしてOK貰いたい」
「そうか」
白斗君はそういうと背を向け、帰ろうとする。
白斗君は後ろから見ても分かるくらい耳を赤くしていた。
11月21日(土曜日)
今日は、遅めに開催された文化祭の日だった。
私は一緒に回る友達もいないし、そもそもの話、私はこういうイベント事が嫌いだった。
だから、図書館で本を読んでいた。
「樺乃は文化祭行かなくていいのか」
「白斗君もでしょ」
どうやら白斗君も同じ思考をしていたらしい。
「俺はあの空気が嫌いだからな」
「分かるよ。いつもは静かな図書館がうるさいもんね」
「お陰様でゆっくり本を読むことさえも出来ない」
白斗君は机に突っ伏しながら言った。
スマホは持ってきては行けないし、本を読むことが出来ないから何もやる事がないのだ。
「そういえば、白斗君は体育祭はどうしたの?」
不意に出てきた疑問を口に出す。
「俺は、ドクターストップ受けてるからな。行けなかったんだよ」
「白斗君の事だから、行けたとしても行かないでしょ」
「まぁな」
「そういう所、治した方がいいよ」
「将来、社会に立ちも出来ないのに?」
「将来なんて不確かな物を見て決めないの。今を精一杯生きていってそれで間違えたら治しいくの」
「じゃあ、樺乃はどうなんだよ」
「…。知ってる?女の子にはね、生理って言うものがあるの」
「お前な…。そんな事で『女の人が起こす痛みランキング第二位』の生理を言い訳にするなよ」
「ちなみに第一位は?」
「出産」
「男の人は?」
「金的」
「白斗君の口からそんな言葉が出てくるなんて…。珍しいからもう1回言ってくれない?」
「嫌だ」
「えー?」
「はぁ…。お前ってやつはなぁ」
と、ため息を付きながら呆れていた。
「ま、本当に痛かったから休んだけどね」
「…。もしかして、体育祭3回とも休んだとか言わないよな」
「病は気からって本当なんだなー。って感じた瞬間だったよ」
「お前の体は良いように出来るのかよ」
「あっ、でも文化祭は行ってたよ」
「何でだよ…」
「白斗君。行ったとは言ったけど、参加したとは言ってないじゃん」
「まさかお前、今みたいなのを続けてたかのか?」
「いや、去年まではただ歩いてただけだよ」
「じゃあ、何で今年はここにいるんだ?」
私は、少し口ごもったが、素直に言う事にした。
「白斗君がいるかもって思ったから」
「…」
「あれ?白斗君?耳、紅いよ」
「…!?う、うるさい、」
「ニヤニヤ…」
「ニヤニヤするな!」
「え、じゃあさ、白斗君は今まで文化祭の時どうしてたの?」
そう聞くと、白斗君はそっぽを向いた。
「…」
「休んでたんだ?」
「…」
「でも今年は来たんだ」
「…」
そっぽ向いてても分かるくらいに顔が紅くなっていく。
「白斗君って、女の子に弱いんだね」
「うるさい」
そう言って机に顔を埋めた
白斗君可愛いなと、思ってしまった瞬間だった。
12月16日(火曜日)
白斗君と出会ってから3ヶ月。
余命が5ヶ月しかない事を聞いてから2ヶ月。
「えー、であるからしてー…」
私は、ぶっ倒れそうなぐらい長い校長の話を聞き流していた。
少し早く来た冬休み。
冬休みの過ごし方について説明しているが、
冬は皆、外に出たがらないので事故など起こる可能性は無い。
実際にこの学校は、夏より冬の事故方が少なく、指導も無いので、家が好きな人が多いと思う。
冬休みは何もする予定は無いが、不意に白斗君の事が頭によぎった。
白斗君を遊びに誘おうかな
そう思いながら、白斗君に早く会いたいと思いながら、また話を聞き流した。
休み時間。図書館にて。
「白斗君、クリスマス暇?」
「シフトなら変わってやらないぞ」
「違くて。遊ばない?」
「遊ぶ?」
今気づいたのだが、私が白斗君に遊びを誘うのは初めてだった。
いや、それよりも、2人で遊んだ事すらない。
私は段々と顔が赤くなる。
そういえば、シフトを変えれないと言っていた。つまり、何かしら予定があるということ。
私はこんがらがる頭を必死に回しながら発言を取り消そうとする。
「やっ、やっぱ…!」
「いいぞ」
「へ…?」
「だから、遊ぶって言ってるだろうが」
「…。あっ!そ、そう!じゃ、じゃあ、連絡先交換しよう!」
「分かった。はい」
あ〜!もうっ!顔暑い!
「はい、交換出来たよ」
そうして見たスマホの画面には白斗君の名前が。
やばい。もう、悔いはない。
このまま成仏しようかな…。
「あれ?このアイコン…」
白斗君のアイコンには可愛い猫の画像が。
「俺、猫飼ってんだよ」
「かわいい…!」
「そ、そうか?」
「ねぇ!今度その子の動画とか送ってよ!」
「分かった」
「…!ありがとう!」
「…樺乃って、猫好きなんだな」
「うん!」
「…」
「はっ…!」
あまりの猫好き過ぎて白斗君がいる事を忘れていた。
「わ、忘れてぇ〜…」
「いや、覚えておくよ」
「ねぇ〜!」
「はははっ!」
こんな事で白斗君の初めての笑い声聞きたく無かった。
12月25日(木曜日)
クリスマス。肺が凍りそうなくらい寒かった。
それを暖めるようにカップルがくっついてお互い顔を赤めていた。
「いいなぁ…」
と呟き、歩いて行く。
正午を指す時計を見て、早く来すぎた。
そう思った。
本当は午後の1時に集合なのだが、楽しみで早く来すぎてしまった。
「まっ、しぶとく待とう…」
そう思い、近くのカフェにでも待とうかと考えていたら
「あれ?樺乃?」
と聞き覚えのある声で呼ばれた。
「白斗君?」
黒のジャンバーに身を包んでいる白斗君がそこにいた。
「なんで…?」
「樺乃こそ…」
「ちょ、ちょっと早く来すぎて…」
「そうか…」
「白斗君は?」
「…俺は、時間間違えただけだ」
「でも、私の事見て驚いてたよね」
「間違えたのさっき気づいたんだよ」
「ふーん?」
手が赤い。
多分、随分前から待っていたのだろう。
そして、それに負けないくらい、顔と耳は真っ赤だ。
「じゃあ、そういう事にしてあげる」
「…なんだよそれ」
そんな会話をしていると、周りから生暖かい目で見られている事に気がつく。
「と、とりあえずカフェ行こう!」
「そうだな…」
そうしてカフェについて、私はカフェオレ、
白斗君はブラックコーヒーを頼んだ。
「で、これからどうするんだ?」
「えっ?」
突然そう聞かれてびっくりしてしまった。
「どこ行くとか決めてるのか?」
「…」
「まさか、決めてないとか言わないよな」
「…ごめん」
「マジかよ」
白斗君はそう言って呆れた様子でため息をついた。
「だって、楽しみにし過ぎて予定何か考えられなかったよ〜」
「とりあえず、ここで予定を決めよう」
「そうだね!どうする?」
「俺に聞いてどうするんだ」
「白斗君が行きたい所があったらそこに行こうかなーって」
「そうだな…。猫カフェとか?」
「よしそうしよう。あっ、でも猫カフェ行ったら白斗君の家の猫ちゃん、嫉妬するんじゃない?」
「大丈夫だ。ルラは俺の母さんの方が好きだからな」
どうやら、ルラというのが猫ちゃんの名前のようだ。
「そういえば、お母さんは何してるの?この前に白斗君の家に行った時にいなかったけど、仕事休めないくらい忙しいの?」
「俺の母さんは…医者なんだ」
「あっ…」
「だから、母さんの事を責めないでくれ。俺の病気を治せないって知って、あれからずっと研究に打ち込んでるんだ。毎日帰って俺の事を見た時には、毎回「ごめんなさい」って言ってくれるんだ」
「…ごめん。何も知らないのに心の中で侮辱してた」
「それ、母さんに言うなよ。今言われたら行けないランキング第二位ぐらいだからな」
「一位は?」
「医者の癖に何してるんだよ」
「そう思ってたんだ」
「治せませんって言われたら誰でも思うだろ」
「そうだね」
そう言うと白斗君はブラックコーヒーを飲んだ。
「で、猫カフェ行ったら何するんだ?」
「美味しいパフェとか食べたいなぁ〜」
「ここで頼めよ」
「それもそうだね」
早速私はパフェを頼む事にした。
何分か待っていると直ぐに来た。
私はそれを食べ始める。
「んー!美味しいー!」
そして、パクパクと口に運ぶ。
「お前…、食べるの早いな」
「えっ?そう?」
私の手元には数分前の元の状態より4分の1程度食べられているパフェが。
「…確かに、少し早く食べ過ぎかも」
「それで少しかよ」
「女の子にそんな事言っちゃダメなんだよ!」
そんな事を言ってる間に私はもうパフェを食べ終わっていた。
「はぁ…。食べた食べた。じゃ、猫カフェ行こう! 」
「分かったよ」
そうして猫カフェへと向かうのだった。
猫カフェにて。
「いらっしゃいませー」
と店員さんが言ったあと、
「ニャー」
と猫ちゃん達が鳴いて寄ってきた。
私は早速、猫ちゃん達をナデナデする。
「可愛いねぇ〜」
すると、白斗君も猫を撫で始めた。
「料金先に支払っておいたから」
そう言うと、猫を撫で始めて、幸せそうな顔をした。
「白斗君も猫好きなの?」
「結構好きだな」
表情からしてそうだとは思ったのだが、結構が付く位だとは。
「もしかして、猫飼ってるのも、そういう事?」
「半分な。もう半分は、捨てらてたのを見逃せなかったからな。多分、初めてのワガママはあの時だな」
「白斗君って時々優しかったり優しくなかったりして、優しいのか優しくないのか分からなくなるんだよね」
「俺は一応道徳心はあるぞ」
「一応って付けてるのが怖いんだよ」
そうツッコむと、
「ニャ?」
と猫が鳴いてきたので、
「よしよし」
と撫でてあげる。
「とりあえず撫でる事に専念するか」
「そうだね」
白斗君が撫でると、猫ちゃんは気持ちよさそうにした。
「撫でるの慣れてるね」
「ルラで慣れてるからな」
「どこを撫でれば良いとか分かる?」
「いや。猫も触って欲しい所と触って欲しくない所があるから、猫一匹一匹好きな所を見つけたりした方がいいんだ」
「へー。そうなんだ」
「ていうか、樺乃も撫でるの上手いな」
「猫カフェは数回行ってるからね。猫ちゃんは大体ここ触ればいいとか分かるんだよ」
「本当に猫好きなんだな」
「結構好きだからね」
それから撫でていたら、何時間か経ってしまっていた。
「帰るか」
「そうだね」
店員の
「ありがとうございましたー」
を聞き流し、次は何処に行こうか考えていた。
すると、白斗君が
「ちょっと寄りたい所あるからそっち行っていいか?」
と聞いてきたので、
「うん、良いよ」
と答える。
そうして着いた所はネックレスやイヤリングなどを売っている場所であった。
「…」
もしかして、自分へのクリスマスプレゼントを買う系?
母親忙しすぎて自分で買ってね系?
「ちなに、自分へのクリスマスプレゼントじゃないからな」
「あっ、そうですか…」
なんで考えてる事が分かったの!?
顔に出てたのかな!?
やだ恥ずかしい!
「とりあえず入るぞ」
「分かった」
入るとすぐ見に入るのは
0が沢山ある値札。
「…ねぇ、もしかして入る所間違えた?」
「いや、ここであってる」
「ひぇ」
ここの物全て買ったら、借金いくらぐらいになるのだろう
そう思うぐらい、 そこには高いものしか無かった。
「これください」
と、白斗君が言った。
それは周りよりも0が1~2個多いイヤリングだった。
「ご支払いは?」
「一括で」
一括ぅぅぅぅぅ!?
どんだけお金持ってんの?
白斗君は黒いカードを出した。
あれは、伝説のブラックカード!?
電子音がすると、支払いが終わり、
レシートが出てくる。
白斗君はそれを見もせずに、くしゃりと丸め、自分のバックに入れた。
そして、店を出て、
「大丈夫なの?」
と聞いておく。
すると、
「医者の年収なめるなよ」
「医者の忙しさなめないほうがいいよ」
そんな事を言ったからすぐにツッコンでしまった。
「そんなの買うなんて…人生損してるよ」
思っていた事を口に出すぐらい驚いていた。
すると、白斗君がもっと驚くような事を言ってきた。
「樺乃の為に買ったんだ」
「へっ?」
思考停止中…。
樺乃の為に買った?
なにを?
…。
「えええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「まぁ、そういう反応だよな」
「いや、何で冷静でいれるの!?」
少なくとも0は5つあったはず。
「流石に受け取れないよ!」
「俺が持ってても使わんぞ」
「それでも!」
「いいからいいから」
そう言って付けてこようとする。
押しに弱い私は付けられてしまう。
そして耳に付けたのは赤く輝いている宝石が埋まっているイヤリング。
「鏡、見てみなよ」
と手鏡を見せてくれた。
「綺麗…」
それ以外の言葉が出ないぐらい、本当に美しいものだった。
だが、はっとなり
「やっぱりこんなの受け取れないよ」
と言ったがそれを否定された。
「受け取って。母さんも、俺も、使う事ないから」
と押しに弱い私はゴリ押しされて結局、貰ってしまった。
そして、その日はそれで解散した。
家に帰り、早速イヤリングを出そうとすると、
クシャクシャにした紙があった。
何も考えずに開いて見ると、
そこには吐きそうな程の沢山の数字が並んでいた。
12月31日(水曜日)
大晦日。
白斗君と遊んでから5日。
今日は普段遅くまで起きない人でも、
遅くまで起き、年を越す瞬間まで待っている日。
知らない歌や、何が面白いのか分からないギャグなどのテレビの内容につまらくなっていた。
今の時刻は22:00と、微妙な時間。
暇だったから、スマホを弄っていたが、遂にやる事が無くなってしまった。
そして、突然思いついたのは白斗君に電話をかけることだった。
もちろん悩んだ。
どうしよう、
忙しくないかな、
もしかしたらウザがられるかな、
などいつもされないような事まで思ってしまい余計に迷ってしまう。
それを無くすように頭を横に振り、頬を軽く叩いた。
白斗君の連絡先から電話の項目を選ぶ。
後は【電話する】を押せばいいだけ。
「すぅぅぅ…はぁぁぁ…」
深呼吸をして気持ちを落ち着かせ【電話する】を押した。
プルルル
1コール目
プルルル
2コール目
ガチャ
と出る音がした。
「樺乃?なんだ」
と白斗君が電話の向こうでそう聞いてきた。
それだけでドギマギするが、頑張って声を出す。
「暇だから喋らない?」
「あぁ、丁度俺も暇なんだ」
やったぁぁぁー!
「何話す?」
「…何話すか決めてないのか」
「そうだね」
「相変わらずだな…」
頭の中で白斗君が額を抑えながら呆れているのが思い浮かんだ。
「まぁ、雑談でもしよう」
「そうだな」
「…」
「…」
「ネタ無い?」
「無いな」
「あっ、イヤリングありがとう」
「いやどうって事は…」
「ちなみに袋の中に値札があったけどそれはわざと?」
「…わざとじゃないがすまん」
「ホントだよー!一瞬目の前が白くなって夜しか眠れなかったんだよ!」
「健康体じゃねぇか」
「確かに」
「はぁ…」
また白斗君はため息をついた。
今日だけでため息は何回付けるのだろうか。
過去最高記録は行けるはず。
そんな事を考えていると、白斗君が何か聞いてきた。
「そういえば、樺乃の親は年末は仕事してないのか?」
「そうだね。仕事自体は大変だけど、給料高いし他の所よりホワイトだから、年末とかのイベントは休めるんだよね」
「そうか」
「白斗君は?」
「今、両親どっちもいない」
「大変だね…」
「いや、そうでもない。飯は自分で作れるかし、1人でいられて自由だからな」
「そうなんだ…。っていうか、ご飯自分で作れるんだ。何作れるの?」
「そうだな…。中華料理と和食はほとんど作れるし、菓子も作れるな」
「えっ!?お菓子も!?」
「簡単なものだけどな」
「簡単じゃないでしょ、私黒1色に出来る自信しかない」
「大丈夫。樺乃でも作れるようなやつもある。なんなら、今度教えてやろうか?」
「是非ともお願いしたいよ!」
「じゃあ、暇な時教えるよ」
「やったー!」
しまって!つい嬉しすぎて、テンションが高くなってしまった!恥ずかしい!
「本当に樺乃ってこういうやつ好きだよな」
でも、白斗君のお陰で緊張はほぐれてきた。
「白斗君の好きな食べ物って何?」
「甘い物とか、中華料理とかだな」
「嫌いなのは?」
「牛乳とヨーグルトとか、ピーマンとか」
「…ププッ」
「いくらでも笑え」
「ごめんごめん」
「まぁ、いいよ」
「あれ?私の好きな食べ物聞かないの?」
「どうせ甘い物だろ」
「そう!」
「じゃあ、嫌いな食べ物は?」
「私ね、嫌いな食べ物無いんだ!」
「凄いな」
「棒読み!」
そんなくだらない話をしていたら、
「あれ?もうこんな時間なのか?」
時計を見ると24:58だった。
「本当だ…。あっという間だったね」
「そうだな」
そうして、テレビではカウントダウンを初めていた。
「時変わったらジャンプでもする?」
「バカのやる事だな」
「バカって言わないで!」
「あっ」
「どうしたの?」
「もう変わってるぞ」
もう一度時計を見ると、0:00だった。
「本当だ」
「年越してもバカみたいな話してたな」
「そうだね」
「樺乃」
「何?」
「あけましておめでとう」
「うん。おめでとう」
「明日…って今日だった。今日も早いから寝るな」
「うん。おやすみ」
「あぁ」
「ねぇ、白斗君」
「なんだ?」
「初おやすみが私で嬉しい?」
「…そうだな」
白斗君はそう言って電話を切った。
「もう…」
そう呟く私の顔はとても真っ赤だった。
1月1日(木曜日)
その日の目覚めは最悪だった。
なにせ、今日は年を越したのに加えて白斗君とのやり取りでとてつもなく心臓がバクバクして眠れなかったのだ。
しかも、寝てもアラームにすぐ起こされた。
すぐ寝ようとはしたが、何故か眠れなかった。
もう、何時間寝たよりも何分寝たの方が分かりやすいぐらい寝ていない。
仕方ないので洗面所に向かい疲れきった体を起こす為にも洗顔する事とした。
疲れをとり、もう一眠りワンチャン行けると思ったが丁度母が起きて1人で神社に行ってきてと言われた。
別に神社までは短いので良いのだが、休みが欲しいものである。
神社。
やはり、いつもより人は多いが、元々来るのが1人もいないぐらいなので大きい神社よりも人は来ない。
そして、お願いしに行こうと思ったら、
見覚えのある背丈や黒のジャンバーがそこにはあった。
「あれ?白斗君?」
「おう、樺乃。偶然だな」
と言われた。
白斗君はここら辺に住んでいるのはプリントを届けに行った時に分かっていたし、
この神社にたまに来る事はあったが、初詣などでは見かけないので別の神社に行っているのであろうかなどと思っていた。
決して気になって見たり探していたりした訳では無い。
他意もない。
本当に偶然である。
ちょっと来るかななどと思ってはいたが。
「白斗君もお願いしに来たの?」
「そうだな。ダルいけど、家にいてもやる事無いからな」
「いいなぁ。私なんか家にいたかったのに無理やり行かされたもん」
「家で何やるんだ?」
「ゴロゴロ」
「凄いなお前…」
「褒めてないでしょ。それ」
「そうだな。そのつもりで言った」
「少しは隠そうとは思わないの…?」
「まぁな」
「酷い!」
「そうだな」
「聞いてもいないし…」
白斗君は賽銭箱へと向かう。
私もやっていないのを思い出し白斗君についていく。
白斗君が5円玉を入れ、私は財布から5円玉を取り出していた。
白斗君はちゃんと二礼二拍手一礼をしていたが、私はどうやれば良いのか分からず、とりあえず二拍手だけしておいた。
そして、お願いし終わりおみくじの方に行っている白斗君についていく。
「何お願いしたの?」
と聞いたが
「お願いを口に出すと叶わなくなるから言わない」
などと言われた。
どうやらお願い事を聞くのは難しそうだ。
まぁ、最始から分かっていた事だが。
そしておみくじを引く所へ着いた。
「1回200円です」
と巫女さんにお金を払いおみくじを引く。
見ると、大吉と書いていた。
詳しい説明は読まずに、すぐに恋愛運に目が行ってしまう。
────────────────────
【恋愛運】『想い人と両想いの可能性あり。早めに告白するべし』
────────────────────
恋愛運はとても良いようだ。
一応ザッと目をとうしてみると、全体的に良いことが書いていた。
ある程読み終わったから、白斗君のおみくじを覗いてみる。
白斗君はどうやら大凶を引いてしまったようだ。
「まぁ、分かってたさ」
と白斗君がため息を吐きながら呟いた。
「なんで?運悪いの?」
「まぁ、そんな感じだな」
そう言いながらおみくじかけにおみくじを結んでいた。
「ここがもっと大きかったら、屋台とか出てたかもしれないのに」
と愚痴っていた。
どうやら食べてストレス発散するつもりだったが屋台が無いからイラついてるらしい。
…正直言って顔が怖い。
「じゃあ、俺は飯買いに行くから」
と言って立ち去っていった
「どれだけご飯好きなの…?」
白斗君の謎が更に深まった。
1月6日
始業式。
いつも校長の話を聞いているとダルくなるが、今日はさらにダルかった。
校長の話もまともに入ってこない。
目の前がチカチカする。
まさか、とは思ったが
我慢をし続けていた。
教室に帰ってもそれは治まらなかった。
それだけではなく、吐き気など更に体調が悪くなった。
流石に無理だと思ったから、保健室へと向かう。
だが廊下に出た所でもう見えるものが全て白くぼやけていて頭がクラクラして気持ち悪い。
それでも前へと進もうとしている。
だが、歩いたか歩いてないか分からない感覚に覆い尽くされた。
歩けない。
気持ち悪い。
クラクラする。
呼吸が出来ない。
フラフラする。
吐きそうだ。
倒れそう。
沢山の気持ち悪さが同時に襲ってくる。
あぁ、これ無理なやつだ。
そう思う頃には私の意識はもう無かった。
「ん…」
気がつくと私はベットの上だった。
「ここは…?」
起き上がり辺りを見る。
カーテンに囲まれたベット。
独特な消毒のような匂い。
ガヤガヤしていないので、病院という訳ではないらしい。
という事は、保健室か?
そう思ってると突然カーテンが開けられた。
「あぁ、起きてたんだな」
そう言って顔を出したのは保険室の先生だった。
突然の事だったので驚いた。
だが、もっと驚いたのはこの先生が女の先生だという事だ。
こんな喋り方なのに、女の先生なのか。
ジェンダー平等なので、そんな事を思ってはいけないが。
「どうだ?調子は?」
「…」
大丈夫だと言おうとしたが、中々声がでない。
「大丈夫じゃ無さそうだな。ほら、水」
と水を差し出された。
それを受け取り飲みながら先生の顔を、よく見る。
よくよく見ると先生の顔は結構美人だった。
保健室の使用率が高いのはこの先生のお陰なのだと分かった。
そのくらい美人だった。
これは、男女関係なく好かれるタイプだな。
「ほら、体温計で測っておいてくれ」
体温計を渡されて測ろうとしたら
「おい、測るのはカーテンを閉めてからにしろ。誰かに見られたらどうするんだ」
と言われてカーテンを閉められた。
…惚れそう。
なんか、凄い美人だし、優しい!
(保健室の先生だから優しいのだろうが)
あの人がモテても文句は無いだろう。
むしろ、私の方が好きになってしまいそうだ。
そんな事を考えていると体温計がピピピッと鳴った。
出して見てみると、38.5分だった。
「測り終わったか?」
と先生が聞いてきた。
「はい」
と言うと、カーテンを開けて
「どうだ?見せてみろ」
と言ってきた。
もしかして、測っている時ずっとカーテンの前で待っていたのか?
見ないように?
流石…!
見られたく無い人にとっては嬉しいだろう!
そこまで気が利くとは思わなかった。
「38.5分か…。どうする?早退するか?」
「…」
それは…ダメだ。
今は休んではいけないのに。
「こんくらい大丈夫ですよ。もう少ししたら行きます。休めば少しは楽になると思うから」
「…ダメだ。帰れ」
「えっ?」
「大丈夫だって言ってるやつ程大丈夫じゃないしな。それに、お前鏡見てみろ。真っ青だぞ。今にも吐きそうな感じだ」
「…」
ダメだ。ダメなんだ。
今、休んでしまったら。
私は…
「そんなに行きたいなら行けばいいさ。また、保健室に運ばれるからな」
そうだ。周りに迷惑が掛かるのなら、止めた方がいい。
何より、自分の為にも。
「分かりました」
「言質取ったぞ。親呼ぶからな」
「はい…」
そして先生は親に電話をした。
「あっ、もしもし。黒野 樺乃の親ですか?樺乃さん倒れて保健室に運ばれたんです。あっ、すぐに来ますか。分かりました。そう伝えておきます。はい。はい失礼します」
ガチャリ
「だそうだ」
「先生…ずっと気になってたんですけど、私を保健室に運んできたのって誰ですか?」
「…聞きたいか?」
「はい」
「例え、誰だとしても?」
「はい。私の事を助けてくれたお礼をしたくて」
「…白斗だ」
「白斗君…」
もしかして私の体調が悪いのを気づいていたのだろうか。
私は授業中に先生に申し出て来たので、本当は合わないはずだが。
しかも彼は他のクラスである。
…心配してくれたんだ。
何だか、嬉しいな。
「お前…嬉しそうだな」
「えっ?ま、まぁ」
「どうしてだ?」
「どうしてって、私の方がですよ。何でそんな白斗君の事を私に言いたがらないんですか?」
「…っ、だって、白斗はお前の裸と言って別の人の裸を晒したやつだぞ」
「あっ…」
不味い。あの事件は白斗君がやった事になっているんだ。
「…どうやら、何かあるみたいだな」
「…っ!」
「言ってみろ。言いたく無いのなら、それでいい。だが、これでも保険の先生だ。心の傷を癒すのも私の仕事だ」
「…」
私は、本当の事を言った。
あの事件の首謀者が他の者である事。
元々虐められていた事。
白斗君が犯人として名乗り出たのは、
私が虐められないのと、自分がこれ以上好かれない為だった事。
「そうか…そんな事が。今の学生は何でそんなドロドロしているんだ…」
と頭を抱えていた。
流石の先生もどうにか出来ないようだ。
「はぁ…大切なのは見た目では無く、中身だというのに」
あっ、この人凄いわ。
「とりあえず、どちらの意見も通っているのだからいいんじゃないか?今が1番良い状態だと私は思う」
「…そうですか」
だが、白斗君が私の為に嘘をついているのは何だか嫌だ。
ホントにこのままで良いのだろうか。
悩んでいても答えは出なかった。
すると突然先生がクスッと笑った。
「何ですか?」
「いや、懐かしいなと思ってな。私も君のような青春時代を送っていたものだよ」
「そうなんですね」
「あぁ。君の気持ちも分からなくも無い。だから、精一杯悩め。悩んで、自分なりの答えを見つけてそれを必ず実行しろ。例え、それが間違いの方でも。間違えて実感してから見えるものがあるからな」
「…ありがとうございます。少し、分かったような気がします」
「そうか。それは良かったな」
その時ガラッと扉が開いた。
「樺乃!倒れたって、聞いたけど大丈夫!?」
「お母さん…。大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないから、こうやってお母さんに来て貰ってるんだろ」
「そうだった」
楽になってきてはいるが、まだ体調は悪い。
「…ったく、もうちょっと速く来たかったんだけど、あのクソハゲ…、課長があまり許してくれなかったのよ」
「お母さん。本音漏れてる」
「まぁそんなことどうでもいいから。早く帰りましょう。先生お世話になりました 」
「どういたしまして。しっかり自宅で休ませてください。」
「分かりました」
「ありがとうございました」
保健室を出てしばらく歩くと、白斗君が昇降口にいた。
「白斗君。ありがとうね。運んで貰ったって先生から聞いたよ」
「それくらいどうだっていい。とにかく早く帰って回復を待ってくれ」
「分かった。じゃあね」
「ああ」
そうして別れると、お母さんが
「なに?あの子。もしかして、彼氏?」
と聞いてきた。はぁ…。何故親というものは子供の恋愛に興味津々なのか。
「違うよ。私の片思いしている相手」
そう答えて、あとは黙っておいた。
家に帰りパジャマに着替え、ベットにダイブした。
「はぁ…」
色々な疲れがドッと来て、私はすぐに目をつぶってしまった。
まぁ、明日になれば治っているだろう。
ちょっと具合が悪いだけなのだから…。
1月7日(水曜日)
「38.6分…」
翌日。まだちょっと具合が悪いので、体温計で熱を測ったら、熱がまだあった。
しかも、昨日よりもさがっていない。
「どう?熱下がった?」
「いや、まだ下がってない」
「見せてみて」
母は、体温計を見ると微妙な顔をした。
「どうしよう…。流石に二日連続で休む訳にもいかないし…」
「いや、仕事行ってよ。私何歳だと思ってるの?」
「自分の事が大丈夫だと思ってる受験前の中三ぐらいに思ってる」
「それ前の私じゃん」
「そう。あんた何も変わってなんか無いのよ。心のどこかでは大丈夫じゃないと分かってる自分がいるのに大丈夫だって決めつけてる」
「そんなに言わなくてもいいじゃん」
「それくらい言わなきゃまた無理するでしょ」
「しないよ」
「その言葉何回目だと思ってるの」
「さぁ」
「あんたねぇ…。ま、良いよ。私は仕事に行くよ」
「分かった」
「安静にしてなさいよ」
「分かってるって」
「本当かね…」
「本当だって。ほら早く仕事行きな」
「はぁ…。じゃあ行ってくるよ」
「はいはーい」
私の部屋から出て玄関へと行って扉の開く音は早かった。
もしかしたら仕事に遅刻しないギリギリまで私に付き添ってくれたのだろうか。
急いでるような足音だった。
ガチャ
そうして開かれた音のあとに
「あら?」
と声がして、
「えっ?樺乃?ごめんなさい今風邪で…。えっ?お見舞いに?いや、あなた学校は?別に良いって…。ダメよ。高校3年生なんだから」
など色々な会話が聞こえてくるが相手の声は一切聞こえない。
うちの母がうるさいのか、それとも来客が静かなだけなのか、はたまたどちらともなのか。
「とりあえず、樺乃の事お願いね。私もう仕事に行かなきゃ行けなないの。戸締りもお願い」
と言って母は行ってしまった。
…えっ?もしかして来客に私の世話任せようとしてる?
どうするの!?変なおじさんとかで、同人誌みたいな流れになったら!?
私がこんな人に…!とか言いながら調教されるんでしょ!?分かってるよ!
そんな事を思っていると玄関から鍵を閉める音が聞こえた。
あっ…終わった。
逃げられないわ。
いや、窓というものがあるじゃないか。
I can fly!!
しかし、足音は段々と私の部屋へ向かってくる。
お母さん…今までありがとう。
そう思い残して、覚悟を決め、来る人を見てから窓から飛ぼうと思った。
そして、来たのは
「よっ」
「白斗君…!?」
なんとそこにいたのは白斗君だった。
「何でここに!?てか、学校は!?」
「樺乃の事が心配だから、先生に言って来たんだよ。あと、学校は行かない事にした」
「えぇ…」
そんな事で…。
ん?ていうか
「よく先生に私の家聞けたね」
「誰かが保険室の先生に本当の事を言ったからな」
「あっ…ごめん。本当に。でも、あの先生なら分かってるくれると思って…」
「大丈夫だ。樺乃が思っているよりも頼りになるから」
「そうだよね…。あの人凄いもんね」
「もしかして、あの先生に惚れたのか?」
「何言ってるの違うに決まってるじゃん。私白斗君の事好きだっていってるよね?」
「ごめんごめん。あの先生のこと好きになる人多いから」
「あー。まぁ、分かるけど私は白斗君の事が、好きだから」
「そうか」
「…」
「ん?なんだ?」
「なんでもない」
嬉しそうにちょっと口角が上がっているからもしかしてと思ったが、 私が好きだって言ったの嬉しかったのだろうか。
いや、無いだろうな。
なぜなら私は、遠回しとは言えど振られたのだから。
「ところで、それ親に許されたの?」
「許された。いつもそうだ。病気になってからは俺のやりたい事を尊重してくれた」
「いやいや。誰でもやりたい事ならいくらでもやらせるよ。だってあれやりなさい、これやりなさいって言われてやったのならそれは他人の意思による人生じゃん」
「…確かにそうかもな。自分のやりたい事を言ってそれに向けてやるなんて、当然の事だったんだ。俺は、やりたくてもやれない人の人生を近くで感じてきたから分からないかったんだ」
「人生って大変だよね」
「あぁ、そうだな」
「私、来世は猫にでもなりたいな」
「本当に猫が好きだな」
「そうでしょ」
「まぁ、あと80年ぐらい後だけどな」
「分からないよ。もしかしたら明日死んじゃうかもしれない」
「お前は元気だから車に轢かれても大丈夫そうだな」
「そんな感じだったら風邪で寝込んでないよ」
「ていうか、本当に風邪か?結構熱があるし、インフルとかか?」
「あぁ、ありそう。私ワクチン何年か打ってないし」
「ワクチン打ってもかかるけどな」
「えっ?そうなの?」
「そうだよ。もしかして、今までかからないとでも思ってたのか」
「うん。ちっちゃい頃にお父さんにそう言われたから」
「純粋すぎる」
そんな話をしていると、時計が12時を指していた。
「早いね。もうこんな時間」
「あぁ、飯作ってくるよ」
「えっ?」
「なんだ?」
「カップラーメンとかじゃないの?」
「お前のだよ」
「私のだよ」
「そんな訳無いだろ。ちゃんと作ってやる」
「白斗君料理出来るの?」
「まぁ、一応」
「じゃあ、ステーキ作って」
「お粥作ってくる」
「えぇー」
そして何分かしたら白斗君がお粥をお盆に乗せて持ってきた。
「ほら、冷めたら食えよ」
「別に白斗君がフーフーしてあーんとかしてもいいんだよ」
「自分で食え」
「もー」
私はお粥を冷まして食べてみた。
「!?うまい!白斗君!これ美味しいよ!」
「そ、そうか…」
あまりの美味しいので白斗君が驚くほど声を出してしまった。
もっと食べようと勢いよく冷まさずにそのまま食べる。
「あっふ!」
まだ熱かったから口の中が火傷しそうだった
「しっかりと冷めろよ」
「ごめん。あまりにも美味しくて」
「だとしても冷まさずにそのまま食うやつがどこにいるんだよ」
「ここに」
「いたな」
しばらくして食べ終わると食器の片付けもやってくれた。
白斗君は勉強しながらも、私と話をしてくれた。
「もうこんな時間か…」
「じゃあ、明日も来るから」
「えっ?」
「治ったら、一緒に学校行くぞ」
「分かった」
そう言って白斗君は帰っていった。
明日も来るのか…。
ずっとこれが続けばいいのに。
少し、そう思ってしまった。
1月10日(土曜日)
あれから、私は体調はよくならず、今日は病院に来て、インフルにかかったのか確かめにきた。
結果は陽性だった。
つまりインフルにかかっているということ。
家に帰り、その日は白斗君が来ないまま1日が終わった。
きっと、休日だから自分がいなくても親が世話をしてくれると思ったのだろう。
確かにそうだが、心のどこかでは寂しいような想いがあった。
1月12日(月曜日)
「と、言うことで私インフルなんだよね」
「そうか」
「そうか、じゃないでしょ。もし移ったらどうするの?」
「別にいい」
「良くない。白斗君ただでさえ体弱いんだから」
「前にも風邪引いたけど、死ななかったぞ」
「死ぬとか死なないとかじゃなくて、辛いでしょ」
「…」
「私、こう見えて結構辛いんだからね」
「分かった。これからは行かないようにする」
「分かればいいんだよ」
「そろそろ単位がやばかったからな」
「いや、早く言ってよ!遅刻でも良いから出席とりな!高校生で留年になったらダメじゃん!」
「大丈夫。死ぬから」
「だとしても!死ぬからって、なんでもやって良い訳じゃないんだからね!」
「…」
「とりあえず!行って!」
「…分かったよ」
そうして白斗君は学校に向かって行った。
「はぁ…」
まさか、自分の単位を落としてまで私の世話をしていたとは知らなかった。
別に、私の世話をするのは良いのだが高校生でしかも3年生の冬という大切な期間で単位を落とすのは良くない。
でも、寂しい。
そんな事を思ってはいけないけど
きっとそれが一番、
一番…。
あぁ、なんだろう。
何を思いたかったのか、
分からない。
もういいや。
私はそんな雑な事にして、思いたかった事を捨てるために、目をつぶった。
1月20日(火曜日)
倒れて保険室に行った日から2週間ぐらいが経った。
ピピピッ!と体温計が鳴る。
見てみると36度8分とかなり私の平温に近づいてきた。
だが、今日も休んでいる。
ここまでの流れはざっとこうだ。
────────────────────
「平熱ね」
「じゃあ、私学校行くね」
「ダメ。今日まで休んでなさい。また無理されて休まれても困るの」
「…」
「捨てられた犬みたいなつぶらな瞳してもダメ」
────────────────────
などと言われて休む事になった。
ちなみに何故さっき計っていたかというと、脇からちょっと外したりして計ったから、本当の体温はどのくらいなのだろうかと計っていたのだ。
暇でやることもない。
白斗君はあれから来ていない。
寝るか。
明日には学校に行ける。
そう思いながら意識が途絶えた。
1月21日(水曜日)
「樺乃…大丈夫だったのか?」
と学校に着いて早々、白斗君がそう聞いてきた。
「うん。ていうか昨日に平熱に戻ってよ。なのに、お母さんに一応1日休んどけって言われたんだよ。別に平熱になったなら行ってもいいじゃん。ね、白斗君」
「何言ってんだ。また無理して倒れられてもこっちも困るんだよ」
「お母さんと同じようなこと言わないでよ…」
「お前は少しでもお母さんの気持ちを分かってあげろよ」
「大丈夫。お母さんの気持ちは十分に分かってるから」
「じゃあ、どう思ってるんだ?」
「毎日生きるの大変。生きるので精一杯!」
「皆思ってるわ」
「まぁそうだろうね」
「…それに」
「?」
「俺だって心配してたんだからな」
「…」
やばい。今顔熱い。
でもそれ以上に白斗君も顔が赤くなっていた。
白斗君の顔が赤いのは風邪ではないか。
そう思うほど顔が赤い2人はその後何も喋らなかった。
2月14日(土曜日)
今日は2月14日。
つまり、バレンタインデー!
私は朝早くから起きてチョコを作っていた。
後から起きてきた親にニヤニヤと見られながら。
「ふぅー、これで良し!」
後は冷蔵庫に入れて綺麗に切ったりするだけだ。
包装も可愛いのを選んだし…。
後は渡すだけ!
渡すだけ…。
しまった!チョコ作るのに夢中になってどうやって白斗君にチョコ渡すか忘れてた!
ううぅ〜…。渡すって考えたら恥ずかしくなってきた〜!
一か八か、母に聞いてみよう!
「ねぇ、チョコってどうやって渡したらいいと思う?」
「さぁ?私は樺乃が好きなようにして!いいと思うよ」
クッッ!こんな所で自分の主張を聞いて分かってくれる母の優しさが出てしまったか…!
ありがとう!優しいお母さん!大好き!
「参考程度だから」
「そう?やっぱり自分の想いが伝わるように渡せばいいんじゃない?」
「自分の想い…」
確かに、バレンタインデーで女子から男子へと手作りチョコを渡すという行為はやはり、そういうのが大切なのであろう。
「ていうか樺乃、たしか友チョコって言わなかった?」
とニヤニヤしながら聞く母。
忘れてた。優しくないわ。娘を弄るの大好きな母親だったわ。
「た、確かにね〜。でも!友達でもちゃんと渡したいんじゃん?」
何故疑問形なんだ私。冷静になってくれ。
「そうね。じゃあそういう事でいいわ」
この人、分かってて言ってるな。
「で、結局どうするの?」
「そりゃ、手渡しでしょ」
「好きですって、言いながら?」
「!?も、もう!行ってくるよ!」
「はいはーい。頑張ってねぇー」
とこれ以上ないくらいの笑顔を見せて母は私を見送った。
白斗君の家に着いて数分、インターホンをならそうか迷っていた。
白斗君いるかな…。もしいなかったら、親が出るって事だよね。
それで「白斗は今家にいないのよ…。あら、それって…。あらあら、白斗ったらこんなに可愛い子に。あっ、どうぞ上がっていってちょうだい」
なんて言われたら私の人生は積みだろう。
そんなアタフタしているうちにガチャと玄関から音が聞こえた。
不味い…!
そんな事を思うのには遅く、そこには白斗君がいた。
「は、白斗君…おはよう!」
「…いや、なんでお前がいるんだ?」
デスヨネ~。
ソンナ ツゴウヨク ナニモイワレナイコト、 アリマセンヨネ~。
「ちょ、ちょっとね」
「もしかして、それか?」
白斗君は私が持っている袋を指さしていた。
もちろんこの中には白斗君へのチョコがある。
もう、覚悟を決めよう。
「そう。これ、チョコ」
「チョコ?何でだよ?」
「白斗君、今日は何日だと思ってるの?」
「2月14日…。あぁ、そういう事か」
「そう、そういう事」
はたして白斗君は本当に分かっているのだろうか。
まぁ、渡せたのならそれでいいか。
「あれ?そういえば白斗君のお母さんは?」
「俺が病気だとわかった時から996状態だ」
「996?何それ?レスキュー?」
「レスキューは119だ。996ってのは朝9時に出社して、夜の9時に退社っていうのを6日間連続だ」
「そんなのダメじゃん!?労基行こう!」
「母さんが俺の病気治そうと遅くまで研究してるからだ。退社出来る時間からやってから、残業代も出ないけどな」
「えぇ…」
どんだけ助けたいのだろうか。
分かる気もするが、自分が体調が悪くなり、研究が出来なくなったら元も子もないではないか。
「まぁ、また学校でな」
「うん!味の感想聞かせてね」
「あぁ」
この時、私は忘れていた。
白斗君があと、1ヶ月程度の命だということを。
3月2日(月曜日)
今日も学校へ来た。
何も変わらない日常。
変わったとしら、雪の量や、朝練に3年がいなくなり活気が少なくなった体育館や、そんな些細で、大きくも小さくもない、分かりもしないような変化だった。
でも、今日は変化が起きた。
「あれ?白斗君は?」
いつもの図書室。
いつもの時間帯。
なのに白斗君は来ない。
「ま、いつか来るでしょ」
そんな事を考えていながら朝のホームルームを迎えた。
白斗君は、来なかった。
クラスに行ってみた。
白斗君の姿が無い。
もしかして、何かあったのではないか。
そんな悪い考えが出てきたが、それを確認する方法は無かった。
結構経っているとはいえ、白斗君が私の裸の写真を広げたという噂は学校中に流れている。
それを、気にせずに話せて、白斗君の容態を知っていそうな人…。
あっ!
「って、ことで先生!教えてください」
「おい、保健室は休む場所だぞ」
「あっ、すみません。声抑えます」
「そうじゃない。使用用途以外の来客はお断りだ」
「いいじゃないですか先生ー!教えてください」
「…白斗はな今、入院しているんだ」
「えっ…?」
入院…?そうだ、白斗君は、あと16日の命なんだ。
「先生!病院はどこですか!?今日は早退します!」
「樺乃!」
「!?」
「落ち着け」
「落ち着いてられませんよ!」
「白斗の病状を知っているなら、分かるだろ。未だかつて見られたことの無い不明の病。どうやって感染するかも分からない病気なのに、病院内を自由に歩けるか?人と喋れるか?」
「私はこれまで白斗君と一緒にいたけど、そんな病気にかかった事はない!」
「白斗の病気が起こすのは、免疫力の低下と病気の重ねがけだそうだ」
「…!?」
確かにあの時、インフルエンザにかかったけれども、インフルエンザだって冬の辺りにかかり安いし、ワクチンだって打っていない。
それに、私は勉強漬けの日々だったので、それで免疫力が下がったのかもしれない。
でも、そんなのはただ認めたくない言い訳だった。
病気の重ねがけ。
インフルエンザの症状が、長く続いたのもそれのせいかもしれない。
「とりあえず、病院に白斗と面会できるか聞いてみる。出来なかったとしてもそれを承知でも頼んでみる」
「…先生、ありがとう」
「別にどうってことはない。私はただ、生徒の青春を応援したいだけさ」
先生はそう笑顔で答えてくれた。
3月7日(金曜日)
最近、大学へ行く人は入試の手応えに悶えていた。就職へ行く人は県外の者が多かった。
私たちが住んでいる街は一応発展はいているのだが、田舎の方に近いので、都内などに移り住む人はやはり就職と大学、どっちにも多かった。
かという私も、都内の大学の方に進学するつもりだ。
だが、まだ家などは決めていない。
まぁ、理由は大学の合否がまだ出ていないから。
そんな私達は、受験だ就職だなど忙しいが、卒業生なので、そんな様子は後輩達には見せない。
むしろ、強がっている。
友達に対してもそうだという人もいるが、
そういう後輩も友達もいないので、私には縁の無い話だ。
かつてはそのような友人がいたが、
『近寄らないで!』
そんな事を嘘でも言われた。
その後に白斗君への好感度が下がったから喋れたであろうに、
向こうから謝ってくる気も、なんなら喋ってくる気も無かったので、優奈とは疎遠になってしまった。
優奈がずっと一緒にいた人も話をしなくなったみたいだ。
クラスで、学年で、学校でと徐々に孤立していった。
最後まで空気を読んで、空気に振り回されて大切な物が無くなってしまった。まるで、現代社会の人間みたいだ。
そんな事を思っていると、保険室の先生が、
「樺乃、話がある」
と会ってすぐに話しかけてきた。
「病院から、面会の許可が出た」
「本当ですか!?」
半ば諦めていたから、つい驚いてしまった。
「あぁ。だが、時間や距離の規制はあるがな」
「いや、どんな形でも会いたいんです!」
「そうか。なら、早く行くといい。私からは早退したと言っておく」
「ありがとうございます!」
そう言って、私は自転車置き場に直行し、先生から聞いた病院へと向かった。
「白斗君!」
病院にて。
私は密室の部屋に案内され、ガラスのような薄い透明な壁越しに面会した。
「元気か?」
久しぶりに聞く白斗君の声。懐かしくて、どこか弱々しいような気がする。
「うん。白斗君は体大丈夫?苦しくない?」
「あぁ。大丈夫だ」
「本当に?白斗君の大丈夫って信用出来ないからなぁ」
「それはお前の方だ」
「別にいいもん」
「矛盾が生まれたぞ」
そんな会話も、久しい。
「なぁ、樺乃。多分、今日が最初で最後の面会なんだ」
「…そ、う。まぁ、分かってたよ」
「でも、多分最期の日。3月16日には多分会えるんだよ」
「…そう」
「でも、来ないで卒業式を優先してほしい」
「なんでよ」
「樺乃の為、それに俺が最期まで生きていたかったと思ってしまうから」
「…分かった。行かない」
「ありがとう」
「…っ」
「泣くなよ」
「泣かないよ」
「泣きそうな顔して何言ってるんだ」
「心配しなくていい。私の事を気にせずに逝って」
「分かってる。そのつもりだ」
「せめて、苦しくない事を祈ってる」
嘘だ。本当はそれ以上の事を祈ってる。
生きてて欲しい。
そんな強い想いが心の中に充満している。
「ありがとう」
でも、白斗君の笑顔を見てそんな事は言えなかった。
3月16日(月曜日)
今日が、最期の時だった。
白斗君の言うとうり、あれが最初で最後の面会であり、今日は会おうと思えば、病院側の許可ではなく、家族の許可さえあれば、会いに行けた。
でも、白斗君の想いを無駄にしないため、私は卒業式に行っていた。
これで最後の朝のホームルーム。
そんな事よりも今、白斗君が死んでいると思うと、泣きそうになる。
すると、先生が教室へ来た。
あぁ、もうそんな時間か。
先生から
「あなた達は今まで会ってきた中で1番の生徒です」
など、在り来りなセリフを言った後、苦い顔になった。
「さて、皆に残念なお知らせだ。卒業式当日で悪いとは思うが、伝えなくてはいけないからな」
もしかし、白斗君の事だろうか。
やはり、死んでしまったのか…。
泣きそうになる。
『泣くなよ』
そんな声が聞こえた。
そうだ。白斗君の死に向き合わないと。
「白斗が自殺したそうだ」
えっ?
自殺?
「白斗が自殺した理由は分からないが、心当たりがあるやつは、先生に…って樺乃!?」
私は立ち上がって走って教室を出た。
そんな、白斗君が自殺だなんて!
私は走っていった。
どこまでも、
白斗君の元へ。
クソっ!
親の車で帰ろうとしたから自転車が無い。
そんなのどうでもいい!
走れ。
でも、どこに?
白斗君は死んだ。
自殺をしたんだ。
病院にいたのに間に合わなかったのか。
何をしていんだ医者は…!
転びそうになった。
でも、走っていく。
息が切れそうになる。
そんなの気にしない。
足が、腕が、体中が、悲鳴をあげている。
でも自分の体に鞭を打つ。
どこに行けばいいのか分からないまま。
気がつけば、雪賀谷と書かれたプレートの前に立っていた。
着いたのは白斗君の家だった。
無心でインターホンを鳴らす。
何故自分でもそうしたのか分からなかった。
多分、精神がやられていたのだろう。
ガチャと扉が開く音がした。
白斗君はいない。
なら、家にいるのは
「どなた?」
目が赤く、さっきまで泣いた跡がある。
もしかして、この人は白斗君のお母さんではないなではないか
やばい、私は分かっていても白斗君のお母さんは私の事を分からない。
「私は…白斗君の友達で、」
そう言葉を紡いで行く事に白斗君との思い出がどんどんと流れて行った。
「私は、白斗君の事が好きで、」
最初はどうも思わなかった。けど、自然と触れて行く事に、好きなっていった。
好きなったきっかけは、分からない。
いつ好きになったかも、
何を好きになったかも、
でも、分かるのは、
私が白斗君の事を、どれだけ好きなのかだけだった。
「私は、いつも1人の白斗君と唯一喋れて、」
そうだ、白斗君は嫌われたのだ。
クラスメイトの反応が薄かったのも、そのせいか。
「私は、白斗君と一緒にいる時間が楽しみで、」
1度不登校になろうとした。
でも、白斗君がいたから、
私はここまでこれた。
「私は、私は…!」
何故、他人のお母さんにこれだけ言えるのか、泣けるのか、分からなかった。
初めて会う人なのに、
どんどん想いが零れていく。
「大変だったのね」
なのに白斗君のお母さんは、
そう言って私の事を抱きしめてくれた。
「うぐっ…うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
私は初めて知らない人の胸で泣いた。
「落ち着いた?」
「はい…」
家に上がらせて貰い、慰めてもらった。
本当は親である雪賀谷さんの方が、苦しくて、泣きたくて、色々な感情があるだろうに。
私に優しくしてくれた。
なんだかそういう所、白斗君に似ている。
「いつも白斗が言っていた子ね。話は聞いているわ。うちの白斗が、随分世話になったみたいで…」
「いえいえ、私の方こそ、白斗君に助けてられてばかりでした」
「それ、遠回りなやつもあるでしょ」
「そうですね」
「本当、あの子ったらお父さんに似て、不器用なんだから」
「そういえば、お父さんは?」
「…旦那は亡くなっているの」
「す、すみません」
「いいの。それよりも、旦那が亡くなったのも、白斗の病状に似ているの」
「えっ?」
「免疫力の低下。あれはただ、低下するだけじゃなくて、免疫細胞が無くなるの。そして、免疫細胞がそれ以上増えない。例え、外から免疫細胞を入れても」
「そうなんですか?」
「えぇ、だから、病気にかかり易いし、様々な病気と重なることが多いの」
「でも、それだけじゃ亡くなる訳じゃ…」
「免疫細胞の低下は、免疫細胞が完全にいなくなるまで続く。そうすると、軽いアレルギーだけで死んでしまいかもしれないの。それが、3月16日。今日だったの」
「つまり、まだ生きる希望はあったと?」
「えぇ、」
「じゃあ、なんで死んじゃったの…」
「詳しくはこれを見て」
そうして出したのは白斗君がいつも持っていた、手帳だった。
「これは…?」
「白斗の、遺書よ」
「!?」
「とりあえず、読んで」
「はい」
まさか、いつも持ち歩いていたのは、いつ死んでもいいように…?
白斗君は、どれだけ先を見越していたのだろう。
死ぬ覚悟があったのだろう。
きっと、怖かっただろうに
そう想いながら、白斗君の遺書を読む。
『樺乃へ
これを読んでいるって事は俺は死んだのだろう。もし、生きていたら燃やそうと思っていたからな。
最初に、樺乃に隠していた事が二つある。
まず最初に、自殺だ。
これが渡っているということは俺は死んでいるということなのだろうが、どうやって死んだのか分からないから一応書いておく。
俺は自殺しようと思っていた。
それは、病気に殺されるくらいなら自分で死にたいなどそんな物ではない。
ただ、死にたかった。
社会に出て、この病気のせいで会社を休んでクビに、されたらとか、将来なりたい物が無いとか、将来に関してのストレスとかに押しつぶされたからだ
この病気のせいで、そうなったのだが。
そして、二つ目。
俺は、樺乃の事がずっと好きだった。
でも、素直になれないのと、伝えたらまた樺乃がイジメられるのではないか。
そう思って中々好意を伝えられなかった。
でも決して樺乃の事が嫌いな訳では無い。
出来れば声にして伝えたかった。
でも、そうすれば生きたくなってしまう。
たがらここで伝えようと思う。
愛してる』
白斗君の字だ。
でも、後半になって行く事に筆圧が薄くなっている。
でも、その中でちゃんと書かれていたのは、
『愛してる』
だった。
私は紙を濡らさないようにして、泣いた。
「それ、あなたが持ってていいわよ」
「えっ、でも…」
「いいの。それに、白斗が言ってたの。白斗の好きな人に渡してほしいって」
「なら…」
「分かってくれたのなら、いいわ。あら?もっと話したかったけれども、白斗の葬式が近いわ」
「…随分と早いですね」
「これも、白斗の差し金よ」
「そうですか」
「あなたも参加させたいけれども感染する恐れがあるから第三者は参加出来ないのよ」
「分かりました。帰ります」
「えぇ、気をつけてね」
そうして、家に着いた。
鍵は朝急いで来たので、ポケットの中にある。
家の中に入り、私の部屋に行く。
そうして机の上にある医学の本を見る。
昨日まで夜遅くに読んでいたその本をゴミ箱に入れる。
医学大学も、もう行く必要がない。
もう全て嫌になった。
力の無い自分が白斗君を救おうだなんて、馬鹿げた考えだ。
私はそんな鬱々とした想いを抱えながら
また1人、部屋で泣いた。
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